第８話
夕方、ハインリヒがゆりの部屋にやってきた。
「今夜のことなんですが、儀式の部屋にいてくださいね」
「あのーハインリヒと二人っきり？」
「いえ、男は全員来ますよ」
ハインリヒは笑顔で言った。
「え？ 全員？」
「儀式になるようにがんばりましょう」
「儀式？」
ゆりは瞬いている。
「赤ちゃんが私に訴えてきたんですよ。儀式してトーって」
「えーそうなの？ 知らなかった」
「そういうわけなので、後で会いましょう」
「はーい」
ハインリヒは部屋を出て行った。
「赤ちゃんったら、いつハインリヒに訴えたの？ 儀式がしてほしいんだ。そうと決まれば……」
「お肌のお手入れをしましょう♪」
侍女が二人部屋に入ってきて、ゆりは爪を整えられたりウブ毛を取られたりと、肌の手入れをされたのだった。
今宵も良い月が夜空に輝いていた。
子供達からは、「儀式だって？ がんばって」と応援された。ラクシュミからも、「がんばれ」と声をかけられた。
誰かから話を聞いたのかもしれない。
「うまい具合に女蛇さんが誰か来ればいいけど……」
（なるべくめんどうじゃない蛇さんがいいなあ……）
などと思いつつ、ゆりは儀式の部屋に歩いて行った。
儀式部屋の中は真っ暗で、ろうそくの火も何もついていなかった。
「あれ？ 準備してるはずだけど……」
カーテンもぴったりと閉まっていたので、ゆりは月の光を入れようとベランダに近づいて、手を制された。
「王妃、今日は暗闇の中しましょう」
ハインリヒが横に来ていた。
「えー何も見えないわよ？」
「たまにはそういうのもドキドキしていいじゃないですか」
「そうかなあ……」
「王妃、こんばんは」
シャナーンの声が聞こえてきた。
「こんばんは」
次に聞こえたのはミルキダスの声である。
姿はうっすらと見えるが、はっきりとは見えない。
「こんばんは。みんなの顔がみたい〜」
「今日もかわいいですよ」
シャナーンが近づいてきたので、ゆりはシャナーンに抱きついた。
「シャナーン♪」
蛇の目のゆりが表に出てきた。ゆりはシャナーンにキスしている。
「王妃、こんばんは。王妃もかわいいですよ」
「シャナーンもステキ」
ゆりは次にミルキダスにもひっついていた。
「今日は暗い中でひっつくの？ なんか企んでる？」
蛇の目のゆりがハインリヒに聞いた。ミルキダスはゆりの腰に両手を回している。
「たまに違うことをするのもいいかなあと思いましてね」
「儀式になればいいね」
フリットが部屋にやってきて、ゆりはフリットに手を振っていた。
「王妃、こんばんは」
「こんばんは。今日はみんなの蛇さんが出てくるのかなあ。それも期待。 それじゃがんばってねー」
蛇の目のゆりは引っ込んだ。
男達は次々と集まってきた。相手の姿がはっきり見えないというのも落ち着かない。髪の色が明るい男達はうっすらと見える程度である。
「じゃあ王妃、これ」
ハインリヒはゆりの目の辺りに黒い布をまいていた。
「えー何をするの？」
「今日は新鮮な気分でひっつきましょう」
「はあ……」
目に布をまかれてしまったので、男達の姿もおぼろげにも見えなくなってしまった。
「じゃあ始めましょう。無事儀式になりますように」
ハインリヒが祈るように言って始まった。
ゆりがベッドに座っていると、一人目の男が横にやってきて、唇を寄せてきた。
（うーん、誰だかわからないってのはドキドキするけど……姿が見えなくても髪を触れば……）
ゆりが男の髪に手を伸ばそうとすると、手をぱっと握られて制されてしまった。
（えーこりゃだれだ？ 唇だけじゃ、わからん）
「あのー誰だか分からないといらいらしてくるんだけど」
「そうですか？ ドキドキしないですか？」
離れた所からハインリヒの声が聞こえてきた。ということは、側にいるのはハインリヒではないようだ。
「ドキドキはするけど、違うドキドキっていうか……」
ゆりは男の手を触りまくった。
「わかった。ヴィラかジュノーのどっちかだ」
男の手の大きさや指の太さなどで、ゆりはそう感じた。
そのどっちかはゆりのガウンを脱がせて裸にし、ゆりをベッドに横たえていた。
口づけをされていたらなんだか昔の記憶を思い出した。
暗闇の中、誰だか分からない男に触れられた夜のことである。あんなことは初めてだったので、心臓が自分でも分かるほどドキドキして、緊張していた。
あの時は、こんなに恋人ができまくるなんて思ってもいなかった。
（ドキドキしてきた。ヴィラの方かも？）
「思い出しますね」
耳元で小声でささやかれた。
（やっぱりヴィラだ）
軽く興奮させられて、体を離された。
「次交代しますね」
「うん……」
次の男が上に乗ってきた。背中に腕を回してすぐ誰だかわかった。
「ミカエルだ」
「すぐ分かるなんて愛ですね」
ミカエルが言った。
「ねえ、他のみんなはどうしてるの？」
「好きにしてますよ。お酒を飲んだり、ただ座ってたり。まずは軽くいちゃいちゃしましょう」
「ミカエルの声も好き」
「全部好きでしょ？」
「うん」
視界を遮られているせいか他のみんなのことがあまり気にならない。男が代わるごとに、ゆりの興奮度も増しているようだ。
「この体つきはイシュタールね」
「そうですよ。布団を焼かないようにしなきゃ」
「ふふ」
男達はひと通りゆりにひっついた。
（体をじっくり見られなくていいのは良いかも）
「では王妃、もうちょっと激しく行きましょうか」
ハインリヒの声が聞こえてきた。
男が二人寄り添ってきた。
一人は胸に触れながら口づけてきた。もう一人は、ゆりの足をなでて広げている。
「あ……」
男の指が足の付け根に触れた。ゆりの下半身への愛撫が始まり、ゆりの足がびくびく揺れていた。
（誰だか分からない。だれだろう……）
指で軽くなでられて、体の中へと男の指が入ってくる。
「王妃……頬が真っ赤でかわいいですよ」
口づけていたのはシャナーンのようだ。
「下はだ、だれだろう？」
男の舌がゆりの下半身へと触れて、ゆりは「ひゃっ」と声を出していた。
「気持ちいいですか？」
ジュノーの声が聞こえた。
「誰だかわからないと緊張しちゃう」
「安心してください。あなたの恋人しかここにはいないですよ」
「そうだけど……一人知らない男がいるとかいうオチはやめてよ？」
「まさか」
ミカエルが笑ってる声が聞こえてきた。
「途中で明るくしてあげますよ。暗いから、思いっきりよがってもいいんですよ」
「やだ」
「ほら、王妃もっと感じて」
ジュノーの指が激しく体の中で動き、ゆりの腰が揺れた。
「じゃあ交代」
二人とも男が代わった。
こんな調子で二人ずつとひっついていたのだが、ゆりの体は汗ばんできていた。
（やばい、なんかもっとしたくなってきた。もっと、もっと……男としたい……ん？）
そんなことを感じつつゆりは自分でも疑問に思った。
（もしかして、誰か来たかも？）
「もっと奥に欲しい〜」
指がぐっと奥に入ってきて動き、ゆりは感じていた。
「気持ちいい」
（もっと太くて硬いものがほしい〜〜〜〜早く〜）
ゆりは口に出しそうになり抑えていた。
―やっぱ誰かきた。しかも初めての方かも？
ゆりはどうもそんな気がした。まだ知らない女蛇がいるようだ。
―よろしく。楽しい儀式にしましょう♪
―悪いけど、体を入れるのナシなの
―え？ なんで？
―そういう決まりなので……
―えーーーーー！？
ゆりは、というよりも女蛇は自分の目隠しをぱっと取っていた。
「あ、王妃ってば」
「順番にみんなとするう！」
「え？」
「一番はだれにしようかな。えーと……」
ゆりは男達を見回している。
「……なんだか、この女蛇知ってる気がする」
ゆりが言った。
「前に降りてきた女蛇さんじゃないんですか？」
フリットが聞いた。
「今まで我々と儀式をしたことあります？」
ジュノーが聞いてみた。
「初めてよ」
女蛇が答えた。
「でもなんだか知ってる気がする」
ゆりが続けて答えた。
「気のせいよ。初めてだもん」
―本当に初めて？
―うん
―うーん……じゃあなぜ知ってる気がするんだろう？
―気のせいよ。私はすっごいんだから。おいそれと降りてこないの
―そうなの？
ゆりは首をかしげている。
ヴィラがちょっと考えて言った。
「儀式をした蛇さんではないのなら……もしかしたら、『ジャムラ』が好きな蛇さんでは？」
ヴィラの言葉にゆりは瞬いていた。
「え、それやばいのでは……」
とジュノー。
「ジャムラってなんだ？」
フリットが聞いた。
「かなり前、建国祭の後王妃が体調を崩した原因だった、女蛇さんが好きなお酒ですね」
ヴィラが説明した。なんとも懐かしい話である。その頃まだシャナーンはゆりの恋人ではなかった。ハインリヒはこちらにも来ていない。
「ばれちゃった？ あの時はごめんなさい。もうあんなことしないからそんな顔をしないで」
ゆりの顔がしょんぼりしてきた。どうやら当たりらしい。
―げえええええ！
ゆりは心の中で絶叫している。
「ザクート様とも悪さしないって約束したし、それにこの巫女はあの時とは違うから、もう私の好きなようにはできないわ」
「本当ですか？」
ミカエルが聞いた。
「本当よ。儀式が終わったらちゃっと出て行くから。ね」
「約束ですよ」
「うん」
「王妃、大丈夫ですか？」
ヴィラが聞いた。
（まさかあの時の女蛇とはーーーー！）
ゆりは心の中でまだ絶叫中である。
（あの時大変だったんだからねーーー！）
―昔の話じゃないの。それに今日はあの時のことをわびるためにも、協力するからあ。ね、ね♪
―うーん
ゆりはうなっている。
「うーんうーん」
ゆりは声を出してうなりだした。
―ごめんってばーあの時は男とやりたくてしょうがなかったの。今もだけど
―私と儀式をしても最後まではできないわよー
―なんで？
―だからそういう決まりなの！ 軽くいちゃいちゃして終わりなの
―えーつまんない
―じゃあお帰りください
―えー……私が興奮したらすっごい蛇が来るのになあ……本当にすっごい蛇が来るわよ
―はいはい
―本当にほんとーにすっごい蛇よ
「はいはい」
ゆりはつい声に出していた。
どうやら女蛇と交渉中のようだ、と男達はわかっていたのか、みな黙っている。
「強情な女だわ。私のありがたみがわかってないんだから。まあいいわ。せっかくだから男の肌に触れたい！」
ゆりはすぐそばにいたフリットに抱きついている。
「いいのかなあ？」
ジュノーが戸惑いつつ言った。
「王妃、どうしますか？」
ハインリヒが聞いた。
「うーん、前ほどやな感じはないけど……とりあえず続行してみる？ だめならだめで」
―良い巫女なら意地でも成功させなさいよ。そのためならなんでもするのが巫女でしょ
―はいはい
ゆりは聞き流していた。
確かに、ゆりはあの時とは違う。巫女としてかなり成長しているはずである。あの時のように女蛇にやりたい放題されるなんてことにはならないだろう。
（いざとなったら、ハザーク様とかカーライル様とか、ディーン君がなんとかしてくれるだろう）
ゆりはそう気楽に考えた。
「決まり。続行しよう！」
「いいのかなあ？」
ヴィラはちょっと不安そうだ。
「私はあの時とは違うわ。巫女として成長しまくってるから。だから大丈夫！」
ゆりが胸を張ると、男達もなんとなく安心していた。
「じゃあ夜は短いから始めましょう」
「はあ」
すっかりお互いに興奮が冷めてしまったので、再び軽い愛撫から始まった。
再び盛り上がるのに時間がかかったが、それなりに盛り上がってきた。
ゆりが口での愛撫を始める頃、部屋の中にはいい匂いが充満してきた。男達の気持ちは嫌でも盛り上がり、変化している者もいる。
「ああ……王妃……」
―これは良くて体はだめってなんで？
女蛇は腑に落ちないようである。
―私流なので
―変な人〜もーいいもん！
「ミカエル、胸でしてあげる〜来て〜」
女蛇は勝手に愛撫を加え、男達を喜ばせていた。
「うーん、なんだか、普通にするよりこっちの方がすごい気がしてきたんだけど……」
男達に口で愛撫するのも女蛇は嫌ではなかったようだ。結構積極的である。
「昔ね、男にこういうことして、変態呼ばわりされたの。ひどいと思わない？」
「それはひどいですね」
ミカエルが言った。
「あれはすごく傷ついたの」
「変態じゃないですよ」
「うん。私のこと、好きになってくれる？」
ミカエルはゆりの頭をなでなでした。
「あなたはかわいい女蛇ですよ」
女蛇はハインリヒを見ていたので、ハインリヒは「かわいい」とゆりの頭をなでていた。
「本当？」
「かわいいですよ」
「じゃあすっごい蛇を呼んであげるね。この時代じゃ、呼べるのは私だけよ。――――――！」
女蛇は古代語なのかよくわからない言葉を最後に叫んでいた。
城の上空に暗雲が立ちこめていたが、部屋の中にいる男達にもゆりにも分からなかった。
やがて、ぬっと大きな金と銀の縞模様の蛇が部屋の中に入ってきて、男達はみなびっくりしていた。なんとも美しい蛇である。
『お兄ちゃん、お久しぶり！ 会えてうれしいわ！』
ゆりは蛇に両手をあげている。金と銀の蛇霊神は、ゆりに顔を寄せていた。
『この子を守ってね。お兄ちゃん』
蛇はゆりのお腹に吸い込まれた。
「私が一番よ。ね。わかったでしょ？」
ゆりの中の女蛇はにんまりと笑って、そのまま意識をなくしてしまった。
「あ、王妃！」
「すごい蛇だったな……」
イシュタールは度肝を抜かれた顔付きである。
「ああ、びっくりしたな……」
男達は一気に興奮が冷めた顔付きで、一様に驚いていたのだった。いわく付きの女蛇だったせいか、男達はちょっと女蛇を警戒していたので、興奮しまくって肌の蛇が出まくった、という
わけではなかった。一応変化はしていたのだが。
「無事終わってよかったな」
ジュノーが言った。
「ああ、そうだな。しかし、あの蛇様がまた来るとは……あれからもう２０年近く経ってるのか。確かに、今の王妃ならあんな風にはならないかな」
ヴィラはそう思った。
毎度のごとく、フリットとミルキダスがゆりの体を綺麗にしていたが、ゆりはすっかり意識をなくしていた。
その後王の寝室に運ばれていたが、気づいてはいない。
『これ……これ、大丈夫か？ 起きよ……』
頬をなでられてゆりは目を覚ました。が、ここは現実世界ではない。
目の前には金色の長い髪に銀の髪が所々に混じった、不思議な雰囲気の男が立っていた。髪は頭の後ろで縛られていて、顔に一房長い前髪が垂れ下がっている。
長身で、白いゆったりとしたローブ状の服を着ているが、腰紐や裾、襟元には金の模様がついていた。
吊り目で瞳は金色である。雰囲気からして、なんだか人とは思えない。が、位は高そうな人物である。
「あなたはどなたですか？」
ゆりは聞きながら周りを見た。当たりは真っ白である。
「わしは先ほど入った蛇よ。妹に呼ばれてな……妹が巫女に入る時は我ら兄弟がやってきてやるという約束でのう。少々困った妹ではあるが、まあ、あれでかわいいところもあってな」
男は古風な話し方だった。
「はあ……妹さん、なんですか」
「そういうわけで、この坊はわしが守ってやろうぞ」
「ありがとうございます」
ゆりは正座をしてお礼を言っていた。よく見ると、男の足下に、白いぼんやりした子供がひっついている。
「かわいい坊だのう」
男は子供を見下ろし、やがて腕にダッコしていた。子どもはうれしそうである。
「妹が入ると少々難儀なことがあるかもしれんが、その時は……」
ゆりは男から何やらありがたいことを言われたのだが、目を覚ました時にはすっかり忘れていた。
「ゆり、大丈夫か？」
横にはラクシュミがいた。ゆりはパチパチ瞬いている。夢を見た気がしたが、記憶は曖昧で、あらかた忘れてしまっていた。
「昔来た困った女蛇が昨晩やってきたそうじゃないか」
「大丈夫よ。あの時よりも私はパワーアップしてるし、大丈夫だったわよ」
ゆりは儀式をした後なので、髪は伸びまくっている。
「それよりも王様、お願い。抱いてー」
ゆりはラクシュミにひっついていた。
「お願いお願い」
「わかった。わかった」
ラクシュミはゆりを抱きしめた。
朝、ハザークの塔にはディーンがやってきていた。
「なあ、昨日の夜、城に変な気配を感じたんだが……あれはなんだったんだ？」
ディーンは、ちょっと脅えるような感じだった。
「王妃が儀式をしたようだぞ。すごく良い蛇が来たようだな」
「すごく良い蛇って？」
「我も詳しくは知らん。儀式に参加した男に聞けばわかるだろう。おい、赤い蛇の男を呼んでくれ」
ハザークは部屋にいた侍女に言った。
「あのーミルキダスさんでもいいんですが、ジュノーさんじゃだめでしょうか？」
珍しく侍女がこんなことを言っていた。
「儀式に参加した男ならだれでもいいが」
「ではジュノーさんを呼んできます」
侍女はウキウキ顔で部屋を出て行った。
昼頃、ハザークの部屋にジュノーがやってきた。ジュノーにはまだへびっちがひっついている。ハザークに会った後に、ジュノーは侍女に呼ばれていた。
「あのー何のご用ですか？」
「ああ、昨日の儀式のことを聞きたい」
「はい」
ジュノーは、ゆりとのいちゃいちゃ以外のことはいろいろ話して下の部屋に移動した。
ジュノーの話を聞いたハザークはかなり驚いている。
（まさかあの時の女蛇がまた来るとは……王妃は大丈夫なのか？）
ハザークはゆりが心配になったので、珍しく自分からゆりの部屋を訪ねていた。
「ハザーク様！」
「王妃、儀式のことを聞いたのだが、大丈夫なのか？」
「はい、それは大丈夫ですが、今私もハザーク様の所に行こうと思ってたんです。そちらに行きましょう！」
「あ、ああ」
ハザークはゆりと一緒に自分の部屋に戻った。
ゆりは部屋の中に侍女がいないのを確認してから、「ハザーク様、抱いて！」とハザークに抱きついていた。
「王妃、いきなりどうしたんだ？」
「わからないんですが、体がうずうずしてしょうがないんです。もしかして、女蛇まだいないですよね？」
ハザークはゆりの瞳をのぞき込んだ。
「うーん、いないとは思うが……」
「よかった。じゃあ私がただその気になってるだけかも？ とりあえずしましょう」
ゆりはハザークを寝室にぐいぐい引っ張っていった。
そして夜、ディーンがハザークの部屋にやってきた。ハザークはジュノーから聞いた話をディーンに聞かせた。
「金と銀のしまもようの蛇？ ぎゃああああああ！」
ディーンはでかい悲鳴をあげたのでハザークはのけぞっていた。
「どうしたんだ？」
「もしかしてヤツかも？ おれしばらくゆりちゃんには会えねえ」
ディーンは青ざめている。
「ヤツ？ もしかして、例の魔法使いとやらか？」
「あいつら５人兄弟でよ、俺をあんな目に遭わせたのは一番上のやつ。ゆりちゃんに来たのは何番目なんだろう？」
ディーンは泣きそうな顔である。
「さあ、そこまでは知らんが……違うといいな」
「違ってくれー」
ディーンはしまいには祈っていた。
「それだけすごい蛇を連れてきたのなら、その女蛇が一番ってことかな？ 生きてる時の女蛇に面識はないんだが、癖がありそうな女だな。すごい女蛇が降りると巫女が体調を崩してしまう
ことがあるからな。今の王妃は回数もこなしているから大丈夫かな？」
ゆりは体調を崩すどころか元気いっぱいだったので、ハザークはそこは安心していた。
その頃王の寝室では、「王様、抱いて！」とゆりがラクシュミに迫っていた。
「ゆり、朝したばっかりだが……」
ラクシュミはちょっと困っている。
「もう夜だしーあれから時間が経ってるしー」
なんということか、ゆりは性欲がかなり増しているようである。
「私はもう無理だ。ハザークに頼んだらどうだ？」
「ハザーク様はちょっと……」
昼間したとは言えなかった。
「なら、ハロルドに頼んだらどうだ？」
「どうやって？」
「こういう時こそ神の国で遊びまくってくりゃいいだろう」
「あ、そうかーってそう都合良く行けるかなあ」
「お前ならできる。がんばれ」
ラクシュミはさっさと背中を向けて寝てしまった。
「もー王様ったら」
こうなったら神の国に行って遊んでやるー！！
ゆりはその気満々で寝転んで目を閉じたのだが、なにせ体がうずいて仕方なかったので寝るに寝られなかった。
ぐすんぐすん……儀式の後遺症か何か？
ゆりはそのうちに眠ったのだが、残念ながらこの夜は神の国に行くことはできなかったのだった。
お兄ちゃん♪こんな感じか。
つづく
十二部
目次