第39話
ある日の昼下がり、ゆりの部屋ではミシェイラとレーヌが絵を描いて遊んでいた。子供達は蛇の絵などを描いて、飽きると外に出て行ってしまった。ミシェイラは字も書くようになった。
ハザークの部屋にはミシェイラの字がいくつも飾ってある。十年前とは比べものにならないほどハザークの部屋の中の様子は様変わりしている。
ラクシュミは、「三十年前のハザークが見たらどういう顔をするだろうなあ。我の部屋？ ありえないって言うんじゃないか？」と笑っていた。
ゆりは紙が余っていたので、クレヨンで落書きをしていた。描いていたのは神の国で生れた獣、ハンター君である。
ゆりは絵心があまりないので、猫のような生き物になっている。
「ニャーって鳴かなかったから、やっぱり猫じゃないんだろうなあ。将来どうなるか楽しみだなあ」
面白い神獣なのに、子供達に見せられないのが残念である。
「背中に翼、尻尾は蛇ちゃんと。両方から食べ物を食べられるのかなあ」
ぼんやり絵を描いていたら、「それはなんですか？」と声をかけられた。ゆりはわっと驚いている。後ろにいたのはフリットだった。
「びっくりしたー」
「ドアが開いていたので、ノックはしたんですが」
「ぼんやりしていたから。これはね、神の国で生まれた獣なのよ。猫系の動物っぽいんだけど、背中に翼がついていて、尻尾が蛇なの！ 蛇は私の思いが通じてついたのかも」
「すごい動物ですねえ」
フリットは絵を眺めて言っていた。
「本物はもっとかわいいわよ」
「横に座ってもいいですか？」
「いいよ」
フリットはゆりの横の椅子に座った。
「ミカエルの蛇さんもとうとう出てきたようですね。ミカエルは気がちょっと強くなって喜んでますが、意外に冷たいやつだったらしいから王妃に申し訳ないな、とか言ってましたよ」
「ミカエルの蛇さんは意外だったけど、いい方に考えてみると、ミカエルの蛇さんは裏表がなくて、いい蛇さんかも。私の金蛇達は、ミカエル蛇さんツボにはまったみたいだよ」
ミカエルとの夜から、もう5日経っていた。あれがショックすぎて、というわけではないが、男達との夜はあれからない。
（彼は私を傷つけないために、もう会わないって言ったんだよね。だから彼はいい蛇さんなんだろうなあ）
さすがに続けざまに「あなたには興味がない」と言われるとへこむので、みんなと仲良くしたいとは思っているが、休憩を挟んでいるのだった。
「フリットの蛇さんのことは面白いって言ってたよ」
「記憶がないってのがちょっと困るんですが……私の蛇が王妃に失礼なことでも言ったんでしょう？」
「フリットは、校庭で暴れた記憶はあるの？」
「あれはあるんです。あの時は自分でも制御できなくて……後で周りから一体どうしたの？ って不思議がられましたよ。自分でもどうしたんだ？ って感じです。悪酔いでもした気分ですよ。
王妃との夜の記憶はないんです」
「フリットの蛇さんはどうしても金蛇と仲良くなりたかったみたいよ。普段のフリットとのギャップがすごくて驚いたけど、もしかしたら、赤い月のフリットは半分あんな感じなのかなあと。
私に見せる顔と、彼女に見せる顔ってやっぱり違うのかなって思ったりもしたんだ。フリットは、私が思う理想のフリットをずっと演じていてくれたのかなって」
「はあ、そんなことはないと思うんですが……でもまあ、たまに、王妃に気をあげてる時なんかはいけないことを考えたりしますよ」
「ほんと？」
「はい。それはそれとして、私には王妃の金蛇と交わった記憶がないんですが、覚えていたいんですよ。だから、また交わりたいんですが」
フリットはゆりの手をなでなでしていた。ゆりはどきっとしている。
「その、まだ全員とそうなってないから、なってからね」
「なら早くなってください」
「フリットが一番最初で、うれしい？」
「うれしいですよ」
フリットは顔を近づけてゆりに口づけた。ゆりの手もぎゅっと握っている。ゆりは（蛇さんが出てきたらどうしよう）とドキドキしながら軽くキスしあっていたが、顔を放すとテーブルの向こうにロイがいて、
ゆりはわっと驚いていた。
「ロイ、いつからいたの？」
「チューしてたから、声かけたら悪いかなって思って」
ロイはにこにこしながら言っている。
「そういうときはそっと去ってくださいよ」
フリットが言っていた。
「いいじゃん。フリットとかー様のチューはレアだよ」
「それで何しに来たの？」
「別に、ドアが開いてたから入ってきただけー、じゃあ続けていいよー」
ロイは去って行った。
「もー」
「王妃、その気になってしまいました。向こうでちょっと仲良くしませんか？」
フリットが切なげな表情で見つめていた。
「え。う、うん、いいよ」
ゆりは真っ赤になっている。
「王妃は何年経っても変わらないですね。かわいいな」
フリットはゆりを連れて別室に移動した。
「あのーやっぱり、今までって、我慢してた？ フリットとは儀式以外はあんまりひっついたりしないから」
「……実は、そうでもないんですよ。もう一人の王妃とはひっついたりしてたんです」
フリットはこの際とばかりに言っていた。
「え？ そうなんだ？」
「私とジュノーとミルキダスは、そうですよ」
「え？ そーなの！？」
ゆりは初めて知ってのけぞるほど驚いている。
「あ、だからみんなの愛は継続されてるんだ？」
ゆりは初めてそこに気づいていた。
「なるほど、そうだったんだ……フリットももう一人の私の前では、性欲をさらけだしてたんだ？」
「そこまでは……でも、あちらは王妃のように激しい愛撫はしない人なので、我々も王妃とふれあえる儀式は楽しみにしてましたよ」
「へーそうかあ。私達は二人いなかったら、全員の愛は継続しなかったかもしれないんだ。あ、だから二人でガーベラになれるんだ。深い！」
ゆりはようやく納得していたのだった。
さてその頃、ハザークの部屋にはアナスターシャとナナミがやってきている。お勉強の間の休憩時間だった。
「よーく記憶をたどってください。あなたは昔、目の前にいる若くてかわいい女の子に出会ったことがありますか？」
アナスターシャはハザークの横に座り、そう聞いていた。
「さあ、わからん」
ハザークは考えることもなく答えている。
「じっくり考えて思い出してくださいよ」
「何度もじっくり考えたが、わからんものはわからん。大体お前のような顔の女はごまんといたしなあ」
とハザーク。
「そんなにいないでしょ。私ほどかわいい子は一人しかいないはずですよ」
とアナスターシャ。
「過去に出会ったのがナナミの方なら覚えていたかもな。王族で黒髪はちょっと記憶にないからな」
少し離れた所にいたナナミはにやりとしている。
「もー」
アナスターシャは口をとがらせていた。
アナスターシャは過去に行く予定であるが、その時ハザークにも出会ったはずである。今のハザークにその記憶はあるか、何度も聞いていたのだが、ハザークはさっぱり思い出さなかった。
大体王族の女は、銀髪、金色の瞳、顔が整っている、ときたら、似たような顔の女も多かった。今のハザークには、過去に出会った王族の女の顔の識別すらできない。
女王ヴィラルージュの顔でさえ、ゆりが過去に行ってしまった時には鮮明に思い出すことはできなかった。
「やっぱり催眠術しかないんじゃない？」
ナナミの手には、「あなたもこれで催眠術師」とかいう怪しげな本があった。
「パパ、私催眠術の勉強したんだ」
ハザークには嫌な予感しかしなかった。
「大体思い出させてどうしようというんだ？」
「いろいろ聞きたいの。私はちゃんと過去でやってたかどうか、とか。みんなにさ、絶対私がハザーク様に未来のことばらしちゃうって言われるんだよ。
蛇の目の母様には、ハザーク様と出会ったときの練習しろって言われちゃった。私が口を滑らせて未来のことをばらしたかどうかも知りたい。過去で、大ショックを受けた記憶はないですか？」
「さー」
「催眠術をかけてみようよ。せっかく読んだんだからあ」
ナナミはどうしてもやってみたいようだ。
「催眠術に得意な者がいるだろ？」
「ハザーク様にかけるなんて恐れ多くて無理だって。カーライル様は過去だし、いつ帰ってくるかわからないし。だから私がやってみたい」
ハザークは正直嫌だったが、ずっと「ミシェイラばかりひいきしてずるい」と言われているので、ナナミに冷たくもできなかった。
「まあいい、催眠術でもなんでもやってみろ」
ハザークが言った。ナナミはうれしそうにハザークの近くに椅子を持ってきて座った。
「私の指をじーと見てください。あなたはねむくなーるねむくなーる」
ナナミはゆっくりと指を回していたが、ハザークはさっぱり眠らなかった。
「おかしいなあ。じゃあろうそくの火でやってみよう」
ナナミはろうそくを持ってきてハザークの目の前でゆらゆら揺らしたりもしていた。
それも成功せず、しまいには木の棒やら穴があいた石やらもってきてみたが、どれも成功しなかった。
「あはは、やっぱり無理だと思った」
アナスターシャは笑っている。
「アーねえのためでしょ！」
「こうなったら、練習しよう。ハザーク様、過去で私と会ったと仮定して、練習相手になってください」
アナスターシャは扉近くに立って近づいてきた。
「始めましてハザーク様、私、アナスターシャと申します。よろしくお願いします」
アナスターシャは近づいてきて頭を下げている。
「ああ」
とハザークは言っただけなので、ナナミが、「パパ、未来のことバンバン質問しなきゃ」と言っていた。
「あ、そうか。えーと、お前は未来からきたそうだが、いつから来たんだ？」
「秘密です」
「未来には我はいるのか？」
「それも秘密です」
「いるんだろ？」
「いませんよ」
「じゃあなぜ秘密って言ったんだ？」
「本当のことを言うとハザーク様が驚くと思ったから」
「じゃあ我はいつ死ぬんだ？」
「そんなこと知りません」
「本当は生きてるんだろ？」
「生きてるのと死んでるの、どっちがいいんですか？」
しまいにはアナスターシャはそう聞いていたので、ナナミは頭に手をあてていたのだった。
フリットと仲良くなったゆりは、「よし、この勢いでシャナーンの蛇と仲良くなろう」という気になっていた。
「シャナーンとイシュタールが一緒でいいかな。まさか二人ともミカエル蛇みたいに冷たいってことはないよね」
二人の蛇と面と向かって会っていないので、ゆりはドキドキしている。
ゆりは夕食の時間、シスにシャナーンとイシュタールに思念を送ってもらい、今夜の予定を聞いてもらった。
「二人ともあいてるって」
シスが答えた。
「じゃあ10時くらいに儀式部屋に来てって伝えてくれる？」
「わかったあ」
シスはさっそく思念を回していた。
（こんなことを子供に頼むなんて、でも手紙を出すのもめんどくさいし、まあいいか）
ゆりが恋人たちと夜すごしても、子供達にとっては変なことではないらしい。むしろ赤ちゃんのためにはいいとさえ思っていた。むしろ、こっそり男達と過ごす方が怪しい気もする。
あけっぴろげにした方がいいかも、などと思っていた。
ロイは「フリットも誘ってあげなよー」などと言っている。
「フリットはこの前夜一緒に過ごしたからいいの」
とゆり。
「あ、そうだっけ。フリットと二人きりは珍しいって侍女が言ってたなあ」
「は？」
「僕も聞いた。ミカエルと二人っきりの夜も珍しいよね。今日はなんで二人なの？」
ラギまで聞いてきた。
「別にいいでしょ。一体だれよ。あなたたちにそんなことを言ってるのは」
「言ってるんじゃなくて耳に入っただけだよ。僕達だって気になるよ。一番トーはだれか」
「うん、気になる」
シスもうなずいている。
「シャナーンとイシュタールのこと、フリットに言っていい？」
ロイが聞いた。
「わざわざ言わなくていいわよ」
「口止め料にプリン三個ちょうだい」
「…………」
「ねえ、シャナーンとハインリヒは、後から母様の恋人になったじゃない？ シスにとって二人はトーじゃないの？」
アナスターシャがシスに聞いた。
「えーまあ厳密に言うとそうだけど、別にみんなトーでいいんじゃない？ 姉様はどう思ってるの？」
「私？ うーん……私は、みんなをトーと思ったことはないな」
アナスターシャがこんなことを言ったのでゆりは、
「アナスターシャは赤ちゃんの頃、ヴィラのことパパって思ってたわよ」
とつい言っていた。
「え？ ヴィラがパパ？ うそお！ ありえない！」
アナスターシャは心底驚いているようだ。
「王様よりヴィラになついてた時期があったわよ」
「へー」
「アーねえヴィラが好きだったんだ。今じゃ憎らしいっていってるのにねえ」
ナナミは笑っていた。
「ハインリヒとヴィラは憎らしい。そうだ。パパって呼んだら優しくなるかも？」
アナスターシャは悪知恵を働かせているようだ。
「それで一番トーはだれなの？」
ロイが聞いた。
「今はハインリヒじゃない？ 赤ちゃんハインリヒに一番なついてるから」
ラギが言っている。
「え？ そうかな？」
ミカエルにも言われたので、ゆりはぎくっとしている。
「ただ近くにいるから移動してただけよ。ミカエルが城の中で寝てたら、ミカエルの所に行くかもよ」
「ちまたの噂でもそうなってるよ」
ラギに言われてゆりはガーンとショックを受けた。
そんな噂になってるの？！ ミカエル、ごめんね
ゆりはついミカエルに謝っていた。
その後、城の中で偶然ヴィラに出会ったアナスターシャは、「パパ、おやすみー」などと言っていたので、ヴィラは眉をひそめていた。
「どうしたんですか？ 何か悪いことでもしたんですか？」
「ううん。私が赤ちゃんのころ、ヴィラをパパって思ってたって話を聞いたから、その時ヴィラ、うれしかった？」
「はあ、また懐かしい話ですね」
「私のこと実の娘だと思って、もっと優しくしてよ」
「いやです」
ヴィラは即答していたので、アナスターシャはべーと舌を出して去って行ったのだった。
夜も更けてきた。
ゆりはお風呂で体の隅々まで洗い、髪を乾かしている。ゆりはフリットとの会話を思い出し、
（たまには、あなたが最初に出る？）
ともう一人の自分に聞いてみた。
―え？
と反応があった。
―別に私に気を遣わなくてもいいよ
（まあいいじゃない。途中で変わってよ）
―そう、じゃあお言葉に甘えて
蛇の目のゆりは支度をして儀式部屋に飛んだ。すると、時間よりも早いのだが、シャナーンはもう来ていた。
「早いのね」
「王妃に早く会いたくて来てしまいました」
ゆりはシャナーンと手を握りつつ、棚の上とベッドの上を見た。いろいろグッズが増えている。棚の上にはいろんな小瓶が置いてあった。
「なんだろう」
「侍女がさっきおいていきましたよ。オイルって言ってました」
「オイル？」
小瓶の蓋を開けて匂いをかいでみると、ハーブのような匂いがした。ベッドの上には青系の下着と、赤系の下着がおいてある。男達に合わせて置いたようだ。
シャナーンはちょっと頬が赤くなっていた。
「侍女に何か言われたの？」
「え？ はあ、こういう下着好きですか？ って聞かれて、ついはいと言ってしまいましたよ」
ゆりはぷぷっと笑っていた。
「夜王妃と過ごせるなんてうれしくて」
「そうだね。今日は、蛇ちゃん同士仲良くなれるといいねえ」
「え、はあ……その……私はまだヴィラ様から軽く聞いただけなんですが……本当に蛇同士が……」
「うん。フリット、ハインリヒ、ミルキダス、ミカエルの蛇とは仲良くなったの」
「そうなんですか……どきどきしますね」
シャナーンはなんだかそわそわしてきた。
「そうね。うまくいくといいなあ」
イシュタールがやってきた。
「あれ？ 遅れました？」
「ううん。早いくらいよ」
ベッドに近づいたイシュタールは、赤い下着を見て「おおっ」と反応していた。
「どっちから着ようかなあ。シャナーンに先にあったから青い方にしようっと」
ゆりはいそいそと着替えだしたので、二人の男は恥ずかしげに顔を横に向けていたのだった。
「王妃、涼しくなってきたので風邪を引かないでくださいね」
「うん。肌であっためて」
シャナーンとイシュタールはパンツだけになり、ゆりに肌を寄せていた。
「蛇の位置が変わりましたね」
イシュタールはゆりのお腹にいる金蛇を見ている。
「うん。しょっちゅう変わってるの」
「かわいいなあ」
シャナーンはゆりのお腹をなでている。
「イシュタールの肌あったかい。冬はいいね」
「ははは、冬になったらいっぱい抱っこしてあげますね」
「うん」
男二人に挟まれて、蛇の目のゆりは肌をなでられたり軽くキスされたりしていた。
（ああ、二人の蛇さんに会いたい）
ゆりは二人の蛇にそれとなく触りながらうずうずしている。
「ねえ、二人の蛇さんに会いたい。どーしても会いたい」
ゆりは我慢できなくなり、直接言っていた。
「王妃に失礼なことを言ったら困るんですが……」
とシャナーン。
「私も、いまいち自分の蛇がよくわからないので……」
イシュタールも躊躇しているようだ。
「それでも会いたいの。何があっても怒らないから。ね」
「はあ」
「そうだ、変化したら出てきやすいかも？ 変化しちゃって〜」
ゆりは気楽に言っていた。
ゆりの力が発動し、男達の瞳が変わりだした。二人の肌には薄く鱗の模様が現れていたので、ゆりはぞくぞくしている。
シャナーンはゆりの頬にちゅっとキスしていた。
「ああ、思い出すなあ。あの夜を。あなたの中に入った時のこと、イシュさんはどちらの王妃と抱き合ったんですか？」
シャナーンが聞くと、ゆりの足の方を見ていたイシュタールは、シャナーンに顔を向けた。
「私はこちらの王妃だよ」
「じゃあ同じですね」
「二人とも、あのガーベラ儀式のこと、鮮明に覚えてるの？」
「おぼろげになら覚えてるよ。あなたはすごく気持ちよさそうにしてくれたから、うれしかったなあ」
シャナーンは愉悦の表情を浮かべている。
「本体の方は覚えていないが、赤い月にはちょっと思い出して興奮してたよ」
シャナーンはゆりの耳元でささやくように言った。
（シャナーンは、いつもよりなんか色っぽい感じ？）
「見てゆりちゃん、この手、いつもゆりちゃんに会う前には爪の手入れをしてるんだよ。あなたの肌を傷つけないように。けなげだろう？」
シャナーン蛇はゆりに自分の手を見せている。そう言われれば、シャナーンののびた爪は見たことがない。
「えーそうだったんだー」
「本当にあなたが好きでしょうがないんだよ。だから、もっと呼んであげて？」
「うん……あれ？ イシュタールは何をしてるの？」
イシュタールが横にいない、と思ったら、ゆりの足下でじーとゆりの足を見ている。
「どうしたの？」
「一つ聞きますが、どうして我々を呼んだんですか？」
イシュタールがゆりを見て聞いた。
「だって、みんなの蛇さんに会いたかったから、蛇同士だって仲良くしたいし」
「あのね、我々は本体の一部であるし、本体が隠しているもう一人の自分でもあるんだよ。本体よりも理性は薄い。だから、あまり呼びかけたりしない方がいいんだよ？」
「わかってるけど、でも、会いたかったんだもん。恋人同士なのに、私は赤い月はみんなと過ごせない。あなたたちは、恋人だけしか見ることができない赤い月の秘密の部分でしょ？
私だって、みんなの秘密の部分が知りたい」
「じゃあ、我々の相手をしたいって言うんですか？ 後で泣いても知りませんよ？ それに嫌われても困るんだけど……」
とイシュタール。
「絶対嫌わないから」
「じゃあ約束ですよ？」
「うん」
「私も」
「うん」
ゆりは二人と約束した。
「ああ。なんてかわいいんだろう。このアンヨ……」
イシュタールはゆりの左足を両手に持って、足をなでなでしていた。
「このかわいいアンヨで助けにきてくれたと思うと泣けてくる」
イシュタールはゆりの足を頬ですりすりしている。そして涙を流していたのでゆりは驚いている。
（イシュタールの蛇さんは、足が好き？ 蛇には足がないから？）
「ゆりちゃん、せっかくだから足マッサージしてあげる」
「ありがとう」
「イシュさん、そこにオイルがあるよ」
シャナーンが棚を指した。
「じゃあ使おう」
イシュタールはオイルをゆりの足に垂らしてなで回している。
（なんか面白いことになってきた）
「足の裏もかわいいなあ」
ゆりは足のマッサージをされていたら気持ちがよくなってきた。
（やばい、まじで気持ちがいい。眠くなってきた。金蛇が寝ちゃったらどうしよう）
イシュタールの手が温かいので、温感マッサージのような感じである。体がぽかぽかしてゆりはすごく眠くなっていた。
シャナーンはゆりを寝かせて、ゆりの頬をなでた。
「私は胸の方が好きだけどなあ。この胸、柔らかくて、ぷりんとしてて、そそられるなあ」
シャナーンはシャナーンで普段言わないようなことをずばずば言っている。
シャナーンは胸を覆っていた青いブラジャーを外して、胸をなでていた。
「かーわいいな」
「太ももも柔らかい。筋肉が全くないのに、あんなところまで助けに来て……」
イシュタールはゆりの太ももをなで回している。どうやらイシュタールは、ゆりが助けに行ったことをいまだに感謝しているようだ。
「イシュタールの手、気持ちいい……面白すぎるからあっちの私に変わる〜〜後でまたねー」
蛇の目のゆりは引っ込んでしまった。
黒目のゆりが出て来た時には、イシュタールはゆりの太ももをなで回し、シャナーンはゆりの胸をなでまわしていた。
「ひゃっ！」
「王妃、王妃も約束してください。今夜のことは、ここだけのことですよ。何があっても嫌いにはならないし本体にも内緒」
シャナーンはゆりをじっと見て言った。
「え……うん……」
突然だったので黒目ゆりは戸惑っている。
「王妃が言ったんですよ。我々の隠れた性癖が知りたいって」
「え」
二人に隠れた性癖なんてあったの！？
ゆりはガーンとショックを受けた。
「だから約束」
シャナーンはゆりの親指をつまんでいる。
「う、うん。わかった」
二人の隠れた性癖なんて、絶対知りたい！
恋人としては気になるところである。
「世の中には、知らなくていいこともあるが……王妃も変わったことだし、下着も変えよう」
イシュタールはゆりがはいていた青いショーツを脱がせて、赤いショーツを手にとった。
「うーん、全部はかせなくてもいいか」
イシュタールはゆりの片足だけショーツを通して、太ももにひっかけた。
「本当は、こんなことしてる場合じゃないと思うが……心配しててもへびっちは帰ってこないし、あなたが我らの隠れた部分を知りたいって言うから」
イシュタールはゆりの太ももをなでながら言っている。
「イシュタールの蛇さんは、へびっちのこと心配してるのね」
「そりゃ心配だよ。へびっちはいつもがんばってる」
「嫌いだから追い出してたんじゃないの？」
シャナーンが聞いた。
「嫌いじゃない。かわいいと思ってる。へびっちには、人のように自由に生きてほしかった」
イシュタールはゆりの片足を持ち上げて、足にちゅっちゅとキスしていた。
「イシュさん、そろそろ足だけじゃなくて、違う所も触ってあげてくださいよ」
「足じゃなかったら手？ 私は手より足の方が好きなんだが」
「手じゃないですよ。しないなら場所を変わってくださいよ」
「ああ、こっち……じゃあゆりちゃん足を広げて。お兄ちゃんの長い指で触ってあげる。本当は違うもので入りたいんだけどなあ」
イシュタールはゆりの右足を自分の左肩に乗せて、足のつけねをまさぐりだした。その間にもゆりの足をちゅっちゅしている。
イシュタール蛇さんのキャラがおかしい。おかしすぎて笑えてしまう。だめだ笑っちゃ
ゆりは笑いそうになるのをこらえている。
「ゆりちゃん、笑ってる場合じゃないよ。そろそろしたいから、一杯興奮して」
シャナーンはゆりの唇を覆っていた。
イシュタールの指が、ゆっくりと体の中に入ってくる。
「ん……んん……」
「気持ちいい？ イシュさんは指が長いからいいなあ。でもまだ足りないかな。足、好きだね……」
イシュタール蛇はどうにもゆりの足が好きらしい。ゆりの足から離れそうにない。
「あなたは奥を攻めてくださいね。私はこっちを……」
シャナーンの指がイシュタールの指のすぐ上の部分を刺激しだした。
「あ……」
イシュタールの太い指がゆっくりと動いている。それにシャナーンの指まで加わり、ゆりはかなり気持ちよくなってきていた。
「気持ちいい？」
「いい……よくて……あん……」
ゆりの腰が浮き、軽くけいれんしていた。
「すごくぬれてきた。お兄ちゃんの指、気持ちよかったんだね。かわいい」
「お兄ちゃんってのやめてほしいんだけど……」
「蛇がもっと綺麗になってきた。私はどちらをもらおうかなあ」
シャナーンはゆりのおなかに顔を近づけている。
「うーん……こっちがいいな。こっちにしよう」
シャナーンはゆりの右の方にいた蛇をなでている。
「蛇に違いってあるの？」
ゆりが聞いた。
「あるよ」
「え？ あるの？ 一緒かと思ってた」
「じゃあそっちのかわいい蛇ちゃん、足までおいで。かわいがってあげる」
イシュタールはもう一匹の方を呼んでいる。
シャナーンはゆりの胸をなでながら、肌にいる金蛇を舌でなめまわしている。
「こっちにおいでよ。私も、なめてかわいがってあげるから」
イシュタールはどうしても金蛇に足に来て欲しいようである。
ゆりはどきどきしながら黙っていたが、やがて、金蛇は足に移動しだした。
おー行ったー！！
ゆりも興奮気味である。
「いい子だねー。おいで、もっとおいで」
イシュタールは優しく呼んでいる。金蛇が太ももにやってくると、イシュタールはゆりの太ももに舌をはわせていた。
「く、くすぐったい」
「かわいい」
「じゃあ、もらうよ」
シャナーンは上半身をゆりの肌にぴったりつけて、ゆりにキスした。
「ようこそお嬢さん」
シャナーンはゆりから肌をはなした。シャナーンの肌に、金蛇が移動している。金蛇はシャナーンの蛇に近づいて行き、シャナーンの蛇も、少しづつ移動していた。
「シャナーンの蛇も動いてる。なんだか感動するね」
とゆり。
やがて二匹の蛇は重なりだした。
「ああ、すごい……これは想像を絶するなあ……この体も興奮してきた。ゆりちゃん、胸でいかせてほしいんだけど、いい？」
「え？ 胸？」
「かわいい胸でいかせて」
「う、うん」
ゆりはついうなずいている。
シャナーンはパンツをぬいで、ゆりの上にまたがった。そしてゆりの胸の間に自らの興奮した下半身を挟んでいる。ゆりは胸を寄せて、それを包んだ。
「あー気持ちいい。やばいくらいにいい」
「私も……」
イシュタールはゆりの足を自分の体にぴったりつけた。こちらも金蛇が移動して、胸にいたほうの赤い蛇とひっついていた。
「これは、想像以上にくるな……」
イシュタールは惚けた表情である。
「あーいい、たまらない」
イシュタールもパンツをぬいで、ゆりの足を自分の股間に寄せていた。
「私はゆりちゃんの足があれば……」
「本物の蛇の交尾は長いけど、そんなに長い間はしてられないね……ゆりちゃんの胸、すごくいいよ」
シャナーンは腰を動かしている。ゆりは目の前に迫ってくるシャナーンの下半身に、舌をはわせていた。攻め気味のシャナーンにゆりはぞくぞくしている。
「いいよ。気持ちいい……」
「はあ……ああいい……これは、本体に経験させないほうがいいんじゃないか？ 恋人とやれなくなっても困るだろう」
イシュタールが荒い息を吐きながら言っている。
「そうですねえ……でも我々が前面にでなければ、こういう感じにはならないし、ねえ、もっと、めいいっぱい口でしたい？」
シャナーンはゆりの口に下半身を近づけている。
「おい、あまり激しくするなよ」
ゆりの足をだっこしているイシュタールが言った。
「わかってますよ。儀式ではもっと激しい。このくらいは平気ですよね。ゆりちゃん」
シャナーンにこんなことされると、興奮してくる、やばい……
シャナーン蛇も、あまり激しくゆりの口には入れてこなかったので、ゆりは平気で口でしていた。
やがて、二人の表情が夢うつつのような感じになってきた。
「ああ、やばい、もうでる」
シャナーンはゆりの口から離れて、ゆりのお腹に射精していた。
「私も……」
イシュタールはゆりの足に股間をつけたまま、達していた。
二人はゆりに蛇を返した。イシュタールから帰ってきた蛇は、ゆりの足にくっついている。どちらもぐったりした感じである。
「ありがとうゆりちゃん、でも私は、こうして君に触れることがうれしい」
「私も、ゆりちゃんの足を愛でまくって満足した」
二人は満足げだった。
「二人とも好きー」
ゆりは横たわったまま言っていた。
ゆりの左目が蛇の目になった。
「せっかくだからいちゃいちゃしようね。イシュタールも私の足ばっかり触ってないで抱っこして」
「でも、足はそうそう触れないんですよ？」
「いつ触ってもいいから」
「こんな風に頬擦りしたりもできないし」
「してもいいよー」
「できないですよ。そっちの若い男に抱っこしてもらってください」
「若い男って……」
シャナーンはゆりをぎゅっと抱きしめた。イシュタールは最後までゆりの足をなでなでしていた。
（うーん、面白いわ。肌の蛇って、隠れた自分でもあるのかあ。フリットは強引系、ハインリヒはたいして変わらず？ っていうか、私達に対してはいつも素なのか？
シャナーンは胸好きでいつもよりは強引、イシュタールは足好き、ミカエルは、恋人に対しては優しいらしいが、子作り以外は興味ない感じ？ ミルキダスは私達に対してはそう
変わらないけど、実は嫉妬深かったり？ ヴィラとジュノーはまだ謎かな。この前蛇さんは出てきてないし……）
「ねえ、蛇さんたちは、やっぱりしょっちゅうは出てこないんだよね？」
「普段は隠れてて、赤い月には半々くらいがちょうどいい。今日は特別だよ。ゆりちゃんも金蛇ちゃんも、かわいがりたかったから。我らには、この世のしがらみなんてない。
イシュさんが仕事もせずにあなたの足にずっとひっついてたら困るだろ？」
シャナーンは笑って言っていた。
「じゃあ、やっぱりしょっちゅう会いたいって思っちゃだめなんだ？」
「変化してるときは、ちょっと我々が強めに出るようになるかな。今後は」
「わかった」
その後は三人とも服を着て、並んで寝転んで眠ったのだった。
朝になった。目覚めたシャナーンは横にゆりがいたので驚き、記憶をたぐっていた。そして、記憶が途切れているので首をかしげている。
「あ、おはよう。シャナーン」
黒目のゆりがあくびをしながら言った。
「おはようございます。昨晩は……」
「蛇同士仲良くなったよ」
「え？ そうなんですか？ 覚えてないんですが……」
「二人の蛇さんが前面に出てきてくれたから、覚えてないんじゃない？」
二人の声でイシュタールも目を覚ました。
「王妃……あれ？」
イシュタールは頭に手をあてている。
「おはよう。蛇同士が仲良くできたよ」
「え？ 本当ですか？ 覚えてないんですが……いや、なんだか、私は王妃の足にすりすりしてたような気がする」
イシュタールは首をひねりながら言っていた。
「二人の蛇さんはいい蛇さんだったよ。二人とも覚えてないんだーふふふ」
ゆりはつい笑っている。
「王妃に失礼なこと言いませんでした？」
シャナーンは戸惑っているようだ。
「大丈夫だったよ」
「王妃の足の記憶が……」
「イシュタールは私の足、なでなでしてたよ。だからじゃない？」
「そうですか。精神的には、満足です」
「私もです。ですが、覚えてないのは残念ですね」
「楽しい夜だったなあ〜♪」
ゆりは意地悪げに言った。
「詳しく教えてくださいよ。王妃」
とイシュタール。
「教えてあげなーい」
「ええー」
ゆりは心の中でクスクス笑い、男二人は困惑して首をかしげていたのだった。
つづく
11部
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