第３２話

ゆりはフリットとは長い付き合いだが、フリットの性質は穏やかで、ミカエルのように面倒なことを言われることもなく、フリットの横で無防備に眠れるほど信頼もしていた。

蛇の目のゆりはフリットと別室で過ごすこともあったが、黒目のゆりとフリットは普段は頻繁に別室に行くこともない。

フリットも自分から積極的にゆりを誘うこともないので、今晩のことは、本当に珍しいことだった。

フリットは立ったままゆりを抱きしめた。

「王妃は何年経っても変わらないですね。昔の無邪気な所はそのまんまですよ」

「そうかな」

「出会った時よりも色っぽくなりましたがね」

フリットはゆりの体を抱き上げてベッドに運んでいた。

「脱がしていいですか？」

「うん」

フリットはフリフリのネグリジェを下から上にたくし上げて脱がせた。ピンク色の下着と、金色の蛇が露わになった。

「昨日のハインリヒはどうだったんですか？」

「昨日は穏やかな感じだったよ」

「本当ですか？」

「儀式が終わってすぐだし」

フリットはゆりの肩や首を優しくなでている。

「王妃の耳はそのままなのに、普段からこうして蛇が出ていると不思議な感じですね」

「そうね」

フリットはゆりにちゅっとキスしてゆりを横たわらせた。

フリットはシャツを脱いで上半身裸になった。青い蛇は以前よりもはっきりして見える。

「フリットのオーラは青いね。今はみんなの気が見えるの」

「そうですか」

「気ってうにゃうにゃ動いてる。なんか変な感じ」

「どんな風に見えるんですか？」

「うーん、青い、蛇」

ふいにフリットの気がとぐろをまいているようにフリットの体を覆いだしたので、ゆりはそう言った。


フリットが優しくゆりに愛撫しだして、ゆりは穏やかに感じだした。

（いつものフリットだわ）

とゆりは思っていたのだが、途中から下半身にぬめっとした感触を感じてゆりは（あれ？）と思った。自分の愛液でもないようだ。

「あの……」

フリットが手に何かを持っている。

「この前の儀式の時に使ってたやつ、余ってたのでもらってました」

「え？　そうなの？」

容器は前よりも小さくなっていた。

「一杯使っても安全そうだし」

「別にそういうの使わなくても、気持ちいいよ」

「でもしたいほどじゃないでしょう？」

「それは……」

「王妃は儀式になると自制心が強いですよね。二人きりだとどうでしょうね」

フリットは穏やかな顔付きのままである。

「あ、ちょっ……」

フリットの指が二本、体の奥までぐいっと入れられて、ゆりは反射的に逃げようとしたのだが、肩をがしりと押えられてしまった。

指を激しく動かされて、ゆりは感じてしまった。

「気持ちよかったですか？　王妃」

フリットの口調は穏やかだが、目つきはいつもよりはちょっと冷ややかなように感じられた。

「……フリット、どうしたの？　何か怒ってるの？」

どうもフリットの様子がおかしいようだ。

「怒ってますよ。昨日ハインリヒとはしたんじゃないんですか？　王妃は嘘をついた」

「してないよ。昨日は本当に穏やかだったし」

「本当ですかねえ。儀式では、ハインリヒはこの金蛇を見て目の色を変えてましたが」

「嘘はついてないよ」

「なら信じますが……体の中はだいぶその気になってますね。……王妃、ほら、ぎゅっと締め付けてくださいよ」

フリットの指は体の中に入れられたままである。

「仕方ないですねえ」

ゆりがそのままだったので、フリットはゆりの肩を押えていた手を外して、その手で興奮剤を手にとり、ゆりの陰部の一番敏感な部分を刺激しだした。

「や……」

「好きな男にされてるんだからうれしいはずでしょう？　逃げられると傷つきますよ。私」

「あ……あ……」

体の中と入り口を同時に刺激されて、ゆりはいってしまった。その瞬間ぎゅっと膣がしまり、フリットはようやく指をぬいていた。

「上手にできました」

「フリット、やっぱりなんか変だよ」

「変になっちゃだめなんですか？」

「え？」

「私だって男ですよ。それに王妃の恋人じゃないんですか？」

「そ、そうだけど……」


もしかしたら、この人はフリットの蛇様か何か？　


とゆりは思ったが、フリットの体の蛇はそのままだし、肌に鱗の模様もでていない。

その時ゆりの左目が蛇の目になった。

「ねえ、フリット、どうしたの？」

「王妃はまだ待機していてくださいね」

フリットは微笑んで言った。

「なんで？」

「王妃とは愛し合った仲だけど、向こうの王妃とはまだなので」

「え？」

「いい子だから、ね」

フリットは顔を近づけて言った。

「今は私の邪魔をしないでくださいね」

フリットはゆりの頬にちゅっとキスしていた。

「…………」

どこか怖い雰囲気であるが、蛇の目のゆりはおとなしく消えていた。

ゆりの両目は黒くなった。

「私が怖いですか？　王妃」

フリットは上からゆりを見下ろしている。

「怖くないよ。フリットに何が起きたのか知りたいだけよ」

ゆりはどきどきしながら言った。

「じゃあ逃げないで最後まで付き合ってください。そうしたらわかりますよ」

「う、うん……」

フリットはゆりに口づけて、ねっとりと舌をからめだした。


蛇様じゃなかったらなんだろう？　


ゆりはそこでハインリヒの話を思い出した。


もしかして、全く関係ない蛇様がついてるとか？　おまじないに来た？　え？　まさか！？


フリットにキスされながらもゆりはちょっとパニックを起こしている。


どうしよう。このままだったらまずいことになるのでは？


「ねえ、フリット、初めて会ったときのこと、覚えてる？」

ゆりはどきどきしながら聞いてみた。

「覚えてますよ。その時はまだ、あなたは異界からきたただの子供でしたね」

フリットはゆりの胸をなで回しながら言った。


過去を知ってるってことは、蛇様がついてるわけでもないような？？　じゃあなんだ？　フリットが変になってるだけ？　ハインリヒとのことを誤解して？　えー？？？


フリットは何度もゆりに口づけて、体を離しズボンをぬぎ、下着もぬいでいた。

「王妃は口でするのが好きだから、口でしてください」

「……え、ちょっ……」

ゆりはぎょぎょっと目を見開いている。

フリットは興奮剤をなんと自分の下半身にぬりたくっている。

「ちょっ……フリット……」

「口でなめても平気でしょう。あの時、誰かなめてたし」

「そういう問題じゃなくて」

「下で受け入れてくれてもいいですが」

「じゃあ口で……」

フリットはゆりの顔の方に下半身をよせてきた


そうだ。手でする振りをして、液体をとってしまえば！


ゆりはフリットの下半身に手を寄せようとしたが、「だめ」と言われてしまった。

「もう興奮してるから、口だけでしてください」

「うー」

ゆりはそのまま口ですることになってしまった。


やばい……興奮しまくっちゃったらどうしよう……


フリットの手はゆりの胸をなで回している。

「うー……」

「気持ちいいですよ。彼女にこんなことはしてもらわないですからね」

フリットは微妙に腰を動かしている。ゆりはフリットを早くいかせようと口で奉仕し、ようやくフリットが体を離して、ゆりの肩あたりに射精していた。

口から興奮剤を入れてしまったせいもあるのか、ゆりの肌の蛇は一層輝いている。

ゆりの頬は真っ赤に上気していた。

「そうだ、お礼がまだでしたね。今年の赤い月は、最高によかったんですよ。王妃のおかげですよ」

「え？」

「彼女達があのお茶を飲んだせいか、体がいつもと違っていたんです。すごくよくて興奮した。いつもよりもできたくらいです」

「…………」

「王妃も最高によかったんでしょう？　我々もそうでしたよ。ありがとうございます」

ゆりの目尻にじんわりと涙が浮かんでいた。

「どうしたんですか？　うれしくないんですか？」

「なんでうれしがんなきゃいけないの？！」

ゆりはつい叫んでいた。

「我々はいつも王妃が王と仲が良いと喜んでますよ？　王妃も喜んでくださいよ」

「もーフリットのばか！」

ゆりは枕でフリットを殴っていた。

「ばかっ嫌い！」

「どうして怒ってるんですか？」

フリットは枕を手で押さえながら聞いた。

「王妃とは赤い月を過ごせないし、王妃は体だって許してくれない。我々の間柄は、所詮恋人ごっこじゃないですか？　王妃だってその程度しか思ってないでしょう？」

「もうやめて！」

ゆりは枕から手を離した。

「私のことが好きだっていうなら、もっと態度で示してくださいよ。王妃も私の恋人のように私の子供をほしがってくださいよ」

フリットがゆりの手を引いた。

「フリット」

「中途半端はもううんざりですよ。感じないですか？　私の想いを」

フリットは逃げようとしたゆりを抱き寄せた。

「受け止めきれないなら恋人ごっこはもうやめましょう」

「やだあ」

「なら受け入れてください。体を楽にしてくれればいいんです」

「それもだめなの」

ゆりは駄々っ子のように泣いていたが、フリットの体に両手を回していた。

興奮剤のせいもあるのか、体はかなり熱くなっている。

「できますよ。ハインリヒにできたんだから、私にだってできるはずです」

「なんのことを言ってるのかわからない」

「私にも心をください」

フリットは自分に抱きついているゆりのお尻を自分のひざの上に乗せて、優しく頬に触れてキスした。

「王妃からも口づけてください」

「うん……」

ゆりは自ら舌をからませていた。


ひっついてるだけで体が熱い……


フリットは指でゆりの陰部を刺激して、再び体の中へと指を挿入していた。

「今度は王妃が動いてください」

「うん……」

ゆりはフリットに抱きついたまま腰を動かした。

「あ……ああ……ん……」

今度は普通に感じているようだ。

「王妃、もっと感じて」

「ああ……」

腰をくねらせていたゆりは、やがて達して、フリットにぎゅと抱きついた。

「……おいでおいで……はやくおいで……きた！」

「え？　何が？」

ゆりはぼんやりと体を少し離して、目をまん丸に開いて驚いていた。

「え……え……ええ！？」

フリットの体に、なんと金色の蛇がくっついている。

「ええ？　ええー！？」

ゆりはフリットの膝から降りて自分の肌を見回していた。背中に顔があった方の蛇がいない。

「え、え、え？　あれ？」

ゆりの興奮は吹っ飛び、今度はパニックになっていた。

フリットの肌では金色の蛇に青い蛇が移動してひっついている。

「えー！！！」

ゆりはでかい声をあげていた。

一方フリットは、愉悦の表情を浮かべている。

「もしかして、これを狙ってたの？」

「そうですよ。きっとできると思ってました」

「…………」


昨日出て行かなかったのに……なんで？


「……あなたは、フリットの蛇さんなの？」

「ちょっと来てください。こちらはしばらくかかる」

フリットはゆりの手を引いた。

「ねえ、蛇さんなの？」

「そうともいえるし違うともいえる。早くおいで、王妃ちゃん」

フリットが手招きしている。ゆりはおずおずと膝を前に寄せていた。フリットの肌では青い蛇と金色の蛇がからみあっている。

「久しぶりに見たけど、なんかすごい。フリットの蛇、動いてる」

「すごく気持ちいいよ」

「フリットになりすましてたの？」

「恋には駆け引きも必要だよ。優しいだけじゃね」

フリットはゆりの腰に腕を回して抱き寄せて、ゆりの頬にキスした。

「王妃ちゃん、もう一回口でして」

「やだ」

「じゃなきゃこのまま返さないよ？」

「えー……もう」

フリットはゆりのお尻を軽くぺちっとたたいていた。ゆりは再び身をかがめて、口で奉仕した。

「ああ……いい……最高に気分がいい。これでようやくハインリヒに並べた」

フリットの目はゆらゆらゆれている。

やがてフリットの下半身がびくびくっと反応し、ゆりは口を離した。

「ふう……ああ……終わった。返してあげるよ」

フリットはゆりを抱きしめた。金色の蛇はゆりの肌に戻っていたが、最初と位置が変わっていた。ゆりの腰の周りを回っている。

「ありがとう。王妃ちゃん、これで本当に恋人だね」

フリットは満足そうだった。

「さっきはわざと怒らせたの？」

「恋は駆け引きだっていったろ？　それに今年がよかったのは本当。でも今のはそれを超えてたよ？　さっきのは心同士の交わりだからね」

「赤い月にはあなたも出てるの？」

「たまには」

「ふうん」

ゆりは面白くなさそうだった。

ゆりの左目が変わった。

「近いうちに、またこうやってしましょう。せっかくだから、もう一匹ともしないとね」

フリットはゆりの肌にいるもう一匹の蛇を見ていた。

「次は私も愛してね」

「もちろん。ああ、ハインリヒがこれを知ってどう思うだろうなあ……ふふふ」

フリットはいつもはしない表情で笑っている。


ばれたら……ばれたらどうなるんだろう……


蛇の目のゆりは今後を思うと、頭が痛くなっていた。

「ねえ、ミカエルの蛇とかも、面倒そうな性格してるのかな？」

蛇の目のゆりはこの際と思い聞いてみた。

「さあ、会ったことがないからわからないな。だが、さっさと出てこない所をみると、ミカエルの蛇はそれほどあなたに執着していないのかもね」

「えー？」

「無理矢理引っ張り出すのはやめたほうがいいよ」

「うん……」

その後、フリット蛇は服を着て寝てしまったが、黒目のゆりは全く眠ることができなかった。


まさか過去の出来事がこの時代でも起きることになるなんて。しかもフリットの蛇があんな性格なんて


「いろいろ驚くことがありすぎるー」

ハインリヒにばれたらどうしよう、とか、他の男達が知ったらどうなるんだろう、とか、

いろいろ考えるとまったく眠れなかった。


朝、フリットは目を覚まして、横にゆりがいたので「あれ？」と首をかしげていた。

フリットは周りをきょろきょろ見回している。

「私、いつの間にここにきましたっけ？」

どうやらフリットには記憶がないようだ。

「フリットの嘘つき」

ゆりはふくれっ面だった。

「え？」

「青い蛇は私のだって言ったのに。嘘つき」

「何の話ですか？」

「ぷんだ」

ゆりは布団をひっぱかぶってしまった。

「王妃、一体何を怒ってるんですか？」

「もーしらない」

ゆりは布団をかぶったまま、しばらく出てこなかったのだった。

つづく

１１部


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