第35話
「許してあげる」
金髪の女性にそう言われた彼は、しばし呆然とした様子だった。まさか目の前に彼女が来てくれるなんて、思ってもいなかったのだろう。
彼はどう反応していいやらわからないようだ。硬直して突っ立ったままである。
すると彼女は彼のすぐ側まできて、なんと頭でゴンと頭突きしていた。彼女の頭は彼の肩くらいにあたっていた。
「ふんだ」
彼女はぷんと横を向いて背中を向けてしまった。どうやら怒らせてしまったようだ。
去って行ってしまう、そう思った彼は彼女を追って彼女を押し倒していた。
（え？ そこいきなりすぎだろ。いきなりしちゃってもいいのか？）
二人を見ていたミルキダスはつい突っ込んでいる。
（彼女は了解の上なのか？ もっと嫌われるんじゃないのか？）
彼は彼女の背中の上に覆い被さっている。彼女はもぞもぞと動いていたが、彼の方はおかまいなしに彼女の衣服をぬがしている。
（おいおーい！ あまり強引にしちゃ……しちゃ……もうしちゃってる！）
彼は彼女を抱いてしまっていたので、ミルキダスはちょっとうろたえていた。
彼は興奮を抑えられない様子である。
（彼女は泣いてないのか？ 大丈夫か？）
ミルキダスは彼女の反応を気にしていたが、彼女の顔は見えなかった。
（よかったな、って喜んでもいいのかな？ それにしても、興奮する。やばい）
彼の興奮が伝わってきて、ミルキダス自身も興奮していた。彼が達する時には、ミルキダスも達してしまっている。
そこではっとミルキダスは目を覚ました。どうやら昨日のことを夢でみてしまったようだ。
「やば……」
ミルキダスは下着をぬらしてしまっていた。
夜にラーズとオルガがやってきた次の日の朝、ゆりは侍女に、「寝ている時にできる化粧ってない？」と相談していた。
侍女には「聞いたことはないですねえ」と返されている。
毎度すっぴんで神様に会うのもいやなのだが、来るかどうかわからない神様のために化粧をして寝るのも大変そうだ。
肌は荒れそうである。
（昨日の説明でサラディンは納得したのかなあ。ごめんね。サラディン）
ゆりは心の中でサラディンに謝っている。
それにしても、どうして赤い紐を結んでいたんだろう？ 結んでいたのが小指だったらなんだか意味深だけど……手首に結んだ赤い紐もなんだかどきどきするわね
どうやってサラディンと自分の手首を紐で結んだのかそのいきさつはさっぱり思いだせないが、二人で楽しそうに結びあった気もする。
ガーベラの時に結んで、抱き合ってたのかな？ それでこっちにきちゃったのかも
「どんな遊びをしてたのか気になるなあ」
いろいろ想像してみたが、よくわからなかった。
ミシェイラは今年８歳、レーヌは２歳である。ミシェイラはぼちぼち勉強が始まって、文字などを習っている。他の子供達と比べると随分遅い気もするが、ミシェイラの
見かけは４歳くらいからあまり変わっていない。ミシェイラは、「パパにおしえてもらう」と言ったので、パパであるハザークがミシェイラに文字を教えていた。
その横で、レーヌも同じように習っている。ミシェイラと同じことをしたいようだ。
ハザークはまたもや親ばかぶりを発揮して、ミシェイラが書いた文字を夜ラクシュミに見せに行ったりしていた。ハザークの部屋には、ミシェイラが「ハザークパパ」と書いた
文字が飾られている。ほほえましいものである。レーヌはミシェイラにべったりなので、ゆりの手はまったくかからなくなった。
子だくさんでも楽なものである。
ゆりが庭園でも散歩しようかと思っていたら、ミルキダスがやってきた。
「おはようございます。王妃」
「おはよう、ミルキダス」
「あのー……王妃の金蛇は、昨日のこと怒ってないでしょうか？」
「昨日のこと？」
「改めて考えると、なんだか展開が急すぎたんで、怒ってないかなと」
ミルキダスは恥ずかし気に頭をかいている。
「怒ってないよ。大丈夫よ」
ゆりはミルキダスの手を握っていた。
「そうですか。よかった。あの、昨日のことは、みんなには内緒なんでしょうか」
ミルキダスはおずおずと聞いている。
「うーん、いや、言ってもいいよ」
「そうですか」
ミルキダスは去って行った。
どうせなら全員の蛇としたいし、内緒にするよりも言ってもらった方がいいかな
ゆりはそう思った。金蛇はどう思っているか知らないが、自分の蛇なので、思いは同じではないかとゆりは思っている。蛇の子供が産まれるかどうかはともかくとして、
恋人達は平等にしたい。過去のハインリヒの場合はともかくとして、フリットやミルキダスの蛇とこうなった以上は、他のみんなの蛇とも仲良くなりたいのである。
一方ゆりと別れてから、ミルキダスはうきうき気分だった。昨日のことは誰もが体験できないことなのだ。ゆりとさらに特別な関係になれたような気がしている。
以前過去の男たちとゆりの金蛇が交わったと知った時は、（まるで夢のような話だ）と思ったものだったが、ついに自分も体験したのである。
そう思うとうれしくてたまらない。
うきうき気分が顔に出ていたようだ。ミルキダスはその後出会ったジュノーから、「何かいいことでもあった？」と聞かれてしまった。
「いやー何も」
とミルキダスは返したが、明らかにうれしげである。
「本当か〜？ すごくいいことでもあったんだろ？」
「実は……」
ゆりが言ってもいいと言ったので、ミルキダスは昨日のことをこっそりジュノーに教えてしまった。当然ジュノーは仰天している。
「ええ？！ 本当に？」
「うん」
「まさか、そんなことができるなんて……それで、どうだった？」
「どうって……例えようもなく興奮してしまった」
ミルキダスは頬を赤く染めながらも小声で言っていた。
「そうだろうなあ……いいなあ」
ジュノーはミルキダスと別れてからも妄想で一杯だった。
そのころヴィラは、城の北にある大きな街で仕事中である。
どこでも大なり小なり犯罪は起こっているもので、大きな街には留置場なども存在している。瞬間移動ができる能力を持った者もそうはいないので、留置場も犯罪者を捕らえるためには
有効である。小さい事件などは街の者達が対処しているが、その責任者は戦士が担っている。
街で危険な薬草を売っていた男が捕まり、ヴィラが対応していた。男は常習犯である。
「またお前か。まったく懲りないねえ」
「旦那はいつ見てもいい男ですねえ」
男は悪びれる様子もなく、へらへらヴィラにおべっかを言っていた。この世界には自然があふれているが、たばこになる草もあれば、気分がハイになる薬草などもある。
軽いものならば店で売られもいるが、危険すぎるものともなれば規制対象である。刺激を求める若者がそういう物を買い求め、事件に発展することもあるのだった。
街の安全に心を配るのも、戦士達の仕事である。
ちなみに一族の若者達の間で昔から流行っている遊びは、飲み物の中に蛇毒を入れて飲むという遊びである。
舌に刺激があって面白いようだが、一族以外の者ならば、なめただけで死んでしまう。
「そんなにハイになりたいならいいものをやるよ。これで一発で昇天できるぞ」
ヴィラの左手には赤と青のシマヘビがまきついていた。この蛇、みかけはかわいいが、蛇毒の中でも最高ランクの蛇である。
「昇天の意味が違うでしょ。死んじまいますよ！」
男は椅子ごと後ろに下がっている。
「いいじゃないか。いい気分でいけるんだから」
「絶対苦しんで死ぬパターンでしょ！」
「ふざけんなよ。毎回罰金で済むと思ってんだろ。お前龍の回し者じゃないのか？」
ヴィラはじろりと男を睨んでいる。
「まさかまさか。俺はこの国を愛していますよ！」
男は胸を張っていたが、全く説得力はない。
「愛してる国でそんなことをするやつがいるか。お前が売ってた物をちゃんと分析してもらうからな。もしリュウノツメが入ってたら死んでもらうよ」
ヴィラは目を細めて言った。
「リュウノツメ」とは、龍の国にしかない危険植物である。
「まさか、入ってないですよ。勘弁してくださいよ」
男は机に両手をつけて頭をぺこぺこ下げている。
「今度こそまっとうに働きますから」
「聞き飽きたんだよ」
などというやりとりの後、男は留置場に戻された。
「全く……」
左腕にいたシマヘビはにょろにょろと床をはっていった。この建物の中には毒をもった蛇達がうろうろしている。夜中留置場から脱走しようとして、蛇にかまれて死ぬ犯罪者も
中にはいるのだった。
ヴィラがやれやれと思いながら違う部屋で書類を書いていると、ジュノーがあわてた様子でやってきた。
「ヴィラ、大変だ！」
「何が大変なんだ？」
「ミルキダスが……」
ジュノーはヴィラにミルキダスのことを話したのだった。
「ええ？ 本当か？」
ヴィラも驚いている。
「私も王妃の金蛇と交わりたい。お前も一緒に今夜予約しよう。な、今から王妃に会ってくる」
ジュノーはヴィラの返答も聞かずに移動してしまった。
あまりの話にヴィラはぼんやりしてしまい、つい書類にインクをぽとりとおとしていた。
「あ、しまった」
ヴィラはインクをそっと拭き取っている。
王妃の金蛇と交わる、我らにとっては夢のような話だったが……
「うーん……本当にできるのか、どうなんだろう？」
子蛇をもらった後にヴィラもそのことを想像してみたこともあったが、自分の肌の蛇が動かないと無理だと思っていた。
本当にこの蛇が動くのだろうか？ ミルキダスの蛇が動いたのは、やはり蛇が覚醒して表にでてきたせいか？ なら自分も？
ジュノーから、「予約を入れた」との思念が届いた。
この前出てきた私の蛇は、今晩も出てくるのだろうか？ そうなるとジュノーの蛇も出てくるかも？
未だジュノーの蛇は表に出てきてはいない。ヴィラはつい今夜のことを想像してしまい、半日ぼんやりして過ごしたのだった。
城にいたゆりは（念のためにハザーク様からたっぷり気をもらっておこうかなあ）などと思い、午後ハザークの塔に行っていた。
とりあえず侍女に竪琴を教えてもらうと、ミシェイラとレーヌは、すぐに部屋から出て行ってしまった。
へびっちが帰ってこないので侍女達は寂しそうだが、ミシェイラ達が遊びにきたり、子蛇がいたりするので、気は紛れているようである。
竪琴の練習が終わると侍女は部屋からでていった。
「ハザーク様、気をもらってもいいですか？」
「いいが、王妃は気を作れるんじゃないのか？」
「そうみたいですけど、ハザーク様からも欲しいんです。いっぱい」
「そうか。いいぞ」
ゆりは長椅子でハザークにひっついた。
「ディーンさんはここに来ました？」
「ああ、蛇の女の子たちが喜んでた。優しくしてくれたらしい」
「そうですか」
「ディーンは我が知らないこともいろいろ知っているから、なかなか面白いな。自分の蛇の先祖のことなど、我は考えたこともなかったから」
「そうですか。ハザーク様の先祖の蛇さんたちも、代々人になれたんですか？」
「そのようだ」
「みんな綺麗な蛇さんだったんでしょうね」
ゆりは横からハザークにひっついていたが、ハザークは途中からゆりの体をじーと見ていた。ハザークは人の肌に出ている蛇を見ることができるのだが、
ゆりの金蛇が、ゆっくりと移動しているのである。二匹はやがてゆりの両肩に顔を移動させていた。なんだかハザークを見ているような感じである。
「目が合った」
「え？」
「いや……」
ハザークはじーと金蛇達を見ていたが、金蛇達も、じーとハザークを見ているかのようだ。
「王妃の金蛇、動くようになったんだな」
「そうなんです。場所がいろいろかわっちゃって」
とゆり。
「前の時はあのままだったのにな。なんだか……まあいい、あっちに行こう」
「へ」
と言っている間に、ハザークはゆりと寝室に移動していた。
いきなりの展開だったのでゆりがぼんやりしていると、ハザークはゆりの服を脱がしていた。上半身が裸になって、ゆりはようやく金蛇がまた移動しているのに気づいた。
「あれ？ 一匹は？」
体の前面には一匹しか見えなかった。
「もう一匹は背中にいるぞ。両方縦になってる」
「どうしたんだろう？」
ゆりは背中を見ようと首をひねった。かろうじて、自分の肩に蛇の頭の方だけ見える。
「とにかくしよう。寝転んでくれ、王妃」
「はあ」
ゆりは下着は自分でぬいで、うつぶせになった。ハザークはゆりの上に乗っている。ハザークの手がゆりの背中をなでていた。
それがしばらく続いたので、ゆりは（珍しいなあ）と思っている。
ハザークはあまり前戯などはしない方なのである。
背中の一部をずっとなでられていると、ゆりは変な気分になっていた。
「ハザーク様、なんかツボでも押してます？」
「蛇のツボを押してる」
「蛇のツボ？」
ハザークが金蛇をなでていると、もう一匹の金蛇もなでてほしいとばかりに背中に移動してきた。一匹は気持ちがいいのか尻尾をくるっと回している。
「なんか変な感じなんですけど」
「王妃の蛇もなかなか感じやすいようだ。面白いな。ここをこうすると、もっと気持ちいいだろ？」
ハザークはゆりの背中の一部をぐいぐい押しだした。
「あん……ちょっ、ハザーク様」
二匹の金蛇はくねくね動いている。
「すごくよく動くな」
「ハザーク様、私の相手もしてくださいよう」
しまにはゆりは催促するように言っていた。
ハザークはゆりのお尻を持ち上げて挿入した。
「あん」
ハザークが何度か奥まで突いただけで、ゆりは腰砕けになっていた。
「随分早いな。我はまだだが」
「だって、ハザーク様が何かするから、体が変なんです」
「王妃の金蛇が面白いんだ。色が濃くなってきた」
「スキ、スキ！」
とゆりは叫んでいた。
「モットモット」
「どちらが？」
「どっちも！」
ゆりはわけがわからず叫んでいたが、やがて感じまくって昇天していた。金蛇達も両方体がねじれまくっている。
「本当に面白い」
「ハザーク様、私も、私も」
ゆりの左目が変わっていた。
「なあ王妃、他の男達とはしてるのか？」
ハザークが聞いた。
「え、あの儀式だけですよ。後は前と同じ」
「そうか。別にしてもいいが、王妃のこんな卑猥な姿を他の男が見るのは悔しい気もする」
「卑猥って……ひどい」
「肌の蛇までこんなに興奮する女はいないぞ？」
「私は全然見えてないんですが、ハザーク様が変なことをするからですよ」
「金蛇が……」
「ハザーク様はやくぅ」
ハザークは再びうつぶせのゆりを抱いていたが、金蛇達が催促するようにじっと見ているので、金蛇達もなでなでしていた。
「気持ちいい」
「あ……」
二匹の金蛇が、ハザークの右手と左手首をつたって移動してきた。
ハザークの手とゆりの肌で顔と胴体がつながっていたので、ハザークはそのまま手をゆりの背中に引っ付けている。
（スキ）
（スキ）
蛇達はそれだけ伝えるとｌさっさとゆりの背中に戻っていた。
ハザークがつながったまま動くのをやめたので、ゆりは両手をばたばた動かしている。
「どうかしたんですか？」
「今すごく面白かったんだ」
「ハザーク様キスしてー」
蛇の目のゆりが言うと、ハザークは体を離してゆりの背中に顔を近づけて、金蛇にちゅっとキスしていた。
「いや、そっちじゃなくて私」
ハザークはもう一匹の金蛇にもキスしている。
「私ー」
ハザークはどろんと大蛇になってゆりの背中に顔をあげていた。
「なんだか蛇に負けた気分なんだけど……」
ゆりはうつぶせのままぶつぶつ言っている。しばらくするとハザークは人に戻った。ハザークはほっぺを膨らませている蛇の目のゆりを見た。
「怒ってるのか？」
「だってー」
「一杯気をやるから怒るな」
「次は私に集中してくださいね」
ゆりはハザークにひっついて気をもらった。
黒目のゆりに戻った時には、ハザークから気をいっぱいもらった後だった。
「金蛇はどうなってるんだろう？」
体の前面に見えるのは、蛇の胴体の一部だけである。
「後ろにいるぞ。王妃の金蛇は本当にかわいいなあ」
「そうですかあ？」
「かわいいぞ。王に蛇の性感帯を教えてやろうかな」
「教えなくていいですよ」
「面白いじゃないか」
「教えちゃだめー」
ハザークはゆりの背中をなでなでしていた。
夕闇が迫るころヴィラが城の庭園にやってくると、リュートの音色が聞こえてきた。東屋を見ると、そこでリュートを弾いていたのは金髪の男、ディーンである。
向かい側にはハインリヒが座っていた。そしてハインリヒの隣にちょこんと座っているのは、ピンクのブタラである。
ヴィラが東屋に近づいた。ディーンのリュートは郷愁を誘う音色である。
曲が終わり、ヴィラは拍手をした。
「上手ですね」
「すごく久しぶりに弾いた気分だよ」
ディーンはハインリヒにリュートを返していた。
「しかしその子、おとなしく聞いてるね。てっきり夕飯かと思ったら、君の恋人っぽいよね」
ディーンは笑っている。
「この子は王妃と一緒でいい男が好きなんですよ」
ハインリヒがモモの頭をなでると、モモは気持ちよさそうな顔をしていた。
「今日もお子様達の相手をしてくれたんですか？」
ヴィラが聞いた。
「いや、今日は遊びにきたんだよ」
「王の侍女ですか？ タフですねえ」
「禁欲生活が長いからね。じゃあ俺はこれで」
ディーンは立ち上がった。
「夜はどこで寝ているんですか？」
ヴィラが聞いた。
「森の中。じゃあね」
ディーンは消えた。
「森の中か」
ハインリヒはハープをつま弾いている。
ヴィラはハインリヒにミルキダスのことを言うかどうか迷っていた。昨晩ミルキダスとハインリヒが一緒だったとは知らない。
「あ、もしかして、ハインリヒ殿が一番だったのかな？」
ミルキダスが最初にゆりの蛇とそうなったとはヴィラは思わなかったために、そう思ったのだった。
「何が？」
とハインリヒ。
「えーと、儀式の後、王妃と仲良くなりました？」
「なったよ。ああ、蛇同士の話？」
「そうです。やっぱりハインリヒ殿が一番だったんだ。懐かしがって金蛇と」
「いや、残念ながら私が一番じゃない」
「え？ ミルキダスが一番？」
「いや、私とミルキダスは昨晩一緒に王妃と仲良くなった」
「じゃあ一番最初は？」
「それは秘密、王妃に聞いてみたら？」
「だれだろう？ ミカエル殿？」
「いいや」
ハインリヒはリュートを弾きながら歌を歌いだした。恋の歌だったが、聞いている女がブタラだけってのはもったいない。
そのほかとなったら、シャナーン、イシュタール殿、フリット殿だけだが、うーん……
ポロロン〜♪ とリュートの演奏が終わった。
「ヴィラはいつ王妃と仲良くなるんだ？」
「一応今夜ジュノーと予約を」
「そう」
「ハインリヒ殿の黒蛇は怒ったりするんでしょうかねえ」
「さあ、王妃は平等精神だからね。ま、しょうがないだろう。それとも邪魔してほしい？」
「いえいえ」
「今夜かあ、邪魔しちゃおうかなあ」
ハインリヒは意地悪げに言っていたので、ヴィラは（言うんじゃなかった）と思っていた。
「でも全員回らないと二回目がないかもしれないから、そうなると全員さっさと回ってもらったほうがいいのかな。複雑だが」
「モモちゃーん！」
という女の子の声が聞こえてきた。ミシェイラの声である。
「呼んでるよ」
ハインリヒが言うと、モモは頬をハインリヒの腕にすりすりしてから、ダッシュでミシェイラの元に向かっていた。
「ま、がんばりなよ」
ハインリヒはリュートを持って消えた。
「緊張してきた」
ヴィラは本当に自分の蛇がそうなれるのかどうか、なれないかもしれない、などと考えていたら落ち着かなくなっていた。
ヴィラはゆりの顔を見ようかとも思ったのだが城には入らずに、庭園から離れたのだった。
つづく
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