第４５話
ゆりはオルガからもらったコウモリのぬいぐるみが結構気に入って、良い匂いなので夜ぬいぐるみを抱きしめて眠っていた。ぬいぐるみの中には眠りを誘うポプリか何かが入っているようである。
その夜は、ふわっとした雲が漂う空間に二人のゆりがいた。辺りにはうっすらとぬいぐるみの匂いが漂っている。
「ねえ、真面目に１０年もかけてスペードさんおとすつもりなの？」
蛇の目のゆりが聞いた。
「うん」
黒目のゆりはうなずいている。
「ばからしーと思わない？」
「別に。あなたはすぐそっちに頭がいっちゃうわね。お話するだけで楽しいじゃない」
「そう？ あの挨拶をするだけでそんな楽しいの」
「楽しい」
蛇の目のゆりが鼻でふっと笑っていると、その場にボンとスペードが現われて二人はびっくりした。
「え？ スペード様が夢に来た？」
黒目のゆりは驚いたが、スペードは全く動かない。スペードは、聖地で出会った時の緑系の服装だった。
「あれ？ 幻みたい？」
蛇の目のゆりがスペードをつついてみたが、スペードは全く動かなかった。
「そうなんだ。じゃあ抱きつこうっと」
黒目のゆりはスペードに抱きついていた。
「あなたはだめー」
「いいもーん、じゃあ、私はクーガ様、こいこい」
蛇の目のゆりが念じると、その場にクーガも現われていた。
「やったあ」
蛇の目のゆりはクーガに抱きついていた。
「なんで裸なのよ」
と黒目のゆり。クーガは上半身だけ裸である。
「クーガ様の裸が好きなんだもーん。私が思うに、あなた獣系に弱いから、スペードさんのことがそんな好きなんじゃない？」
蛇の目のゆりはクーガに抱きついたまま言っていた。
「ほら、前にガットさんにメロメロになってたじゃない。獣系にむっちゃ弱いのよ。あなた」
「でもスペード様は妖精だし、そんな匂わないし」
「普通の人間だったらやばかったかもね。私は獣系の匂いは好きじゃないけど、スペードさんと仲良くなったら代わってね」
「いや」
「いいじゃないよ」
「やだもーん」
「王妃様がそんな本気になっちゃだめよー」
「別にそういうんじゃないしー、クーガ様にひっつきながら言われても……」
「あーもっとクーガ様に会いたい。昼と夜のギャップがたまらん！」
蛇の目のゆりはクーガにすりすりしている。
「クーガ様ってさ、『すべてをさらけ出しなさい』みたいなとこあるよね。ああいう所がちょっと困るな」
黒目のゆりが冷静な声で言った。
「ラーズとかハロルドとかは、そういう所ないじゃん」
「まー確かにそうかも。でも、タイプが違うから面白いんじゃない。私的には、夜は、クーガ様、ラーズ様、ハロルド様のローテーションが最高にいいな」
クーガの横に、ラーズとハロルドも出現していた。二人も上半身裸である。
「すごっ！ このローテーションできるの世界で私達だけだよ！」
蛇の目のゆりは興奮している。
「いや、できないできない。そんなに都合良く会えないから」
黒目のゆりは冷めた目で見ていた。
「ハザーク様も入れてよ」
「ハザーク様は昼間仲良くするからいいの。この３人は夜。あなたも他に男だしなよー」
「うーん、じゃあ、憧れ枠で、ミカエルと、ジンラ様」
ミカエルとジンラがぼんと出現した。
「ジンラ様、今回もお酒ありがとうございます」
ゆりはジンラにお礼を言っていた。イシュタールはお酒の樽を一つ持って帰ってきたのである。
「夜したい男だよ」
「じゃああの時の王様しかいないじゃない」
「それは当然でしょ。私だってあの時の王様が最高に好きだよ」
「私はハザーク様がいるからいいよ。あとは、ミカエル達と遊ぶし」
「よく言うよースペードさんがその気になったら絶対喜ぶくせに」
「その気にならないし、恋人にならないって言われたし」
「私の想像では、スペードさんは後ろからがしがしやるの好きだと思う」
「やめなさい」
黒目のゆりは耳を塞いでいた。
「ラーズとはしたいでしょ？」
「ラーズはしたいけど……ラーズとばっかりしてたらハロルドが来そうだし、やっぱりガーベラで愛してもらう方がいいなあ」
「つまんないわねー」
「また儀式になったらややこしいし。手をつないだりキスするだけで楽しいけどなあ。せっかくだからもっと出そう」
ゆりは恋人達を全員出していた。
「こうやってみるとすごい数だね」
「今年はカール君と隠れ恋人のクーガ様増えたもんね」
「隠れ恋人かあ」
二人のゆりは自分達だけの世界だと思っていたが、そこにやってきた男がいた。ねぼすけである。ねぼすけは偶然きたわけではない。ぬいぐるみの中に目印を仕込んでおいたのである。
オルガがぬいぐるみをあげた女の子と遊んであげようと思ってきただけだった。ところが、いざ夢にやってくると、二人の女に男が一杯いる。自分が想像していた小さい女の子はいなかった。
ねぼすけはぎょぎょっと立ちすくみ、二人のゆりはねぼすけに気がついた。
「あれ？ おねぼうさんだっけ？ どうしているんだろう？」
蛇の目のゆりが言った。
「ねぼすけさんよ。って、あ、やばい。ちょっとそっち消して」
こっちの男は服を着ているが、蛇の目のゆりの回りの男はみんな上半身が裸である。
男達は全員消えた。
「おねぼうさん、なんでいるの？」
蛇の目のゆりが聞いた。
「ねぼすけさんだってば」
「オルガ様にぬいぐるみをもらったの君？ なんで二人いるの？」
ねぼすけは二人のゆりにちょっと近づいて聞いていた。
「あ、あのぬいぐるみかわいかったですよ。ありがとうございます」
黒目のゆりがお礼を言った。
「嘘っ！ じゃあもしかして、オルガ様のお手つき？ まさか……」
ねぼすけはものすごくショックを受けた顔付きだった。
「…………」
ねぼすけは上目遣いの目でじろっと黒目のゆりを見た。
「なんか怒ってるよ。あなたが何度も名前を間違えるからよ」
黒目のゆりが蛇の目のゆりに言った。
「えー？ あだ名だからいいじゃない。ねーマ、マキシミリアン君だっけ？」
「しっ！」
ねぼすけの顔付きが怖くなってきた。
「……僕はオルガ様が大好きなんだ。だから、オルガ様を軽んじる女は許せないな」
「え？」
二人のゆりはぞぞっとしながらひっついた。
「オルガ様に愛されてるのに、なんでスペードを誘惑してんの？ 信じられない。オルガ様もオルガ様だよ。ガーベラ様がいるのになんでこんなちんちくりんに手を出したんだ。あのおっぱいさえあれば、他のおっぱいなんていらないはずなのに」
ねぼすけは今度は真面目に涙を流している。
「あの、何か誤解してますよ」
黒目のゆりが言った。
「誤解じゃない。君は、神に抱かれた女だ。それはもうわかってる。他の神ならほっといたが、オルガ様をないがしろにするのは許せない。オルガ様の優しさにつけ込んで、何をねだったんだ？」
「何もねだってませんよ。コウモリのぬいぐるみをもらっただけですよ」
「オルガ様と寝ただろ」
「寝てませんって。私が寝たのは……ラーズ様ですよ」
黒目のゆりはちょっと考えて言った。
「ラーズ様？」
「そうですよ。オルガ様とはちょっとした知り合い程度ですよ。うちの娘によくしてくれるんです」
ねぼすけは疑いの眼差しを向けている。
「マッキー君は、本当にオルガ様が好きなんだね」
蛇の目のゆりが言った。
「変な呼び方をするな。それに僕の名前をなんで知ってる。オルガ様はそんなことまで君に言ったんだ？」
「あなたに買ってきてもらったんだって聞いただけですよ」
「……はあ……」
ねぼすけは疲れたようにため息をついて、髪をかいていた。寝癖なのかただの癖なのか、結構ぐしゃぐしゃである。
「ちょっと座って」
ねぼすけは自分もあぐらをかいて座っていた。
二人のゆりも座っている。
「昔の話だけどね、麒麟の国に太陽の巫女ってのがいたんだけど、ハロルド様が先にその巫女をいただいちゃったんだ。アリアス様はものすごく怒っちゃって、龍の国のハロルド様の巫女をいただいた。そういうことがあった」
二人のゆりはぽかんとしている。
「神二人の喧嘩はともかく、二人の巫女はそれぞれの神と対話する力を失ってしまった。自分の神を裏切っちゃったからね」
「あのーそれ巫女のせいじゃないと思いますけど。突然ハロルド様に上に乗られて、拒絶できる女なんていないでしょ」
黒目のゆりが言った。
「そりゃそうよね」
と蛇の目のゆりも同意している。
「それともなんですか？ やられる前に舌でもかんで死ねとで言うんですか？」
「そうじゃない。巫女には他の神を拒むことができたんだよ。『できません』とはっきり言えば拒絶できた。それがつい、誘惑にまけてしまった。麒麟の国はそれから一年ほど、太陽の光があまり届かなくなってしまった。龍の国は一年間、龍の元気がなくなってしまった。つまり僕がいいたいのは、神を裏切ると、自分がいる国に災いが起こることがあるってことだよ。神の寵愛を軽んじちゃいけない。妖精にも手をだしてるなんて知られたら、大変だよ？」
「もうご存じですよ。この前ラーズ様に会った時、『こいつめ〜』って言われました」
黒目のゆりが言った。
「え？ 本当に知ってるの？」
「はい」
「本当？」
ねぼすけは眉をひそめている。
「はい」
「……さっき他にもいっぱいいたね。クーガ君とかハロルド様とか」
「二人とも、いい男ですよね」
蛇の目のゆりはさらっと言った。
「とんだ尻軽だね。君達」
「それ以上の侮辱はやめたほうがいいですよ」
蛇の目のゆりが言った。
「ちょっと」
黒目のゆりが蛇の目のゆりを小突いている。
「大神の知り合いだからかい？」
「それともガーベラ様にも尻軽って言えます？」
「ガーベラ様は違うよ。ああいう女神様なんだから」
「私達だってそうですよ」
「君らはただの人間だろう？」
「アシュラン様にガーベラ認定されてる人間だから同じです」
「ガーベラ認定？ 何それ」
「アシュラン様に、もっと恋人作れ、どんどん作れって言われてるんです。だからいいんです」
「……どういうこと？」
「実は私達、ガーベラ様と同じフェロモンをもってるんです。だから、いいって。今夜のことはスペードさんには内緒にしてくださいね。せっかく打ち解けてきたんだから」
「スペードとやりたかったら、娼館で待ってるのが早いよ」
黒目のゆりはその言葉にどきっとしていたが、蛇の目のゆりは、にやっとして言った。
「ぼくちゃん、わかってないわね。私達を怒らせたら怖いって言ってるのに。愛のフェロモンでメロメロにするわよ？」
「できるものならしてほしいね」
「僕ちゃんはどこに住んでるの？」
「僕？ 聖地だよ」
「じゃあ今度行くわよ。ガーベラ様の姿で」
「は？」
「ちょっと！」
黒目のゆりは驚いている。
「ガーベラ認定されてるって言ったでしょ。あたし達、ガーベラ様に変身できるの」
「へーじゃあ今してみてよ」
ねぼすけはにやにやしている。
「今は無理よ。今度見せてあげる」
「じゃあ、一月以内に来てよ。一月過ぎたらスペードとあなたの縁を何が何でも切るよ？ もう夢で会えないようにするからね」
「いいわよ」
「ちょっとお……」
黒目のゆりは泣きそうな顔をしていた。
「じゃあ僕は行くよ。楽しみにしてるよ」
ねぼすけは立ち上がり、去って行った。
ねぼすけが完全にいなくなったところで、
「一体どうするのよ！ もー」
と黒目のゆりは蛇の目のゆりに怒っていた。
「あんな挑発に乗らなくてもいいのに」
「ガーベラ様に頼もう。なんとかしてくれるって」
「はあ？ 私達が行くんじゃないの？」
「だって、聖地はガーベラ姿で行けないんじゃない？ 大丈夫。ガーベラ様に頼んだら、案外喜ぶと思うよ」
「喜ばなかったらどうすんの？ スペード様と会えなくなったら、私の楽しみがへっちゃうよー」
黒目のゆりはがっかりしている。
「大丈夫だって。問題は、一月以内に神の国に行けるかどうかだわ。それとも誰かこないかなあ」
黒目のゆりはその場に寝そべってしまった。
「絶対大丈夫だからさー行けそうになかったらクーガ様に頼むから」
「クーガ様に次に会うのは２の月じゃないのよ」
「手紙出せばいいじゃん。魔法鳥、私が王様に頼むからさ」
「……スペード様も娼館とか行くのかなあ」
「男だから、性欲ないよりあるほうがいいじゃない」
「ぐす……」
黒目のゆりはすっかりいじけてしまった。
暦は１３の月、22日、今年最後の一日になった。城では昨日から大掃除が始まり、ゆりは夕方、男達とハザークを招いて、広間でミニミニ竪琴演奏会を開いたりした。そこには呼ばれてもいないカーライルもやってきていた。
「王妃、カールをついに落としたんだってな」
演奏会が終わって歓談中、カーライルはこっそりゆりに言った。
「カーライル様の大事なカールにどうもすいません」
「カールはすごくよかったって言ってたぞ。私もちょっと体験したくなってきたんだが」
「え」
「こら、離れろ」
ハザークがカーライルをゆりから離していた。
「だって、やっぱりすごいのかって思うと、気になる」
「気にするな」
広間のテーブルには、神様の手が三つ飾られていた。神殿でどうやって飾るかは、まだ決まっていない。
「こういう手形はちょっと無理かもしれないですが、普通にぽんと押す手形ならサラディン様ならくれそうですけどね」
イシュタールはハロルドの手を眺めながら言っていた。
「そうかなあ。今度会ったらちょっと言ってみようかな」
テーブルには男達の手形も乗っていた。イシュタールの手形が増えていた。
「スペード様の手は立派ですね」
シャナーンが言っていた。
「ハインリヒの手だけないぞ」
とミカエル。
「手が汚れるだろ。クーガ様は両手ありますね。なんか意味深じゃないですか？」
ハインリヒがちらりと黒目のゆりを見て言った。
「え？ そう？ どこらが？」
黒目のゆりはどぎまぎしている。
ハザークが、「我の手形はいるか？」とゆりに聞いていた。
「え？ いいんですか？ 手が汚れるから嫌かなって思ってたんです。今度もらいますね」
「ああ」
広間にディーンがやってきた。
「やあ！ 年末といえば、夜通し飲み明かしだが、今年だれか付き合ってくれない？」
ディーンは男達に聞いていた。
「私いいですよ」
とハインリヒ。
「ほんと？ やったね。カーライルも付き合ってよ。久々にあれやりたい。連想ゲーム」
「連想ゲーム？」
ゆりが聞いた。
「あれはきついぞ」
とカーライル。
「え？ ただのゲームでしょ？」
「すごくきついゲームだ。ハザークも参加しろ」
「いやだ」
「じゃあ男達は全員参加で。それくらいの方が面白い」
ゆりも見てみたかったので、今からゲームが始まることになった。丸い大きなテーブルの周りに男達は
座り、それぞれ酒のグラスを持っている。題を言い、それから連想することを次々言っていくゲームであるが、
三秒以内に言わないと酒を一杯飲み干さねばならない。全員言えたら、全員が最後に酒を飲むというゲームらしかった。
ラギとシスがやってきて、男達にお酒をつぐ係になった。
ラクシュミも広間にやってきて、ハザークと一緒に見学していた。
「じゃあ、最初のお題は、ゆりちゃんで行こう」
最初はディーンが進行役である。
「ゆりちゃんと言えば？」
「愛らしい」
イシュタールが言った。
「ゆりちゃんといえば？」
「美しい」
とシャナーン。
「ゆりちゃんといえば？」
「浮気者」
と言ったのはミカエルである。
「ひどっ」
とゆり。
「ゆりちゃんといえば？」
「楽しい」
とジュノー。
カーライルは「すごい巫女」ミルキダスは「私の女神」カールは「憧れの王妃様」フリットは「私の救世主」ハインリヒは「良い匂い」ヴィラは「愛する恋人」などと言っていたので、ディーンが「ヒューヒュー」言っていた。
「愛してます王妃」
「私も愛してます」
「私も愛してます」
男達が次々愛してるといいだして、ゆりは「げっ」と言っていた。男達はにやにやしているので、霊体ちゃんが何かしているのかもしれない。ゆりははっとハザークを見たが、ハザークは何かに気づいた様子はなかった。ラクシュミもである。霊体ちゃんは、クーガにしか見えないようだ。
全員すぐ言えたので、全員が一杯酒を飲んだ。シスとラギが次をついでいる。
「わたしもう行くね。じゃあみんなおやすみ。王様、ハザーク様、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「おやすみ王妃」
ゆりは二人の頬にちゅっとキスして、蛇の目のゆりも二人にキスし、自分の部屋に戻った。
お風呂で体を洗ってベッドにあがり、ゆりはクーガのことを思っていた。クーガは今日誕生日である。
「クーガ様、私の手紙読んでくれたかな？ 誕生日おめでとうございます。目の前で言ってあげたかったけど、まあしょうがないか」
ゆりは寝転んだ。
時間はちょっと遡り、聖地の朝である。この日は朝からクーガはみんなに「誕生日おめでとうございます」と言われていた。
「クーガ様、魔法鳥のお手紙ですよ。蛇の国からですよ」
おつきの者がクーガに手紙を渡してくれた。
「ありがとう」
手紙には、「誕生日の祝辞です」と書かれていた。
手紙を開けてみると、「クーガ様、誕生日おめでとうございます。来年一年がクーガ様にとってとっても楽しい一年になりますように。二人のゆりより」
と書かれていた。そして二枚目には、「追伸」と書かれ、その後はえらく長い文が書かれていた。
「追伸からが長いな……」
クーガはぷっと笑っていた。どうやらクーガへの願い事である。ガーベラに用があるので、他の神様から伝えてほしいとのことだった。
今日はその願いを聞くことはたやすいことだった。なぜなら、クーガの誕生日には、毎年神が一人は必ずやってくるからである。
神殿の食堂に街の人達がお祝い用の食事やケーキを作ってもってきてくれた。クーガは笑顔でみなにお礼を言っている。他の神殿の神官達もやってきた。
夕方になると、人に化けたサントスやカサンドラもお祝いを言いに来た。
「クーガ、お誕生日おめでとう」
「おめでとう」
「ありがとうございます」
サントスは自分よりも背が高いクーガの頭をなでなでしていた。目がうるうるしていたので、クーガが「どうして泣いているんですか？」と聞いた。
「なんだかいろいろ思い出しちゃってね。ごめんね。僕は、あまり君にいろいろできなくて」
「いいえ、いろいろしていただきましたよ」
「僕にとってはあっという間だったけど、クーガにとっては長い千年だっただろうね」
「そうですね」
「泣くでない。今日はめでたい日なのだから」
カサンドラが言った。
「そうですね」
サントスは涙をふいていた。
そして日が沈むと、アリアスは神の姿のままやってきた。食堂にいた者達は皆頭を下げている。
「アリアスはまったく周りを気にしないのだから」
カサンドラは呆れている。
「みんな喜んでるからいいじゃないか。クーガ、もう千年共に生きよう」
アリアスは、クーガにとってはあまりうれしくないことをクーガに言ってクーガを抱きしめていた。
「やれやれ困った人だ」
サントスも呆れていた。
神３人は一時間ほど食堂でクーガと過ごし、去って行った。
夜にはお祝いパーティーは終わり、クーガが自室に行くと、やはりクーガの父が椅子に座っていた。
「誕生日おめでとう。クーガ」
「ありがとうございます。もう何度お礼を言ったやらわかりませんよ」
「だろうな。疲れただろう。私も今日はさっさと行く。じゃあな。そうだ。誕生日の贈り物、ちょっとしたら届く。おやすみ」
「おやすみなさい」
アシュランは去って行った。
「贈り物？」
クーガが寝室に行くと、なんとベッドの上に何かを握りしめたゆりが乗っかっていた。クーガは思わずぷっと笑っている。
「え、ええ！？ このまま移動！？」
ゆりはコウモリのぬいぐるみを握りしめてびっくりしている。
「えー！」
「あなた、誕生日の贈り物だそうですよ」
クーガが笑いながら言った。
「はあ？ アシュラン様、私の意見を聞いて！！」
ゆりは宙に向かって叫んでいた。
「いきなり飛ばすのやめて。心臓に悪いから」
ゆりの左目が蛇の目になった。
「クーガ様〜」
ゆりはベッドから降りてクーガに抱きついた。
「お誕生日おめでとうございます。会えてうれしい」
「私もうれしいですよ」
クーガがゆりを抱きしめて言った。
「手紙読んでくれました？」
「読みました。カサンドラ様にお会いできたので、手紙を渡しましたよ」
「ありがとうございます。すごく切羽つまってたんです。向こうの私からは怒られるし」
「何をしたんですか？」
「ちょっと余計なことをしちゃって、どうしてもガーベラ様に会わなきゃ行けなくなっちゃって。あー伝わってよかった。お城に私はちゃんといるのかな？ 多分大丈夫ですよね。お祝いに仲良くしましょう♪」
「はい」
二人はベッドに移動した。
「おきてください」
肩を軽くたたかれて、ゆりは目を覚ました。
「うわっ！ 夢じゃなかった？！」
ランプの光で照らされたクーガの顔を見て、黒目のゆりは驚きまくっていた。今はガーベラではなく自分の姿である。しかも裸だ。クーガも裸である。
「あ、クーガ様、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「一杯愛し合ったみたいですね。よかったです」
クーガの艶っぽい顔を見ながら、黒目のゆりは逃げ腰である。
「あなたとも愛し合いたいですね」
「あの、気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ？ 向こうの私と愛し合っていただいただけでも、私も満足ですから」
「私はあなたともしたいです」
クーガはゆりに口づけた。
「あ、あの私のコウモリちゃんどこかな？ あれ大事なので、帰る時に持って帰らないと」
ゆりは顔をずらして言った。
「ベッドの側にちゃんといますよ」
「よかった。なんか口の中が甘いんですが」
「向こうのあなたに美容液をあげたんです。あなたにもあげましょう」
クーガはゆりから離れた。
「美容液？」
「アリアス様からもらったんですよ。好きな女にあげろと」
「へー」
（アリアス様なら、ダーナ様が作ったのかな？）
「どうぞ」
ゆりは起き上がって小瓶を受け取った。
「ありがとうございます」
ゆりはちょっと飲んでみた。甘ったるい味がする。
「これダーナ様が作ったんですか？」
ゆりが全部飲み干した後、クーガは「ガーベラ様です」と言った。
ゆりはぶっと液体を吹きだしていた。
「行儀が悪いですよ。神様からいただいたものを吹き出すなんて」
クーガは涼しげな顔で言っている。
「ガーベラ様？」
「そうですよ」
クーガはゆりに近づいて、ゆりの唇の周りをぺろっとなめていた。
「あのー本当に美容液です？」
「はい」
（あやしい……）
クーガはゆりの肩をなでて胸をなでていた。
「そうだ。霊体ちゃん達、今います？」
「いますよ」
「何してます？」
「ひっついてお話してます」
「え？ 話とかできるんですか？」
「霊体同士できるんじゃないですか？ あなたも、霊体くらい素直になってくれたらうれしいんですが」
「私は素直ですよ、すっごく」
体をなでられると、なんだか体の中が熱くなってきた。
（やっぱりへんなもの飲まされたー！）
「あっちのあなたは結構素直ですけどね。あなたは違います。違うから面白いんでしょうけど。あなたには秘密が一杯あるでしょ？ いろいろ教えてほしいんです」
クーガの手がゆりの太ももの内側をなでていたので、ゆりは腰を後ろに引いていたが、腰ごとクーガに引き寄せられていた。
「あのークーガ様の鋼鉄の理性、どこに行きました？」
ゆりはつい聞いてみたくなった。
「あなたがぶっ壊しましたよ」
「どこかにかけら残ってません？」
「他の女の前では復活してますので大丈夫ですよ」
クーガは微笑みながらゆりを後ろから抱きしめ、ゆりの下半身をなで回した。
「儀式のこと、教えてください」
クーガがゆりの耳元で聞いた。
「え？」
「儀式はあなたしかできないそうですね。男達と交わらないでやる性的な儀式、気になります」
「それは、一族の秘伝なので、教えられないです」
「秘伝ねえ。実はあっちのあなたに全部聞きました。あなたが口で男達に奉仕してることも」
「はあ？」
「私が強引に聞きだしたので、彼女に怒らないでくださいね」
クーガはゆりの肌をなでながら言った。
（あ、そうだ）
ゆりはそこでふと閃いた。
「そうです。口でしまくってるんです。クーガ様はそういうの軽蔑するだろうけど」
「私にもしてください」
「は？」
「好きな男に口でしたくなるんでしょう？ 私にもしたくならないんですか？」
「いやー……クーガ様は、そういうのいやかなって。はしたないとか言いそうだし」
「あなたの愛の行為にそんなこといいませんよ」
「…………」
（軽蔑路線かと思ったのにいいいい！）
ゆりは気が遠くなってきた。
「あなたのほうが自制心が強いですね。あっちのあなたは、ちょっと触るだけで興奮しまくってたのに」
「やっぱり怪しい薬じゃないですか」
「美容液ですよ。あなたが大好きなガーベラ様が作ったね。中はどうかな」
クーガはゆりの体の中に指を滑り込ませていた。
「こっちは反応してますね」
「あ……ちょ……ああん！」
指を奥まで入れられただけでゆりは達してしまっていた。
「かわいいですね」
クーガはゆりに口づけて、舌をからませた。ゆりの体はかなり熱っぽくなっている。目の前の体に抱きつきたくてたまらない。
（だめだもう……まけた……）
ゆりはクーガに抱きついて口づけていた。
「クーガ様に言っておきたいことがあります」
ゆりはクーガの首に腕を回したまま言った。
「なんですか？」
「一年で棄てたら首絞めます。絶対絞めます」
クーガはぷっと笑っていた。
「それからアシュラン様にも言います。散々なぶられたあげくに棄てられたって泣きながら訴えます」
クーガは今度はふふっと笑っていた。
「それから聖地の偉い人にもいいます」
「どうぞどうぞ」
「本当に言いますからね」
「いいですよ。じゃああなたに私が棄てられたら私は王に訴えることにします。散々誘惑して閨の相手をさせられたあげくに棄てられたって」
「う……」
ラクシュミは絶対信じそうである。
裸で抱き合っていたら、ゆりはどうしても口でしたくなった。
そろそろと手でクーガの下半身に触れている。
「口でしてください」
ゆりは身をかがめて、舌でクーガの体をなめていた。
ゆりの胸にある青い花は一層輝きを放ち、酔うほどの甘い匂いが部屋の中に充満していた。
この部屋にいるだけで、普通の男ならば体は興奮状態になるに違いない。
「ん……はあ……ああ……気持ちいいですよ……ああ、まってください。あなたの体の中で達したい」
クーガはゆりの体を横たわらせて上に乗り、体を重ねた。
体のすべてが喜んでいるのを感じる。
歓喜という感情が体を駆け巡る。
今は、この体が愛しくてたまらない。
「あなた達といると、一年があっという間にすぎそうだな」
クーガは達した後も、しばらくゆりの体を抱きしめていたのだった。
つづく
１２部
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