第２１話
過去の時代――
妊娠した女王ヴィラルージュに蛇霊神が入る儀式が無事終了した。なんでも大量の蛇がお腹に入ったらしい。昨晩は城も異様な雰囲気に包まれていて、儀式に参加しない
者たちも気になって眠れなかった。子供達もそうである。
「城、すごい雰囲気だよなあ……」
「儀式ってすごいんだな」
当時まだ子供だったカールも、わけもわからず友人達と興奮したものだった。
「オレ、遠くから巫女様みたよ。すっごい美女ってわけじゃなかったけど、やっぱりすごい魅力があるんだろうなあ」
「そりゃそうだよ。だって女神が降りたんだから並の巫女じゃないよ」
「あれはすごかったよな。すっごく盛り上がったなあ」
「庭師のおじさんが女神に頬をなでられたってみんなに自慢してた。オレもなでられたかったなあ」
「帰るまでに握手してほしいな」
「うん」
当時は友人達と巫女の噂をするだけだったが、今、その伝説の巫女はカールの手の届く所にいるのだった。
「私はなぜあんなことを言ってしまったんだろう……」
ゆりとのやりとりの後寮に帰ったカールは、ゆりに言ったことを後悔していたのだった。なにせ相手は百戦錬磨の巫女である。（カールはゆりのことをそう思っている）
その巫女の相手を自分がするなんて。
「まるで自信がない。どうしよう」
カールは女性経験は豊富、というほどでもないし、自分がうまいか下手かもまだよくわかっていなかったため、すごく不安になっていた。
「それに考えてみれば、私はまだたいした手柄も立ててない。それなのに出過ぎたマネをしてしまった。みんなに生意気なヤツだと思われるかもしれない。あーどうしよう」
カールは部屋で一人悶絶していたのだった。
そしてゆりも衝撃の夜だったためにあれから眠れなかった。朝自分の部屋に戻ると、犬のジロウがゆりに尻尾を振って近づいてきた。
「ごめんね。寂しかった？ ジロウくーん」
ゆりはジロウを抱きしめてしばし現実逃避をした。
「このふわふわ癒やされるー後でお庭に行こうか」
「ワン」
「ご飯を食べてからねー」
ジロウはゆりの頬をぺろぺろなめていた。
朝食後、ゆりはジロウと庭に出て、ミシェイラとレーヌもやってきた。二人はジロウと庭をうろついている。ゆりはぼんやりとその様子を眺めていた。夏は終わり、秋である。
ゆりの花壇の花も違う花に変わっていた。黄色系統の花々である。
今日カール何時に来るんだろう。その前に誰かに相談したい……クロスなんとかならないものかなあ……
子供が生れるのはまだまだ先である。困ったものである。
ゆりがぼんやり突っ立っていたらヴィラがぱっとやってきた
「おはようございます」
ヴィラは挨拶をして行こうとしたので、ゆりはとっさにヴィラの腕をつかんでいた。
「相談があるの」
「はい？」
「ちょっとこっちに来て」
ゆりはヴィラを東屋に連れて行き、手早く昨晩のことを話したのだった。ヴィラはぽかんとした顔つきでそれを聞いている。
「もーどうしよう、なんとかして！」
「なんとかしてと言われましても、カール君は乗り気なんですね。まあその状況じゃ、だれだってそう言わざるを得ないでしょうが……」
「カール君に手を出すのは気がとがめる。まだムサカさんの方がよかったかも」
「え？ いやいやいや何を言ってるんです」
ヴィラはあわてている。
「だってさー」
「ムサカ様は勘弁してくださいよ。いくら強くても女蛇が喜ぶかどうかって問題がありますよ。カール君の方がまだいいでしょう」
「うーん……」
ゆりの左目がぱっと蛇の目になった。
「実は問題があってねー」
蛇の目のゆりは、興奮すると肌に出る青い花のことをヴィラに話したのだった。
「えー？ 本当なんですか？」
ヴィラはゆりの胸のあたりをつい見ていた。
「本当。このことはあっちの私もまだ知らないのよ。結構やばいよ。神様と遊んだ次の日くらいやばいかも」
「それはカール君にはきつすぎますね」
「そうだよね。カール君が私達以外の女性に触れなくなったら困るよね」
儀式に愛は必要ではあるが、愛されすぎても困るのであった。
「私としても、カール君よりもムサカさんの方がいいと思うけど」
「なんでムサカ様にいくんですか」
「だって、ムサカさん、赤い月はあんまり関係ないから」
「頭が痛くなってきた。とりあえず、カール君に会うのは明日にしてください。今日はその青い花を確認してみたいので」
「わかった。じゃあカール君に連絡して」
「今します」
ヴィラはカールに思念を送った。カールからは安心したような返事が来た。
「向こうはほっとしているようですが」
「そうなの？ 昨夜は勢いでああ言ったのかもね」
「とりあえず、午後部屋に行きますから。部屋にいてください」
「わかった」
ヴィラは消えた。
黒目のゆりが表に出ると、目の前にはミシェイラとレーヌ、犬のジロウがいた。
「マー、ベツマーがね、午後部屋にいてって言ってたよ。ヴィラがくるからって」
「ヴィラが来るの？」
「カール君は明日になったんだって」
「そうなんだ」
黒目のゆりもほっとしていた。
「マーもっと広い所いこうよ。トーが闘技場なら行ってもいいって」
「だれに連れて行ってもらうの？」
「今おじーちゃんが来るよ。ナナも行くって」
「そうなの」
ナナミとムサカが庭園にやってきた。
「それではいきましょう」
ムサカは一同を闘技場へと移動させた。闘技場にはロイがいた。
「ジロウ君、競争しよう！」
「ワン」
ロイはジロウと闘技場を走り回った。
「ジロウ君、はやっ！」
「ジロウ君がんばれ！」
ミシェイラとレーヌはジロウを応援している。ナナミは地面から10センチほどをずっと浮いていた。
「それも修行？」
「そうなの。地面にどれだけつかないでいられるかやってるの」
闘技場では他の戦士達も修行中だったが、みな犬のジロウを珍しそうに眺めている。そしてゆりを見て「王妃様だ。握手してほしいな」などとぼそぼそ話していた。
「私も競争！」
ナナミは宙に浮いたまま、ジロウとロイの競争に参加していた。
「王妃様、昨晩、あれからどうなりましたかな？」
ムサカがゆりにこっそり聞いていた。
「どうなったと思います？」
逆にゆりが聞いている。
「えー……想像できません」
「赤ちゃんが強引にカール君を儀式に参加させようとしてるんです。カール君は赤ちゃんのためなら儀式に入った方がいいと思っちゃったようで」
「そうですか」
「いいんでしょうかねえ。カール君は大人になったばかりだし、わたしとしては気がとがめるんですけど」
「良いではないですか。あやつも女性経験がないわけでもないし。王妃様と儀式ができるなんて、名誉なことですぞ」
ムサカは止める気もないようだ。
「そう言ってもですねえ。儀式って性的なもんですし、カール君の今後が心配なんです」
「大丈夫でしょう」
「はあ……」
若い戦士達が近づいてきた。
「王妃様、握手していただけませんか？」
「いいですよ」
ゆりは３人の戦士達と握手をした。戦士達はムサカにも握手をねだり、ムサカも握手に応じていた。
「ありがとうございます」
へとへとのロイが近づいてきた。
「犬ってすごい体力だね」
ジロウははあはあ舌を出しているがまだ走れそうだ。ナナミは途中で離脱していた。
「犬に触ってもいいですか？」
戦士達は犬にも触りたそうだった。
「いいよ。ジロウ君、よろしくね」
戦士達は恐る恐る犬に近づいて、手を出していた。ジロウはおとなしく触られている。
「すごい。綺麗な毛だなあ」
「ジロウくーん」
ミシェイラに呼ばれてジロウはたっと走って行った。
ひとしきり遊んでから一同は城に戻った。ゆりは気分転換になったが、カールのことを考えると気が重い。
あれ？ ヴィラは午後何しに来るんだっけ？ カールの相談？ 別室に行く流れになるのかな。一応体を洗っとこうかなあ……
昼食後、体を洗って部屋にいたら、ハインリヒがやってきた。
「あ、今からヴィラが来るの」
「知ってますよ。待ち合わせです」
「そうなの？」
ハインリヒに続いてミカエルがやってきて、三人目にヴィラが部屋にやってきた。
「ジュノーはちょっと都合が悪くて、今日はこのメンバーになりました」
「はあ」
「じゃああっちに行くか」
ミカエルが言った。
「どうせなら儀式部屋にしないか？」
とハインリヒ。
「そうだな」
「あのー何かの話に来たんじゃないの？」
ゆりが聞いた。
「話の前に、例のものを見ていないことには」
とヴィラ。
「何を？」
「とりあえず移動しよう」
４人は儀式部屋の方に移動した。
「王妃は本当に困った人ですね。我々の気も知らないで」
ミカエルは不機嫌そうである。
「え？」
「赤ちゃんの要望なので仕方ないです」
ヴィラが説明した。
「実は新しい男が欲しいっていう王妃の願望なんでしょ」
ハインリヒは横目でゆりを見ている。
「カール君のこと？ 赤ちゃんは強い男がトーに増えれば、儀式がもっとできて強くなれると信じてるの」
「確かに、女蛇は強い男が好きですからね」
とヴィラ。
「ムサカさんかカール君か、どっちか選んでって言われたの。３人ならどっちがいい？」
「「「カール（君）に決まってます」」」
３人は声をそろえて言った。
「ムサカ様と儀式は勘弁してください。ムサカ様が加わるくらいなら、私は抜けますよ」
ハインリヒが言い、ミカエルは、「それならムサカ様でもいいかな」と言い出していた。
「何言ってるんだ」
「ハインリヒが抜けるならムサカ様が加わってもいいかも」
「こらー」
「とりあえず、王妃の青い花を見てみましょうよ」
ヴィラが二人を促した。
「そうだな」
「私の何？」
ゆりは首をかしげている。男達は服を脱ぎだした。
「私の何っていったの？」
「興奮したらわかりますよ」
「？？？」
「王妃も脱いで、じゃあ私が一番〜」
ミカエルはさっさとベッドに上がってゆりを抱き寄せていた。
ミカエルはゆりを素っ裸にして、口づけをしながら胸をなで回した。
「王妃、私のこと好きですか？」
「好き……」
しばらく口づけながら胸を愛撫されていると、ゆりもその気になってきた。右胸の上にうっすらと青いものが浮かんできた。
「あ……確かに青い花だ」
「え？」
ゆりも自分で異変に気づいた。胸の上に青い色が浮かんでいる。
「？？？」
「興奮すればもっと鮮明になるかな」
ミカエルはゆりの胸に口づけた。
「な、何？ これ……」
青い色は形を持ち始めた。ミカエルはゆりの体中愛撫し、ゆりはすっかり興奮状態になった。青い花が鮮明になるとゆりの匂いも変化していた。
王族の匂いのようでもあるが、もっとかぐわしい匂いである。儀式の時に発する匂いにも似ている。
「あ、こりゃまずい」
ミカエルが言った。
「どういうこと？ なんでみんな知ってるの？」
ゆり一人がさっぱりわからない様子である。
「ガーベラ様に何かされたってもう一人の王妃が言ってましたよ。確かにすごい匂いだ」
とヴィラは目を輝かせていた。
「王妃が絶世の美女に見えてきた。確かにやばい」
ハインリヒも興奮している。
「もー王妃ってば、これ以上魅力的になってどうする気ですか！」
ミカエルはゆりにひっついていたが、すでにかなりの興奮状態にあった。
「ガーベラ様？ ガーベラ様が何したって？」
ゆりはミカエルから離れようとしたが、上にどんと乗られていて逃げられない。
「あーもう体がやばいんで、なんとかしてください」
ミカエルはズボンも脱いでいた。
「脱がなくていいー」
「だってはちきれそうだもん」
「私も。普段こんなになるのは珍しいんですよ。３人も一気に興奮させるなんて、王妃は罪な女ですね。おい、口も先はずるい」
ハインリヒがミカエルに言った。
「ずるくない。私が先」
「じゃあ私は下で」
ハインリヒは後ろからゆりに抱きついていた。
「えーちょ、ちょっと！」
「入れない入れない」
「王妃、こっちもね」
ミカエルはゆりの口元に自らの興奮した下半身をあてがっていた。
「んー……」
ゆりは口での奉仕を始めた。二人の肌に蛇の鱗の模様が所々現れていた。
「王妃、うれしいですよ」
「ああ……王妃……もうやばい……」
ハインリヒはゆりの太ももの間で達していた。
「こっちも……」
ミカエルも達している。
「儀式の時並ですね。こんなにすごくちゃ、すぐいっちゃいますよ」
「王妃、私もお願いしますよ」
ヴィラがゆりに近づいた。
「じゃあ私はこっちを愛撫してあげますね。王妃も一杯いってください」
ハインリヒはゆりの下半身を広げさせて、顔を埋めていた。
「ん……」
ゆりはヴィラに奉仕しながらもハインリヒとミカエルに愛撫され、一層興奮していた。
「本当に素直でかわいい体だなあ。本当は一杯入れてあげたいのに。指だけじゃ物足りないでしょう？」
「十分気持ちいいです」
「嘘つき」
「まあまあ、その分王妃はがんばってくれてるからいいじゃないですか」
とヴィラ。ヴィラの肌にも薄く緑色の蛇の鱗が浮かんでいた。
「王妃、ガーベラ様に言って、この青い花は封印してもらってください」
達した後、ヴィラが真剣な表情で言った。
「封印？」
ミカエルが聞いた。
「ほら、ロイ様の加護だって封印されてるんだから、王妃だってできるはずですよ。できれば消してもらったほうがいいですよ。王妃はもう十分魅力的なんですから」
「これは、ガーベラ様の加護なのかな？」
ゆりはそのことについては全然考える余裕がなかった。
「まあ、王妃は元々の匂いだけでも魅力的だからなあ。カールが今の王妃と何かあったら、メロメロになりまくって困るかも。いや、青い花がなくてもメロメロになると思うが」
「他に危惧していることがある」
ハインリヒが言った。
「我々に触発されて、あいつの蛇が目覚めたらどうしよう。あいつの蛇は、かなりやばい」
「リヒリヒ〜」
ゆりが手を出すと、ハインリヒはゆりを抱き寄せて、ゆりの頭をなでなでした。
「あの蛇やっぱりやばいのか？」
ミカエルが聞いた。
「ああやばいね。まあ私ほどじゃないが」
「クロス様のお願いは我々だってかなえてあげたいがなあ……」
ヴィラは困り顔だ。
「とりあえず、その花は消してもらって。我らは段階を踏んでるからいいが、カール君にはきつすぎる」
「カールを儀式に加えるのは決定なのか？」
ミカエルが聞いた。
「赤ちゃんには逆らえないだろう？」
「うーん……」
「ミカミカも出てきてよう」
ゆりはミカエルをつんつんつついていた。ハインリヒもヴィラも、蛇様が前面に出ていた。
「ミカミカは寝てます」
「ぶー」
「今はそれどころじゃないでしょ。王妃、ヴィラが言う通り、その青い花は封印してもらったほうがいいですよ」
「これってガーベラの加護なのかな？ いつ加護なんて受けたんだろう？ よくわからないけど、封印してもらった方がいいかも」
ゆりは男達の目つきを見てそう思った。興奮が収まった、という感じではなさそうだ。
「ゆりちゃん、次は我々とやろーか」
ヴィラの蛇が言った。
「こんなに男を興奮させて、いけない人だ。ミカエルは帰っていいぞ」
ハインリヒはゆりの体をベッドに寝かせている。
「まだ帰らないー」
「フリットには青い花のことは秘密にしておけよ。あいつ最近やばいから」
「あーそれが……」
「間に合った」
部屋にフリットが現れてハインリヒは頬を引きつらせていた。
「儀式じゃないのにすごい匂いだな。それに何か異様な雰囲気だが……ゆりちゃん、さっさと仕事を切り上げて来ましたよ」
フリットが微笑みながら近づいてきた。
「もうフリフリ出てる」
とゆりは驚いている。
「ハインリヒが妬くくらい濃厚に愛し合いましょう」
フリットはハインリヒを押しのけていた。
「ひーフリット出てきて〜」
「フリットですよ」
「フリフリだよー」
「フリットですって」
フリットはさっさと服を脱いでいる。
ハインリヒはすっごい目でミカエルを睨み、ミカエルは目をそらしていたのだった。
ひとしきり愛の時を過ごしてゆりは自分の部屋に戻った。儀式ほど男は多くないのだが、蛇様も出てくるのでなんだかややこしい。男が倍増している気がしないでもない。
「蛇様達も好きなんだけどさ」
結局最後までミカミカだけは出てこなかった。
儀式でもないのに男達があれほど興奮しまくるのがガーベラの加護のせいだというのなら、確かに封印してもらったほうがいいかもしれない。
「赤い月限定で封印をといてもらうって無理かな。無理だよねえ。まあいいや。神の国に行けたら、クーリーフンに相談しよう」
ゆりはそう決心してその夜は一人で眠ったのだった。
夜中、犬のジロウは何かの気配を感じたのか目を覚まして、ゆりのベッドの上に乗っかっていた。ゆりはジロウが横にいるのを感じて目を覚ました。
「ジロウ君？ わっ！」
部屋に黒衣の男がいて、ゆりは驚いていた。
「夜中に何度もすまない。どうしても気になってしまって」
「オルガ様！」
ジロウはゆりの側にぴったりひっついている。
「ん？ その犬は……神の国で生まれた犬じゃないか？」
オルガは犬を眺めていた。
「ハロルドがくれたみたいです」
「そうなのか？ 神獣……じゃないっぽいからいいか。この国の王妃が犬をかわいがってもいいのか？」
「いいです。だってかわいいんですもの」
ゆりはジロウの頭をなでなでした。
「そうか」
ジロウはじーとオルガを見上げている。
「あ、ジロウ君は、神様が私に何かしないように見張ってるみたいですよ」
「え？」
「ラーズが来た時に邪魔したんです」
「へー」
オルガはジロウの頭をなでながら、「おやすみ」と言っていた。ジロウは目を閉じようとしていたが、必死に耐え、また閉じていた。そしてゆりの横でごろんと横になって眠ってしまった。
「あ、寝ちゃった」
「そういえば、君は眠くなってないな。私が寄ると大抵の人間は眠くなるんだが、ガーベラに何度もなったせい神の力に免疫でもできたのかな」
「そうなんですか？」
ジロウは寝たままである。ゆりは座ったままオルガを見上げ、「座ってください」と言った。
「ああ……」
オルガはベッドに座ったが、それから黙り込んでしまった。
「？？？」
ゆりはうかがうようにオルガを見ている。
「どうしたことだろう。なんだか胸の高まりを感じる」
「え？」
「君がガーベラだ、と知ったせいかどうかは分からないが……もう一度会って、どう思うか知りたかった。今は確実に、君のことが気になっているようだ」
「え……あ、それはですね。きっと、ガーベラの加護のせいですよ」
「ガーベラの加護？」
「最近つけてくれたみたいで、私は知らなかったんですけど、そのせいで私が輝いて見えてるんですよ。きっと」
「そうなのか？ どこにあるんだ？」
「胸の上です。普段は見えないんです。興奮すると出るんです」
「興奮すると？ 見てみたいな」
「ええ！？」
オルガが手を伸ばそうとすると、「ワン」とジロウが寝言で吠えていた。
「主人に忠実だな」
「あ、そうだ。私、この加護を封印してほしいんです。オルガ様は封印できますか？」
ゆりはそのことを思い出していた。
「封印？」
「神様ならできると思うんですが」
「……確かにできるかもしれないが、ガーベラがしたことを覆すっていうのも、ガーベラに悪い気がするな。本人に頼んだ方がいいだろう」
「そうですか」
「実はちょっと前までガーベラともめていて、ようやく仲直りできたところだからな」
「そうなんですか」
「向こうで出会ったら、今度は仲良くしよう」
オルガがさらっと言った言葉にゆりは仰天していた。
「ええ！？」
「こっちで仲良くなるのが先の方がいいのかな？」
「え、いえ、いえいえそんな気を遣っていただかなくてもいいんです」
ゆりはあわてている。
「私のことは全く気にしないでください」
「知っているのに気にしないというのはおかしい。まあ気が向いたら来てくれ」
「はい」
「ちなみに、私のことはどう思っているんだろうか。それほど気にしてもいないのかな」
「え……オルガ様のことはステキだと思ってますよ。でも全員とそうならなくてもいいかなーって」
「私よりも、サラディンの方が気に入ったということだろうか」
「え……あれはその……そういう状況になったのでー……サラディン様の方が好きだから、とかいう理由ではないです。オルガ様とは会う機会もそんなになかったですから」
ゆりは冷や汗をかきそうだった。
「なら、私ともそういう状況になろう。今度」
「はい……あのー私にこだわらなくてもーと思いますが……」
「気になってしまったんだからしょうがない。それに、そこまでガーベラの恋人と仲良くなってるんだから、外されたくないな、という気になってきた」
「そういうものですか？」
「そういうものだ。じゃあ今日は行く。それではまた」
「さようなら」
オルガは立ち上がり去って行った。
ゆりは脱力していた。
「なんか変な展開になってきた」
ジロウはむくりと起き上がっていた。
「くうーん」
そしてゆりに向かって鳴いている。
「くうーん、くうーん」
「オルガ様と何もなかったよ。何もしてないから」
「ワン？」
「本当本当」
ジロウは安心したのかベッドから降りて、自分の寝床に行っていた。
「なんか犬語がわかったような。とりあえず神の国でクーリーフンに会わなきゃなあ……」
ゆりはそれから眠ったが、その夜は神の国に行けなかったのだった。
つづく
一二部
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