第46話
人間界、蛇の国はどこも数日雨が続いている。今日もしとしと雨が降っていた。そんな中、城の外の庭園では、アナスターシャとシスが突っ立っている。二人の側にはヴィラがいた。
体の周りに魔法の膜を張り、雨をよける練習中である。一時間ほど突っ立っていると、アナスターシャが「暇、何かしたい」と言い出した。
「どうぞ」
とヴィラ。
「といっても、何をしよう」
気を抜くと魔法の効果がなくなってしまいそうだ。
「お二人でにらめっこでもしたらどうですか？」
「そうしよう。にらめっこしましょう。あっぷっぷ！」
王女様は自分のほっぺをひっぱってシスに顔を見せていたが、シスは乗ってこなかった。
「シスもやってよー」
「えー僕はやりたくないよ」
「暇じゃないよー」
「僕は集中してるから暇じゃないよ」
「つまんなーい」
シスはとっさに変な顔をし、アナスターシャは「あ」と言った途端に雨水が体にかかっていた。
「姉様のまけー」
「あー！！！」
「すぐ着替えてください」
とヴィラ。
「くやしー」
アナスターシャは部屋に移動したのだった。
「相変わらずだなあ」とヴィラは独り言を言っている。
「ねえ、ヴィラ、最近ディランに会った？」
シスが聞いた。
「いえ、会ってないですよ。会えたらお知らせしますよ」
「姉様、来年には過去からお迎えが来るんだよね。具体的にいつになるんだろう？」
「来年暖かくなってからでしょう。女王様の体調次第でもあるでしょうが」
「姉様、過去に行ったら毎日泣くんじゃないかなあ」
「王子様がいらっしゃるし、遊び相手になってくださいますよ。きっと」
「そうだね。僕が過去に行ったのは随分昔のような気がするなあ……」
シスは過去での出来事を懐かしく思いだしていた。
「大変だったけど、今はもう楽しかったなあって。たまに過去でのことを夢にみたりするんだよ」
「そうですか。アナスターシャ様と一緒に過去に行きたいですか？」
ヴィラの問いにシスはうーんとうなっている。
「行きたい気持ちはあるけど、僕はここにいなきゃ。ラギじゃないけど母様に何が起こるかも気になるしね」
シスは笑っていた。
ハインリヒはラクシュミに、森になってしまったアヴィールの遺跡付近の木々を伐採する許可を正式にもらっていた。喜んだハインリヒだったが、あの付近の木をどけるだけでも大変そうだ。
まさか炎で焼き尽くすってわけにもいかない。
「まずは木こりがいるだろ？ 木を運ぶ人手もいるし、その前にあの辺りにいる熊やらイノシシやらをどうにかしなきゃいけないし……とりあえず来年あったかくなってからだな」
どう考えても自分一人でどうにかできそうにないし、休みももらう必要があるので、とりあえず、計画だけ立てておくことにした。
文献やらを見ると、あの遺跡がなくなってしまったというか、地震があって遺跡が崩れたのが今から5000年ほど前のことのようだ。崩れた遺跡を元に戻さなかったのは、たいしたものではないと
思われていたせいなのかどうか、その時代の人々に聞かないとわからない。その頃大変なことがいろいろあったようなのだが、ハザークもあまり記憶にないらしく、文献にも詳しく残っていないのだ。
あえて残さなかったのかもしれない、と疑ってしまうほどである。神話によれば、その頃ダーナが姿を隠している。人々に争いが増えてダーナが身を隠したようなことが書かれているが、
ゆりが神の国から得た情報通りだとすると、ダーナがいなくなり、この世界に争いが増えてしまったようである。そしてさらに天変地異までも起こって世界が混沌としてしまったのだろうか。その頃は、
人間界だけではなく、神の国でもいろいろあったのかもしれない。
「遺跡の地下がそのまま残っているといいけどなあ……」
ハインリヒは地下をどうしても見たい、とそれだけを思っていたのだった。
その頃ゆりは、一人部屋でうなっている。
「うーん、贈り物、何がいいかさっぱりわからないわ」
聖地にいるという妖精のスペードに何か贈りたいと思ったが、妖精なので酒も喜ばないだろうし、何が喜ぶかさっぱりわからなかった。
「ハロルドってばあんな意地悪をしなくてもいいのにー、別に何もしないのにー」
部屋にはミラしかいなかったので、ゆりは愚痴っている。
「ハロルド様の嫉妬、かわいいですねー」
ミラはにやにやしている。
「かわいくないわよ。私がすぐ男に手を出すと思ってるところがやだわ」
「まあいいじゃないですか。ところで、ハロルド様と再儀式の予定はないんですか？」
「ないない。あんなのもう二度とごめんよ。大体予定して儀式するって私には無理だわ」
「そうなんですかあ？ 王妃様なら巫女の意地で儀式をしてみせるって方向で行くのかと思ってましたが」
「儀式ならこの前みんなとしたしー蛇もきたし」
「ディーンさんのことですよね？」
「うん……あれ？」
ゆりはそこで上を向いていた。
「あの小さい蛇が儀式できて、あれがディーンで……ってことは、この子はまだ蛇が入ってない？ あ、そういえばラーズとの儀式で蛇が入ってきたから、あの蛇はいるんだ。
あーよかった。ラーズとのことを忘れてかけてた。あはは」
その後ハロルドとのやりとりなどがあってラーズとの記憶が薄れかけていたが、とりあえず儀式は一度は成功している。
「あんな重要なことを忘れないでください」
「いろいろあったからつい。みんなとの儀式で蛇もいれたいな。まあ、あせらなくてもいいか」
とゆりは思っていた。
その夜、ゆりはシスの寝室にやってきていた。
「一緒に寝てね」
「いいよー」
今晩は月はない。ゆりがアナスターシャと一緒に寝ないのはアナスターシャの寝相が悪いからである。
その夜、シスは夢を見た。真っ白な空間を進んでいくと、やがて景色は草原に変わった。そして、見知った二人の男がいる。
少年ドルイドとシャナーンだった。
「あ、シス様ようこそ」
ドルイドがシスを見て笑っていた。
「あれー？ 夢だよね。ここ」
あたり一面草原で、青空があるだけだった。
「夢ですよ。たまにシャナーン殿と会ってたんです」
「えーずるい。僕も呼んでよ！」
シスは口をとがらせて二人に近づいた。
「呼ぼうと思っても、呼ぶ方法がわかりませんで」
とドルイド。
「二人で何をしてるの？ 稽古？」
「いろいろですよ。古代叙事詩を暗唱したりもしてますし、魔法のことについて話したり」
「もーそういうことは教えてよー」
「すいません」
シャナーンは謝っていた。
「夢の中なら寝不足にならなくていいねえ」
とシス。
「じゃあシス様も一緒に古代叙事詩を暗唱しましょう」
とドルイドは真面目である。
「え、いきなり？ その前に世間話とかしようよ。僕はドルイドと頻繁に会って話すってこともできないんだからさ。会うと稽古の相手とかで、僕がへばってさよならだし、たまには稽古以外で
城に来てよ」
「子供が用もなく城に行っちゃいけないかと思って、それに昼間は小さいドルイドの方が主導権を握ってるので、今は私よりなんですけどね」
「じゃあ母様みたいに二人いるみたいな感じなの？」
「そこまで極端ではないですが、そういう感じなのかなあ。二人が混じってる感じではあるんですが、まあ今は私も楽ですよ」
「そうなんだ」
「では古代叙事詩を暗唱しましょう」
「もう？ 容赦ないなあ」
シスは頭をかき、シャナーンは横で笑っていた。
シスの横で眠っているゆりも夢で神の国に行っている。ゆりはガーベラの神殿にいてクーリーフンもいたので、「妖精が欲しいもの」について話を聞いていた。
「妖精が欲しいものねえ、さあ、何がほしいかなあ？」
クーリーフンは頬をかきつつ首をかしげている。絶世の美青年であるクーリーフンに他の男のことを聞いているのだから、世の女性が知れば「そんなばかな」と思うかもしれない。世の中の認識では、
妖精は神様の下っ端に過ぎないのだ。ゆりにとっては、もはやクーリーフンは息子的存在であるし、妖精でも、素敵な人は素敵である。
「クーリーフンは聖地でスペードさんに会ったことある？」
「さー僕聖地では他の神殿って用がなきゃいかないからね。ハロルドのところにいる妖精の名前も知らないし」
「そうなんだ。何か贈りたいんだけどなあ。喜ぶものかがわからないの」
「欲しいものなんてたいしてないと思うけど、お母さんが裸で寝転んでたら一番喜ぶんじゃない？ あはは」
クーリーフンは無邪気な笑みを浮かべて言った。
「いや、そういう方向はなしで。それにガーベラで贈り物をしたいんじゃないし」
「物は支給されてるだろうし、欲しい物ったら女くらいしか思いつかないな。ただ単に花束とかでいいんじゃない？ お礼の伝言とか。伝言貝くらいなら持っていってあげるけど」
「ガーベラで伝言したいんじゃないけど、まあいいか。じゃあそれでお願いします」
クーリーフンは棚の上においてある籐で編んだバスケットの中から巻き貝を一個とって渡してくれた。いつも見る巻き貝よりは小さめである。
「いつもよりも小さくない？」
「短い伝言ならこれでもいけるよ」
「なんて言おう。当たり障りのない言葉じゃないと意味不明になっちゃうわね」
ゆりは恥ずかしそうに伝言貝に向かってぼそぼそつぶやいた。
「ちゃんと入った？ 確認してみて」
ゆりは巻き貝をクーリーフンに渡した。クーリーフンは聞いてみている。
「ちゃんと入ったよ。今度もってくよ。スペードって妖精ね」
「お願いしまーす」
などと言っていたらラーズがやってきた。
「ガーベラ、何してるの？」
「妖精にでんご、むぐ」
ゆりはクーリーフンの口を素早く手でふさいでいた。
「妖精に何？」
「何でもないの」
「あ、あっちのガーベラだ。今から愛し合おう」
ラーズは笑顔で近づいてきた。
「あ、あの、私いろいろ行きたいところがあって、この前生まれた尻尾が蛇の生き物に会いたいし、翼が生えた赤ちゃんはどこにいるの？」
「ランスロット？ ハロルドの神殿か雲の上かな。ハロルド、すぐランスを連れて行っちゃうんだぜー」
「会いに行こうよー」
「しょうがないなあ」
と話していたらぬっとハロルドまでやってきた。
「じゃあ僕はこれで」
クーリーフンはさっさと逃げた。
「ガーベラ、来てたのか」
「ランスロットは今どこにいるの？ 会いたいの」
ゆりはとりあえず笑みを浮かべている。
「ランスロットは雲の上だ。それよりガーベラ、私とすごそう」
「だめ。私が先に出会ったんだから」
とラーズ。
「じゃあとっととしてこっちによこせ」
「いや、そういう……あ、あの半分はどうなった？ あれからハロルド人間界に行った？」
ラーズがきわどい質問をしだして、ゆりは「え」とのけぞっている。
「両方ハロルドとした？」
「いや〜まだその」
ゆりは困った顔付きである。
「ラーズ、お前しょっちゅう人間界に行ってるじゃないだろうな」
ハロルドがむっとして言い出した。
「あれっきり行ってないよ。ハロルドこそ」
「私だってそんなには行ってない」
「じゃああのまま？」
「あ！ 誰かが私を呼んでいる！」
ゆりは突然声を発して姿を消した。
「あ、逃げた」
「お前のせいだぞ」
とハロルド。
「ゆっくり一緒に過ごしたかったのにー」
ラーズは残念そうだった。
ゆりはとっさにサラディンの元に飛んでいた。あれ以上話すと面倒そうだったからだ。
（二人ともごめんなさい）
と謝りつつ広間を見ると、サラディンはいなかった。
どうやら違う部屋にいるようだ。相変わらず広間の真ん中にある大きなつぼからは炎があがっている。ゆりがその炎を眺めていると、炎がぼっと上にあがり、大きなトカゲのような形になった。
「うわっ」
そのトカゲがゆらゆら浮いている。
「トカゲになれるなら、蛇にもなれる？ なってみて」
ゆりはつい炎にリクエストしてみた。
「ねえお願いー」
炎のトカゲはゆらゆら浮いたままだ。そこにサラディンがやってきた。
「おっ、来てたのか」
「ねえねえ、この炎って意思があるの？」
「たまに姿を変えてるんだ」
サラディンはつぼに近づいた。
「いろんな姿になるの？」
「いいや。これは火の精霊だ。前にも言ったと思うが、この形にしかならない。たまに現れてるんだ」
「火の精霊と妖精って違うんだ？」
「違うな。火の精霊は私の力の源のような感じだな。水や風、木の精霊もいる。土はなぜかモグラが精霊だとか前にアシュランが言ってたな」
「モグラが？」
ゆりはモグラを思い描いている。
「土の精霊がモグラに化けてるといった方が正しいかな。でかい親玉モグラ精霊がいるらしく、サントスの畑を荒らしてもサントスは文句は言えないらしい」
「へー想像すると楽しいわね。光の精霊もいるの？」
「光の精霊はアシュランと一体化してる」
「だからあんなに輝いてるのかしら」
炎のトカゲはゆりに近づいてきた。
「私を見てる」
「ガーベラが好きみたいだぞ」
サラディンは椅子に座った。
「そういえば、この前バーナードが吹いた火もトカゲになってたわ。あれも精霊さんだったのかしら？」
「最近よく現れてるようだな」
ゆりが横に移動すると、トカゲの顔もちょっと移動していた。あきらかにゆりを見ているようだ。
「精霊さんが現れると何かある、とかないの？」
ゆりはサラディンに聞いてみた。
「別に、これといってない」
「そう」
ゆりがさらに移動するとトカゲもちょっと移動している。明らかにこちらを向いているのが気になる。
（ガーベラが好きみたいってことは、前にもこういうことがあったのよね。精霊が何かを訴えてる？ あれ？ この前会った木って、精霊だったのかしら？
あの時精霊は緑の神ジュライとの間に子供を作れって訴えてたよね。その前のぶどうの木も精霊？ ってことは、この精霊も？）
ゆりはじーと火の精霊を見つめてみた。
「あんまり近づくとこげるぞ」
（もしかして、今は子供ができやすい時なのかもしれない。ガーベラはそういう察し能力が低いのかも。いや、でも）
「ねえ、火の精霊が現れた後に、私達仲良くなったりしたかしら？」
ゆりはサラディンに聞いてみた。
「ん？」
「ほら、もしかしたら、精霊が現れるって良い事が起こる前触れかもしれないでしょ？ 前回仲良くなったかなって思って」
「どうだったかな？ なったような気もするが」
サラディンは首をかしげている。
（それでも子供ができないってことは、もしかしたら、精霊のすぐ側じゃないとだめなのかも？ 寝室じゃなく、やるならここじゃなきゃだめ、とか。でも、私がサラディンとここでするってかなり無茶だわ）
ゆりはサラディンとはまだそうなっていなかったし、真面目なサラディンがここでやりたがるとも思えない。
「うーん」
「どうしたんだ？」
「うーん、精霊って、また現れるかしらね？」
「さあ」
「実は……私最近木の精霊っぽいのに会ったの。二度も」
「ほお」
「一度目はぶどうの木で、ジンラと仲良くなったら妖精ができたの。二度目は、精霊はジュライと仲良くしろと訴えてきて、私はすぐにダーナに代わって、ダーナがジュライとひっついて、
妖精ができたの」
サラディンは口を開けている。
「もしかしたら、この精霊も、何か訴えてるかもよ」
「じゃあ仲良くなったら妖精ができたりするのか？」
「それはわからない。一つの可能性として、あるかなあと」
「じゃあすぐに仲良くしよう」
サラディンは立ち上がっていた。
「寝室に行こう」
「いや、ここじゃないと」
「ここ？」
「精霊の側がいいのかも」
「ここ……」
床は石造りであるし、妖精も出入りする場所である。当然サラディンはここでガーベラといちゃついたこともないだろう。
無理だと言うかな、と思ったら、サラディンは「わかった。布団をここに持ってくる」と言い出した。
「え？ ここでもいいの？」
「子供ができる可能性があるならしたい」
「えーでもできないかもよ。私の気のせいかもよ？」
ゆりの方があわてている。
「とにかくしてみよう」
サラディンはすっかりその気になってしまった。
ゆりはその場で立ち尽くしている。
「ねえ、ほんとに子供ができるの？ どうなの？」
ゆりは炎のトカゲに聞いていた。
「できなかったら怒られそう。っていうか、どうしよう」
（ガーベラとチェンジしたい。このまま消えるってわけにはいかないし、サラディンとそうなってもいいかな、って思ってる私がいるー！）
一緒にお風呂に入ってるうちにサラディンに対する好意は芽生えていたが、最初くらいは普通に寝室でこもって仲良くなりたいものである。
ここではいやだー！ ルティアナがきたらどうしよう！
サラディンは白い布団を床に敷いていた。
「これでいいか？」
「妖精とか、ルティアナがきたらどうするの？」
「妖精には一応言っておいた。結界もはっとくから大丈夫だ」
「サラディンは平気なの？」
「ガーベラの方がおたおたしてるのはなぜなんだ？」
「おたおたしてる？」
「顔が真っ赤だ」
炎のトカゲはツボの上をぐるぐる回っていた。
「なんか体が熱くなってきちゃって、はは」
実際ツボの側にいたので熱いことは熱いのだが、ゆりはかなり緊張していた。
（自分で言い出したんだけど、このまま見て見ぬ振りもできないし……汗かいてきちゃった）
「ほらガーベラ来い」
「う、うん」
サラディンが服を脱ぎだして、ゆりは目を背けていた。
「どうしたんだ？ ガーベラも脱いでくれ」
「は、はあ」
ゆりは女神の服を脱いだが、恥ずかしそうに背中を向けている。
「ガーベラ」
サラディンが女神の肩に手をかけた。
「サラディン、もし何もなくても怒らない？ 約束してくれる？」
「ああ」
「絶対？」
「怒らない。怒りそうに見えるのか？」
「だって、期待させて失望させるのもなんだか申し訳なくて」
「それくらいで怒らない」
「わ、わかった」
ゆりはくるりと体を向けて、サラディンに抱きついた。
サラディンの体は湯たんぽのように温かかった。
「サラディン、あったかい。このままひっついて寝たい」
「寝るな」
ゆりは布団の上に横になり、サラディンが上に覆い被さった。
「顔が真っ赤だが、大丈夫か？」
「大丈夫」
（じゃないかも。半端なく緊張してきた。どうしよう）
サラディンが顔を寄せてきて、二人は唇を合わせた。
（あれ？ もしかして、キスも今日が初めてだっけ？ どうだっけ）
と思っていたら胸をなでなでされた。
（恥ずかしい。むちゃ恥ずかしい）
足をぐっと開かされて、ゆりは目を閉じていたが、やがて「いてて」と声を発していた。
「どうしたんだ？」
「あ、足がつっちゃった」
「え？」
「緊張しすぎて足がつっちゃった」
サラディンが体をどけて、ゆりは右の太ももをなでていた。
「ぷっ」
サラディンは笑っている。
「……あーサラディンが笑った。笑った顔好き」
「え？」
「もう直ったよ」
ゆりはサラディンにくっつき、再び二人は寝転んだ。
サラディンの笑顔をみたところでゆりのラブ度が上がったのか、ついに、ゆりはサラディンと一つになっていた。
サラディンはラーズのようにあれこれするタイプではやはりなかったが、これはこれでサラディンらしい。
ゆりはサラディンの肩に顔をあてて口を閉じている。
「ガーベラ、今日はおとなしいな」
「うん……今日はいいの」
「そうか？」
恥ずかしがってるだけじゃだめだわ。二人の気をくるくるっとしないと、しないと……いや、恥ずかしすぎてサラディンの顔を見れない！
早く終わって欲しい、いや、終わらないでほしい。どっちだろう
体の中も温かいが、気持ちよさも感じている。
やっぱりもっとしてほしい……
「ガーベラの体も熱いな」
「サラディン……好き」
とうとう、サラディンは女神の体の中で果てた。ゆりは体を起こして、服で体を隠している。
今ので子供ができたかな？
つぼを見ると、いつの間にか火の精霊は消えていた。
「あれ？ いない」
「いないな」
ガーン
サラディンは服を着ている。どこかから子供が出てくる気配もなかったのでゆりはちょっとしょんぼりしていた。
でもジンラとしたときはすぐにできなかったら、もしかしたらもあるかもしれないけど……
ゆりも服を着た。
「あ、あの、サラディン、私もう行くね。布団、このままでもいい？」
「ああ」
「じゃあね。またね」
「ああ、また」
ゆりは恥ずかしかったのでそのままささっと広間を出て行った。
ゆりは神殿の外で座り込んで体のほてりを冷やしていた。
あーなんか、すごく恥ずかしかったー！
サラディンって、見かけは怖そうだけど、やっぱり優しいんだな。すごくそっとしてたもんね
イシュタールにも親切だし、ステキな神様よね〜
しばらくぼんやりしていたらゆりはそのまま人間界に戻っていた。そして本体にはガーベラが戻っている。ガーベラは立ち上がり、体の異変に気づいた。
「火の神殿、あれ？ もしかして……？ それとも違う人と？」
ガーベラは火の神殿に入っていった。
サラディンは広間に座っている。
「ガーベラ、どうしたんだ？」
「えーと……」
ガーベラが近づくと、サラディンはガーベラの手を取り、軽く握っていた。
「さっき様子が変だったが、大丈夫か？」
「え、うん大丈夫」
「そうか」
（やっぱりサラディンと仲良くなったのかも？）
ガーベラはその可能性が高いと思っている。
「ねえ、サラディン、膝に乗せて」
「ん？ ああいいが」
ガーベラはサラディンの膝に横向きに乗った。
「……今は、ガーベラが一番好きかもしれない」
サラディンがぽつりと言い出した。
「ほんと？ ヒルデリアより好き？」
「多分」
「多分？」
「まあ、ヒルデリアを膝に乗せたいとは思わないからな」
「うれしい」
サラディンはちょっと恥ずかしげだ。ガーベラはサラディンに抱きついて、ちゅっとキスしていたのだった。
そして人間界では、目覚めたシスは、横にいたゆりがキラキラになっていたので「わっ」と驚いていたのだった。
つづく
11部
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