第37話
朝、食堂にて、子供達が新聞を回し読みしながら笑っていた。
「ぷぷっ」
「ぷぷぷ」
「結局何が原因で校庭を穴だらけにしたの？」
アナスターシャが聞いた。新聞に出ていたのはハインリヒ達四人が夜暴れたことである。めったにないことなので新聞の一面に載ってしまった。たまたま他に話題もなかったのだろう。
「さあねえ。暴れたのはハインリヒだってさ」
とラギ。
「ミカエルは自分は暴れてないって言ってるんだけど、みんな暴れたのはミカエルじゃないかと思ってるんだって」
シスが笑いながら言った。
「遊ぶのなら僕も誘ってほしかったなあ」
ロイは交じりたかったようである。
「僕達もみたかったよね」
「まったくだよね」
シスもラギも、実際に校庭騒ぎを見ることができなかったのが残念だったようだ。
そこにゆりが食堂にやってきた。
「おはよー。あ、新聞、見せて見せて」
ゆりは席に座り、新聞を回してもらった。
「母様は四人が暴れた原因、知ってる？」
アナスターシャがゆりに聞いた。
「知らない。四人は部屋に来てくれないし、昨日会ったシャナーンもよくわからないって言ってたよ。新聞に載っちゃうんだからおかしいわよね」
「次は絶対僕もまぜてもらうからね」
とロイ。
「王様はいい年して子供みたいだって言ってたけど、まあたまにはいいんじゃない？ 男友達って楽しそうよね」
ゆりは新聞を読みながら言っている。
「これって友達同士のじゃれ合いなのかな？」
「四人仲良いんだね」
シスとラギが言った。
「軽いけが人も数人いたんだ。見物人に光りの玉が降り注いでみんな逃げ惑った。ぷぷっ」
ゆりは新聞を読みながら笑っていた。
その日の午後、ミカエルがゆりの部屋にやってきた。
「待ってたのよ。ミカエル」
ゆりは四人で暴れた話を聞きたかったのだった。
「みんな私を見ると笑うんですが、一番暴れたのはハインリヒなんですよ。私はフリットから逃げてただけなんですから」
ミカエルはちょっとばつが悪そうに部屋に入ってきた。
「どうしてフリットから逃げてたの？」
「私の蛇を出せとかいって攻撃されましたよ。あの夜のフリットはめちゃくちゃでしたよ」
「えー」
「ハインリヒもめちゃくちゃだし、イシュタールは蛇が覚醒してましたよ。結局私は変わらなかったなあ」
（フリット蛇さん、無理はしないほうがいいとか言ってたくせに……）
「イシュタールの蛇さんはどんな性格？」
「普通でしたよ。へびっちの心配をしてたかな」
「そうなんだ」
「王妃、気でもあげましょう。ミルキダスの蛇とひっついたって話、ききましたよ。ヴィラとジュノーは失敗したんですって？」
二人はソファに並んで座った。
「金蛇が寝ちゃってて、全く起きなかったの。それで失敗しちゃった」
「そんなことがあるんですか。ヴィラとジュノーの二人、朝校庭を見に来たんで、ついでに掃除を手伝ってもらったんですよ。今日も仕事がしづらくて、ほんと参りますよ。
街の皆さんまでこのことを知ってるんだから」
ミカエルは蛇の話は軽く流してまた校庭の話に戻っていた。ゆりとしては、「ん？」と首をかしげる事態である。てっきり、「私も蛇同士くっつきたい」という流れになるかと思っていた。
「私は何もしてないってのにだれも信じてくれないんですよ。そんなに暴れそうに見えるのかな。心外だな」
ゆりは無言でミカエルを眺めている。
「王妃もハインリヒより私の方が暴れそうに見えます？」
「うーん、そうは見えないけど……ねえミカエル、ミカエルは、蛇同士仲良くしたいって思わないの？」
ゆりは自分から聞いてみた。
「思いますよ」
「じゃあなんでぐいぐいこないの？」
「逆に王妃はどうなんですか？」
「え？ 私？」
「王妃は熱烈に私の蛇と愛し合いたいって思ってるんですか？」
「え、だって、三人とそうなったから、どうせならみんなの蛇とそうなりたいじゃない。一人だけ仲良くしてないとか嫌だし。なんかミカエル変だよ？」
「そうですか？ そういえば、ハインリヒ達に心底嫉妬するって気にはならないんですよねえ。最近心境の変化があるかもしれないです。
王妃が遠い所にいっちゃった気がして」
「え？」
「だって、王妃はとうとう神様まで恋人にしちゃったでしょ。それはそれですごいことだと思うんですが、寂しい気持ちもありますよ。もう我々だけの王妃じゃないんだと思ったり。
恋人達の中でも、王妃にとって私が特別ってわけでもないし、王妃の蛇はもう三人の蛇と仲良くなっちゃってるし、今から王妃に強引に迫る気にはなれないというか、
王妃だって、どうせならみんなと仲良くなりたい程度なんでしょう？ 自分だけ盛り上がるのもばからしいじゃないですか」
ミカエルは微笑んでいたが、ゆりは内心すごくショックを受けていた。
なんだか突き放された気分……確かに、どうせなら仲良くなりたいなんて言って悪かったかも
「もうお気に入りって言葉もどうでもよくなったの？」
「最近のお気に入りはハインリヒでしょ？ しょっちゅう一緒に寝てるじゃないですか」
「ぐ……あれは」
「私は王妃と二人きりの夜なんて、しばらくないなあ」
「確かにそうだけど……ミカエル、怒ってる？」
「怒ってないですよ。うるさくない恋人の方が王妃もいいでしょ？」
もしかして、ミカエルの愛が冷めてる？
確かに、ミカエルと二人きりの夜なんて遙か昔にあっただけだし、ついフリットも一緒じゃなきゃいや、とか言っちゃってるし、だけど、ミカエルにそんな風に言われるとなんだか寂しい……
「それとも昔みたいに夜這いでもされたいんですか？」
「そういうわけじゃないけど」
「王妃は私よりもヴィラの方を信頼しているし、それはもう死ぬまでどうしようもないことでしょ。私と王妃にはそこまでの絆もないし」
そこまで言われると、ゆりも切ない気分になってきた。
「ミカエルは、私にとっては特別な人だよ。ミカエルがこの国にいてくれたから、私はうきうきして過ごすことができたんだから。ミカエルがいなかったら、最初の頃なんて耐えられなかったよ。
私はミカエルの顔がすごくツボにはまってて好き過ぎるから、最初ヴィラじゃなくてミカエルが相手をしてくれてたら、きっとミカエルの子供を産んでたよ。王様よりミカエルがいいって
なってたよ。だからそんな寂しいこと言わないで」
「じゃあ、たまには王妃の方から熱烈に迫ってくださいよ」
「わかった。今晩来て。二人きりで仲良くする。そして、ミカエルの蛇を私のものにする！」
ゆりは宣言するように言った。
「おおーいいですねえ」
ミカエルは笑っている。
「儀式部屋の方にいるから来てね」
「楽しみだなあ」
ミカエルは去って行った。
「もしかして、ミカエルにうまいことのせられたのかも？」
ゆりはふと思ったが、ミカエルの蛇と仲良くなりたいと思っているのも事実なので、もしそうだとしてもこのまま強気で攻めることにした。
フリットの蛇さんはああいう性格だったけど、ミカエルの蛇さんはどうなんだろう。今晩、会えるのかな。会ったらミカエルの赤い月の謎もわかるかも？
ゆりは最初にミカエルに出会った頃のことを思い出していた。
『こちらが異界からの客人ですね。私はミカエルです。どうぞよろしく』
あの時の自分にとってはまるで映画スターが目の前に現れたかのような衝撃だった。最初に出会ったのがフリットやヴィラだったなら、それほどまでにうきうきわくわくしなかったに違いない。
いろいろあったけど、ミカエルに迫られるのはうれしくもあるし、やっぱり私にとってミカエルは特別な人だな。今もあの顔大好きだし、
神様と比べても、ミカエルの顔が一番好きって言えるくらいだし……
「そういうわけだから、今晩よろしくね。ミカエルの蛇だから、きっとあなたたちにとってもハンサムに見えてるんだと思うんだ」
ゆりは自分の体に話しかけている。
「そうだ、今からお昼寝しよう。金蛇ちゃん、今のうちに寝ようね」
ゆりは寝室の方に移動し、ベッドで寝転んで寝てしまった。
そしてぱちっと目を開けたゆりの視界には一面の青空が見えた。
「あれー？ ここは」
体を起こすと緑の丘やら色鮮やかな花、近くにはユニコーンまでいる。
どうやら神の国に来ているようだ。
ラーズやハロルドとの約束がまだだし、こうなったらキラキラで夜ミカエルに会おうかな
前回サラディンといたので今回も逃げるのははばかられたゆりは、すぐラーズの元に移動した。
「ラーズ〜」
目の前にラーズがいる、と思ったが、ラーズは翼を広げて飛んでいる。ラーズはこちらに気づいてぎょっとしていた。
「え？ えええー！！」
ゆりは自分も宙に浮かんでいるのに気づいた。
「ガーベラ！？」
「きゃああああ！」
女神の体は当然落下して、ラーズはあわてて降下して女神の体を抱き留めていた。
「ガーベラ、びっくりするじゃないか」
「びっくりしたのは私よ！」
ゆりは真っ赤である。スカートはめくりあがって恥ずかしいやら、怖いやらで大変である。ラーズは地上に降りて、ゆりを降ろした。
ゆりは草の上で腰がぬけたようにくたっとなっている。
「あーびっくりしたーまさか空に移動しちゃうなんて、心臓が飛び出るかと思ったわ。神様って心臓はある？」
「あるよ」
「あるの？」
「心臓のようなものはあるよ。それにしても、あんなことは初めてだよ。私もびっくりしたよ」
ラーズは女神のむちゃくちゃになった髪を整えている。
「そうなの？ 私が宙に移動してきた事ってないの？」
「ないなあ。逆に不思議だな」
「もし、地上に激突したらどうなるの？ 足が折れたりするの？」
「折れてもアシュランが治してくれるよ」
「でも痛いじゃない。あー怖かったー」
ゆりは胸に手をあてた。ドキドキしているのが自分でもわかる。やはり心臓のようなものはあるようだ。
「まさか宙に移動してくるなんて」
「私も、ラーズが空を飛んでても近くの地上に移動すると思ってたんだけどね」
「ガーベラ、今日は私とゆっくりできるんだろ？」
「それが、ハロルドとも約束があって、ラーズの後でもいいから絶対来いって言われちゃって」
ゆりは素直に白状している。
「えーもーしょうがないなあ。じゃあとっととしよう」
ラーズは女神の体を抱き上げた。
「さっきスカートがめくれちゃった。だれにも見られてないといいなあ」
今日のガーベラは下着をつけていなかった。また宙に浮いたゆりはラーズにしっかりしがみついている。
「落とさないから大丈夫だよ」
「だって怖いもん」
「君といるとこっちまでドキドキだよ。違う意味でも」
ラーズは笑っている。
「違う意味って」
ラーズはガーベラの神殿でゆりを降ろした。
「たっぷりしてからハロルドに渡してあげるよ♪」
神殿の奥の寝室で、三度も抱かれてゆりはラーズからようやく解放された。
「……これでハロルドに会ってもいいと思う？」
「私が君ならやめとくけどなあ」
「私もそう思う。でも約束だから行こうかな」
「そう。またおいで」
「うん」
ゆりはラーズにちゅっとキスして別れた。
「普通の人間ならハロルドを優先するけどな。まあ普通じゃないからガーベラになってるんだろうけど。くくっ」
ラーズはハロルドの顔を想像して笑っていたのだった。
ゆりはハロルドの元に移動した。（まさかペガサスに乗ってないわよね？）と不安もよぎったが、移動先は地上だったのでほっとした。
ハロルドはジェイクに修行をつけている最中だった。二人とも剣ををかわしている。
「あ、お母さん……」
二人は女神がやってきたのに気づいて剣を降ろした。
「はーいジェイク、がんばってるわね」
ゆりは笑顔で手を振っていたが、ガーベラの力はかなり高まっていたので、ジェイクの頬も赤くなっていた。
「お前、誰かとひっついてたろ」
ハロルドはゆりを見てすぐに気づいている。
「うん。ハロルドの神殿の近くに、体が洗える場所があったでしょ？ あそこで体洗わせて」
ハロルドはちょっと呆れた顔つきだったが、ジェイクとの稽古をやめて、ゆりと一緒にペガサスに乗った。ゆりはハロルドに抱きついている。
「ものすごいムンムンしてるぞ。まったく」
「ごめんね。来ない方がよかった？」
「まあいい」
ペガサスはハロルド神殿の近くで降りて、ゆりは神殿の側にある泉に行った。周りは木々で覆われている小さな泉である。
「布を持ってくる」
「どうもありがとう」
ゆりはさっそく裸になって泉に足を入れた。
「あー冷たくて気持ちいい」
泉の深さはガーベラの腰ほどであるが、もっと深い所もありそうだ。下からぶくぶく音がする。水がわきでているようだ。
「気持ちいいなあ」
体中に水をかけていると、ぷかっと水面に魚が浮いてきた。金色の魚である。それがあちこちぷかぷか浮いている。
「え？ 魚が死んだ？ なんで？」
ゆりは腹を上にして浮いている魚を一匹手に取った。
「魚さーん」
魚をつんつんつついてもびくともしない。そこにハロルドがやってきた。
「ハロルド、私が入ったら、魚が死んじゃった。 なんで？」
「え？」
ハロルドはゆりから魚を受け取って手に取った。
「いや、死んではいない。お前の神気で気持ちよくなってるだけだろ」
ハロルドは魚を泉に返した。
「そうなの？ びっくりしたわー。綺麗な魚ね」
「昔泉に入ってたら私の神気から出てきたんだ。その子孫だ」
「えー？ ハロルド魚を生んだことがあるの？ イメージ的に熊って感じなんだけど」
「大きい動物はないな」
「ガーベラの神気で蛇できないかしら？ 蛇を生んでみたい」
ハロルドは衣服を脱いでいた。
「私も入る」
「かわいいウサギとか、猫とか、私に合いそう。あれ？ 猫って神の国にいる？ 見たことないかも」
「どこかにいるぞ。カサンドラの神殿でも前に見たぞ」
「えー私は見たことないわよ」
ハロルドは女神の顔に水をかけていた。ゆりは突然だったのでびっくりしている。
「水をかけあって遊ぶ？」
「そうじゃない。ラーズに触られた所は全部洗ってやる」
水面を見ると、半分ほどの魚は正気に戻ったのかいなくなっていた。
「魚が元気になってる。よかった」
ハロルドは女神の体に水をかけて肌をなでまわした。
「これでよし」
ハロルドはゆりに口づけた。
ゆりはハロルドのたくましい体に抱きついている。
「ここでしよう」
「ここで？ 外はいやなんじゃないの？」
「お前は外でするの好きだろ」
「別に好きってわけじゃないけど、子供達ここには来ないの？」
「来ても別にいい」
「よくないわよー」
「これじゃ移動できないだろ？」
ハロルドの体はすでに興奮状態のようだ。体が半分水に浸かったまま、ハロルドは女神のお尻を抱き上げて、挿入していた。
「一杯遊んできたからすぐ入ったな」
「う……いじ……わる……」
ゆりはハロルドに両足を回してしがみついている。
ハロルドが腰を動かすたびに女神の体も揺れている。ゆりは外だったのでぎゅっと口を閉じていた。
「あ、またお魚が……」
魚がぷかぷか浮いてきている。
「気持ちいいか？」
「うん……お日様の下って、恥ずかしいけど、ちょっと興奮しちゃうかも」
「ちょっとじゃないだろ」
奥を何度も突かれて、女神の体はびくびくけいれんしていた。
「ハロルドの神気に包まれて、気持ちいいな」
強い神の気が二人の周りを取り巻いている。ハロルドは達したものの、そのまま挿入を続けていた。
「立ったままするの好きだろ」
「え……好き、かも」
「あっちの体も、なかなかよかったぞ」
ハロルドはゆりの耳元でぼそっと言った。
「え、え……」
「ちゃんと受け入れてた」
「その話は恥ずかしいからやめて」
ゆりは真っ赤である。
ハロルドはにやにやしている。
再び達したハロルドは体を離した。ゆりの体がくたっと下に下がり、ハロルドが抱き留めている。
ハロルドは女神の豊かな胸をなでながら、口づけてきた。
「ガーベラ、次はゆっくりと時間をかけてベッドでしよう」
「うん」
ゆりはうなずいていたが、（次って女神でってことよね？）とかなりどきどきしていた。
水面に一瞬ざざっとさざ波が起こった。続いて二人の間の水面がぐるっと回転しているかのように回っている。
「どうしたのかしら？」
水面に目を向けたゆりは、浮いている魚に交じって蛇の頭のようなものが水面に出ているのを見た。
「あ、蛇がいる」
「ん？」
金色に輝く蛇の頭が確かに水面から上に出ている。
「蛇だ。かわいい」
「なんか変な蛇だな」
ハロルドは蛇の胴体をつかんで上に引き上げた。すると、長い蛇の胴体の先には、小さな4つんばいの獣がぶらさがっていた。
「え……ええ！？ 何？ どうなってるの？」
しかもその獣の背中には小さな翼もついている。
「ええー！」
獣はばたばた手足を動かしていたので、ハロルドは草の上に獣を降ろした。獣はぶるるっと体をふるっている。
「えーえーこれ何なの？ ねえ」
「キメラだ。金色の毛並みなのに、背中に白い翼がついてる。もしやラーズの力も混じってるんじゃないだろうな」
「がうう」
獣は草の上に座ってこちらに顔を向けていた。まだ赤ちゃんである。顔は猫っぽいが、大きくなったら豹みたいになりそうだ。尻尾はゆらゆらゆれているが、その先にどうみても
蛇の顔がついている。
「変な獣、でもかわいい。もしかして蛇は私のリクエスト入ってるの？ やだあ！」
ゆりは見たこともない獣に興奮し、ばしっとハロルドの背中をたたいていた。
「大きくなったら飛べる？ もしかして乗れる？」
「さあ、乗れるかもな」
獣の赤ちゃんはたっとどこかに走っていってしまった。
「あーまって、キメラちゃん！」
「キメラは名前じゃない。いろんな動物が混じった動物のことだ」
「そうなの？ 森に入っちゃわないかしら。弓で射られたりしない？」
「神気を帯びた動物だから、大丈夫だろ」
「ハロルドはうれしくないの？」
ゆりは泉からあがって布で体をふいていた。
「いや、びっくりして。あまり半端な動物はアシュランが好きじゃないんだが……」
「えーかわいいから好きになるわよ」
「ま、大丈夫かな。なんか役立ちそうな動物だし」
ハロルドも体を拭いて服を着た。
その頃ハロルドの神殿の側にやってきたキュリアは、自分にむかって走ってくる変な獣に気づいた。
「なあに、この子。やだ、尻尾に蛇がついてるー」
キュリアは獣を抱き上げた。
「ぬれてる。体を拭いてあげるね」
「グウ」
キュリアが抱っこして神殿の中に連れて行くと、部屋の中にいたバリアスが獣に目をとめた。
「それ……」
「かわいいでしょ？ 神殿の前にいたのよー」
キュリアは布で獣の体を拭いてあげた。すると金色の毛並みがふわふわになった。
「かわいいー！ みてみて、尻尾は蛇なのよ。おもしろいよね！」
バリアスはじろじろ獣を眺めている。
「これ、みたことがある」
「どこで？」
「夢で……すごく大きかった。飛んでた」
「大きくなったら乗れるかなあ。楽しみね！」
ハロルドとゆりが神殿の中にやってきた。
「父様、みて、かわいいでしょ！」
「ああ、さっき泉でできたんだ」
「遠くに行かなくてよかった。毛が乾いたらかわいくなってるー」
ゆりはしゃがんで獣の頭をなでて、蛇の頭もなでていた。尻尾の蛇はゆらゆら揺れている。
「母様、髪がぬれてるわよ」
「なかなか乾かなくて」
「なんで翼だけ白いんだろうね」
とキュリア。全体的に金色なのに、翼だけ真っ白である。
「やっぱラーズの力が入ってるのか。あいつには内緒にしとこう」
ハロルドはぶつぶつ言っていた。
「ライの獣かと思ったらちがったんだ……」
バリアスはぼそっと言っていたが、だれの耳にも届いていなかった。
「名前をつけていいよね。何にしよう。へびっち、いぬっちときたら、なにっち？」
キュリアはあれこれ名前を考えているようだが、へんてこな名前になりそうだ。
「ハンターがいいよ」
バリアスが言った。
「ハンター？」
「うん。ハンター」
「じゃあハンターにしよう」
キュリアは獣をだっこしていた。
「あなたはハンターよ」
「ぐう」
「今のところおとなしいけど、将来獰猛になりそうな名前ね」
ゆりが言うと、「うん」とバリアスはうなずいていた。
四人でハンターを可愛がっている間にゆりはガーベラから抜けていた。へんてこな獣を見たガーベラは、（え？ 変な動物がいる。この子何？）とドキドキしながら獣をじろじろ眺め、
ハロルドはそんなガーベラを見てぷっと吹き出していたのだった。
ゆりが人間界に戻ると、時刻はすっかり夜だった。夕飯の時間はとっくに過ぎていたので、ゆりは夕食を部屋に運んでもらって一人で食べた。
ミシェイラとレーヌがやってきた。
「おねぼうさんね」
「ごめんなさーい」
ゆりはミシェイラに謝っている。
「あ、おはなー！」
ゆりの足下にはピンクの花が現れていた。
「わーおはなだ。おはなだ！」
二人はピンクの花を拾いまくっている。
「二人とも、他のみんなには内緒よ。今夜、儀式の部屋使いたいんだけど」
ゆりが侍女に言うと、「いつでもばっちりです♪」と侍女は指で○を作っていた。
「今夜はどなたとですか？」
「ミカエルと」
「ミカエル様とですか？ 珍しいですね。てっきりミカエルは昼間専用なのかと思ってました」
「王様にもそう伝えといてくれる？」
「わかりました」
今はキラキラになっているので、どうにも自分では言いにくい。
今の私の目的は、ミカエルの蛇だ。気分が盛り上がってる間にミカエルの蛇をものにする！
ゆりは珍しくミカエルにたいしてやる気になっていた。
「二人とも、一緒にお風呂に入ろうか」
「うん！」
ゆりは二人と一緒にお風呂に入った。お風呂の中にもぷかぷか花が浮かんでくるので二人は喜んでる。
「マーすごいね！」
「すごい！」
「ありがとう」
「違うお花はでないの？」
ミシェイラが聞いた。
「これだけみたいよ」
「いいにおーい」
「うん！」
「確かに、いい匂いね」
ゆりはお風呂から出て、すぐに儀式部屋に行った。すると、部屋の中は綺麗な花が生けられていた。スケスケの下着やキャミソールなどがベッドの上においてある。
「あわてて用意してくれたのかな。まあいいか。せっかくだし着ようかなあ」
下着もキャミソールも紫色である。
「ミカエルに合わせたのかな？」
ゆりは紫の下着に着替えて布団に入った。
いろいろ考えているとミカエルがやってきた。
「あれ？ キラキラになってないですか？」
ミカエルはすぐに気づいている。
「なってるよ」
「神の国に行ってきたんですか？」
「うん」
ゆりが体を起こした。ミカエルは紫色の下着を見て、「おー」と声をあげていた。
「王妃ってば、私が引くとぐいぐいくるんだから。王に、『ゆりと二人の夜なんて久しぶりだな』なんて言われましたよ。ずーと前、王妃が私にいっぱいお酒を飲ませた夜のこと、覚えてますか？」
「覚えてるよ。私は途中から記憶がないけど」
「私にとっては、あれは忘れられない夜なんですよ」
ミカエルはベッドにあがってきた。
「どう忘れられないか聞きたいですか？」
ミカエルはゆりに顔を寄せて聞いた。
「うーん……おばあちゃんになってから聞きたい」
「どうしてです？」
「だって、刺激が強そうな話なんでしょ？」
「そうですね」
部屋の中にはランプの明かりがついていたので、ミカエルの顔が見えた。薄い明かりに照らされたミカエルの顔は、やはりぞくぞくするほどいい男に見える。
「今夜はキラキラ王妃を独り占めできてうれしいなあ」
ミカエルはゆりにちゅっと口づけた。
「脱がすのがもったいないなあ。でもしょうがない」
ミカエルはゆりの体から下着を剥ぎ取って裸にした。
「金蛇もすでに輝いてますよ。かわいいなあ」
ミカエルはゆりの肌をなで回した。
「ミカエルも脱いで」
ミカエルも自分の服を脱いだ。
「紫の蛇ちゃーん」
ゆりはミカエルの背中に抱きついている。
「私の蛇といいことしようよう」
ミカエルはぷっと笑っている。
「私の方がいいことしたい」
「蛇ちゃん」
ゆりは紫の蛇にちゅっとキスしている。
「くすぐったいですよ」
「だって」
「こっちに来てください。私が変化したら、もう一匹でますよ」
「もう一匹でたら、二匹同時にできちゃうね」
「そうそう。って本当に王妃なんですか？ ガーベラ様じゃないでしょうね」
ゆりがあまりに乗り気なので、ミカエルは怪しんでいた。
「私よ。じゃあいっぱい興奮して、ミカエル」
ゆりは超その気でどーんとミカエルを押し倒していた。
「王妃の蛇、来てくれないですね……」
二人で散々愛撫しあったのだが、蛇が移動するまではいかないようだ。ミカエルも変化状態になってはいるのだが。
「やだあ。仲良くしたい」
ゆりはミカエルの肌に自分の肌をぴったり引っ付けているのだが。
フリットの時はフリットの蛇さんが出てたから？ やっぱりミカエルの蛇さんが出てこないと金蛇には刺激にならないのかなあ？
「王妃の蛇と交わったら、子供ができたりするんですかね？」
ミカエルはゆりに抱きつかれたまま聞いていた。
「わからない。子供は無理でも、蛇同士は仲良くしたいの」
「なら、子供が欲しいって言ってください」
「子供が欲しい」
「じゃあ、はらませてあげるからおいで」
ミカエルの声の質が一気に変わっていた。
と同時に、ゆりは背中にぞぞっと寒気を感じた。
「ミカエル？」
ミカエルの様子がどうも変わっているようだ。いつもよりも冷ややかで、ちょっと怖い感じがする。ミカエルの肌にはじょじょに紫色の鱗が浮かんでいた。
ミカエルはゆりに軽く口づけた。
「ほら、おいでよ」
「ミカエルの蛇さん、ようやく会えたね」
ミカエルは肌を引っ付けたまま、ゆりをじいっと見ていた。
「ミカエル……」
「来ないなあ。本当にしたいって思ってる？」
「思ってるよ」
「じゃあ早く来てほしいんだが」
「……ごめん」
ミカエルはため息をついて体を離していた。
「あのね、元来肌の蛇ってのは、赤い月にしか出てこないものなんだよ。君は何を期待してるか知らないが、私の目的は、子供を作ることだけしかない。だから、
子供を産ませられない君に興味はないんだ。君の蛇が、私の子供を産んでくれるというなら話は別だけど」
ゆりの目には涙がにじんでいた。
「子供が産めないなら、金蛇に興味もないの？」
「本体の私は君に優しくしてるだろう？ 勝手に呼び出されて傷つかれても困るんだが」
「それはそうだけど……赤い月には、あなたが恋人の相手をしてるの？」
「半々だよ。だれだってそうだろう」
「前に、女蛇が彼女に来なかった？ 女蛇は、あなたが嫌だったみたい」
「邪魔だよって言ったんだよ。だって邪魔だろ？」
ミカエルは冷たげに言っていた。
「あなたにとっても、私はいい男じゃない。だから出てくる気もなかった。もう出てこないから」
「好きよ。あなたのことも、好き。あなたが私のこと好きじゃなくても、いいよ」
「…………」
ミカエルはちょいちょいとゆりを手で呼んでいた。
「じゃあ、集中して、私の子供が欲しいって思って」
「うん」
ゆりはミカエルにひっついた。ミカエルもゆりを抱きしめている。
ぎゅっと目を閉じてミカエルにひっついていると、やがて、ゆりの肌にいた金蛇はそろってミカエルの肌に移動した。
「きた……ありがとう」
「ミカエル……」
ミカエルはしばらく、ゆりを抱きしめたままじっとしていた。ゆりはミカエルにひっついたままだったので、蛇達がどうなっているのか、見ることはできなかった。
その間ミカエル本体の体が興奮状態になることもなく、フリットの時とかなり違っているとゆりは感じていた。
一時間ほど経ってから、ミカエルはゆりの体を離した。
金蛇は自分の肌に戻ってきている。お腹に二匹ひっついていた。
「終わったよ」
「ねえミカエル、儀式があっても、出てきてくれないの？」
「わざわざ場を乱すために出ることはない。そうだろ？ じゃあね」
ミカエルの肌から鱗の模様が消えて行った。ミカエルは寂しげな顔をしたゆりを見て、目を細めている。
「どうかしたんですか？」
「ミカエルの蛇さんに会ったんだけど、彼は子供を作ることが目的だから、私には興味ないって言われちゃった」
「え……」
「金蛇とのことは成功したんだけど、なんだか切なくて」
「すいませんねえ王妃。でもそこまで言って、よく金蛇とできましたね」
「私が、ミカエルの蛇としたかったんだもん」
ゆりがぽろぽろと涙をながしだした。
「王妃、泣かないでくださいよ。私の蛇は私のおまけみたいなものなんですから」
ミカエルは戸惑ったようにゆりの頬をなでていた。
「違うの。冷たくされたのが悲しかったんじゃなくて、もう会わないって言われたから……二度と会わないって言われたのが悲しいの」
「王妃……冷たくされても会いたいんですか？」
「うん。ミカエルも、ミカエルの蛇さんも両方好きだから」
ゆりはミカエルに抱きついた。ミカエルはゆりの背中をなでた。
「なんだか混乱してるんですが、蛇はおまけなんですから、あまりのめり込んじゃだめですよ」
「うん……ねえミカエル、抱きしめて寝てくれる？」
「もちろんいいですよ」
ゆりはミカエルにひっついて寝転んだ。
ゆりの左目が変わっていたので、ミカエルは、「王妃も同じ考えなんですか？ 私の蛇に冷たくされても会いたいって、あっちの王妃は言ってましたが」と聞いてみた。
「うーん、蛇はおまけだからねえ。赤い月に肌の蛇の意識が出ることがあるっていうなら、肌の蛇の目的は子作りだろうから、ミカエルの蛇さんが一番普通なのかもしれないわよ」
「はあ」
「他のみんなの蛇さんの方がかわってるのかも。ねーえ、昔、お酒を飲んで意識がなかった夜の話、ミカエルは、その時この体を抱いたの？」
蛇の目のゆりは、この際とばかりに聞いてみた。
「さあ、どうでしょうかね」
「怒らないから教えてよ」
「秘密ですよ」
「抱いちゃったから、あれからあっさり引き下がったんでしょ」
「さーどうですかね」
ミカエルははぐらかしたままだった。
夢の中、二人のゆりと人化した金蛇達は再び出会っていた。黒目ゆりは、またいじけて寝転んで背中を向けている。
「ねえ、ミカエル蛇どうだった？ あっちに行ったってことは、気に入ったんでしょ？ 結構長いことひっついてたじゃない？」
蛇の目のゆりが、金蛇に聞いた。
「ミカミカは……優しかったよ。恋人には、優しいんじゃない？」
「意外に優しかった」
金蛇の言葉に、黒目ゆりは、もっとぐたっとしていた。
「ああいうタイプって実は初めてだから、その気になっちゃった」
「ミカミカ、冷たそうだけど、実は優しいってのもぐっとくるかも」
「ミカミカ……」
「私も優しくされたかったなー」
黒目ゆりはぶつぶつ言っていた。
「ミカエル本体が優しいからいいじゃない」
蛇の目のゆりは言っている。
「子供がお腹にいないときに抱いてっていったら、出てきて優しくしてくれるんじゃない？」
「そーだよね。子供つくろっていえば」
金蛇達は適当なことを言っている。
「言えないでしょ」
と蛇の目のゆり。
「あ、そーだ、今度ヴィラとジュノーの時に、ちゃんと起きててよ。動いてあげてよ」
「あっかんべー」
「べーだ」
金蛇達は憎たらしくも言って、どろんと蛇に変わっていた。
「まったく……今日は一日でいろいろあったなあ」
「ミカミカ……私のキラキラ攻撃も効かなかった」
「確かにね。ま、しょうがないでしょ」
蛇の目のゆりは、黒目ゆりの背中をみながらやれやれとため息をついたのだった。
朝のフリットとハンター君。
つづく
11部
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