第２８話
『もっと魅力的におなり、僕のかわいい人、君を抱く男は必ず君に囚われる。必ずだ……』
クーガの元に移動した夜――
「さあ、ガーベラ様」
一度目が終わった後、クーガは再びゆりの手を出した。
「愛してるって言ってくれなきゃいやです。ガーベラは愛欲の女神なんですから」
ゆりは手を出さなかった。
「好意はあるってさっき言ったじゃないですか」
「それだけじゃいやです。愛してるって言ってください。じゃなきゃもう二度と来ません」
「強制移動なんですが」
「アシュラン様に直談判しますもん。クーガ様が、涼しい顔で私をいたぶるからもうやだっていいますもん」
「いたぶる……普通にしたつもりですが」
「精神的にいたぶってますもん。実は私のこと好きになりまくったんで、時々会いたいんです、とか素直にそう言ってくださいよ。大体アシュラン様にはどうやってお願いしたんですか？
『あの国の王妃様の虜になってしまったんで時々会わせてほしいんですよ』とか言って頼んだんですか？」
「そこまでは言ってません」
「じゃあなんて言ったんですか」
「それは……」
クーガはゆりから少し離れた。
「誕生日のお願いのかわりなんでしょう？ 普通ちょっと好き程度の女を抱くために使います？」
「神気でキラキラした夜のあなたは本当にキレイで、あの時は胸が高まりました。私の長い生で一番胸が高まった瞬間だと言ってもいい。大神はおっしゃっていましたよ。
『あなたは一人だけの女になるとただの普通の女にすぎない。大勢恋人がいてこそ魅力を発揮すると。世界でただ一人だけガーベラ気質をもった女性、王はそれをよく知ってるからあなたを好きにさせている。
あなたの愛は相手を幸せな気分にさせる。だから、男達は争わない』とも。確かに、あなたの恋人達はみな、楽しそうにあなたのことを語ってましたよ。私に誤解しないでほしいって皆言ってました。私があなたのことを
ふしだらな女だと思ってほしくなかったんでしょう。私も、あなたの恋人達のように楽しい気分になりたかったんです。大神の力を借りなければ、こうやって会うことはできません」
「人間になることをあきらめてまでそう思ったんですか？」
「今まではただの人間になりたいと本気で思ってましたよ。ですが……いろいろ気になることが出てきましてね。私は、この力を今は失いたくない。そのかわり、あなたのことをお願いしたんです。あなたの霊体に
私の霊体が会った時、どうするのか知りたかったんです。すぐひっついてたんで、私はあなたに好意を感じているんですよ」
「じゃあ愛してるって言ってください。私はもうクーガ様のこと結構好きになっちゃってるんですから」
「わかりました。愛してます」
ゆりはぱっとうれしそうな顔をしてクーガに抱きついた。
ただの「言葉」である。クーガは感情を込めて言ったわけではなかったのだが、次の瞬間、ゆりの胸の上の青い花が光り輝き、そこから金色の無数の蔓が飛び出てきてクーガの体をからめとってしまった。
（まずい！）
クーガは体を離そうとしたが、気がついた時にはすでに遅かった。体は蔓で巻き付き、その蔓が消えた時、クーガの左胸には、小さい青い花が刺さっていた。
「お、王妃様、何をしたんです」
「え？」
「これですよ。あなたの青い花が私の胸に刺さっている」
「え？ 何も見えませんが」
ゆりは目をぱちくりさせている。
「言葉の魔法をかけましたね？ 愛してるといえば、発動する魔法を」
「え？ そんな魔法あります？？」
ゆりはさっぱりわからないという表情である。クーガは動揺していた。どういうわけか、ゆりが愛しくてたまらなくなっている。クーガはゆりを抱きしめて口づけた。
「あなたを抱きたい」
二度目の交わりで、クーガは胸がドキドキする感覚を味わった。体が一体化したときの、なんともいえない恍惚感、心のどこかではストップをかけようとしている自分がいたが、もう止まることはできなかった。
「ああ、王妃様、あなたはひどい。時々しか会えないのにこんな魔法をかけるなんて」
「言葉って重要なんですよ」
「ああ、なんてことだ……」
ゆりのことをここまで深く想う気はクーガにはなかっただろうが、今はもう目の前の体が愛しくたまらなかった。クーガはゆりに何度も何度も口づけ、抱きしめていた。行為が終わるとゆりは疲れたのか目を閉じてしまった。
そんなゆりを見て微笑んでいたクーガだったが、はっと我に返り、胸の花を引き抜こうとしていた。
（まさかこんなことになるなんて……なんて恐ろしい人だ）
青い花は幻の花なので、つまむことも引っ張ることもできない。
（大神に頼まないと無理なのか。頼みたくないが……）
クーガが困っていると、声が聞こえて来た。
『抜かない方がいい。抜くと、心をなくしてしまうよ』
クーガがはっと横を見ると、そこに男が一人座っている。見たこともない金髪の美形の男である。長いうねる髪は一つに束ねている。男の姿はうっすらと見えるだけだった。
「あなたはどなたですか？」
神のようだが、どの神かわからなかった。
『ただの欲求不満の解消に彼女を付き合わせるなんて、僕は許さない。そんなのゲスな男のすることだろ？』
美しい男はちらりと首をかしげていた。
「…………」
『抱いたからには、彼女を心底好きにならなきゃ』
「しかし、彼女は夫も子供もいる身ですし」
『それでももう、彼女を抱いたんだからね。彼女といると楽しいだろう？ 彼女は僕のかわいい愛の女神、彼女の大きな愛に包まれたらいい。君も、愛のお返しをしなきゃね。その花は、彼女の信者の証」
男はクーガの胸にある青い花を指した。
「彼女の恋人のだれも、花をさしてなかったですが」
『僕が来たの最近だからねえ。それに彼らは根っから彼女の信者だからいいんだ。君は、花がついた信者一人目だ。おめでとう』
「うれしくないです。なぜ私が人間の……」
美しい男の姿は消えていた。そしてベッドを見ると、ゆりの姿も消えていたのだった。窓の外が明るくなってきている。朝日が昇る時間のようである。結構長い間愛し合っていたようだ。
『ただの欲求不満の解消に彼女を付き合わせるなんて……』
確かに、多少そういう気持ちもクーガにはあった。抱いても結婚しなくてもいい。だれにもばれることもない。しかし、ゆりと１4日もの夜を過ごし、情がわいたのも事実だし、抱きたいと思ったのも事実である。
時々ゆりに会って、息抜きがしたいと思ったのも本当のことである。
（彼女に愛されてみたいとは思ったが、自分が愛してみたいとは思っていなかったのに……）
「こういうのを自業自得というのか？ 大神ならば抜けるかもしれないが……まあいいか」
クーガは花を抜くことは諦めた。
昨晩の交わりは、今まで感じたことがないほど気持ちがいいものだった。
またあれを味わいたいという気持ちが強い。元々、自分が望んだことでもある。
「こんなことなら月一にするんだった。私が人間の信者に？ ふふっ滑稽で笑えるな」
クーガは笑いながらも、（そうだ。教会の建て直しに私も関わろう）などとも考えていたのだった。
さて、蛇の国である。ゆりはクーガとの夜のことがあったので、結構平常心で、「あ、そうだ。後で部屋においでよ。箱の石が増えたよ」と子供達に言っていた。
「え？ ほんと？ やったあ！」
ミシェイラが両手を挙げて喜んでいる。レーヌもつられて「やったやった」と言っていた。
「何個増えたの？ 一個？二個？」
ラギがゆりに聞いて、ゆりは「ふふふ」と笑っていた。
朝食後、ゆりは子供達と一緒にぞろぞろ自分の部屋に戻り、「じゃーん」と箱を開けて子供達に見せた。
「ええー」
「おー」
「やったあ！」
「すごい！」
「えー！」
子供達はそれぞれ声をあげている。
「すごい。全部たまったんだ」
ナナミは感動したように石を眺めている。
「すごいすごい」
「きれー！」
「お母さん、一体何をしたの？ 何をしてこんなに石をもらったの？」
「それは秘密」
実際、ゆり自身自分の力で石をもらった、というわけじゃないと思っていたので、何も言えなかった。
「すごいねえ。母様、石をもらっただけなの？ これが一杯になったら何かあるの？」
ナナミが聞いた。
「綺麗なバッジをもらったの」
ゆりは棚においてあった金色のバッジを子供達に見せた。子供達は「高そう」といいながらバッジを回している。
（聖地旅行のことはどうなったんだろう。まあ決まったからでいいか）
とゆりが思っていたころ、城に聖地からの使い鳥がやってきて、書簡を落として行った。それは金色に縁取られた書簡で、受け取った戦士はすぐにラクシュミに届けている。
「母様、父様が呼んでるよ」
シスの元に思念が届いたようだ。ゆりはシスに連れて行ってもらい、王の間に入った。
「王様、おはようございます」
「ゆり、お前、神の国で一体何をしたんだ？」
ラクシュミは震えるような声で聞いた。
「え？」
「アシュラン様が直々にお前を聖地に招待したいって言ってるぞ」
「え？ ほんと？ 実は箱の石が一杯になったんで、一泊二日の聖地旅行を褒美にやるって言われたの」
ゆりは笑顔で言った。
「王様、お願いします。行かせてください」
ゆりは両手を合わせてお願いした。
「そりゃ、アシュラン様の招待を断るなんてできるわけないだろう。どうやって行くんだ？ クーガ様が迎えに来るのか？」
「ううん。私、聖地に瞬間移動できるバッジをもらったから、それで行くのーそれでいつになってる？」
「１０月２０日、こちらで朝８時頃に移動してほしいと書いてある。書簡には子供も一緒でいいとあるが」
「そうそう。それもその時頼んだの。ラギは絶対行きたいだろうし、ラギとシスを連れて行こうかな。いいでしょ。ね」
「うーん、まあアシュラン様の招待なら危険もないだろうからいいが……お前、本当に帰ってくるんだろうな。そっちが心配なんだが」
「帰ってくるわよ」
話を聞いてやってきたシスとラギは、目を見開いて仰天した。特にラギは狂喜乱舞している。
「本当？ ねえ、本当に聖地に行けるの？ 夢じゃないの？」
「夢じゃないわよ」
「すごいよ。すごいよー母様世界一だよーやったあ！ やったあー！！」
ラギは飛び跳ねて喜んでいた。
「シスはうれしくないの？」
ゆりが黙っているシスに聞いた。
「なんだか現実味がなくて。この国から出るなんて考えたことがなかったから。うれしいなあ。聖地かあ。クーガ様に会えるかな」
「あ、そうだ。案内をスペード様に頼んだの。なんとスペード様が聖地を案内してくださるのよ。楽しみ〜」
ゆりはあえてクーガのことは考えないようにした。愛し合ったことも半分夢のような気さえしている。
「スペード様？ そういえば聖地にいるんだっけ」
「しかも聖地は島国、海の幸いっぱい！ ここぞとばかりに食べまくり〜。そうだ。着ていく服を選ばなくちゃ、王様失礼します」
ゆりは王の間を出て行った。
「……聖地は巡礼に行く所で遊びに行く所じゃないんだがなあ。シス、ゆりが暴走しないように頼むな」
ラクシュミはシスに頼んでいた。
「やった、やったやったー！」
ラギはまだ飛び跳ねている。
「それから、ラギが迷子にならないように頼むな」
「はあ」
シスは頬をかいていた。
「え？ 聖地観光！？ 突然すぎますわね。何を着ましょう！」
「一緒に選んでちょうだい！」
ゆりは侍女と服を物色し、話を聞いた男達はみな、「王妃は神の国で一体どんなすごいことをしたんですか？」と気にしていた。
「わかった。神の国で一気に子供を１０人くらい産んだんでしょう」
ミカエルはゆりの部屋にやってきて聞いた。
「実は、妖精を１０人みつけたの。きっとそのおかげよ」
クーガのことが説明できなかったので、ゆりはそういうことにしておいた。
「一気に１０人？ すごいですね。さすが王妃。ナナミ様は聖地は興味ないんですか？」
ミカエルは部屋にいたナナミに聞いた。
「私はこの国から出るのは怖いなあ。母様、ちゃんと帰ってきてね」
「もちろん」
「聖地かあ……私もあこがれたものですよ。アシュラン様の招待なら、クーガ様が案内してくださるんですか？」
「ううん。スペード様が案内してくださるの」
ゆりの声ははずんでいる。
「スペード？ あのカードの騎士の方ですか？ 王妃、もしかして持ち帰る気でしょ」
ミカエルがじろりとゆりを見ていた。
「まさか。そんなことできるわけないでしょ。できたらしたいけど」
「おーひってば」
「母様ってばクーガ様には全然その気にならないのに、スペード様にはなるんだ？ どうしてだろう？」
ナナミが首をかしげている。
「王妃の好みは黒髪の男らしい、いい男なんですよ」
ミカエルが説明していた。
「そうなんだ。ハロルド様も黒髪だったら、もっと母様に愛してもらえたのにねえ」
などとナナミは言っていたが、ゆりは服を選ぶのに夢中で聞いていなかったのだった。
さて、聖地である。
話題のスペードは聖地にて神官達の修行中である。
そこに、あわてて他の神官がやってきた。
「スペード様、すぐ来てください。大神が用があるそうですよ」
「ええ？ 大神が？ なんだろう？」
スペードは、ハロルドの神殿の対話の間にて、アシュランにあったのだった。
『スペード、近々、私が招待した客が聖地にやってくるんだが、お前、案内をしてやってくれ』
アシュランはスペードにこう頼んでいた。
「え？ 私ですか？ 案内のプロに頼んだほうがいいと思いますが……」
スペードは尻込みしている。
「私は口下手ですし、あまり気がきいた案内もできそうにないので……」
「うーん、せっかくの聖地だしな、子供にはためになる案内のほうが……聖地で一番の案内人もつけるか。お前は一緒について回れ」
「はい、そうしていただけると助かりますが、どうして私が一緒なんですか？」
スペードは当然疑問に思って聞いた。
「実はお前の分身を閉じ込めたカード、あのカードの100人目の持ち主になった女性が来るんだ。騎士のお前に実際にあってみたいと言っている」
「え？ そうなんですか？ 実際に会ってがっかりされないでしょうかね」
スペードは苦笑していた。
「がっかりなどしないさ。じゃあよろしく頼む。このことはハロルドには内緒にしといてくれ」
「わかりました」
アシュランは消えた。
スペードはしばし椅子に座っていた。
「100人目、てっきりガーベラ様かと思ったが、違っていたのかな？」
スペードは首をかしげまくっていたのだった。
蛇の国では聖地旅行が現実的になってきて、ゆりもラギもシスもうきうきである。
「僕が行きたかったなあ」
ロイは残念そうだった。
「ロイは絶対連れて行かない。大変そうだから」
どちらのゆりにも却下されて、ロイはむくれている。
「あめのおじさんに会ったらよろしく言っといてね」
ロイはシスに頼んでいた。
「うん。わかったよ」
とシスは答えている。
（聖地でスペード様に出会ったら……私の霊体が出まくってしまうかもしれない。なんとかしなければ……）
ゆりはそっちの心配をしていた。
（なんとかできるのはガーベラ様だけかなあ。神の国に行けたらクーリーフンに相談しよう。旅行までに行けますように）
ゆりがそう願っていると、翌日の晩、神の国に行くことができた。
場所はガーベラ神殿で横にはクーリーフンがいたので、ゆりはうれしさのあまり、「ねえ、聞いてクーリーフン、私ね、聖地に旅行するんだよ」と報告していた。
「え？ 旅行？ あっちのあなたが？」
「そうなの。アシュラン様の招待で聖地旅行、さらにスペード様の案内なの。すごいでしょ？」
「えーあなた一体何をしたの？」
クーリーフンも驚いていた。
「別にこれといって何もしてないけど、今までのご褒美よね。きっと」
「へーびっくりだな……でもよかったね」
「うん。それでね、ちょっとガーベラ様に相談があるの。ガーベラ様と話ができないかしら」
「いいよ。じゃあベッドで寝転んで」
「うん」
ゆりはベッドで寝転んだ。
花が咲き乱れる場所にピンク色のベッドが置かれて、そこにガーベラは寝転んでいた。二人のゆりがガーベラに近づくと、ガーベラは目を開けた。
「こんにちは、ガーベラ様」
「あら、どうしたの？」
ガーベラは体を起こした。相変わらずガーベラはいい匂いで、ゆりでも触りたいくらいのおっぱいの持ち主である。
「実は相談があるんです。私、特殊能力を身につけちゃったみたいで……ガーベラ様が男になった時に、加護か何かをくれたんですけど、興奮すると、私の霊体が相手の男を誰かれかまわずくどいちゃうみたいなんです」
黒目のゆりが説明した。
「えー？ 霊体？ ほんと？」
「相手が好きな人ならいいんですけど、好きじゃない人もくどいてしまうんで、困ってるんですよ」
「あらら」
「だから、霊体が出ないようにしたいんです」
「でも、霊体がでないと、クーガ様がっかりしちゃうかもよ？」
蛇の目のゆりが言った。
「がっかりしていいの。大体あんな霊体返し反則でしょ」
「霊体返し？ 何それ」
ガーベラは興味津々である。
「ガーベラ様アシュラン様の子供のクーガ様のこと知ってます？ 実は恋人にしちゃったんです」
蛇の目のゆりが言うと、ガーベラはものすごく驚いていた。
「えー！！！！！ 本当なの？ あの子堅物なんでしょ？ すっごい！！！」
「クーガ様ったらアシュラン様に頼んで、私達に会えるようにお願いしたんですよ。それほど私達のこと好きみたいで、二ヶ月に一度だけ会えることになったんです。クーガ様は私達の霊体を抱きたいあまりに、自分も
霊体を出すように、それもアシュラン様にお願いして、霊体同士がいちゃいちゃしちゃった、みたいな。そして私達もひっついちゃったって感じなの」
「ええええええー何それ。楽しそう。ずるいー」
ガーベラはすごく興奮していた。
「ちょっと今のかなり誇張してたわよ」
黒目のゆりが言った。
「こんな感じだって」
と蛇の目のゆり。
「だから、私達の霊体がでなくなると、クーガ様がっかりしちゃうんじゃない？」
「がっかりさせていいわよ。むしろがっかりさせたい！」
「なんでよ。もう好きなんでしょ？」
「だってー……まあ今はクーガ様のことはおいといて、今度スペード様に会うんで、霊体が出ないようにしてほしいんです。スペード様に私の霊体が見えたら、私困るんで」
「おいとかないでよ。もっと詳しく話が聞きたいんだけど、あれ？ スペードさんに会うの？ どうやって？」
ガーベラが聞いた。
「実は……」
ゆりは聖地旅行のことをガーベラに伝えた。
「え？ 一体あなたたち、何をしたの？」
ガーベラも驚きまくっていた。
「なんかよくわからないんですけど、そうなったんで、スペード様に会ったら絶対ドキドキしちゃうと思うんで、どうにかしたいんです」
「ふーん、なんか知らないけど、私よりもすごいことになってない？ 本気で愛欲の女神かわる〜？」
などとガーベラは笑っていた。
「でもまあ、確かに、あまり魅力的すぎるのもなんだと思うけどね。恋人も増えりゃいいってもんじゃないし」
とガーベラ。
「そうです。過ぎたるは及ばざるがごとしなので、男ガーベラ様の加護を封印してほしいんですけど、青いお花はガーベラ様との記念に残してほしいな」
「難しいわねえ」
ガーベラは頭を悩ませていた。
「どうかお願いします」
「恋人にだけ霊体が出ればいいんだけどねえ。霊体いちゃいちゃすてがたい」
蛇の目のゆりは残念そうである。
「どうせ見えないんだからいいじゃない」
「見えなくてもドキドキするもん」
「うーんうーん、とりあえず、半分封印って感じにしとく？ やったことないけどできるかしら」
ガーベラが二人のゆりの右胸に手をあてようとした時、そっとその上に手が置かれて、３人はぎょっとその人物を見た。
「え？」
「え？」
「えええ！？」
なんとも麗しい神がそこに立っているではないか。
「「男ガーベラ様！」」
二人のゆりが同時に叫び、ガーベラはぽかんと口を開けていた。
「ガーベラ様！」
二人のゆりは抱きつこうとしたが、男ガーベラには抱きつけなかった。男ガーベラは二人の頬をなでている。
「会いたかったですー」
「これが、ディアメラが本気になりかけた男……」
女ガーベラはぼんやりつぶやいていた。
「てっきりもう会えないかと思ってました」
二人のゆりは涙を流さんばかりである。
「僕の加護の封印、ちょっと待って。調整は僕がするよ」
男ガーベラは二人のゆりの胸に手を当てた。
「ああん、ガーベラ様……」
「すてきー」
二人のゆりは胸がキュンキュンしまくっている。
「そうだ。相手の男の『愛してる』って言葉に反応するようにしようね。あいつはもう一押ししたほうがいいから」
「ずっとみてたい」
「永遠に見ていたい」
ゆり二人はぼんやりしている。
「これでよし」
男ガーベラは手を離した。
「もう勝手に霊体は出て行かないですか？」
黒目のゆりが聞いた。
「うん。多分ね。君達が興奮しすぎたら知らないけど」
「ねえ、私も加護をあげたりできるのかしら？」
女ガーベラが男ガーベラに聞いた。
「どうだろう。どっちみち、もうあげる相手はいないと思うけど」
「まあ、そうかもね」
「じゃあね」
男ガーベラは３人に微笑んで消えてしまった。
「ああーガーベラ様」
「また出ていらしてー」
二人のゆりは涙目で見送っていた。
「さすがに強烈。あれが実体化してたんだ。私だって実際に会いたい気分だわ」
ガーベラはそんなことを言っていた。
「これで加護の力、弱まったのかな？」
ゆりはガーベラに聞いた。
「そうじゃない？ あの人何を思ってあなたたちに加護をつけたのかしらね。加護なんてなくてもいいと思うんだけど」
「きっとガーベラ様の愛の証なんですよ」
蛇の目のゆりが言った。
「そう思うとうれしい」
「ところでクーガをどうやってその気にさせたのかもっと教えてよ」
「さあ」
「教えなさい。じゃなきゃ、あなたたちがスペードさんに会うことハロルドに言っちゃうわよー」
「えー！！！ それだけはやめてください」
「修羅場あるのかなあ」
蛇の目のゆりが言った。
「それもいやー！」
などとこの夜は３人で盛り上がり、ゆりは人間界に戻ったのだった。
「聖地かあ、楽しそうだなあ。私も行ってもいい？」
神の国にて、ガーベラがクーリーフンに聞いた。
「だめだよ。邪魔しちゃかわいそうでしょ」
「そうかしらねえ。でも、ガーベラ神殿には寄るだろうから、あなたは出迎えてあげなさいよ。なんといっても息子なんだから」
「僕？ まあいいけど、しかし、スペードにそこまで会いたいなんて、ほんと大胆だよね。ハロルドが怒ってもおかまいなしなんだから、こっちがドキドキするよ。ばれたらどうなるんだろう」
「アシュランがしたんだから大丈夫じゃない。スペードさんいい男だもんねえ。恋人にひげがある人いないから一人ほしいな。彼女が恋人になってくれたら私の恋人にもしたい」
「こらこら」
「聞いた？ アシュランの隠し子のクーガいるじゃない、彼女達メロメロにしちゃったんだって」
「え？ ほんと？」
クーリーフンは驚いていた。
「彼は聖地にいるんじゃないの？ どうやって会ったの？」
「この前蛇の国にいたわよ。休暇とかで。もしかしたら、アシュランの差し金？ 無事クーガを落としたからそのお礼に聖地旅行とか。ほら、彼、女嫌いでしょ？」
「昔アシュラン様に頼まれて、彼に好きな女がいるか調べてくれって言われたことがあったな。その時はいなかったんだけど。彼もその気にさせちゃったの？ すごいじゃない」
「びっくりよね。アシュランに、彼女達と女神を代われっていわれたらどうしよう」
ガーベラはちょっと真面目な顔付きで言っていたのだった。
日にちはあっという間に過ぎて、とうとう聖地旅行前日になった。
「ああどうしよう。今夜は興奮して眠れないかもしれない」
ゆりとラギは同じセリフを言っていた。
ゆりの部屋には男達が入れ替わり立ち替わりやってきて、旅行の無事を願っている。ゆりのふくれた旅行鞄を見てヴィラは、「一体何泊する気なんですか。一泊で帰る気あるんですか？」などと言っていた。
「いろいろ入れたらいっぱいになっちゃって」
「下着だけあればいいんじゃないですか？」
「やだー次の日は違う服着たいもん♪」
「じゃあ服と下着でいいじゃないですか」
ヴィラはゆりの鞄を開けていた。
「あ。見ちゃだめ」
ヴィラが強引に鞄を探ると、なんと下着だけで５着も出てきた。
「やっぱり一泊で帰る気ないでしょ」
「念のために」
「何が念のためですか。こんなに持って行っちゃだめです」
「あー」
ヴィラは余計な下着や服を鞄から出していた。
「ちゃんと一泊で帰ってくるんですよ」
「多分」
「多分？」
「絶対に一泊で帰ってきますって」
ゆりは笑っていた。
「どうも心配だ」
ヴィラもミカエルもシスに、「王妃が暴走しないように見張ってくださいね」と頼んでいる。今回シスはラギとゆりの見張り役らしい。
そして聖地にいるスペードの元には、ありがたくもアシュランから服一式が届いていた。緑の上着とマントの留め具。ベルトにもスペードのマークが入っている。
「うわっなんかすごく緊張してきた」
スペードはスペードで緊張した夜を過ごしたのだった。
つづく
１２部
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