第４９話

「ハロルドと３人でってのはガーベラで体験済みなんだから、大丈夫だよ。ハロルドとしてだめだったら私とするってのも私的にももやっとするし、それなら

一気に一晩で済ませようよ。次回は二人っきりでゆっくり愛し合うということにしてさ」

ラーズはさわやかな顔でさわやかーにとんでもないことを言っていた。

「でも、ガーベラで大丈夫でも、体が違うし……」

ゆりは頬をひきつらせている。

「ハロルドとはできたんだから大丈夫だよ。ガーベラになっている以上、君には人間史上最高の女になってもらいたい。私とハロルドが同時に抱きたいと思う女なんて今までいなかったんだから、

君ならできるよ」

ラーズは目を輝かせている。

ゆりは口を半開きにしていた。

ハロルドは、「そこまで圧力をかけなくても……」と逆にゆりを気の毒に思い始めていた。

「とりあえず、ラーズの言葉は無視して、私としよう」

「なんで無視するんだ」

とラーズ。

「大体、お前はガーベラを一番愛してるんだから、ガーベラとだけやってりゃいいんだよ」

「私は彼女のことも好きだ。それに今回は彼女は私に頼みにきたんだろう？」

「私はまだこいつの半分としかしてないんだからな」

「半分でも入ったんだからいいじゃないか」

「よくない」


（なんか変な話になってきた……）とゆりは思った。


「今晩ちゃちゃっとすませよう。何も変化がなかったら、ラーズとしろ」

ハロルドはゆりを見て言った。

「そういうのはやだね。そんなに彼女が好きなら、今回は手を引いてあげればいいじゃないか」

とラーズ。それも正論である。

「いやだ」

どうやらどちらも譲りそうにない。

「わかった。ごめんなさい。私が悪かったです」

ゆりが二人に割って入った。

「もうこの話はなしで」

「じゃあどうするんだよ」

とハロルドがゆりに聞いた。

「私はハロルドもラーズも好きだし、どっちか選ぶと後々面倒そうだし、だから、今回はグレンに頼む」

「「え！？」」

ハロルドもラーズもぽかんとしていた。

「だからごめんなさい！！」

ゆりがぺこりと頭を下げたとき、ハロルドは素早くゆりを捕まえていた。

「ちょ、ちょっと待て、グレンはないだろ」

さすがにハロルドもあせっているようだ。

「だって、第三者を選ぶしかないじゃない」

ゆりはじたばたしている。

「ガーベラ、グレンと寝たって、何も変化は起きないと思うよ」

ラーズが諭すように言ってゆりの動きが止まった。

「そうだぞ。グレンの神気は妖精程度しかない。せいぜい一日くらいしか変化しないぞ」

「一日？」

ハロルドとラーズは同時にうなずいた。

「えー！　でも、グレンも神様だし」

「私とやつの神気は全く違うだろう。ガーベラの時見えないのか？」

「私そういうの全然気にしないから」

「とにかく無理だ。サラディン、ジンラ、オルガ、ラクアならいけるだろうけどな」

その４人に頼むのは、どう考えても無理である。

「大丈夫、私を選んでもハロルドはちょっと怒るだけだよ。すぐ忘れるから」

ラーズが言った。

「それか、ランスロットが産まれた時のようにしよう。ハロルドは乱暴そうだから、ちょっと心配だし」

「だれが乱暴だ」

ゆりはあまりのことに思考回路がストップしかけていた。とりあえず、どちらかを選ぶってのも難しい。ハロルドを選んでだめだったらラーズお願いってのもえらそうである。

（しかし、二人も選ぶってのも、何様なんだろうという感じなんだけど……）

「うーん……ところで、裸になるにも今あそこは寒いし誰か来ると大変だから、どこか違う場所に密かに移動してしたいんだけど、そういうことできるかなあ」

ゆりが遠慮がちに聞いた。

「私ならできる。というか私にしかできない]

とハロルド。

「じゃあやっぱり今晩二人で行くしかないね」

とラーズ。

「う、うう、お願いしますぅ」

ゆりは最後には頼んでいた。

「ガーベラらしく頼むよ」

とラーズ。

「二人まとめて私の虜にしちゃうわ。オーホホホホ！」

ゆりはほぼやけになって言っていた。

「その意気だよ。ガーベラ」

ラーズは満足そうだったが、ハロルドは、「大丈夫か？」とゆりを心配していた。

「わかんない」

ゆりは小声でぼそっと返していた。


そんなこんなで、ゆりは神様二人を一気に相手にする約束をしてしまった。

ラーズはゆりの耳元で、「ちゃんと興奮させてあげるから大丈夫だよ」と言っていた。

ラーズはハロルドとのことを心配して強引に３人でしようと言ってくれたのかもしれない。



こういうやりとりをして人間界に戻ってきたゆりは、あまりに突飛な話だったので、「ああ、変な夢を見ちゃったわ」とすっかり夢だと思い込んでいた。

「まさかあれが現実なわけないわよね」

―現実よ

もう一人のゆりの声が聞こえてきた。

―今晩二人がくるよ

「え？　嘘！！」

―ついに！　だね。体を磨かなきゃ！

もう一人の声は弾んでいる。

「え？　じゃあ、二人をまとめて虜にしちゃうわ、とかいったのも私？」

ゆりは頬を引きつらせている。

―そう！　私達！　がんばっ！

「ガーン……」

ゆりはしばらく放心状態だった。


この日はどうやって過ごしたか、黒目のゆりは記憶がないほどだった。途中蛇の目のゆりが現れて、爪の手入れをしたりし、足のムダ毛を剃ったり、夜には念入りに体を洗ったりしていた。

そして日が暮れてしまった。

「あっという間に夜になったあ！」

今回のことは、だれにも話していなかった。ラクシュミにも言えるわけはない。

「どうもガーベラになると強気になっちゃうわ。でも、二人は私のために来てくれるんだから、しっかりしなきゃ、この際朝までひっついて神の気ももらってやる！」

ゆりは心を強く持ってそう決心した。


ガーベラの時二人としたし、大丈夫、多分……


寝室でそわそわしていたらハロルドがやってきた。

「うわっ！」

ゆりは来ると分かっていたが、驚いている。

ハロルドはゆりの格好を上から下まで眺めた。ゆりの格好は、前回ハロルドが来るときに来ていた真っ白で裾にフリフリがついたネグリジェである。

「なんか懐かしいな」

「こんばんは。ラ、ラーズは？」

「あっちで待ってる」

「本当にいる？」

「いる。さてと」

ハロルドはベッドに手をかざした。すると、幻のゆりが寝転んだ。

「おーすごい！」

ゆりは手をたたいている。

「これで誰か来ても大丈夫だ。行こう」

「はい」

ハロルドはゆりの手をつかんで移動した。



神様二人と……もしかして、今が私の絶頂期かもしれない


などとゆりは思っていた。


目に明るい光が飛び込んできた。移動先は寝室だった。建物の壁も木でできている。でかい木製のベッドに鮮やかな色彩のラーズが座っている。

「ラーズ」

「やあお嬢さん」

ゆりはラーズの手を握った。

「ここはどこなの？」

ゆりは部屋の中を見回した。ベッドの側にある木製の棚には大きな花瓶があって、綺麗なピンクの花が一杯いけられていた。

「神の国に近い場所だな。ラーズはあまりこっちには来ないだろ？」

「来たことないな。ここに女を連れ込んでるのか？」

ラーズが聞いた。

「そんなことはしとらん。妖精が使ったりしてる」

「……のわりにはベッドでかいね」

ゆりが言った。どう見てもキングベッドくらいのサイズである。

「女を連れ込んでるよな」

とラーズ。

「しとらんというに。ところで、あれは着てきたか？　王妃の正統な下着」

「着てません」

ゆりは速攻で答えていた。

「え？　そんなのあるの？」

とラーズが反応している。

「ラーズに見せてやりたかったのに……穴があいた下着を」

「え？　何？　みたい」

「見なくていいの！」

ゆりの顔は真っ赤になっていた。

「見たいなあ。今度見せてね」

ゆりは横に首を振っている。

「まあいいや。じゃあしよう。まずは私が気持ちよくさせてあげるよ」

ゆりがハロルドを見ると、ハロルドは無言でベッドに座っていた。二人の間で何かの話がついているのかもしれない。

「その前に、これだけは言わせて。二人とも今日はありがとう。私、この思い出を胸にこの先も強く生きていくわ」

ゆりは感動するように言い出した。

「いや、これで最後みたいな言い方はやめてほしい。これが最初だから」

「え」

「そうだ。これでさよならみたいな言い方はやめろ」

ハロルドも言った。

「一応お礼を言わないと」

「お礼を言うのはこちらだよ。楽しい思いをさせてくれてありがとう。今日は思う存分愛し合おう」

ラーズはゆりの手を握りしめて言った。

「うう、ラーズ今日も派手派手でステキ」

「おいでおいで」

ラーズが両手を広げて、

「ラーズ！」

ゆりはラーズに抱きついた。

「ところで、ここって昼間なんだけど……夜にはできないよね。やっぱり」

「無理だな」

とハロルド。ラーズはゆりのネグリジェをまくりあげていた。

「いっぱい気持ちよくしてあげるよ」

「今日もいい匂い」

今日のラーズは爽やかないい匂いがした。

ゆりはあれよあれよという間に裸にされて、ラーズにキスされた。明るい場所で裸を見られるのはいやだったが、城はいやだと言ったのは自分である。こうなったら腹をくくるしかない。

すでに見られているので、今更体を見て引かれたりはしないだろう。

「あ、蛇がいる。前は途中で出てきたような気がするけど」

「そうなの。今は最初からいるの」

「そうなんだ。かわいいよ。ゆり」

「ありがとう。優しくて素敵なラーズ」

ガーベラのように優しく扱われるのがうれしくて、ゆりの目尻には涙が浮かんでいた。

ゆりはかなり緊張して顔は真っ赤になっていたが、しばらく優しくキスされて、その緊張もほぐれてきた頃、ラーズはゆりの肌をまさぐりだした。

「体を任せて」

「うん」

ラーズの長い指がゆりの下半身をまさぐり、体の中へと入って行った。ラーズは巧みに指を動かしてゆりを快楽へと導いた。

「ラーズ、好き、好き」

「私も君が好きだよ」

ゆりはラーズの指で軽く達していた。

「それじゃ交代」

と裸のハロルドがラーズを押しのけて上に乗っかってきた。

「え？　ここで交代するの？！」

「する」

「ええー！」

「私が最初なんだ」

「私は次にしてあげるからね」

ラーズはベッドの端に移動した。

「ええーええー」

「こっちだ」

ハロルドはゆりの顔を上に向けさせた。ハロルドはゆりの上にどっかり乗って体を挿入しようとしていたので、ゆりは思わず「ぎゃ」と言っていた。

「力を抜け」

（最初はラーズにしほしかったよー！）

とゆりは思っていたが声には出せず、ハロルドは容赦なくそのまま体を奥へと沈めていった。

「ハロルド、私のこと好き？」

「嫌いだ」

「なんでよ」

「ラーズにしてほしそうにしてただろ」

「だって、あの流れでいったら、い……ぐ……ぎゃぎゃっ！」

ゆりはあまりの圧迫感に声をあげていた。やはりこの体でハロルドとするのは大変である。

「ほら、力を抜け」

「うう〜」

「ちゃんと奥まで入った。動くぞ」

「や、優しく、優しく〜」

「ああ」

ハロルドは腰を動かし、ゆりはハロルドにしがみついていた。

「は、早くいって」

「いやだ」

「もー」

「うれしいだろ」

「うれしすぎて涙がでるー！」

ラーズは二人のやりとりを聞いてるだけでぷっと笑っていた。


何度も奥を突かれている内にゆりはちょっと気持ちよくなっていたが、快楽を感じてどうしようもない、ってほどでもなく、ハロルドが達して体が離された。

ゆりの体はかなり熱くなって汗ばんでいた。

「ようやくできたな」

「あ、ありがとうございました」

ゆりは何かの稽古でもした後のように疲れてお礼を言っていた。ラーズがゆりの髪をなでた。

「大変だったね。がんばったね。次は私だよ」

「ラーズ」

今度はラーズがゆりの上に乗った。

ゆりはとうとうラーズにも抱かれた。ハロルドで思いっきりほぐされたせいか、ラーズに抱かれるときは素直に気持ちいいと感じている。

「奥、気持ちいい？」

「気持ちいい」

自分の時よりもゆりが感じてる風なので、ハロルﾄﾞは傍らでむっとしていた。

（とうとうこの体でラーズともしてしまった！　ありがとう。相手をしてくれてありがとう）

「ありがとう。二人ともありがとう」

ゆりは二人がガーベラでもないこの体を抱いてくれたことに素直に感動していた。

「今度は二人っきりでしようね。ガーベラの時も一杯しよう」

ラーズは腰を動かしながら言った。

「うん。うん」

ラーズが達して体を離した。ゆりは感極まって泣いていた。

「泣かないで」

「感動しちゃって……」

ゆりの左目が蛇の目に変わった。

「ラーズ、私も、私もお願いします！」

蛇の目のゆりはラーズに抱きついた。

「あ、君が半分か。じゃ、しよう」

ラーズは今度は蛇の目のゆりを押し倒した。

「ラーズ好きー！！」

蛇の目のゆりはかなり喜んで感じてる様子だったので、ハロルドは白い目でゆりを見ていた。

「お前って女は……」

蛇の目のゆりはハロルドに睨まれながらも、ラーズに抱かれた。

「うう、感じてくれてありがとう」

こちらのゆりも感動ぎみである。

ラーズに抱かれた後、蛇の目のゆりはハロルドを見て、「ハロルドもする？」と聞いていた。

「せん！」

「なんでよ」

「お前喜びすぎだろ！」

「だって、ラーズのこと好きなんだもん」

ラーズはゆりの頭をなでなでしている。

「でもハロルドのことも好きよ」

「うるさい。もう消えろ」

「ひどい。じゃあね。ラーズ」

蛇目のゆりはラーズの頬にちゅっとキスして、消えた。黒目のゆりは表に出て、目をぱちくりさせている。

「えーと……本日は二人ともどうもありがとう。神様二人に相手をしてもらうなんて、本当に光栄です」

ゆりは布団で体を隠して正座し、言った。

「まだ終わってないぞ」

ハロルドが言った。

「え？　もうすっかり終わったんじゃないの？」

「お前が宣言した、二人を虜にしてやるってところは、全然達成されてないが」

「あれは、言葉の綾なので、達成されなくてもいいんです」

「いや、言ったからにはもっとがんばれ」

「いやいや」

ラーズはまた笑っている。

「君とハロルドのやりとりは面白いなあ」

「今度は後ろからしよう」

ハロルドはゆりに近づいて、ゆりの体を回転させていた。

「あーんもう十分だよー」

「まだまだいけるだろう」

ゆりは四つん這いにさせられて、腰を掴まれた。

「ほらほら、虜にしてみろ」

「あれは言葉のあ〜〜や〜〜〜〜」

「あははは」

ラーズは漫才でも見ているかのように笑っていた。


こうして、神様二人との夜は終わった。

ゆりはげっそりしている。

「えーと、今宵は、以下略、ありがとうございました。お願い、どちらか朝まで添い寝して」

ゆりはこれだけは、とばかりに言った。

「私は帰るよ。またね。あっちでも会おうね」

ラーズは軽くゆりにキスして服を着ていた。

「ありがとう。またねー」

ラーズは手を振って部屋を出て行った。

「ハロルド、添い寝して」

ゆりはがしっとハロルドの腕をつかんでいる。

「添い寝に意味があるのか？」

「実は、神様の気ががっぽり欲しいです」

ゆりは素直に白状した。

ハロルドは口を開けている。

「この前ハロルドと添い寝した後、お腹の中の赤ちゃんが出てきて面白かったんだって。だからまた、お願い」

「ふーん？　ま、いいか」

ゆりは服を着て、ハロルドに抱きついた。

「あ、そうだ。あっちの私が、ハロルドから殺し文句を言われたって言ってた。私にも言って」

ゆりはハロルドに抱きついたまま言った。

「殺し文句？　ああ、あれか。いわん」

「言ってよ」

「言わない」

「なんでーあっちの私の方が好きなの？」

「そうじゃない。あれだけラーズに喜んでたお前に今言いたくない」

「ハロルドのことも好きよー」

「わかったわかった」

「ほんと好き。好き好き……ぐう……」

「？」

ハロルドがゆりを見ると、なんとゆりは目を閉じて寝ていた。緊張の糸がすっかり切れたらしい。

「この女は……」

ハロルドは呆れた様子だったが、ゆりを抱きしめたまま寝転んでいたのだった。


しばらくしてゆりは起こされた。

「そろそろあっちに帰るぞ」

ゆりははっと目を覚ました。

「ん、ん？　あれ？　私いつの間に寝たんだろう？」

「お前の図太さには呆れるな」

「付き合ってくれてありがとう。あの花もらってもいい？」

「ああ」

ゆりは花瓶にいけてある花を十本ほど手に取った。

「全部もってけ」

「そう？」

ゆりは花をいっぱい手にかかえて、人間界へと戻ったのだった。人間界は朝である。

ゆりが帰ってくると、ベッドの上の幻のゆりは消えた。

「じゃあな」

「ハロルド、ありがとう」

ゆりは花を抱えたままお礼を言った。

「ああ、次にあっちに来たら最初に来いよ」

「はーい」

「絶対だからな」

ハロルドは消えた。


ゆりは花束を抱えて寝室を出て行き、とりあえず花をテーブルに置いた。

「力はあがったのかどうなのか」

ゆりはネグリジェを脱いで自分のお腹を見た。蛇が濃くなってるような気がする。

「じゃあ瞬間移動も？」

ゆりは部屋の中でちょっと移動してみた。すると移動もできた。

「やったわ。これで、これで金蛇の望みもかなうわね。でも、ハロルドと二度目にしてこうなったのか、ラーズだけのおかげなのか、それはわからないけど」

とにかく目的は達成されてゆりは安心した。体はかなり疲れていたが、濃厚な夜を過ごしたわりには清々しい気分である。

ゆりは再びネグリジェを着て、部屋に来た侍女に「昼まで寝るから」と言ってベッドで寝たのだった。


ゆりが寝ている間、お腹の中の赤ん坊が抜け出して、蛇を捕まえてあちこち走り回っていた。かなりでかい蛇を持って走っていたので、

「あれ？　昨晩ハロルド様が来たんじゃない？」

「絶対そうだよね」

とすっかり子供達にはばれていたのだった。



つづく


十一部


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