第27話

巻き貝をぽろりと落としたゆりは、しばし放心状態である。ジュノーはゆりの目の前で手を揺らした。

「王妃？　何の伝言だったんですか？」

「…………」

「王妃ってば」

ヴィラは巻き貝を自分の耳に当ててみた。

「……かわいい格好をして待ってろ」

「ぎゃああああ」

ゆりは悲鳴をあげている。

「え？　聞けるのか？」

「聞ける」

ジュノーはヴィラから巻き貝を受け取り、自分の耳にあてた。なんと、ハロルドの伝言が聞けるではないか。

「すごい。感動だ。すごい！」

ジュノーは大興奮している。

「ハロルド様、やっぱり男らしくて良い声だなあ」

ヴィラも感動しているのか、また耳に巻き貝をあてている。

「王妃、かわいい格好をして待ってましょう！」

ジュノーが頬を紅潮させて言った。

「いやああ！」

「もう逃げられないですよ。おとなしく、ハロルド様と儀式をしてください」

「だって、やだって言ったんだよ。おれをお前の男と一緒にするなって言ったんだよ！！　それなのになんで気が変わったの。なんでラーズとしたの知ってるのよ！」

ゆりは涙目である。

「ラーズ様と話でもしたとか？」

ヴィラが言った。

「もうやだあ。そうだ。私一年くらい過去に行くから。へびっちも気になるし、ついでにあっちで儀式をしてこの子の力をあげてくる」

ゆりはとんでもないことを言い出した。

「何言ってるんですか？　無理ですよ」

とヴィラ。

「お願いだから女王様に呼んでって頼んでもらって！」

ゆりは必死である。

「王妃、女王様は出産後で疲れてるから無理ですよ」

とジュノー。

「たとえ元気でも、過去で儀式はもう許しません」

ヴィラは微笑んでいるが目は笑ってなかった。

「ええー」

「そうですよ。二度もなんて、それこそ我々の蛇達が反乱でも起こしかねないですよ。さあ、かわいい服を選ばなきゃ。なんかわくわくしてきた」

ジュノーは自分のことのように喜んでいる。

「とりあえず、王にご報告ですね」

「やだーーお願い、内緒にしておいて」

「無理です」

ヴィラは巻き貝をもって消えてしまった。

「かわいい王妃の服〜♪」

ジュノーも消えた。

「やだ、誰か夢だと言って……」

城の中は慌ただしくなってきた。


ゆりはげっそりした表情をしていたので子供達は「何かあったの？」と気にしていたが、事情を知り、ミシェイラとレーヌ以外は仰天している。

そして巻き貝が子供達の手元にやってきた。

「すごーい。ハロルド様の生声だー！　家宝にしよう！」

ラギが興奮している。

「ハロルド様と儀式かあ。次はライオネル様としようよ」

ロイはまだライオネルが好きなようだ。

「今晩ハロルド様がいらっしゃるんだ。私にも加護をくれないかなあ」

とアナスターシャ。

「母様が頼めばくれるんじゃない？」

ナナミが言っている。

「僕はハロルド様のお顔が見たいなあ」

シスは生ハロルドを想像していた。


部屋でぼんやりしていたゆりの元にラクシュミがやってきた。

ゆりは蛇の目のゆりである。

「ゆり、大変なことになったな」

ラクシュミもさすがにちょっと興奮しているようだ。

「王様、あっちがさあ、十日間隠れるって言ってるけどどうする？」

「無理だろ。あっちしか儀式ができないんだから」

「ま、どうせ隠れても無理なんだけどね、。ハロルド、私達を変えることができるんだもん。まいっちゃう」

「そうなのか？」

「今晩どうなるんだろう。怖わくわくって感じー」

儀式は自分がしないので、蛇の目のゆりは悠長なものだった。部屋にミカエルたちがやってきた。

「王妃、ついにやりましたね。我々も今晩は応援してますよ」

ミカエルが真っ先に言った。

「はあ、みんな巻き貝を聞いたの？」

「聞きました。そしてハロルド様の想いを感じましたよ」

とミカエル。

「想い？」

「あれは、王に王妃を彼女にするという宣言ですよ。だから王にも聞けるようにしたんですよ」

「え？　そうなの？」

「ハロルド様が儀式仲間の一人になるなんて……今夜は私も眠れないなあ」

とハインリヒ。

「王妃、がんばってください」

イシュタールは目を輝かせてゆりを見ている。

「あっちに言ってよ。出てこないけど」

「私はこんな日が来ると思ってましたよ。ハロルド様は、前から王妃の素晴らしさに気づいてましたから」

もちろん言ったのはシャナーンである。

ミルキダスは横でうなずいていた。ジュノーと侍女達がやってきた。

「王妃、かわいい下着を選んでおきました。かわいいスケスケ寝間着でお迎えしましょう」

ジュノーはハンガーにぶら下がった下着やスケスケの寝間着を10ほど手にもっている。

「これから選びましょう！」

「あまりスケスケよりも、真っ白で王妃の清らかさを表したネグリジェなんかがいいと思うが」

フリットはものすごく真面目な顔で言っている。

「そうだな。スケスケはあからさますぎかもな」

とハインリヒは顎に指をあてていた。

「白のフリフリ。この肩が出たやつ、私はこれを推すな」

フリットがそれを手にもった。

「薄いピンクも王妃っぽくてかわいいですよ」

シャナーンは、花の模様が入ったピンクのネグリジェを手にもっている。

「確かにピンクは王妃っぽいな」

とイシュタール。

「外が白なら下着は……」

男達はあーだこーだと話し合い、蛇の目のゆりは、それを横でぼんやり眺めていた。男達は真剣である。まるで娘の初夜を見守る父親のようだ。

「さ、王妃様、肌に磨きをかけましょう♪」

五人の侍女がゆりを取り囲んだ。

「あーわくわくですわ。今夜は眠れませんわ！」

「肌つるつるでハロルド様を迎えましょう♪」

ゆりは寝室の方に連れて行かれて、そこで侍女にマッサージをされたり、ムダ毛をぬかれたりした。

「王妃、がんばれ！」

最後にはハザークまでゆりを励ましに来たのだった。


城の中は浮かれムードのまま、夕方になった。黒目ゆりは引っ込んだままだ。

夕食後のお風呂でも、ゆりは侍女に念入りに体を洗われていた。ゆりはもう為すがままである。

ゆりは男達が選んだネグリジェを着ていた。下着は薄いピンク、その上に肩を出した真っ白でフリフリが裾についたネグリジェを着ている。

「わー確かにかわいい」

ゆりは自分で姿見鏡で眺めている。

「時間があるからハザーク様に見せたいなあ。しかし、7人の子持ちが着る服なのかしら。笑っちゃう」

などと言っていたら、部屋にラクシュミが現れた。

「あっちはまだ出てこないのか？」

「うん。出す？」

「出す。おい、ゆり、出てこい」

ゆりの左目が黒くなった。黒目ゆりはラクシュミを見てはっとし、自分の姿をみて、「なんじゃこりゃ！」と王妃様らしくないことを言っていた。

「なかなかかわいいぞ」

「王様、私、私ハロルドと儀式なんてできない」

「お前が誘ったんだろ？」

「断ると思ったから誘ったの。実際断ったんだよ！」

ラクシュミはゆりの手を握りしめた。

「ゆり、お前はこの国最上の巫女だ。いつだって、男達を虜にして儀式をしてきたじゃないか。ハロルドも虜にしてやれ」

「ええー……」

ゆりはかなり引いている。

「逃げちゃだめ？」

「ハロルドのことが好きじゃないのか？」

「好きだよ」

「じゃあ逃げるのは失礼だぞ」

「ううう」

「ゆり、がんばれ」

ラクシュミは両手でゆりの頬を包んで、去って行った。

「ううーううー確かにハロルドのことは好きだけど……怒ってるのが怖い。どうにか穏便に話だけできないかしら」

ゆりはぶつぶついいながら部屋の中をうろついている。歩くたびにネグリジェの裾がひらひら揺れていた。

「明日みんなに報告するのもやだなあ……やっぱり逃げようかな」

ゆりが自分の部屋の扉を開けようとした時、背後に金色の輝きを感じて後ろを見た。なんとハロルドがもうそこにいる。

「……こ、こんばんは……早いね」

ゆりはおずおずと挨拶した。ハロルドはゆりの真っ白の寝間着を見て、ぷっと笑っている。

「あ、ひどい」

「かわいい格好じゃないか。あっちに行こう」

ハロルドがゆりの手を取った。大きい手に掴まれて、ゆりは（もう逃げるのは無理だ）とあきらめた。

「あの、怒ってるの？」

「かもな。なんでラーズの後なんだ？」

「いや、あの……ラーズの時は偶然……」

「お前の願望でそうなったんだろ？」

「う……そ、そうかもしれないけど、ハロルドは嫌だって言ったじゃない」

「気が変わったんだから喜べ」

「……（喜べないんだけど）天下の軍神様に人間の儀式に参加してもらうなんて悪いし……」

「じゃあなぜ誘ったんだ？」

鋭い青い瞳がじろりとゆりを見た。

「ラーズと儀式をしちゃったから、ばれたら怒ると思って、ハロルドも誘ったの。ハロルドは嫌がるだろうと思ったから」

「ラーズと話して考え直した。イカだのカニだのより、こっちの方が恋人っぽいしな」

ハロルドは寝室まで来ると、おもむろに上に来ていたチュニックをぬぎだした。たくましい上半身があらわになり、ゆりはびびっている。

侍女が見たらギャーギャー叫びそうだが、ゆりは３歩後ずさっていた。ガーベラの時は平気だというのに、素の自分の目から見ると、なんとも迫力である。

「お前の王はなんか言ってたか？」

「え、がんばれって」

「そうか。なら心配ないな。側にこい。なんでそんなすみっこにいるんだ？」

ハロルドが手招きしていたが、ゆりは怖くてしかたなかった。

「あ、あのー……」

「ラーズとは随分楽しんだんだろ？　あの時添い寝だけで帰った私がばかみたいだと思わないか？」

ゆりはぎくりとしている。

「お前は自分がしたことがまるで分ってないな」

ハロルドは涼しげな表情でゆりを見下ろしていたが、ゆりの背中には冷や汗が流れていた。


むっちゃ怒ってる……


「ごめんなさい。ハロルドをないがしろにしたつもりはなかったの。私、女蛇が降りると、制御できなくて、つい儀式をやりたくなっちゃうの。

怒らないで」

ゆりの声は震えている。

「もう怒ってない。神殿で子供達の顔を見たら怒りは収まった。お前はいろいろ貢献してくれたからな。だが、あまり怒らすな。私の忍耐にも限界があるからな」

怒ってないといいながらも声に怒りが潜んでいるようで、ゆりはかなりびびっていた。次に何かしたら、ブタラと交換どころじゃすまないような気がする。

「それで、女蛇とやらは、いつ降りるんだ？」

「さあ」

「それが儀式なんだろ？　降ろせ」

「いや、降ろせといわれましても……」


女蛇さん、近くにいても絶対降りてこないような気がする。だって、この人怖すぎる！


同じ神でもラーズとハロルドでは外見も、性質も違いすぎる。自分が女蛇だったなら、ハロルドを見ても通り過ぎるだろうとゆりは思った。

「実はね、私が女蛇を降ろすんじゃなくて、女蛇が勝手に降りてきて儀式になってたの。だからー、今日儀式をしたいと思っても、女蛇の都合もわからないし……」

「よくわからんが、まあいい、側にこい」

「はい」

ゆりはぎこちなくハロルドの側に寄っていた。

「ラーズはお前のこと、なんて呼んでるんだ？」

「え？」

「ガーベラとか呼んでるのか？」

「えー……と……」

「それともゆりか？」

ゆりの体がびくっとしていた。

ハロルドの両手がゆりのネグリジェを下にずりっとずらしていた。ピンクの下着を見たハロルドは、

「王妃の正統な下着じゃないのか」

とちょっと残念そうだった。

「え、正統な下着って？」

前にも聞いたような気がすると思いながらゆりが聞いた。

「穴が開いた下着。あれがまた見たかった」

「いっ……」

ハロルドはゆりの体をベッドの上にひょいと乗せた。

「全部脱げ」

「うう……」

「ひんむかれる方が好きか？」

「……わ、笑わないでよ。絶対、絶対に」

「わかった」

ゆりは素直に着ているものを全部脱いだ。ゆりの体を見たハロルドは何の感想も述べずに、「んじゃするか」と言った。

「え？　何を？」

「愛撫してほしいんだろ？」

「え、あの、女蛇が降りてないから、別に無理にやってくれないくていいんだけど……」

ゆりは胸を隠しながら言った。

「じゃあなぜ脱いだんだ？」


あんたが脱げって言ったんでしょー！


とゆりは心の中で絶叫していた。

ハロルドはゆりの足を軽くひっぱった。ゆりの体がずいっとハロルドの側に引き寄せられている。

「足を広げて見せろ」

「え、えええ！」

「ラーズには散々見せたんだろ？」

「いや、そんなには……」

腰をずいっと引かれて、ハロルドがゆりの上に覆い被さった。

「なんて呼んでほしい？」

「……お前で」

本名で呼ばれることが怖かったゆりはそう言った。

「お前……ふっ」

ハロルドは顔を近づけて、ゆりに口づけた。

「ん……ん！」

ハロルドの大きな手がゆりの胸をなでた。円を描くようになでて、胸の先端を指でつまんでいる。

「ん……」

ゆりは身をよじったが口はしっかりふさがれているし、上にしっかり乗られているしで、動くこともできない。

ようやく口が離されて、ゆりは荒い息を吐き出した。すでに顔は真っ赤である。

「なんかおびえてるのか？　心配しなくても、強引にやったりしないぞ」

ゆりはガチガチに緊張していたので、ハロルドがやんわり言った。

「でも、その、儀式もできないようだし……」

ゆりはぎゅっと足を閉じていたのでハロルドはゆりのお尻をなでた。

「足を広げろ。愛撫できないだろ？」

「も、もう十分していただいたので」

「私を信用しないのか？」

「え……」


本当に強引にされないかも？　だって神様だし……


ゆりはハロルドに悪いような気分になり、ちょっと力を抜いた。ハロルドはゆりの太ももを優しくなでて、足を広げさせた。

ハロルドはゆりに口づけながら、指でゆりの下半身に触れた。指が入り口をまさぐっている。やがて指が体の中に入り、奥の方までぐいっと差し込まれて、動かされると、ゆりの足がびくっと震えていた。

「神の国でしような。お前は千回私とするっと言ったろ？　まだ全然だからな」

ハロルドは指を動かしながらゆりにささやいている。

「え、何の話だっけ……」

「バリアスの時に言ったろ？」

「あれは、バリアスを生むためにそれくらいがんばるってことで……」

「それくらいしてもいいってことだろ？　だいぶ楽になってきたぞ」

ハロルドが指を増やしている。それを難なく受け入れるほど、ゆりの体がほぐれてきていた。

「気持ちいいか？」

ゆりは真っ赤な顔でうなずいた。

ゆりの腰がびくっと震えていた。ゆりは声は抑えている。

ハロルドは指を抜いて、ゆりの体を抱きしめた。

ゆりはハロルドの背中に腕を回した。


もしかして、私にはそんなにその気にならなかったのかも。ほっとしたわ……


ゆりはハロルドが自分に欲情していないと思い、ほっとしながらも、ちょっと残念なような複雑な感情を抱いていた。


ハロルドはゆりの頭をなでて、ゆりの左目のあたりをなでた。

「お前、出てこい」

ゆりの左目が変わっていた。

ゆりは目をぱちくりさせて、「私もチューしてほしいなあ」と言った。

「普通にチューされたい」

「ああ」

ハロルドはゆりに口づけた。

舌をからめあいながら、ゆりは（そういや前はかまれたっけ）と思い出していた。ハロルドはゆりから離れて座った。

「なあ、お前達、妊娠中は王としかしてないと言ってたが、あれ嘘だろ？」

ハロルドはゆりを見下ろして聞いた。

「え……あれ？　その、実はもう一人としてるけど……そのくらいよ」

「他の男達とはしないのか？」

「彼らとは、添い寝したり、チューしたりしてる。普段はしてない。あっちの私は、あまり体を使いたくないみたいで……」

「そうか。だが、するのは好きなんだろ？　じゃなきゃガーベラになってるわけがないからな」

「ま、そりゃあね」

「妊娠後期の女はしない方がいいらしいが、安定期をすぎた健康的妊婦は平気らしいぞ」

「え？　調べたの？」

ゆりは驚いている。

「ああ、お前ほど健康的な妊婦もいないだろ？」

「……これって、どういう展開？」

ゆりは首をかしげている。

「私がお前を抱くっていう展開だ」

「え？　さっきしないって言ってたよね」

「あっちには約束したが、お前にはしてない」

ハロルドは悪びれる様子もなく言った。

ゆりは口を開けている。

「てっきりその気になってないのかと思っちゃった」

「その気にはなってる。だが、お前が私としたくないって言うならしない。さーどうする？」

ハロルドは両手を広げて聞いた。

蛇の目のゆりはあまりの展開に固まっている。てっきり、今回自分は関係ないと思っていたのである。

「そりゃ……したいよ。ハロルドはステキな人だし……ガーベラの時のように、愛し合いたいって思うよ」

ゆりは素直に言った。

「でも、あっちがやってなくて私だけとか、いろいろややこしいことになるし……」

「ま、平気だろ。ガーベラの時は何度もしてるんだしな」

「なぜ向こうの時にしなかったの？」

「おびえてたし、向こうは時間をかけた方がよさそうだが、お前はタフだろ。どっちかだけでもやっときたい。油断すると、お前たちはラーズとしてる可能性があるからな」

「まさかあ、ははっ」

ゆりは笑っていたが、絶対ないとは自分でも言い切れない。

ハロルドはズボンを脱ぎだした。

「……ねえ、愛し合ったら、子供に加護とかくれる？」

ゆりは遠慮がちに聞いてみた。

「無理だな。何人にもやることはできない。あの子の加護を違う子に移動させるならやってもいいが」

「そうなんだ……」

「恋人同士は損得でやるもんじゃないだろ？」

ハロルドにずばっと正論を言われてしまった。

「私は人並みに欲があるもので」

「お前だけじゃガーベラになれないな」

「二人でガーベラだもん」

「そのかわり、子供が産まれたら、抱っこしてやる」

「抱っこ？」

「龍の国じゃ感涙ものだぞ」

「そうだね。ありがとう」

裸になったハロルドは蛇の目のゆりを抱き寄せた。

「一応子供に保護をかけとこう。これで、少々乱暴にしても安全だ」

ハロルドはゆりのお腹に手をあてていた。

「最初は優しくしてほしい」

「ああ、いいぞ」

ハロルドはゆりにキスした。

ハロルドは再びゆりの下半身に指で触れた後に、自らの体をゆっくりと挿入していった。

「あ……くる……奥に……」

猛々しい体が肉をかきわけて、奥に侵入していく。

「辛いか？　思ったより平気そうだな。しかし、お前の体は熱いな。中は柔らかくていいが……」

一番奥までつかれて、ゆりの体がのけぞっていた。

「んー！！」

「ふう……全部入った」

ハロルドは腰を前後に動かしている。ゆりは体の中心部に感じる圧迫感に身をよじっている。

「ううう……」

やがてゆりの体が感じてくると、部屋の中に淫らな音が響きだした。

「いい感じになってきたな。なかなか気持ちいいぞ」

「はあ……はあ……」

ハロルドは一気に体を引き抜き、ゆりの体を四つん這いにさせて、再び挿入した。

「ああん……」

「はあ……ああ……出すぞ」

ハロルドは激しく腰を打ち付けて、やがて、中で放っていた。

ゆりは目の前が真っ白になり、脱力して布団の上に寝転んだ。ハロルドが体を離した。

ゆりはちらりと、座っているハロルドを見上げた。

「ねえ、私達のこと、好き？」

「私は、本物のガーベラより、お前達のことが好きだ。じゃなきゃ、こんなに何回も来るわけないだろ？」

優しく言われて、ついゆりの涙腺はゆるんでいた。

「うれしいな。あっちの私にも同じことを言ってね」

「何回も言いたくない」

ハロルドは恥ずかしげに横を向いている。

「すごくうれしい。最初に言ってくれればよかったのに」

「人間にこんなことを言う日が来るなんてな」

ハロルドは、なんだか複雑な笑みを浮かべていたのだった。


「おい、起きろ」

その声で、黒目のゆりは目を覚ました。こちらのゆりは体に痛みなど全くなかったので、ハロルドにもう一人の自分が抱かれたなどと夢にも思っていなかった。

「あれ？　私寝ちゃってた？」

ハロルドはすっかり服を着ている。

「今度あっちに来た時は、真っ先に私の元に来てくれるな？」

「え。ごめん。実は、ラーズとの約束がまだ実行されてなくて……」

ゆりは素直に暴露していた。

「ラーズ」

ハロルドのこめかみがぴくりと動いていた。

「約束しちゃったから、ごめんね」

「まあいい。ラーズとやった後でもいいから来い」

「やった後って……そうとは限らないのよ。いつもそんなことしてるわけじゃないから」

ゆりは少々困った様子である。

「そんなことよりも、今日は優しくしてくれてありがとう」

「ああ、私はもう行く。また人間に会うのも気まずいからな」

ゆりはハロルドに抱きついた。

「ありがとう」

ハロルドはゆりの頭をなでて、ゆりの額にキスした。

「またな」

「うん」

ハロルドは去って行き、部屋の中は真っ暗になった。ゆりはベッドに寝転んだ。

「まさかあれで済むなんて思わなかった。私が緊張しすぎだったかな……」

今のゆりは、（ラーズと儀式をしちゃってごめんね）という心境である。

「なんだか優しかったなあ……」


―あのねー

と声が聞こえてきた。

―私、ハロルドに抱かれちゃった

「え？」

―どっちかだけでもやっとかないとラーズに先を越されるのは嫌だとか言ってた

「ええ！？」

ゆりはびっくりして跳ね起きていた。

「嘘でしょ。だって体はなんともないわよ。あんなでかいの入れられたら、絶対何か感触が残るでしょ！」

―そこはほら、神様だから

「ええー」

―怒らないでよ？

「怒らないわよ。まあよかったわね。あ、なら、神様と寝たら何かあるってのもわかるの？」

黒目のゆりはわりとあっさりしていた。体の感触が何もなかったため、現実味がなかったせいかもしれない。

―あ、それ聞かなかった。なんだろね


ハロルドに抱かれた？　全然そういう感じないけど……本当なの？　だとしたらちゃんと興奮してくれたんだ


ゆりはびっくりしながらもちょとほっとする気持ちもあった。

「あ、ハロルドの目当ては、あなたの方だったんじゃない？」

黒目のゆりはそう思った。

―そういうわけじゃないよ。あなたがあんまりびびってたからだよ。ハロルドに殺し文句を言われてすごくうれしかった

「殺し文句？　何？」

―教えない。本人に言ってもらって

「えー気になる」

―うふふー♪


「殺し文句、なんだろう」

ゆりはあれこれ想像していたが、わからない。


結局儀式にもならなかったし、ハロルドに軽く触られて私は終わったなあ。ガーベラの時にお返しすればいいかな

儀式がなかったなんていったら、みんながっかりしちゃうかも。次は普通に人間としたい


などと思いながら、ゆりは寝てしまったのだった。


つづく



戻る

目次