第３９話
朝になり、ゆりは自分のベッドで目覚めていた。昨夜はガーベラ姿でクーガの寝室に移動し、かなり熱々な時を過ごしてしまった。
会うたびにクーガの熱々度が増しているような気がする。最初に出会った時のクーガとの印象が違い過ぎるので、ゆりは半分くらいは（やっぱり私の妄想じゃない？）とまだ疑っていた。
（ひっついたままあんなにキスしてくれたのは、あの時の王様くらいかも。ラーズもグレンもキスしてくれるけどあそこまでは。クーガ様最初だけやけにあっさりしてたのになあ……実はキス魔かもしれない）
雨音が聞こえてきた。今日も雨のようだ。
（そうだ。今日は予定がてんこもりだった。本当にみんな来るのかな。この際、儀式、しちゃおうかな）
クーガとあれだけ熱々の時を過ごしてしまったからには、長年の恋人達とも熱々の時をすごしたいものである。手っ取り早く儀式にでもなれば、クロスも喜び、男達も喜び万々歳である。
ゆりの脳裏にカールの顔が浮かんでいた。クロスはカールをトーにしたがっている。これ以上無視したら、またカールの寝室に飛ばされるかもしれない。
（ここは、年上の私が攻めるしかない）
ゆりは覚悟を決めた。
「女王様、ごめんなさい。ほんとーにごめんなさい」
ゆりは座って両手を合わせて、過去の女王に謝っていた。
「そしてカール君、ごめんね。お願い、性癖ゆがまないでね」
ゆりはカールにも謝っていたのだった。
朝、ゆりの恋人達にまとめて思念が飛び、ミカエルが確認のために王の間にやってきた。
思念の内容は、「儀式に備えて昼から夜まで空けておくように」である。仕事は強制的に昼から休みになったので、男たちは仕事の引き継ぎや調整をしている。
「王、王妃に儀式の兆候が現われたんですか？」
ミカエルがラクシュミに聞いた。
「さあ、よくわからんが、今日は決めたい、とか言ってたぞ。よかったじゃないか」
「はい」
ミカエルは素直に喜んでいた。
「結局カールはどうするんだろう？ 王妃何か言ってました？」
「さあ、まだゆりとは仲良くなってないんだろ？」
「そのはずですけど」
「今回は間に合わないかもな。カールがずっといてくれるのなら、アナスターシャとくっつけたいんだがなあ」
ラクシュミは小声でぼそぼそ言っていた。
「気持ちはわかりますが、クロス様がカールを狙ってますからねえ。私としても、息子の頼みなら断りづらいなあ」
ゆりのお腹の中にいる赤ちゃんクロスには男達の子蛇がくっついているらしい。クロスはいまや、男達の子供も同然なのである。男達はもうすでにそう思っている。
「儀式になったら蛇の意識が乱入してくるんじゃないか？ 総勢１４人が参加するってことになるのか？ すごいな」
今イシュタールは神の国にいるので、恋人は７人である。
「ハインリヒの蛇は二人いるらしいから１５人？ ミカミカ出てくるかなあ。王妃が喜ぶから出てくればいいなあ。私の蛇なのに、ちっとも私の言うことは聞かないんですよ。ミカミカ」
「まあ、飽きない要素があるのはいいことだな」
ここまで来ると儀式の内容を想像することはラクシュミには不可能だった。夫としてできることは、妻に「がんばれ」と声援を送ることくらいである。
「どんな儀式になるか楽しみですね」
ミカエルはそう言って王の間を去って行ったのだった。
一方まだ恋人ではないカールには、シスから思念が届いていた。
―母様が、今日朝１０時くらいに部屋に来てって言ってるよ
―わかりました
カールはゆりの部屋に１０時ちょっと前にやってきた。すると部屋にゆりはいなかった。
「あれ？」
「王妃様からうかがっておりますよ。今から王妃様がいる場所にご案内しますので」
部屋にいた侍女が、カールに言った。
「そうですか」
ゆりは違う部屋にいるらしい。
カールは侍女の後を歩いてついていき、階段を降りて、２階のある部屋にやってきた。こっちの方にくるのは初めてである。
「中で王妃様がお待ちですよ。どうぞ」
「はい」
侍女が扉を開けて、カールは中に入った。棚にはタオルらしきものがたくさん積まれていて、衣服のようなものがたたまれておいてあった。
「？」
すのこ状の木の板がおいてあり、女性のサンダルもあった。まるでお風呂の脱衣所のような場所である。その向こうに扉があり、カールは恐る恐る扉を開けた。
すると、部屋の中は湯気が立ちこめていて、丸いお風呂に黒髪の女性が入っていた。
カールは状況が飲み込めず、しばし固まっていた。ゆりがカールに気づいて顔を向けた。ゆりは顔だけ出していたので、カールにはゆりの裸は見えていない。
「あの、ここに来るように言われたんですが」
「そうよ。私が呼んだの。一緒にお風呂に入りましょう」
ゆりは明るく言った。
「……え？」
「ごめんね。じっくりじわじわカールと仲良くなりたかったんだけど、どうしても今日儀式がしたくて。でも、カールがこれは無理だと思ったら、無理でいいのよ。だって、こんなの強制されてやるものじゃないし、未来の王子様のため、
とか考えなくていいの。これはカールが私とお風呂に入りたいか入りたくないか、なの」
ゆりは顔だけ向けて言った。
「儀式とお風呂が何か関係あるんですか？」
「すっごく関係あるの。これは裸のお付き合いの初歩って感じ」
「は、はあ」
「来てくれる？」
「はい」
「じゃあ服を脱いで来てね」
「はい」
お風呂にいたゆりは、ものすごくドキドキしていた。外は雨である。ゆりは、水蛇さんが降りてくるのを狙っていた。カールは絶対水蛇さんの好みのはずだ、とそう思っていたのである。
（来るか。よし、心を決めよう。愛は……愛は後からついてくる、絶対！）
ゆり自身、今カールをどうこう思っているわけではなかったが、仲良くなれば、絶対カールに好意を持つはずだ、とそう思っていた。
ドキドキしながら待っていると、カールが裸でやってきて、湯の中に入った。ゆりはちらりとカールを見て、カールの蛇を見て絶句していた。
顔に蛇の顔があるのだが、その蛇は下にうねり、胸を通り、お腹の方まであった。想像通りすごい蛇である。カールの胸の上に蛇の胴体が通っているので、なんだかすごくセクシーな感じがする。しかも、細身に見えて、
結構筋肉もついているのでそこにもゆりは驚いていた。
「カールって、着痩せするタイプなんだね。ごめんね。こんなことしにこの時代に来たんじゃないのに」
「いえ、前に言った通り、王妃様に会えてとてもうれしいです」
ゆりの左目が変化した。
「カール君、やっぱり蛇すごいね。ねえ、蛇紋はどう変化するの？ お願い。教えて。わくわくするわ」
蛇目のゆりはカールの蛇に興奮していた。カールはちょっと頬を赤らめている。
「それはまだ秘密です。あの、儀式は、黒目の王妃様がするんですよね？」
「うん。そうよ」
「なら、あちらの王妃様に気に入られなきゃだめですよね？ やっぱり」
「うん。でも、もうあっちは儀式にカール君を誘う気満々だよ？」
カールはそっとゆりの手を握りしめた。
「お願いします。黒目の王妃様の性癖を教えてください」
「え？ 性癖？」
「今日儀式をするのなら、時間をかけて仲良くなることもできないじゃないですか。どうすれば王妃様が一番喜ぶのか、どうしても今知りたいんです」
「えーと、性癖ねえ……（あっちは口でするの好きだけど、それって性癖？）」
蛇目のゆりは、さすがにそのことを言っていいのかどうか迷っていた。いきなりカールが「口でしてください」とか言い出したら、黒目のゆりもドン引きするかもしれない。
「普通に好きですって感じで好意を示したらいいんじゃないかな？ あっちは結構そういうの弱いよ。儀式って感情的に盛り上がるのも重要みたいだから」
「そうですか。あの、こういうのどうですかね」
カールは蛇の目のゆりの耳元で、ちょっと恥ずかしげにひそひそ言っていた。蛇の目のゆりは耳を傾けて聞いていたのだった。
黒目のゆりは、気がつくとカールの腕の中にいたので驚いていた。
「あれ？」
カールは頬をピンク色に染めている。
「王妃様の肌は、とても柔らかいですね」
「え、そう？ え……と、急だけど、儀式に誘っちゃっていい？」
「はい。うれしいです」
「無理しないでね。儀式って、男が大勢いるし、なんか独特の雰囲気だから、嫌な人もいると思うから」
「初めてで緊張しますけど、がんばります」
「あんまりがんばらなくていいんだよ」
ゆりはちょっとカールが気の毒になっていた。いたいけな男の子に何をさせるんだ、と自分でも感じている。
「この後儀式になるんですか？」
「実は本当にできるかどうかわからない。でも、なんか女蛇が来そうな予感がしたりして、というか今日したい気分かな」
「そうですか。なら、儀式が終わったら、私も王妃様の、こ、恋人ですか？」
カールがおずおずと聞いた。
「うん。本当に嫌じゃない？」
「うれしいです」
カールは照れたように微笑んだ。
（無邪気でかわいい。そして罪悪感を感じる）
とゆりは思っていた。
お風呂の水面がざざっとゆれた。
「ん？」
お湯がゆっくりとお風呂の中を回転している。
「？？」
足下をぬるっと何かが通り過ぎて、ゆりは足をびくつかせていた。
「何かいる？」
お湯をのぞいても、何も見えない。
「何？ 何かいたよ？」
「恋人もいっぱいいらっしゃるんで、私にしかできないことで王妃様を喜ばせるにはどうしたらいいかなって、考えてたんですが……まさか王妃様から水の中に誘っていただけるなんて思いませんでした」
カールはゆりの腕をなでながら言っていた。
「え？」
ゆりの太ももの周りを何かがぐるりととりまきだした。
「え？ ええ？」
ゆりはもぞもぞ足を動かしている。
「怖くないですよ。ただの水の塊ですから」
「え、水の、塊？」
「はい」
水の塊はまるで大きな蛇のようにゆりの体をとりまいている。太ももや胸の方まで。
「えーな、何をするの？」
「愛撫ですよ」
「あ、い、ぶ？」
水の塊が小刻みに動いていた。
「なんかやらしい動きしてる！」
しかも、太ももの付け根のあたりに水の塊がぐりぐり迫ってきている。
「ちょ、ちょちょ！」
ゆりはお湯から出ようとしたが、カールにぎゅっと抱きしめられて出られなかった。
「嫌ですか？ 気持ち悪いならやめますが、あっちの王妃様は大丈夫って言ってたんですが」
「ええー」
「脅えなくても大丈夫ですよ。私の体を入れたりしませんから。ジュノー様に王妃様と恋人達のことを詳しく聞いたんです。儀式でも普段でも、体の挿入はしないって。
そのかわり、指とか舌で王妃様を喜ばせるのはいいって。指や舌がいいのなら、水での愛撫もいいのかなって思ったんです」
「水の愛撫？」
ゆりは体がぞぞっとするのを感じていた。いやの意味のぞぞっではない。なんだか体がおかしい。ドキドキする。
ゆりはカールの唇にちゅっとキスしていた。
「王妃様」
カールはうれしそうだ。
「もっとされたいな♪」
（誰かきたー！！！）
どうやら女蛇がやってきたようである。
「そうですか？ じゃあもっとしますね」
（おーい！）
とゆりは心の中で叫んでいた。
―確かに、指や舌がいいのなら、水もあり
（ちょっとお！）
―いやありでしょ。ただ洗ってもらってると思えばいいじゃない
（えー！！！）
―この子かわいい♪ なんか懐かしい匂いを感じる〜 今までどこに隠れていたの？
水の蛇のような塊がぐりぐりとゆりの下半身を刺激していた。カールはゆりの頬にちゅっとキスしている。
「あ、だめ、奥は……あの……指でお願いします」
ゆりは水でされるのが怖かったのでそう言っていた。
「わかりました」
カールは指でゆりの体を刺激し始めた。
「ああ、かわいいなあ。モモちゃんと同じ色だ。すっごくかわいい気の色ですね」
カールは指で愛撫しながらゆりに口づけた。
（やばい……カール君結構やばい……）
「胸も柔らかいですね。かわいいな」
ゆりの胸を片手でなでていたカールは、右胸の上に青い花のような模様が浮かんでいるのに気づいた。
「なんだろう？ さっきはなかったですよね」
カールは花の模様にちゅっとキスをして、舌でなめていた。
その間もカールの指はゆりの体の奥へと入ったままで、指での愛撫でゆりは腰をびくつかせていた。
「あ、もうだめだ。早く儀式しなきゃ。王様に思念してくれる？ みんな呼ばなきゃ」
「もう少し二人っきりでいたかったですが……」
「今後二人っきりになる機会、いっぱいあるから」
「はい」
「じゃ、儀式部屋に移動しましょ」
「はい」
ラクシュミからの思念で男達が儀式部屋にやってきた時には、部屋の中は妖しい匂いで満ちていた。この場にいるだけで興奮しそうなほどである。
「はあ……ああ……」
そして男の興奮した声が聞こえてきた。ゆりはもう口での奉仕を始めてしまっていたのである。
男達は、相手の男がカールだったので驚いていた。
「王妃、速攻でカール君を落としたんですね」
ジュノーが言った。
「王妃様、みんなが……」
カールは今とても気持ちいい状態だったので、ゆりから離れられなかった。
カールの瞳は青い縦に長い蛇の目になっているし、体にはもう一匹蛇が現われていたので、男達はそれにもぎょっとしていた。もう一匹の蛇は、背中に顔があり、お腹の方にぐるりと回っている。そちらも長い蛇である。
「あ……はあ……」
カールは達し、ゆりは男達を見た。
「フリット、愛撫して。カールはまた後でね」
「はい」
「水蛇さんが来たんですか？」
フリットが服を脱いでベッドに近づいた。
「うん。そうなの。みんなも服を脱いでてね」
フリットはゆりを抱きしめた。
カールはタオルで体を隠し、恥ずかしげにみんなに頭を下げている。
「えーと、あの、よろしくお願いします」
カールはおずおずと言った。
「よろしく」
「よろしくお願いします」
ミルキダスとシャナーンが返事をし、ジュノーとヴィラは軽く頭をさげていた。
ハインリヒはゆりの胸の上にある青い花の模様を見ていた。
「花、あのままか。大丈夫か？ カールにはきついんじゃないか？」
ハインリヒはカールをちょっと心配していた。他の男達のようにカールは段階を踏んではいないのだ。
「大丈夫ですよ」
―やっぱりカール君の蛇すごいな
ジュノーがヴィラに思念を送っていた。
―ああ
しょっぱなからゆりの興奮度も高く、部屋の中に充満したゆりの匂いのせいで、男達もかなり興奮状態になっていた。この空気をどうにかしたいが、窓を開けると部屋の温度が下がってしまう。
「王妃、もう待ちきれませんよ」
ミカエルが言った。
「ミカエルもきて」
「王妃、先に私のをどうにかしてください」
フリットが切なげに言った。
「うん。いいよ」
ゆりは興奮してフリットの体に手を伸ばしている。
「王妃、今日は展開が早いですね」
ミカエルが言いながらゆりの胸をなでていた。
「新しい恋人ができちゃったから、つい。みんなと一回して、休憩して、それから夜コースかな」
どうやら長い儀式になりそうだ、と男達は思ったのだった。
「夜まであまり興奮したくないが……これじゃ無理だな」
ジュノーは体の昂ぶりを止めることができなかった。
ヴィラがカールを見ると、カールはゆりと男達の愛撫からは背中を向けていた。
「大丈夫？」
「え？」
カールがヴィラを見た。
「最初だから驚いたろ？」
「儀式の内容は聞いていたので」
「ああ、早く王妃に抱きつきたい」
シャナーンはうっとりした目でゆりを見つめていた。
「今日の王妃もキレイだなあ。イシュタール殿は残念ですが……」
ミルキダスも頬を赤く染めてゆりを見つめている。
一通り男達への愛撫が終わり、ゆりもようやく落ち着いていた。
ゆりはカールを見て、「前髪下ろした方が好きだな」と言っていた。いつもはオールバック風に前髪は上にあげられているのだが、今は前髪は降りている。
「そうですか？ じゃあそうしようかな」
「だめー私の前だけにして」
「はい」
ゆりは「じゃあみんなお風呂に行こう！」と明るく言い出した。
「お風呂で遊ぼう。フリットだっこ」
「はい」
フリットはゆりを抱き上げて消えた。シャナーンとミルキダスも後を追った。
「なあ、もしかして、過去で儀式に参加したのか？」
ハインリヒがカールに聞いた。
「え？ いいえ。今日が初めてですよ」
カールが答えた。
「そうか。結構平気そうだから」
「いえ、そうでもないですが……王妃様の匂いがすごく良い匂いで、さっきは足がガクガクしてました」
「いきなり恋人になって儀式だから驚いたろう？」
ジュノーが言った。
「はい、でも、うれしいです」
「そっか」
カール、ジュノー、ヴィラも移動した。
「ミカエル、最近おとなしくてつまんないぞ」
ハインリヒがミカエルに言った。
「うるさい」
ハインリヒは消えた。
「妬いて何がどうなるんだ。ばかばかしい」
ゆりの恋人が増えるのを止めようとしても無理である。
今のゆりの方が魅力的といえば魅力的すぎるのだが、あまりにゆりの相手が増えすぎて、こうなってくると、妬くのがばからしいと思うのも無理はないことなのかもしれない。
以前はゆりの侍女から、ゆりが今日だれと過ごしたという情報を仕入れていたが、今はそういうことも気にしなくなっていた。
今は恋人の一人でまあいいか、とさえ思っていた。以前の自分ならば、こうは思わなかっただろう。
（私も丸くなったもんだな。昔は王妃がヴィラと仲良くしていただけで腹を立てていたのに、もうあれほど妬くことはないのかもしれない。これも成長したってことか？）
ミカエルは、儀式部屋の壁にある丸い鏡に目を向けた。
「ミカミカはいいな。王妃の金蛇に子供を産んでもらえて。まあ、我々は十分王妃に幸せにしてもらったもんなあ」
ミカエルも消えた。
その後、ゆりは男達と体を洗い、服を着て自分の部屋に移動した。部屋のテーブルには軽食と酒が並べられている。侍女達は今頃儀式部屋の掃除に取りかかっていることだろう。
「王妃、私夕方まで自分の家で休憩してきますよ」
ミカエルが言った。
「え？ 帰っちゃうの？」
「夜は長いでしょ。夜に備えてね」
「わかった。みんなはどうする？」
「私も自分の家で休んで来ようかな」
「私は王妃といたいです」
ジュノーやシャナーンが言っていると、ミカエルはゆりに近づいて、耳元でぼそっと何かを言って消えた。
「え？」
他の男達には聞こえなかったようだ。
「どうしたんですか？」
ゆりがぼんやりしていたのでカールが聞いた。
「ううん、カールはどうする？」
「どうしようかな。私もちょっと帰ってまた来ますね」
「うん」
「失礼します」
カールはみんなにお辞儀をして消えた。
「…………」
ゆりの目からぼろりと涙がこぼれたので、ミルキダスばびくついて「どうしたんですか？」とゆりの顔をのぞき込んでいた。
「あ、なんでも……」
涙が止まらなかったので、ゆりは顔を手で覆っていた。男達が皆ゆりに注目した。
「一体どうしたんですか？」
ヴィラが聞いた。
「ねえフリット、ミカエル私に何か怒ってた？」
ゆりはフリットに聞いた。
「え？ いえ、何も怒ってないと思いますよ。ミカエルが何か言ったんですか？」
「鈍感女って言われた」
「え？」
「さっきのはミカミカだったのかも？ 私が気づいてないだけで、ミカエルは怒ってる？ ミカエルを怒らせるようなこと何かしたかな？ 思い当たることは……結構あるかも」
男達は目を合わせていた。ミカエルは普通に儀式に参加していたので、だれも何も思わなかったようだ。
「最近聖地旅行とかで浮かれてたし」
「まあ、最近ミカエルはおとなしくてつまらないですがね」
ハインリヒが言った。
「カールが恋人になっても何も言わないし」
「王妃に対する接し方に変化があっただけですよ。王の心境に近くなってるんです。きっと」
フリットが言った。ゆりはしょんぼりしている。
「そう言われれば、こういう時に家に帰ったりは今までならしなかったですね」
ジュノーが言った。
「みんなは私のこと正直どう思ってる？ 怒ってない？」
「怒ってないですよ」
フリットが言った。
「王妃が明るくここにいてくださるだけで、私はうれしいですよ」
シャナーンが言って、ミルキダスも、「私もです」とうなずいていた。
「王妃、気になるなら、ミカエル殿に直接聞いたらいいじゃないですか」
ヴィラが言った。
「そうですよ。じゃないと、夜の儀式、できなくなっちゃいますよ？」
とジュノー。
「うん……」
「王妃、行きましょう。王には言っておきますから」
フリットはゆりの手を取った。
「うん。行く」
二人は移動した。
「確かに、最近のミカエル殿は、普通すぎてつまらないですね」
ジュノーが言った。大体この一族は妬くってことが稀なので、ゆりに妬くミカエルを、周りは結構微笑ましく思っていた。
「まあ、部屋に来た早々あんな状況を見せられちゃ妬くよりも絶句って感じだがな」
とハインリヒ。
「女蛇が降りたらしょうがないですよ」
ヴィラが言った。
ハインリヒは机の上に並べられていたサンドイッチを手に取って食べていた。
「恋人は９人か……カールが王妃の恋人になるのは仕方ないが、全体的にほのぼのじゃつまらんな」
「喧嘩がしたいんですか？ カール君としたらいいじゃないですか。また校庭を破壊しないでくださいよ。するなら別の所でしてください」
ジュノーは酒を手に取って言っていた。
「私は次があったら参加したいです」
シャナーンが言った。
「え？ 参加したいの？」
「はい。なんか楽しそうだったので。王妃を取り合って喧嘩、とかしてみたいです」
シャナーンは冗談ではなく本気である。
「お、じゃあ今度するか？」
ハインリヒが楽しげに言った。
ミルキダスはひそかにぷっと笑っている。
「ミルキダスも来い」
「嫌です」
「来いよ」
「本当にいいです。イシュタール殿は喜んで参加すると思います」
「絶対参加しそう」
ジュノーは想像して笑っていた。
「それよりも、夜の儀式、我らの蛇は出てくるのかな？」
ヴィラが言った。
「出てくるんじゃないか？ 王妃の金蛇は出ないかもしれないけど、変化したら我らの蛇は出て来そうな気がする。まあ私は蛇がでてもあんまり変わらないけど」
とジュノー。
「カールがつられて変にならなきゃいいが……」
とハインリヒはカールを心配していた。
「まあ、蛇達が出るのは止めようにも止められないのかな」
ヴィラが言って、本格的に食べ物を食べ出した。
一方ミカエルは、自分の屋敷の自分のベッドで寝転んで目を閉じていた。誰かが部屋に入ってくる気配を感じたので目を開けると、近づいてきたのはゆりだったので、ミカエルは驚いて体を起こした。
「王妃、どうしたんですか？」
「……棄てないで」
「え？」
「棄てないで」
ゆりはベッドにあがってミカエルに抱きついていた。ミカエルはさっぱりわけがわからない様子である。
「何を棄てるんです？」
「私」
「え？」
ゆりは、（やっぱりさっきのはミカミカだ）とそう確信した。ミカミカはミカエルの心境の変化を知らせてくれたに違いない。
ミカエルは笑っていた。
「いきなりどうしたんです？ 私が王妃を棄てたりなんてするはずないじゃないですか」
「そんなのわからないでしょ」
「棄てるもなにも、恋人が増えて心配するのは私のような気がしますが」
ゆりはものすごく力を込めてミカエルを抱きしめていた。
「あの、苦しいんですけど……」
「やだ」
ゆりはミカエルから離れなかった。
「王妃ってば」
ミカエルは苦笑してゆりの頭をなでなでした。
「さっきは……おいしそうにカールにしてあげてたくせに」
ミカエルはゆりの耳元でぼそっと言った。
「一番ミカエルにしてるもん」
「ヴィラじゃないんですか？」
「ミカエルだよ。ミカエルの感じてる顔を見るの好きなの。ミカエルに触られるのも好きなの。ミカエルにするのも好きなの」
「あんなに恋人がいて神様にも愛されてるのに、私が離れるのがそんなに嫌なんですか？」
「嫌。神様は、そのうち私が年取ったらもう来ないよ。ミカエル達は、私が離さないもん。本当は、ミカエルが赤い月で彼女を抱くの嫉妬してるくらい、ミカエルのことが好きなの」
「なんかぞくぞくってしてきた。今の王妃かわいいですよ。もっと言ってください」
ミカエルは心底喜んでいるようだ。
「好き、すごく好き。ミカエルに棄てられたらもう儀式なんてできない。そのくらい好き」
「すごくかわいい。なんか興奮してきた。でも、夜のために我慢しようかな。王妃、熱烈に口づけしてください」
「うん！」
ゆりはミカエルの首に腕を回して、唇を合わせていた。
ゆりはミカエルと手をつないで部屋に戻ってきたので、男達はかなりほっとしていた。ゆりはすっかり元気そうである。
暇だったのか、ハインリヒとヴィラはバラクで遊んでいた。
他の男達はバラクでどっちが勝つか賭けていた。
―王妃が変だったけど、フリット何か言った？
ミカエルはフリットに聞いた。
―いいや。お前が帰っちゃったから、王妃はミカエルの愛が冷めてるとでも思ったんじゃないか？
―そうなのかな？
―王妃が元気になってよかった
ゆりはミカエルと手をつないだまま、二人のバラクを見ていた。
「私の勝ちですね」
バラクはヴィラが勝った。
「くそっ」
「この中ではミルキダスが一番強いんじゃない？」
ゆりが言った。
そこにカールが戻ってきた。ゆりが前髪を下ろしたのが好きと言ったせいか今は前髪は降りている。
「ねえ、カールはバラク強い？」
ゆりが聞いた。
「バラクですか？ どうでしょうか」
カールは首をかしげている。
「ミルキダスとやってみて」
「はい」
カールとミルキダスの対決になった。カールはバラクも結構うまいようだ。ミルキダスは「来年のバラク大会に出てください」とカールを誘っていた。
「はい」
蛇の目のゆりが出て来たので、ミカエルは、「さっき王妃が変でしたが、一体どうしたんですか？」と聞いていた。
「さあ、でも、たまにあんな風に言われるとうれしいんじゃない？」
「うれしかったですよ。ぞくぞくっとしましたよ」
「王妃になんて言われたんですか？」
ジュノーが聞いた。
「私に棄てられたら死んじゃうって」
「え」
「そこまで言ってないでしょ」
と蛇目のゆり。
「それくらいの熱意を感じましたよ」
「まあ、よかったですね」
バラクはミルキダスが勝ったが、結構接戦だった。
「もう一回お願いします」
カールからの再戦希望が出た。
「まった。その前に、私まだカール君と何にもしてないから、ちゅーしよ。ね」
「え、あ、はい」
ゆりはカールの手を引っ張っていた。
「じゃあちょっとカール君借りるね」
ゆりは寝室の方にカールをつれて行った。
ミルキダスの向かいに、ミカエルが座っていた。
「せっかくだから、バラクでトーナメントするか？ その順番が、夜の儀式の王妃の相手の順番ってことで」
ミカエルが提案した。
「私は別にいいが」
とハインリヒ。
「私もいいですよ」
とミルキダス。
「私は不利じゃないですか。まあ、別に順番はどうでもいいか」
ジュノーはすでにバラクで勝つのは諦めている。
「じゃあ表を作ろう」
ミカエルはゆりの机の上にあった便せんを一枚もらい、ペンでトーナメント表を書いていた。
「じゃんけんで決めるか。カールは時間がかかりそうだから残ったとこで」
男達はじゃんけんをして順番を決めた。
「２試合ずつした方がいいですね。ラギ様からバラクセットを借りてきます」
ミルキダスは部屋を出て行った。
ところが、話を聞いたラギは、「僕も参加したい」と言い出した。ミルキダスは「今回は大人の大会なので……」とやんわり言ったのだが、「絶対僕もしたいよ。お願い」とラギに懇願され、だめだと言えなかった。
こうしてラギも強引に参加することになった。
蛇の目のゆりがカールと一緒に部屋に戻ると、男達がバラクに興じ、ラギもその中に入っていたので驚いていた。
「なんでラギもいるの？」
「バラク大会だよ。僕も出るに決まってるでしょ。カール、バラクうまいんだって？ 相手してよ！」
ラギは目を輝かせている。
「は、はい」
カールは先ほどまでゆりとキスしまくっていたのでかなり恥ずかしそうだった。
「カール、お母さんの恋人になったんだね。ハザーク様も入れて、恋人はこれで１０人だね」
ラギがうれしそうに言っていた。
「きりがいいからお祝いしようよ」
「え？」
カールはかなり恥ずかしそうだ。
「お祝いはいいの。余計なことは言わないのよ」
蛇の目のゆりが睨んでいる。
「わかってるよー。カールとバラクしたら行くからー」
ラギはどうしてもカールとバラクがしたいようだ。二人は対決し、バラク対決はラギが勝ったので、カールは驚いていた。
「やったあ。勝った！」
「ラギ様はお強いですね」
「ありがとう。じゃあみんながんばって、良い蛇が来るように祈ってるから」
ラギはうれしげにみんなに言って部屋を去って行った。
黒目のゆりが気がついた時には、ハインリヒに寄りかかっていた。
「あれ？ 私寝てた？ 今何時？」
「夕方ですよ」
ハインリヒが答えた。
「お腹すいちゃった」
「新しい食べ物も来てますよ」
「うん。食べる」
「取ってあげますよ」
シャナーンが小皿にいろいろ食べ物をのせて渡してくれた。
「ありがとう」
男達はまだバラクをしているようだ。カールとミカエルがバラクをしていて、男達はそれを眺めている。
「王妃、決勝戦ですよ」
バラクをしていたミカエルが言った。
「そうなの？ あれ？ みんなでやってたんだ？ ミルキダスは負けたの？」
「カールさんに負けました」
「えーすごい。カールバラク強いんだ。絶対ラギに誘われるよ」
「もうさっきラギ様が来てしましたよ」
ハインリヒが笑っていた。
「え？ そうなの？」
バラクはミカエルが勝った。
「王妃、夜の儀式は私が一番に愛してあげますよ」
「え？ そうなの？ 最初から興奮しまくっちゃいそう」
などとゆりは言っていた。
「あのー、王妃に今回来てるのは水蛇さんなんですよね？」
フリットが聞いた。
「うん。そうよ」
とゆり。
「じゃあ、カールとは親戚ですよね？」
「え？」
カールは目をぱちくりさせている。
「あ、そうか。水蛇さんはカーライル様の娘さんだっけ」
「え！？」
カールはすごく驚いていた。
「カーライル様の娘さんとそんなことしていいんでしょうか？」
「いいよ。別に姉と弟ってわけじゃないし。でも、考えるとすごいよね。カールはカーライル様にも会っちゃうし、娘さんとも仲良くしちゃうし」
「なんだかすごく恥ずかしくなってきました。ちゃんと挨拶をした方がいいんでしょうか」
「しなくてもいいんじゃないかな」
カールの頬は真っ赤だった。
改めて、儀式部屋にてカーテンを閉めて、早い時間から夜の部が始まった。男達は儀式部屋に酒をもってきている。
「王妃、さっきみたいに熱烈に愛してください」
ベッドの上でミカエルがゆりを抱きしめて言った。
「ミカエル愛してる」
ゆりはささやくように言った。
「王妃、私も愛してますよ」
二人は服を着たままぎゅっと抱きしめ合っていた。
「なんだかすごくドキドキする。最初に儀式をした時みたいにドキドキしますよ」
ミカエルはゆりに熱烈にキスしだした。
（多分霊体さんがなんかしてるかも。今日は私の霊体さんも忙しそう）
ゆりは想像していた。今日は好きにいろいろしてね、という気分である。
「まずは、全員とキスしたいな。ミカエルまた後でね」
「はい」
「カールきて」
「はい」
ゆりはカールをぎゅっと抱きしめた。
「カールとは今日仲良くなったばかりだから、もっといっぱい仲良くなってから言うね」
「私はもう、王妃様のことが大好きですよ。胸がドキドキしてもう、なんか大変です」
カールは頬を真っ赤にして言っていた。
ゆりはカールと熱烈なキスを交わして離れた。
「三番目はだれだっけ？」
「私です」
ミルキダスがもうすでに真っ赤な顔でやってきた。
「ミルキダス、愛してる」
「私はもうずっと愛してます」
ゆりはミルキダスと抱きしめ合った。こんな感じでゆりはカール以外の全員に「愛してる」といい男の方も「愛してる」と返していた。
何度もしている儀式だが、ゆりと愛し合っていると思うと、男達も胸の高まりが抑え切れなかった。
ゆりは全員とキスすると服を脱いだ。
「みんな、しばらくは女抱けなくなるようにしちゃうからね。ミカエル愛撫して」
「はーい」
「カールも来て」
「は、はい」
男二人がかりでの愛撫が始まると、ゆりの胸の上に青い花が現われた。
「今日の王妃はさらに美しいなあ」
シャナーンはうっとりした表情でゆりを見ていた。部屋の中に、再び良い匂いがしていた。
「やばい、早々に変化しそうだ」
ジュノーは口元に手を当てていた。
「早く代わって欲しい。体がやばい」
とハインリヒ。
「ミルキダス、悪い。口は先にもらっていい？」
「いいですよ」
ミカエルとカールがようやくゆりから離れて、ミルキダスとハインリヒがベッドに上がった。
「王妃、もう限界ですよ」
ゆりは興奮したハインリヒの体に顔を寄せている。ミルキダスはゆりの胸をなでながら、ゆりの肌にキスしていた。
ゆりが口でハインリヒの体に愛撫を始めると、ハインリヒは「最高に気持ちがいい」と歓喜の声をあげていた。
ハインリヒの腕に黒い蛇の鱗の模様がうっすらとうかびだした。その鱗は体中広がってきて、カールはぎょっと目を見開いていた。ハインリヒの瞳が蛇の目に変わっていた。そして黒い二匹の蛇は、両方顔が二つに増えて、口を開けていた。
「ハインリヒ殿の変化はやっぱりすごいな」
ヴィラは感心するように言った。ミルキダスの肌にも赤い鱗がうっすらと浮かんでいた。
「変化で体に鱗が？」
男同士で変化した姿をみるのは稀である。カールも、友人から自分はこうだった、ああだったと話を聞いただけだが、肌に一匹の蛇が出ているのに同時に肌に鱗が出るというのを聞いたことはなかった。肌の一部に出るというのは聞いたことがあるが、鱗は肌のあちこちに出ているのである。
横を見ると、ジュノーの顔にも、緑の鱗の模様が出ている。
「こっちでは鱗が肌に出る変化って普通ですか？」
カールが聞いた。
「いや、多分我々だけだよ。過去ではディラン殿とかもそうか。王妃に関わると、こうなっちゃうんだ」
ジュノーが言った。
「王妃様に関わると？」
「そう、君もいずれなるかも」
カールはゆりを見た。今は、ゆりはミルキダスに奉仕し、ハインリヒは背中からゆりの肌に触れ、
指でゆりの陰部を刺激していた。
ハインリヒとミルキダスが終わり、フリットとヴィラがベッドに近づいた。
「シーツを変えよう。新しいシーツでしたい。ヴィラ、王妃を抱っこしてて」
ヴィラはゆりを抱っこし、フリットはいそいそとシーツを取り替えていた。
「これでいい。おいでーゆりちゃん」
フリットがゆりを手招きしている。すでに蛇様の方が出ているようだ。
カール以外の男達の肌に、蛇の鱗がうっすらと浮かんでいた。ミカエルは変化しても蛇様は出てこなかったが、他の男達は皆出て来て、ゆりのお腹をなでたり、ゆりに愛撫したりしている。
二人ずつの愛撫が終わると、男達は数人ずつ入り乱れ、ゆりに触れていた。
カールは途中から中に入っていけず、ゆりと男達の行為を見ているだけだった
変化している男がこれだけいると、なかなか異様である。しかも、いつ入って来たのか、気がつくと、部屋の中に薄い大きな蛇が二匹、ゆっくりと飛んで回っていた。
カールは蛇霊神にも驚いたが、（王妃様は大丈夫なのだろうか？ 男達に乱暴にされやしないか）とゆりの心配をしていたが、そういうことはなかった。変化しても、男達は自制心を保っているようだ。というのも、男達は欲望だけではなく、愛をもってゆりに接していた。
（変化とは、欲望が表に出るだけではないのか）
なぜかわからないが、カールの瞳から涙がこぼれていた。
やがてゆりは謎の言葉を吐いて、宙を回っていた二匹の蛇霊神は、ゆりの中に吸い込まれた。ゆりはそれきり意識をなくしてしまった。
「あ、王妃様！」
「大丈夫。最後はいつもこうなるんだ。明日には元に戻っているから」
ヴィラが説明した。
「そうですか。よかった」
カールはほっとしていた。
「途中からぼんやり見てたな。驚いただろ？」
ハインリヒが言った。
「はい、でも、感動しました」
「感動？ 本当に？」
ジュノーが聞いた。
「はい」
「ミカミカだけ出てこなかったな。本当はゆりちゃんが大好きでたまらんくせにまったく」
フリットは横目でミカエルを見ていた。
「フリットはこの儀式の記憶あるのかな」
結構長いことフリットが変わっていたような気がしたので、ミカエルはそこが気になった。
「あるよ。じゃあ、お姫様をキレイにしてこよう」
ミルキダスが当然のようについて行き、シャナーンが「私も行きます」とすぐに後を追った。
男達はいつもの姿に戻っていた。
「カール君は次に儀式があったらどうする？ 参加したい？」
ヴィラが聞いてみた。
「参加したいです。でも、その前に、いっぱい王妃様と仲良くなりたいです」
どうやら今日でやめる気はないようだ。
「カール、今度喧嘩しよう」
ハインリヒが誘っていた。
「喧嘩？ 楽しそうですね」
カールは乗り気だったので、他の男達は「おー」と声をあげていた。
「よかったですねえ」
「お前も来るんだよ」
ハインリヒがジュノーに言った。
「嫌ですよ」
「何かルールを決めて、一番負けたやつは次の儀式不参加ってことで」
「えー絶対いやだ。っていうか、ハインリヒ殿断然有利じゃないですか。ずるいですよ」
「ずるくない。ミカエルも絶対参加しろ」
「ミカミカが出そうにないからパスで」
「お前は、今日は一番良いところを持っていったくせに」
ハインリヒはミカエルの肩を指でついていた。
ヴィラはぷっと笑っていた。
「確かに、でも、ミカエル殿がおとなしいとつまらないので、以前のようにばかみたいに王妃に嫉妬してくださいよ」
「ばかみたいにって」
「ばかみたいに微笑ましく嫉妬してください」
ジュノーも続けていた。
「ふん」
「それで、いつ喧嘩しますか？」
カールはやる気満々で聞いていたのだった。
翌朝、ゆりの髪は伸びて、昨夜の儀式は嘘のように肌もキレイになっていた。
ゆりが目を覚まして横を見ると、ラクシュミは寝転んで自分を見ていた。
「王様おはよう」
「おはよう。昨晩な、クロスが出て来てすごく喜んでたぞ」
「え？ ほんと？」
「ああ。すごく喜んでた」
「そうなんだ」
「カールも儀式に加わったんだってな」
「うん、でも、途中からいなかったような？ あれ？ どうだったんだろう」
「途中で逃げたという話は聞いてないからいたんじゃないか？」
「そうかな？ まあ、後で確認するとして、あのー」
ゆりはラクシュミのゆびをつんつんしていた。
「抱いてほしいのか？」
「うん」
ゆりは大きくうなずいた。
「じゃあこい」
ゆりはラクシュミに抱きついた。
こうして無事、ゆりの儀式は終わったのだった。
つづく
１２部
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