第50話
ハロルドとラーズ、神二人を生身の体で相手をした一夜は終わり昼まで寝ていたゆりは、目覚めた後、城の中の広間に案内された。
広間はパーティー会場のようになっていたので、「今日は何があったっけ？」とゆりは広間にいたラギに聞いた。
「お母さんのお祝いだよ。僕達すっかり忘れてた。ごめんね」
ラギは申し訳なさそうである。
「私の？」
そこにアナスターシャとナナミがやってきた。
「母様、おめでとう！」
「母様おめでとう。さすが母様よ！」
「へ？」
「恋人10人突破おめでとう！」
「しかも二人は神様なんだから、すごいよね〜〜〜」
「今日は、お母さんの恋人が10人を超えたお祝いパーティーだよ」
ラギが明るく言って、ゆりは「は？」とのけぞっていた。
「昨晩ハロルド様が来たんでしょ？ 赤ちゃん、また蛇をもって遊んでたよ」
「えー赤ちゃんが出てきたの？」
「後でみんなくるから」
「え？ みんなって！？」
「パーティーには恋人全員こないとさ」
「やめてー！！！！！」
ゆりは絶叫していた。
ゆりの悲鳴は無視してパーティーの準備は進み、ゆりは逃げたかったが、ラギに「絶対にここにいて」と言われたので逃げられなかった。
昨晩ハロルドと仲良くしたのはすっかりばれているようだ。
（さらにラーズまでいたなんて絶対言えない）
子供達は全員そろい、ミカエル達までやってきた。
「王妃、ハロルド様とついにそうなったんでしょう？ よかった。我々もうれしいですよ」
ミカエルはうれしそうである。
「なんでうれしいの？」
とゆりは聞きたくなった。
「だって、前回はそうならなかったから王妃が落ち込んでいたじゃないですか」
「いや、そういう理由で落ち込んでいたわけじゃないけど」
「ガーベラではない王妃に興奮してくださったんですから、我々もうれしいですよ」
ジュノーが言った。
「私はいずれこうなると思ってましたよ」
とシャナーン。
「とにかくよかった」
「よかった」
男達はみなほっとしたような感じである。心の底では心配していたようだ。
「じゃあお母さん、パーティーを始めようよ。過去の時代のディラン達もいれればもっとになるけど、今のお母さんは恋人11人だよ。おめでとう！」
ラギが拍手をして、他のみんなもそろって拍手をしていた。
「ごちそうだ！」
ロイはさっそくケーキを口に入れている。
ミシェイラとレーヌもそれに続いていた。
「9人から先はなかなか増えなかったけど、大物が二人もきたからすごいよね」
シスも喜んでいる。
「パパと、ミカエル、フリット、ヴィラ、ジュノー、ミルキダス、イシュタール、シャナーン、ハインリヒで9人。ラーズ様とハロルド様はどっちが先？ 儀式をしたからラーズ様の方が先になるの？」
ナナミが聞いた。
「ハロルド様が後でいいんじゃない？」
とラギ。
「ディラン達はもう恋人じゃないの？」
アナスターシャがゆりに聞いた。
「え？ 恋人じゃないこともないけど、まあ心の恋人というか……」
「じゃあ、ディラン、フークス、ルーク、レイアス、それにドルイドは心の恋人ってことにして、全部入れたら16人ね」
アナスターシャが明るく言った。
「昨晩は、ハロルド様が突然いらしたんですか？」
ハインリヒがゆりに聞いた。
「え……はあ、まあ……」
ゆりは冷や汗が出そうだった。
「神様が二人も恋人なんて、お母さん、歴史に残るね」
「うん、残るね。さすが僕らの母様だよ」
子供達はすっかり喜んでいるので、ゆりは何も言わなかった。
途中蛇の目のゆりが現れて、男達は再びゆりに「おめでとうございます」と言っていた。
「王妃は昨晩もハロルド様と仲良くしたんですか？」
ジュノーが聞いてゆりは、「えーいや、してない」と答えた。
「昨晩は黒目の王妃だけだったんですか？」
「うん」
（昨晩はラーズとしちゃったけど、やっぱり内緒なのかな。ラーズよかったなあ）
蛇の目のゆりは、昨晩のことを思い出してにやけそうになり、口元を手で覆っていた。
「歴史に残るのはいいけど、まさか歴史書に載せたりしないでしょうね。神様のことは外部にばれたら困るわよ」
ゆりがラギに言った。
「王族だけが見る歴史書だけには載せてもらおうよ」
「そんなのあるの？」
「どうせなら、ガーベラ様の恋人、全員母様の恋人にしちゃったら？」
ナナミが気楽に言っていた。
「神様だけで儀式をしたら、すごい蛇がきそうね」
とアナスターシャまで言っている。
「想像しただけで鼻血が出そう」
蛇の目のゆりはついその場面を想像してしまった。絶対そんな展開になることはないだろうが、神様の恋人を増やすことは可能かもしれない。
「王妃、神様にばかりうつつを抜かさないでくださいよ」
ミカエルに釘をさされ、ゆりは「まさか、みんなの方が大事よ」などと言っていた。
「怪しいなあ」
ハインリヒはぼそりとつぶやいていた。
男達は忙しそうだったのでパーティーはそこそこで終わり、黒目のゆりはパーティーの料理を部屋にもってきてもらい、部屋で食べた。子供達はまだ広間で乾杯しているようだ。
とてもじゃないがあそこで何か食べる気にはなれなかった。母親の浮気のお祝いを子供にされるというのも妙なものである。
「なんであんなことになったのやら。さっぱりわからない。でも、神様が恋人って確かにすごい。昨晩のことは夢じゃないのかあ……」
今回は体に余韻も残っていた。ハロルドにはかなり激しくされた記憶もある。
「改めて考えるとすごすぎる夜だったなあ」
ゆりは独り言を言いながらサンドイッチを食べている。お腹いっぱい食べて紅茶を飲んでいると侍女がやってきた。
「王妃様、熱いお風呂の準備ができておりますが、いかがですか？」
「入る入るー」
ゆりは喜んで熱いお湯に浸かったのだった。
体がぽかぽかのまま部屋に戻ると、椅子に座ってミカエルが待っていた。
「王妃、一緒に来てください」
ミカエルはゆりに触れた。
「いいけど、仕事じゃないの？」
ゆりは瞬間移動させられて、次の瞬間には目の前に男達がずらりと並んでいたので驚いた。ここは儀式部屋である。部屋の中は暖かかった。
「え？ あれ？ みんな仕事じゃなかったの？」
「王妃、せっかくなのでお祝いに儀式をしましょう」
ミカエルが言った。
「ええ！？」
『やったーへび、いっぱい！』
「え？ なんか声が聞こえた？」
ゆりはきょろきょろ回りを見ている。
「赤ちゃんも望んでるんじゃ、するしかないですね」
とハインリヒ。
「え？ 今の赤ちゃん！？」
「赤ちゃんですね」
ジュノーが微笑んだ。
「王妃、がんばって女蛇を降ろしましょう」
ミカエルはゆりの両肩に手を乗せた。
「えー！！！ 今２の月よ。来月まで精力おいとかなきゃ！」
「大丈夫ですよ。それに王妃の昨晩を想像するだけでムラムラしちゃって」
ミカエルはゆりの体を抱き上げて、ベッドに運んでいた。
「ちゃんと暖かくしておきましたから、裸になっても平気ですよ」
とハインリヒ。
「えーえー日を改めてってわけには……」
「今日がいいんです。もうくじで順番決めちゃいましたし」
「最初は私ですよ」
言ったのはフリットである。フリットの肌にはすでに薄く青い蛇の鱗の模様が所々に浮かんで見えたので、ゆりはぎょぎょっとしていた。
「え？ もう蛇様出てない？」
「出てないですよ。私ですよ」
「嘘ー」
フリットは服を脱いでいる。
「なんか熱くなってきましたね」
ジュノーも服を脱いでいた。
「裸になるからちょうどいいだろ」
とハインリヒ。
「せめて夜にしようよー」
ベッドに乗ってくるフリットを制しながらゆりが言った。
「せっかくみんな集まったんですから」
フリットはゆりにちゅっとキスした。
「でも、でも……」
「なんなら、あちらの王妃に変わってもいいですよ？ 儀式にはならないでしょうが、そうします？」
フリットはゆりの耳元でこそっと言った。
「え？ やだ」
ゆりはとっさに言っていた。
「じゃあ、王妃が我々と仲良くなりたいんですね？」
「う……うん……」
「じゃあそうしましょう」
「うん」
（絶対蛇様混じってる）
フリットはゆりに口づけながら、ゆりの服を脱がしていった。
やっぱり儀式がしたい。みんなと愛し合いたい。みんなのことも大事だもん
ゆりはフリットを見ているうちにそう思ってしまった。ゆりはすっかり裸にされて、肌をまさぐられた。
金色の蛇達も、色を取り戻している。
フリットとしばらく舌をからめあっていたら、ゆりは結構その気になってきた。フリットがゆりの体を離した。
「いや、もっと抱きしめて」
「他の場所にも口づけたいんですよ」
「いや」
「私が抱きしめますよ」
シャナーンがベッドにあがり、ゆりに口づけた。フリットはゆりの足を広げて、足の付け根を指で広げていた。
「ハロルド様とは何度したんですか？ すっかり赤くなってますよ」
フリットは入り口を指でなぞり、顔をうずめて舌で愛撫した。
「ん……んん……」
ゆりの腰が動いている。
「私はなぜ8番目なんだ」
ミカエルはベッドの傍らでぶつぶつ言っていた。
「何か細工したろ？」
ミカエルはヴィラに言っている。どうやらくじをつくったのはヴィラらしい。
「あなたじゃあるまいに」
「しかし、これは新変化とでもいうべきかな？」
ジュノーが言った。
フリットの次に、シャナーンの肌にも蛇の鱗の模様が浮かんできている。
「足……足……」
ジュノーが横を見ると、イシュタールの肌もそうなっている。
「新変化か……妙な気分だな。一族の力がもっとも衰えた時代でこんなことになるなんて」
言ったのはハインリヒである。
「愛の力ですよ」
ジュノーが言った。
「愛ってすごいな」
ハインリヒが感心しているとゆりの腰がびくびくっとけいれんしていた。
「フリット、交代だ」
ミカエルが言い、フリットはベッドから降りた。
「王妃、愛してます」
シャナーンの本格的な愛撫が始まった。
部屋の中にはあらかじめ酒の用意もされていた。フリットは酒を杯に注いで飲んでいる。
「フリット殿なんですか？ 蛇様なんですか？」
ヴィラがフリットに聞いた。
「私だよ」
とフリット。
「王妃の匂いがすごいな」
ジュノーも酒を飲みながら言っている。ゆりは興奮し、かなりいい匂いを発散していた。
フリット、シャナーン、ジュノー、ヴィラ、イシュタール、ハインリヒ、ミルキダスの順にゆりにひっつき、熱烈にキスし合ったり愛撫されたりもしたが、なかなか女蛇はやってこなかった。
イシュタールにいたってはゆりの足ばかりなでていたので、ゆりの方が抱きついている。蛇の影響が出ているのか、男達の性格もちょっと変わっているようだ。
とうとうミカエルの番になった。ミカエルはゆりの肌にお酒を垂らしていた。
「つめたい」
「みんながなめまくったから、ちょっとお酒で洗いますね」
ミカエルはお酒を垂らしてゆりの肌をタオルでなでた。
「綺麗になりましたよ」
ミカエルはゆりの胸を舌でなめた。
「酒好き蛇様こないですかねえ」
ミカエルはゆりの胸をなでながら、ゆりにキスし、指をゆりの下半身へと移動させていた。
「ミカエル……好き……」
「私はずっと王妃のことが好きですよ」
ゆりの手がミカエルのパンツを触っていた。
「あのね、もうね」
「口でしたいんですか？」
「うん」
「王妃、ミカエルはそれも最後なんですよ」
フリットが言った。
「え？ これも最後？」
とミカエル。
「全部最後」
「ひどい。せめて一杯ちゅーしましょう」
ミカエルはゆりに口づけた。
ジュノーは自分の手足を見て、回りをみた。男達の肌には少なからず蛇の鱗が浮かんでいたが、ミカエルだけ出ていない。
「どうしてミカエル殿は新変化しないんだろう？」
「そうだな。全然出てないな」
ジュノーとヴィラが不思議がっていると、フリットが、「強情だからだろ」と言った。
「強情……それとも、ミカエル殿の蛇様は、やっぱり王妃に興味がないのかな？」
ジュノーはゆりに聞こえないように小声でぼそぼそ話している。
「そんなことはないと思うがな」
「実は恥ずかしいんじゃないか？」
とハインリヒ。
「ミカミカー」
ゆりがミカエルに抱きついて言い出した。
「え？ ミカミカ？」
ミカエルもきょとんとしている。
「ミカミカが出てこなきゃ儀式ができない。ミカミカ、出てきて」
「はい？」
「だって一人だけ違うもん」
「はあ……そう言われましても……」
「ミカミカ、恥ずかしがってないで出てこい」
ハインリヒが言った。
「王妃様のご命令だぞ」
とフリット。
「おいおい」
「ミカミカ……じゃあ私はイシュイシュ？」
イシュタールは自分の呼び名を気にしている。
「せっかくだからみんな一緒に新変化しましょう」
ジュノーが誘っている。
「ミカミカ、出てきて」
ゆりはミカエルをじーと見上げている。もはやミカエルも新変化しないと儀式にならない、そういう雰囲気である。
「まいったなあ……」
ミカエルはかなり困っている。
「ミカミカ……」
やがて、ミカエルの肌にうっすらと紫の鱗がうかんだ。
「ミカミカ……会いたかったよ」
ミカエルはゆりの頭をなでなでして、ベッドから降りた。
「じゃあ交代」
「えーミカミカってば」
ゆりは驚いてミカエルの手を引っ張っている。
「なぜわざわざ呼ぶ？ 君はマゾなの？」
「え……だって会いたかったんだもん」
「私はミカエルのおまけみたいなものなんだ。会いたがるな」
男達は珍しいミカエルにあっけに取られている。
「ミカミカ殿は、照れてるんですね」
シャナーンが言った。
「照れ隠しにそんなことを」
「違う」
「強情なんだろ」
とフリット。
「それも違う。おい、そこですました顔で座ってるお前、元はといえばお前のせいだぞ」
ミカエル蛇が指をさしていたのはミルキダスである。ミルキダスはぽかんとした顔をして、自分自身をさしていた。
「私ですか？ 私が何かしましたっけ？」
「お前の蛇が最初に暴走したんだろ！」
「それと、ミカミカ殿が王妃に冷たいのと何か関係があるんですか？」
ミルキダスはさっぱりわからないといった顔付きである。
「お前に触発されてみんな出てくるようになったんだ」
「え？ そうだったんですか？」
ミルキダスは驚いていた。
「いや、一概にそうとも言えないだろう。少なくとも私の蛇は、王妃に会いたくて出てきたんだと思う」
フリットが言った。
「私の蛇もそうですよ」
とヴィラ。
「本当は王妃を愛してるんでしょう。素直になったらいかがですか？」
シャナーンが言った。
「余計なお世話だ」
ゆりが背中からミカエルに抱きついていた。
「あなたが金蛇に優しかったの知ってるんだから。私も優しくされたい」
「はあ？ 私はおまけ……」
ゆりはミカエルの腰に腕を回したまま離れようとしない。男達の目が「優しくしろ」と訴えている。
「めんどうだな」
ミカエル蛇はぼそっと言っていたが、やがてゆりの腕をひっぱって自分の胸に抱き寄せた。
ゆりはうれしそうだったので、男達の目もほんわかしていた。
「もう女蛇きてるんだろ？ 早く儀式に移ってくれ」
ミカエル蛇が言った。
「まだいてくれる？」
「いや……じゃあ……ちょっとだけ」
ミカエル蛇は仕方がないと思ったのか、そう言った。
「ありがとう」
ゆりはにこりと微笑んだ。確かに目尻が少し上がっている。ミカエルはきょとんとした顔をしていた。
「今、私何か言ったか？」
「別に何も」
とジュノー。
「本当かあ？ あ、鱗出てる」
ミカエルは自分の腕を見て驚いている。
「王妃、私もみんなと同じになってますよ！」
「うん。ありがとう。みんな大好き。じゃあこれから儀式よ」
ゆりが陽気に言いだした。
「どの蛇様だろう？ 酒好き蛇様じゃないのかな？」
ミカエルはゆりを見て首をかしげている。
「みんな、会いたかった」
ゆりは裸のまま、男達の手を握っていた。
「久しぶりに会えてうれしいわ」
『神様じゃないのは残念だけど……なんだかみんなの様子も違ってるし、まあ今日はいいかあ』
ゆりの中の女蛇はこんなことを言っていた。
「酒好き蛇様だわ」
ゆりが言った。
「会いたかったですよ」
ミカエルが一番に反応してゆりを抱きしめている。
「今日はお酒をそこそこでいいの。いっぱい愛し合いましょう！」
「そうしましょう！」
「こらこら、二回目のくじは私が最初だ」
ハインリヒがミカエルを制していた。
「くそー」
ミカエルは二回目のくじも8番目だったのだ。
こうして、ゆりと男達のふれあいも濃厚なものに変わっていった。
「王妃、とってもステキですよ」
「愛してますよ」
「私も、みんなのことが大好き（来月の分まで精気を奪ってやる！）」
ゆりは手と口で積極的に愛撫しまくった。
「王妃……熱烈ですね……」
男達は気持ちよさにうめいている。
「ああ……はあ……気持ちがいい……」
「イシュタール、太ももで挟んであげる」
「太もも……いい……」
イシュタールは自分の下半身をゆりの太ももに挟んで腰を動かし、愉悦の表情を浮かべている。
「ああ……」
イシュタールが達して体を離すと、今度はハインリヒが後ろからゆりにひっついていた。
「私はすれすれのところで」
男達は何度も達し、部屋の中には怪しげな気配が充満していた。
夕方になると城の周りには蛇霊神がうろついていた。
「やった、儀式だあ！」
蛇霊神を見たラギが喜んでいる。
その頃たまたまハザークの部屋で酒をもらっていたディーンは、あやしい気配に気づいて窓を開けて城の方を見ていた。
「なんだか雰囲気が変じゃないか？」
「儀式があるんだろう」
「儀式って？」
「お前がやってきたあれ」
「ああ、そうか。あれかあ。ゆりちゃんが男達と仲良くしてるのか。いいなあ。俺も入ってみたいなあ」
ディーンは興味津々である。
「だめ」
「いいなあ」
「寒いから閉めてくれ」
「はいはい」
ディーンは窓の扉を閉めた。
儀式部屋では、ゆりの体に二匹青い蛇がやってきて儀式は終わった。
意識を失ったゆりは毎度のごとくミルキダスとフリットに連れられて行った。残った男達は抜け殻のようにげっそりしている。
「今日の王妃もすごかったなあ。いっぱい興奮してしまった」
ジュノーが言った。
「こんなにしたら来月無理かも」
ヴィラはぷっと笑っている。
ミカエルは自分の手足を見ていた。
「鱗が消えた。途中記憶がないんだが、私なんか変だったか？」
ミカエルが他の男達に聞いた。
「鱗の模様が強く出てるときがあったから、その時ミカミカが強く出てたのかもな」
ハインリヒが言った。
「ミカミカ殿も、本当は王妃のことを心底愛してるんですよ」
とシャナーン。
「ところでなんでミカミカ？」
「蛇同士仲良くなれなかったのは残念だなあ」
ジュノーが言った。
「そうだな」
ヴィラが答えた。
「やっぱり昔の時代とは違うのかな。我々の蛇は出ることができないからなあ」
ハインリヒは過去でした儀式を思い出して首をかしげていた。
『きたよ、へびきたよ！』
夜、うれしかったのかゆりの中の赤ちゃんはまたお腹から出ていた。ラクシュミの休憩室にやってきたので、子供達も見に来ている。
「一日に二回も出るなんて、元気〜」
アナスターシャは感心している。
『へびきた』
「よかったな」
「よかったねえ」
ラクシュミは赤ん坊の塊っぽいのを膝に乗せていた。赤ちゃんはとてもご機嫌のようで、子供達もラクシュミも、微笑ましげに赤ちゃんを見ていたのだった。
「ねえ、起きて」
「うーん」
「ねえ」
目を開けるとまぶしかった。随分長いこと眠っていたゆりは、なかなか目がぱっちりあかなかった。ゆりは目をこすって目の前にいる人物を見た。
クーリーフンである。
「あれ？ クーリーフン？」
「随分髪が伸びたね。別人かと思ってびっくりしたよ。一体どうしたの？」
クーリーフンが聞いた。
「え？ あ、ほんとだ。昨日儀式をしたせいだわ」
ゆりの髪はかなり長くなっている。ゆりはよいしょと体を起こした。
「儀式？」
「クーリーフンはどうしたの？」
「ラーズに頼まれてさ、贈り物だって。ついにハロルドとラーズ同時に仲良くしたんだって？ すごい勇気だね」
「いや、成り行きで……」
というとクーリーフンの目が細まった。
「そんなつまらない言葉は使わないで」
「望んでこうなりましたあ」
ゆりは言い直した。
「よろしい。じゃあこれ」
クーリーフンは麻袋の中身を取り出した。ゆりはわくわくして正座している。
「まずははいこれ」
クーリーフンは、小さい巻き貝をゆりに渡した。ゆりはそれを耳にあてた。
『とっても好きだよ。ゆり』
「ひゃああああああ」
ゆりが変な声をあげたので、クーリーフンはびっくりしていた。
「ごめん。つい。これは宝物にしよう」
ゆりは巻き貝をなでなでした。
「あと、はいこれ」
クーリーフンは直径20センチほどの大きな石の塊のようなものを袋から出していたが、灰色の石の内側にはいろいろな色のごつごつした小さい宝石の柱のようなものがびっしり入っていた。
「えーこれ、宝石の原石じゃないの？」
ゆりは驚いている。
「そうかも」
「そうかもって……高いんじゃないの？ もらってもいいのかなあ」
これを解体したら、いっぱいアクセサリーができそうである。
「いいんじゃない？ かなり昔に人間がラーズに献上したものみたいだよ」
「それを私がもらっちゃうなんてなんか悪いな」
「いいよ。ところでさ、ラーズとハロルドは君の体にまいったの？」
クーリーフンは真面目な顔をして聞いた。
「え？」
「ガーベラでしょ。君自身でも彼らを参らせないと」
「はあ……」
「受け身なだけじゃだめだからね」
「はい」
「じゃあ僕は行くよ。じゃあね」
「ありがとう」
クーリーフンは空になった袋を持って去って行った。
「すごいものをもらっちゃった。でも一番ラーズの声がうれしい」
ゆりは何度も声を聞いて一人でにやついていた。
ゆりはラーズからもらった宝石の原石を自分の部屋の棚に置いた。かなり存在感がある置物である。当然部屋にきた子供達はすぐに宝石に気づいて「これなに？ どうしたの？ ハロルド様にもらったの
？」と聞いてきた。
「ラーズにもらったのー」
「ラーズ様？ なんでラーズ様？」
「秘密」
「綺麗。母様、私が女王様になる時にこれちょうだい」
アナスターシャが言った。
「だめよう。私が死ぬまではここに飾っとくもん」
「じゃあ死んだらちょうだい」
「こらこら」
ラギが呆れている。
「アーねーずるい。みんなで平等にわけなきゃ」
ナナミが言った。
「わけちゃだめだよ」
とラギ。
部屋にラクシュミがやってきた。どうやらこどもたちに聞いたようだ。
「ほーすごいものをもらったな」
ラクシュミもしげしげと大きな宝石を眺めていた。
「一昨日仲良くしたのはハロルドなんだろう？ なんでラーズからもらったんだ？」
「それは、子供の前では言えません」
「あやしい」
言ったのはやはりラギである。
「さては、一昨日ラーズもいたんだろ」
「え」
ゆりはぎくりとしていたので、すっかりばれてしまった。
「ゆり……お前ってやつは……ハロルドとラーズを同列におくんじゃないと言ったろ？ そのうちハロルドがへそを曲げるぞ」
「私が望んでそうなったわけじゃ……」
「じゃあいやいやだとでも言う気か？」
ゆりはクーリーフンの顔を思い出し、「本当は、私が望んでそうなったんだけど、でもハロルドは怒ってなかったし、いろいろ事情があって……」などと言っていた。
「あ、わかった。儀式を狙ったんでしょ。お母さんってばすごいね」
ラギは感心している。
「儀式にならなかったから、昨日はミカエル達とやったんだね」
シスも納得していた。
「神を儀式の一員に加えるとは……お前って女は……」
ラクシュミはゆりを恐ろしげに見ている。
(違うけど、なんだか否定するのも面倒になってきたわ）
「二人とも恋人だからいいの。それに、良い儀式のためには手段を選んでられないの」
ゆりはラクシュミにそう言った。
「妻の鑑でしょ？」
「鑑……そうか。だがゆり、神様はほどほどにな。怒られないようにな」
ラクシュミはそこを心配しているようだ。
「わかってるわ。大丈夫」
「さすが国一番の巫女……」
ラクシュミはそうつぶやいて去って行った。
ハロルドの他にラーズまでいたという話は男達にも広まってしまった。
神様二人を同時に相手したのだから、男達は一様にゆりに感嘆していた。こんな王妃はどこを探してもいないに違いない。
「王妃、そんなに最後までしたいなら我々としてくださいよ」
ハインリヒはゆりにそう言っていた。
「ハロルド様では物足りずにラーズ様まで一緒に誘うとは……王妃、さすがにそれは歴史書には書けないですよ？」
ミカエルにそう言われたゆりは、「絶対書かないで！」と答えたのだった。
つづく
十一部
目次