第24話
神の国にて――
空を飛んでいた伝令神グレンは、自分の神殿近くを通りかかった時、神殿の入り口に男の妖精達がいるのに気づいた。
四人の妖精達は四角いでかい物を運んでいるようだ。
「？」
グレンは地上に降りた。
「一体何をやっているんですか？」
運んでいる物は神殿の入り口ぎりぎりだった。妖精達はグレンに気づいたものの、かまわずに運んでいる。
「あのー……」
ちらりと自分の神殿の中をのぞくと、中にガーベラが立っていた。
妖精達はでかい物を奥へと運び終わると、去って行った。
「一体何事ですか？」
ようやく自分の神殿に入れたグレンが聞いた。
「あら、気づいちゃったの？」
グレンは自分の寝室のドアを開けて、口を開けていた。なんと寝室にどでかいベッドが置いてある。しかも、寝室がほとんどベッドといっていい大きさである。
元々ここはそんなに広くはないので、そうなっているのである。
「な……これは……」
「これよ。これこれー」
ガーベラはベッドにあがると、両手両足を広げた。
「あー広い」
「ちょっ……何を勝手なことをしているんですか」
グレンはベッドとガーベラを見ながら目を白黒させている。
「元のベッドはどうしたんですか？」
「あれはもう処分よ。だって小さすぎでしょ？」
「そんな勝手なことを……」
「だってーあれじゃ縮こまって寝なきゃいけないし、狭いのやなの」
「ここで寝なくてもいいですよ」
「夜中に自分の神殿に帰れっていうの？ 面倒でしょ。あっちの私が来てもそう言うわけ？」
「え……そんなことは言わないですよ」
グレンはどぎまぎしている。
「ひっついて寝てたらまた人間界に行っちゃうわよーいいのかなーいいのかなー」
ガーベラは意地悪げな顔を向けている。
「う……」
確かにそういうことがあった。あの時は、もう一人のガーベラが人間だとは知らなかったのである。
「そうそうああいう状況にはならないと思いますが」
「広い方がいいわよ」
「部屋がほぼベッドなんですが……」
ベッドの横にあった棚も部屋の外に出されていた。部屋の中は扉を開けたらベッドだけである。
「いいじゃない。ベッドのお祝いにする？」
ガーベラは胸を覆っている布を横にぺろっとずらしていた。
「いえ、この後雲の上に行かなければならないので、遠慮します」
グレンは逃げ腰である。
「つまらないわねー」
「それでは」
グレンはさっさと逃げていった。
ガーベラはつまらなさそうに足を広げたり閉じたりしていた。
「遊びたいなあ。彼女は今何をしてるかなあ」
ガーベラはつぶやいていた。
人間界では、ゆりは毎回恒例のフレイによる妊婦健診中である。暦は9の月に入ったが、まだ暑い。
ゆりも子供達もへびっちのことを心配しているが、へびっちはレイアスの肌で少し元気になったようなので、いつかはここに帰ってくるだろうとみな信じている。
ゆりは夜、儀式部屋で恋人達と添い寝したりもしているが、ほぼ添い寝で終わっている。最近眠くてしょうがないのである。
医師のフレイはもう結構な年だが、まだまだ元気に働いている。ゆりは安定期に入っているので、フレイも安心しているようだ。
「体調はどうですか？」
「眠い。それだけかな」
「そうですか」
「セリアはどう？ 元気にしている？」
若い女戦士セリアはエルバートの子供を妊娠中である。母親のカーラと親子で妊娠中なのである。親子で妊娠というのはなかなかないことだ。
「セリアは元気すぎるほどですよ。今回も食欲がすごくて、また太りそうです」
「そうなの？ ふふふ」
前回の妊娠中のセリアを思い出して、ゆりは笑っていた。
「まあ、元気ならいいか。カーラも元気なんでしょ？」
「はい。それはもう。本当に妊婦なのか、不思議なほどですよ」
「みんな元気に出産できるといいなあ」
診察が終わり、フレイは去って行った。
「ふあああ、眠い。さっき起きたばかりなのに眠いー」
ゆりはあくびをしながら、あまりに眠かったので寝室に引っ込んでしまった。
半時ほどでゆりは目を覚ました。そのゆりは、周りをきょろきょろ眺めている。
「また変わってもらっちゃった。しばらく来ないっていいながらしょっちゅう来てるかも？ ちょっと恥ずかしいなあ。お昼かあ、どうしようかなあ」
寝室から部屋に移動すると侍女がやってきた。
「王妃様、御足のマッサージをしましょうか？」
「マッサージ？ お願い」
ゆりに入ったガーベラは、侍女にマッサージをしてもらうことにした。
ゆりにガーベラが入っているので、当然ゆりはガーベラになっている。
ゆりは天井を見てベッドを見た。
「あれ？ ここはどこかしら？」
扉を見てようやく気づいた。ここはグレンの神殿である。
「えーベッドが大きくなってる。ガーベラが来るんで新しくしたのかしら？ うふふ。グレンったらかわいいんだから」
ここにグレンはいなかったので、ゆりはグレンの神殿を出て行った。
外はいい天気である。
「そうだ。最近生れた子供に会いに行こう。まずはあのかわいい女の子を見に行こう」
ゆりはジンラの元に移動した。移動先はジンラの神殿の外だった。
（ジンラは中かな？）
とゆりが神殿の中をのぞこうとすると、足に何かがまとわりついた。見ると女の子が足にひっついている。
「あ！ ブドウちゃん！」
ゆりは女の子を抱っこした。
ゆりはブドウの木の妖精の名前をすっかりど忘れしてしまっていたので、「ブドウちゃん」と呼んでいた。
「かわいいわねー」
ブドウの木の妖精は「ライラ」という名前である。ライラはにこにこ顔でゆりに抱っこされていた。
「本当にかわゆい。この服ってずっと一緒なのかしら？」
ライラの体には大きなブドウの葉っぱがくっついている。ゆりはその葉っぱに触っていた。やはり生の葉っぱだ。
「一緒に遊びましょ」
ゆりはライラと歩いて行った。
（えーと、ロ……ハ……マ？ うーん、名前が思い出せない！ アマンザはどこかにいないかしら？）
あたりにはアマンザの気配はなかった。ライラは大きな木に器用に登ってしまった。そして枝の上で手招きしている。
「私に登れと。女神が木登りしてもいいのかしら？ 登れるかなあ。サンダルじゃちょっと無理かな」
ゆりはサンダルを脱いで木登りに挑戦してみることにした。ゆりは大木にしがみついて上に上がろうとしたが、なかなか上がれなかった。
「ちょっと無理かも」
すると、枝がぐいんと曲がって、おしりに近づいた。違う枝は手元にやってきた。
「え？ 押してくれるの？ ありがとう」
ゆりは枝に押されて違う枝をつかみ、上に上がった。
「わっすごい登れてる。初めて木登りしたわ」
ゆりは感動しながらも上に押し上げられて、ようやくライラがいる太い枝までたどりついた。そこから下を見て驚いた。結構高い。
落ちたらシャレにならない高さである。
ライラはゆりに手招きしている。枝をつたって来いといっているようだ。
「無理。そこに座るのは無理よー」
ゆりは太い枝に抱きついてる格好だった。枝に座るなんて無理である。
「高いし怖いし、ねえ、降りる時も手伝ってくれるんでしょうね」
ゆりは木に言っていた。
「ブドウちゃんはよく怖くないわねえ。落ちないでよ」
ライラは枝に立ち上がり、なんとそこでぴょんぴょん跳ね出した。ゆりの言葉がわかってやっているようだ。
「こらー危ないでしょ。絶対わざととやってるわね。いけない子ね。おしりぺんぺんしちゃうわよ」
ライラは枝の上で回っていた。
「あぶ、あぶないってば」
「何をしているんだ？」
下から声が聞こえてぎょっとした。下を見ると、ジンラと、その横になんとアシュランがいる。
「ぎゃ！」
ゆりは驚きすぎて落ちそうになり、枝に必死にしがみついていた。
「ガーベラ、どうやってそこまで行ったんだ？」
ジンラが驚いている。
「ぷっ、なんて格好だ……」
枝に両手両足を回して必死にしがみついてるゆりを見て、アシュランは笑っていた。
ゆりは真っ赤になっている。
「アシュランもたまには木登りでもどう？」
ゆりが、どうせ登ってこないだろうと思って言うと、アシュランはぱっと枝に移動して座っていた。
「あ、ずるい。木登りってのは、木を登ることに意義があるのよ」
「お前は登ったのか？」
「登りましたとも」
ゆりは枝にしがみつきながらも誇らしげに言っていた。
「すごいじゃないか。ところで、手を貸してほしいなら貸すが」
アシュランは笑いながら言った。
「いえ、大丈夫。私この枝が好きだから」
「そうか。幸運な枝だな。じゃあなジンラ。ガーベラ、暇ならもっと男と過ごして子作りしろ」
そういうとアシュランは消えてしまった。
「あっかんべー」
ゆりはなんと最高神に悪態をついている。
「子作りしろって、私がそればっかりみたいに言わないでほしいわ」
「ガーベラ、大丈夫か？」
ジンラは下から見上げている。
「ジンラの側にいこうと思ってもいけないんだけど。側にいるからかしら」
「そうなのか？ じゃあ少し離れた方がいいかな？」
ジンラは木から離れてみた。ゆりはジンラの側に行こうとしたが、行けない。
「まだ無理みたいー違う彼の所に移動してみるー」
「わかった」
その時枝が伸びてきて女神の体にまとわりついてきた。
「え？」
「ガーベラ！？」
枝と葉っぱに包まれて、女神の姿は消えた。
ライラは木から下りてきた。
「誰かのところに移動したんだろう」
ジンラはそう思った。
ゆりはどさりとどこかに下ろされた。
「いてっ」
という声が聞こえる。下ろされたのは誰かの上らしい。
ジンラかと思ったら、男の髪は緑色だった。
「え？」
「ガーベラ？」
ゆりも驚いたが、男の方も驚いていた。ゆりは寝転んでいた男の上に落ちたようだ。男の視線は女神の胸元をみていた。枝にひっかっかったのか、女神の豊かな胸はぽろんとででいた。
ゆりはあわてて服を直している。
「な、ここはどこ？」
ゆりはあわてた様子で周りをみた。周りはすっぽり葉っぱで覆われている。だが暗くはなかった。
「ここは私の秘密の場所だ。どうやってきたんだ？」
男が体を起こしつつ聞いた。ゆりはこの神を知っている。ダーナの最初の恋人、緑の神ジュライである。肩にかかる緑の髪、男らしい体つきで、結構いい男である。
そして、とてもいい声をしている。
「えーと、枝が、枝が勝手につれてきたのかも？ 私にもさっぱりわからないわ」
「枝が？」
「枝がね」
ゆりは背中をどんと押されて前につんのめっていた。ジュライがゆりを抱き留めている。
「今誰かが押した！ 私が抱きついたんじゃないのよ。ほんとよ」
ゆりは体を離している。
「どういうことだ？」
「枝が」
「枝が……」
ジュライは女神の背中をみたが、枝が伸びている様子はなかった。
「本当よう」
ジュライから離れると枝と葉っぱがゆりの体を押していた。
「本当だ。枝が伸びてる」
枝がはぐいぐい押している。ゆりはその枝を押し返していた。
「一体この枝はなんなの？」
小枝が肩の布を横にずらそうとしている。
「やめなさいってば！」
ゆりは枝をぺしっとたたいていた。
「もしかしたら、ガーベラを抱けと言っているのかな？」
ジュライは困ったというよりもちょっと笑っている。
「はあ？ 何言ってるの！？ やめてよ」
ゆりの顔は真っ赤である。
「ここからだしてちょうだい！ 出しなさいってば！」
ゆりは何かあったら大変と、葉っぱと枝をかきわけようとしていたが、植物の方はまったく動かない。かきわけてもかきわけても葉っぱである。
「こらー！！」
「くくく」
ゆりのあわてぶりがおかしかったのか、ジュライは笑っている。
「顔が真っ赤だぞガーベラ。案外かわいいところがあるんだな」
「笑い事じゃないわよ。こんなところをダーナに見られたらどうするの！ ダーナともめるのはいやよ！」
「そうだな。ここから出ろ。ガーベラ」
ジュライは葉っぱに手をあてた。すると、空洞ができた。
「ありがとう」
ゆりはさっさとそこに体を入れた。するとどこかの森の中に出た。てんこもりの葉っぱはもう見えない。まるで全く違う場所に出たようである。
「ふーびっくりしたーなんでいきなりあんな所にいくのよ」
ほっと息をついていたらちょんちょんと肩がたたかれた。側の木の枝が伸びている。これはライラがいた木とはもちろん違う木である。
「ジュライの子供がほしいの？」
と聞くと、枝はうなずくように揺れていた。
「ダーナを連れてきなさいよ。ダーナを。ジュライはダーナの恋人でしょ？」
と言うと、枝はわさわさ動いている。
「何？ ダーナじゃだめな理由でもあるの？ しったこっちゃないわよ。私がジュライとするわけにはいかないの。絶対無理なんだから」
ゆりは両手で×を作っている。
枝はしょんぼりするようにしなっていた。
（……ダーナじゃだめな理由って何かしら？ うーん、子供を作るには時と場所が合わなければ……？）
「ダーナのところに連れて行ってよ。できる？」
枝はぴくりとも動かない。
「もー仕方ないわね。ラーズに頼むわ」
ゆりはラーズの元に移動して、ラーズに頼んでダーナの所に飛んでもらった。ダーナは自分の神殿にいた。
「ダーナ、ちょっと来てちょうだい」
ゆりはダーナの手をつかんで神殿の外に引っ張り出した。
「ガーベラ、どうしたの？」
「ダーナ、ちょっと聞くけど、森を歩いていて枝が伸びてきたりしたことない？」
「え？ なあに突然」
「いいから答えて」
ゆりは真剣である。ちなみに側ではラーズが眺めている。
「しょっちゅうあるわよ。いたずら好きの枝がいるのよ」
ダーナは笑って言った。
「ダーナはその枝をどうするの？」
「どうもしないわよ。払っておしまい」
ダーナは手で払う仕草をしている。
「ダーナ、それじゃだめよ。そういうときは、枝の意思に乗ってやらないと」
「ガーベラ、何を言っているの？」
「ダーナ、今すぐ森の中でジュライと抱き合ってちょうだい」
「はあ？」
「今すぐよ！」
「ラーズ、ガーベラは何を言っているの？」
ダーナはラーズに聞いていた。
「さあ？ 私にもさっぱり」
「それが植物の意思なのよ！ 急いで」
「ちょっと、一体なんなの？ なんでジュライが出てくるの？」
「さっき枝に捕まって、ジュライの元に連れて行かれたのよ」
ゆりは時間がなかったので全部しゃべっていた。
「はあ！？ どういうこと！？」
ダーナの顔色が変わっている。
「だからね、植物たちは、ダーナがだめだから、私を捕まえたのよ、きっと。植物関係の妖精とか、きっとそういうのができるのよ。だからダーナがジュライとしてちょうだい」
「はあ、よくわからないけど、じゃあ夜にでも」
「今すぐよ！」
「今すぐ？」
「森の中でね」
「も、森……ええ！？」
そこに「何かもめてるのか？」と風の神ウィルが通りかかった。
「ちょうどよかった。ウィル、ダーナをジュライがいる場所まで連れて行って！ 今すぐに！」
「え？」
「ダーナ、すぐよ。すぐにするのよー」
「はあ、何がなんやら……」
とりあえずウィルはダーナをだっこして空に舞った。
「はずかしがっちゃだめよー」
とゆりは叫んでいる。
「あーうまくいくといいけど」
「なあガーベラ、ジュライのところに連れて行かれたって、本当なのか？」
ラーズが聞いた。
「そうなの。きっと今日は妖精が生まれる確率が高い日なのよ」
「ふーん。じゃあ私たちもしよう。妖精ができるかも」
「私たちは別に……あ、ジンラをほっておいたままだった。ラーズ、一緒にジンラのところに行ってお酒を飲みましょうよ」
「えー」
「行きましょう」
ゆりは強引にラーズを飛ばせていた。
「どんな妖精ができるんだろう。どきどきするわね」
「自分の妖精がほしいー」
ラーズはぼやいている。ゆりはジンラの神殿でお酒を飲んで、人間界に戻っていた。
（ちゃんと妖精は生まれたのかなあ。まあ生まれても私の石は増えないだろうけどねえ）
部屋にはミラがいた。
「王妃様、お戻りになったんですね？」
「ん？ 神の国に行ったの知ってるの？ キラキラしてないでしょ？」
「さきほどガーベラ様がいらしてくださったんですよ」
ミラはうれしそうに言っていた。
「え？ そうなの？」
「はい、そして美容液を作ってくださったんです。侍女の一人が頬ににきびができていて、それが許せないと申されて」
「へえ」
ゆりは笑い顔である。
部屋の棚に花が入ったガラス瓶がおかれていた。
「それからガーベラ様は庭園で歌を歌われてました。それを偶然聞かれた羊の国の使者の方が、大変感動されてらしたそうですよ」
「へー」
扉がノックされてフリットが入って来た。
「王妃……ですよね？」
フリットはゆりの様子をうかがっている。
「そうよ。フリットもガーベラに会ったの？」
「羊の使者といたんですよ。そうしたら偶然歌を聞いた使者の方がもっと聞きたいと言って、私はもうガーベラ様だと気づいていたんですが、使者の方はすごく喜んでましたよ。
また王妃の歌が聞きたいと言われたらどうしましょうかねえ」
フリットは苦笑している。
「仮病を使うしかないわね」
ゆりははっきり言ったのだった。
「レーヌはガーベラの歌を聞けたの？」
「皆さん庭園にいましたから」
「そう、よかった」
（みんなはしゃいだんだろうな。ガーベラ、王の間にもちょっとは行ってくれたんならいいけど……）
「ガーベラ様って本当に素敵な方ですねえ」
ミラは大感動しているようだ。
一方ガーベラは自分の神殿に戻っている。
（今日は男と遊べなかったけど、まあいいかあ）
などと思っていた。
（あんな肌をみたんじゃねえ。私の侍女には綺麗でいてほしいものね）
「いっぱい歌ったからまあすっきりはしたわね。うん」
ダーナがガーベラの神殿にやってきた。
「ガーベラ、無事生まれたわよ。またああいうことがあったら教えてちょうだい」
ダーナは微笑んでいる。
「何が生まれたの？」
ガーベラが聞いた。
「妖精よ。木の妖精、ジュライも喜んでるわ」
「へー」
ガーベラは他人事のように言っていたので、ダーナは笑っていた。
「あなたが今すぐやれって言ったんじゃないの。まさか本当に妖精ができるなんてねえ、びっくりしたわ。しかもあんなかわいい子ができるなんて」
「私？」
「あれが予兆だなんてちらりとも思わなかったわ。また何かあったら教えてね。じゃあね」
ダーナは去って行った。
「私が教えた？ えー……なんでそんなのが分かったのかしら。あっちの私って、ヒルデリアよりもすごいじゃないの」
ガーベラはゆりに驚いていたのだった。
神の国では夕方、アマンザが妖精のライラを探して農園をうろついていた。
「ライラー、あ、いた」
アマンザはぶどうの木の枝にいるライラを発見したが、緑の頭がもう一つ見えた。
「あれ？ 増えた？ いや、違うか」
よくみると、もう一人の方は男の子である。背丈はライラと同じくらいだが、緑のズボンをはいている」
「お父さんとお母さん、また木の上で？ 聞きに行こう」
アマンザはジンラに聞きに行ったのだった。
こうして神の国には妖精が一人増えたわけだが、雲の上の最高神はちと浮かない顔つきである。
ハロルドが広間にやってきたので、アシュランは「あっちのガーベラが来てたぞ」とゆりのことを暴露していた。
「え？ そうなのか？ あいつここにきたのか？」
「いいや、ジンラのところで会ったんだ。気晴らしに酒を飲んで外に出たら、木の枝にガーベラがしがみついていた。
「はあ？」
ハロルドはぽかんとしている。
「自分の重要性が全くわかっていないところが面白いが、こればかりは強制しても無理だろうしなあ」
「なんの話だ？」
ハロルドが聞いた。
「子供の話だ。恐るべき出産率だが、まだほしい」
「子供……」
アシュランはふいに笑っていた。
「一人の女の心も虜にできないとは、軍神の名が泣くぞ」
「うるさいな」
「最近ラーズに押されてるんだろ」
アシュランはハロルドが気にしてることをずばっと言っていた。
「そんなことはない」
ハロルドは苦い表情である。
「別にお前の子供じゃなくてもいいが、今の内にできるだけがんばっておけ」
「……嫌な言い方だな。まるで近々何かが起こるというんじゃないだろうな」
「最近夢見が悪い。それだけだ」
アシュランは夢の内容を語ろうとはせず、ハロルドも詳しく聞くことはしなかった。
そして夜中、ベッドが変わって眠れないグレンの元にガーベラがやってきた。
「ねえグレン、お願いがあるんだけど」
「はい？」
「外でしましょ」
「……はあ？」
「最近彼女に差をつけられているのよ、だから外でしたいの」
「言ってることがさっぱりわかりませんが」
「わからなくていいから外でしましょう」
「嫌です」
「なんでよ」
「誰かに見られたらどうするんですか。他の方を誘ってくださいよ」
「恋人の頼みも聞いてくれないなんて……」
ガーベラが泣き崩れたまねをすると、グレンは背中を向けてしまった。
「ガーベラ様、おやすみなさい」
ガーベラはむくれている。
「こうなったら意地悪してやるから」
ガーベラは裸になってグレンの横に寝転んだ。ガーベラの体からはものすごくいい匂いがしていたが、グレンはガーベラとは体験済みなので我慢できた。
しばらくしてガーベラをみると、ガーベラは寝てしまっていた。
（一体何を考えているんだか……行動が読めない所は、やっぱり似ているのかな……）
グレンはしばらく、ガーベラの寝顔を見つめていたのだった。
つづく
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