第５０話
神の国である。草原に、金色の毛並みの大きな猫のような獣がいた。背中には白い翼がついていて、尻尾はなんと蛇という奇妙な生き物である。その生き物をしげしげと眺めている男が一人、そして力の神バリアスがいた。
「いやー面白いなあ。この尻尾の役割はなんだろう？」
「かっこいいでしょ？」
バリアスが聞いた。
「かっこいいですね。どのくらい大きくなるんだろうなあ。体は豹くらいは、いやもっと大きくなるのかな？」
獣ハンターを眺めていたのはねぼすけである。今日は奇妙な獣がいると話を聞いて、どうしても自分の目で見たくてやってきたのだった。ハンターはジャンプしたりしてあたりを走り回っている。
「大きな手だな。身体能力も高そうだ。今は大きな猫のような顔だが、成長するとどうなるだろう。顔は獰猛な感じかあどけない感じか……」
「りりしい感じだよ」
バリアスが言った。
「りりしいですかあ。いいですね。想像力が膨らむなあ。今晩あたりちょいと想像してみよう」
ねぼすけは斜め上を向いている。
「僕も見たいよ。今見せて」
「見たいですか。では一緒に寝ますか？」
「うん」
そこにペガサスが飛来してきて、ジェイクが降りてきた。ジェイクはバリアスよりかなり大きい。バリアスはまだまだ小さな子供といった外見だが、ジェイクは頼りになりそうな少年である。ハロルドを小さくして優しい顔立ちにしたら
こうなりそうだ。
「やあ、えーと、ねぼうすけだっけ？」
「ねぼすけですよ。ジェイク様もりりしくなってきましたね。そのうちお父様にそっくりになっちゃうのかな」
「いやあどうだろう」
「にーも一緒に寝よう。大きくなったハンターを見せてもらうんだよ」
バリアスがジェイクを誘っていた。
「ハンターを見せてもらう？」
ジェイクは首をかしげている。
「じゃあえーと、あちらに行きましょうか」
ねぼすけは木陰を指差した。
３人は大きな木にもたれるように座り込み、目を閉じた。
それから少しして、３人は違う場所にいた。草原であるが、そこにいたのは大きなハンターである。
「わっでかい！」
ジェイクが驚いている。金色の毛並みは豹より長く、口元には大きな牙があった。背中には白い翼、そして尻尾は長い金色の蛇である。普通の豹に比べても大きい。翼も立派である。
「こんな感じでいかがですか？」
ねぼすけが聞いた。
「うん。いいね」
バリアスはハンターに近づいてハンターの頭をなでている。ハンターはバリアスの頬をでかい舌でべろりとなめていた。顔付きもなかなかりりしい。
「乗れるかなあ」
ジェイクが聞いた。
「乗れますよ」
「乗ろう乗ろう」
二人はハンターの背中に乗ってみた。ハンターは嫌がらずに二人を乗せると、たっと草原をかけた。
「速い！」
そのスピードは馬や豹よりも速く、ハンターは白い翼を広げると、翼をはためかせて空に舞った。
「うわあ！」
「すごいね！」
二人は喜んでいる。
「ハンター君は他にも能力がありそうだけどなあ。神獣だけに。飛ぶ速度はペガサスと比べるとどうだろうなあ。ペガサスよりも速いかも。尻尾の蛇が気になる。何か役割があるのかな。まさか飾りではないだろうし」
ねぼすけは空を見上げながらぶつぶつつぶやいている。ハンターは空を旋回すると地上に降りてきて、二人はハンターから降りた。
「乗り心地はいかがでした？」
ねぼすけが聞いた。
「すごくよかったよ。ね」
「うん。そうだね。ハンターこんなになるんだあ」
二人はうれしそうだ。
「僕の想像ですよ。本物も、このくらいはなりそうですが」
「楽しみだね」
「うん」
（この獣に似合うのは、平和な空というよりも戦場か？ やはりそっちだな。大きくなったらどうなるのか楽しみだなあ）
３人が目覚めると、目の前にハロルドが突っ立っていた。
「あ、ハロルド様じゃないですか。また御子様が生まれましたね。おめでとうございます。ガーベラ様を恋人にしてから、欲望炸裂してますね。うらやましいです」
ねぼすけはハロルドにこんなことを言い、ハロルドは嫌そうな顔付きで、「どうやったらお前のようなやつができるのか、お前の両親に聞いてみたい」と言っていた。
「僕の親はもうこの世にいませんよ。そんなに愛らしいですか？」
「どこが愛らしいか。そんなに暇ならあっちで稽古でもしろ。ちょうどハートもいるし」
「かえりまーす。じゃあさようなら」
ねぼすけはすたこらさっさと逃げるように去っている。
「あ、まってよ。今度僕の夢に遊びに来てよ」
バリアスがあわてて声をかけた。
ねぼすけが振り向いた。
「いいんですか？ 今度お邪魔しまーす」
ねぼすけは喜びながら去って行った。
「全く、相変わらず失礼なやつだ。あいつに付き合ってやらんでいいからな」
ハロルドはむすっとして子供達に言い、バリアスとジェイクはくすっと笑っていたのだった。
蛇の国である。赤い月が過ぎて５日経っていた。今ではゆりも普通に動いて子供達と食事を食べたりしている。ゆりはアシュランからもらった薬草をこの国でも育てたいと思ったのだが、あの薬草は暖かくないと育たないらしい。
犬の国の一部では３の月でもかなり暖かいらしかった。自分のためというよりも、他の女性達のためにあの薬草を栽培したいと思ったのだが、難しいようで残念である。
ラクシュミはあれからゆりの様子を気遣っていた。例年の赤い月後よりも優しめにゆりに接している。そして男達もゆりに優しかった。
もし来年、赤い月の王がまた怒るようなことになれば、男達は恋人の座から降ろされるし、ゆりの身が危なくなってしまう。男達はそういう危機感を抱いていた。
男達は赤い月の王の言葉が理不尽だ、と最初は思っていたが、後々考えると、納得できる部分もあった。
男達は確かにゆりに愛を求めていた。恋人には求めることはないのだが、赤い月を一緒に過ごさないゆりには愛されたいと、いつからかそう思っていたのだ。
儀式では確かに愛し合えた、と思っていたのに、いつの間にやらゆりの感情がそんなに誰かにもっていかれているとは思いもしなかった。
付き合いが長いと信頼関係も築けるが、時折倦怠期の夫婦のようになるのも仕方がないことだ。しょっちゅうゆりの様子をうかがわなくても大丈夫だ、と思い込んでもいた。
「若い献身的な恋人に代えるか？」と言われたのはまさにそこなのだ。
ゆりは人気があるし、恋人になりたい男の候補などすぐに見つかるだろう。
男達は倦怠期の夫婦ではなく、熱々の恋人同士になれるようにがんばらねばならない、と真面目に思っていたのだった。
「王妃、今日私午後休みなんで、ずっと私の顔を見ていいですよ」
ミカエルがゆりの部屋に来てこんなことを言った。
「え？ いいの？ じゃあずっと見ちゃおうかな」
ゆりはせっかくなので、ミカエルの向かい側でミカエルの顔をずっと見ていた。
「今も私の顔が一番好きですか？」
「うん」
「本当に？」
「うん」
その男の顔の方が好きになってしまったんじゃないんですか、などと言いたいのを我慢して、ミカエルは言った。
「王妃、私とゲームをしましょう。勝ったら、ミカミカに会わせてあげますよ」
「え？」
ゆりは目を見開いている。
「え？ ほんと？」
「本当です」
「でも、ミカミカはミカエルの言うことは聞かないんでしょ？」
「最近少し折り合いがついたんですよ」
「どんなゲーム？ バラクはいやよ」
ゆりは興味津々だった。
「簡単なゲームですよ。このコイン、裏か表かあてるゲーム。５回やって３回以上当てたら王妃の勝ちでいいですよ。この蛇がある方が表ね」
ミカエルは銀色のコインを机の上に置いていた。表には蛇のマーク、裏にはなんのマークもない。
ミカエルはコインを指ではじいて回し、右手を乗せて伏せた。
「どっちだ」
「うーん、裏」
ミカエルが手をのけた。
「残念、表です。２回目ね」
ミカエルはまたコインを指ではじいた。ゲームはゆりが負けてしまった。
「悔しい。もう一度〜」
「明日してあげますよ」
「今日はだめ？」
「今日はもうだめ」
「うーん……」
「あっちで気をあげますよ」
「うん」
二人はソファの方に移動して、ゆりはミカエルにひっついていた。
（そういえば、最初の頃は、少しひっつくだけですごく警戒してたなあ。フリットには平気で気をもらっていたくせに私にはもらえないとか言って……あの頃が懐かしいなあ。
この際王妃の気を引くために蛇でもなんでも利用するしかない）
ミカエルも捨て身である。
「明日は何時に来られる？」
ゆりが聞いた。
「夕方ですね」
ミカエルが答えた。
「明日は絶対勝ちたい」
「どうでしょうね」
ミカエルはゆりの髪を優しくなでていた。
ミカエルと入れ替わりでジュノーがやってきた。
「王妃、お菓子持ってきましたよ」
「ありがとう」
袋を開けるとバームクーヘンのようなものが入っていたのでゆりはさっそく食べていた。ジュノーはそんなゆりを眺めている。
「ねえ、カール君の赤い月はどうだったの？ 相手と過ごした？」
ゆりは本人には聞けなかったのでジュノーに聞いた。そのカールは、今朝顔を見せに来ていた。
「カール君は、だれとも過ごしてないって言ってましたよ。理由を聞いたら、王妃様の恋人になってすぐなので、今年は王妃様に赤い月を捧げたいんですって言ってました」
「え？」
ゆりは驚いて目をまん丸くしている。
「カール君、かわいいですよね」
「かわいいーびっくりした。うれしい」
ゆりは心底驚いて、喜んでいた。そんなことを言われたのは初めてである。
「すごくうれしいな」
ゆりのカールに対する好感度はぐんとあがっていそうだ。
（若い男は確かに新鮮だわ。あんな発想はもう我々にはない。いや、最初からなかったか）
自分達は思ったところで実行できはしないのだが、とジュノーは内心大きなため息をついていた。カールの赤い月については、ラクシュミもかなり気にしていたが、その話を聞いてショックを受けてもいなかった。
「若いなあ」と言っていたのでジュノーはどきっとしたのだった。
「ところでへびっちはどうだったの？」
「侍女さんたちとちょっとは仲良くできたようですよ。１０日がっつりとはいかなかったみたいですが」
「そうなんだ。よかった」
「ロンロン君は脱皮して一回り大きくなってましたね」
「うん。ここにミシェイラが持ってきてくれたの。どんどん大きくなればいいな」
「ルーはどこです？」
ジュノーはゆりの蛇を探した。
「ルーは私のベッドにいるよ。また恋人ができたみたい。ラギが仲良くしてるのみたって。相手は黒っぽい蛇みたい」
「そうですか」
犬のジロウが尻尾をふりながら部屋に入ってきた。ジロウはロイと外に出かけていたのである。ジロウは布の袋をくわえていてゆりに渡していた。
「ジロウ君おりこうさん」
ゆりは袋を受け取ってジロウの頭をなでなでした。ジロウはうれしそうに尻尾を振っている。
「なんですか？」
「よくロイと街に行ってるからお使いをたのんでみたの。何か果物を買って来てって」
布の袋の中には緑の楕円の果物、キウイが５個入っていた。
「代金はラギのツケでいいっていうから、そうしてるの。ラギ金持ちなんだよ。なんかアヤコさんにもお金もらってるみたいだし、蚊取り線香が、結構売れてるみたいでね」
「ああ、あの虫除けですか」
「そうそう。ラギは王族じゃなくても普通に生きていけるよ」
ジロウはゆりのひざに手をかけていた。
「ジロウ君もえらいえらい。ジロウ君といるとほんと癒やされる。来てくれてよかったなあ」
（癒やされる犬はその子だけですが）
とジュノーは思ったが黙っていた。普通にこの世界にいる犬は癒やされるどころではない。平気でかみついてくる危険動物なのである。
「最近ジロウ君が一番のお気に入りになってないです？」
「え？ ばれちゃった？」
などとゆりは言っていた。
「ジロウ君になら悩みとか言ってもだれにも言わないからいいんだ」
「我々に言ってくださいよ」
「そんなにたいしたことじゃないし」
（すごくたいしたことのような気がするんですが……）
実際ゆりが侍女や男達に何かを話すと、それはすべてラクシュミに報告されてしまうので、ゆりとしてもラクシュミに知られたくないことはあまり話せないということになってしまうのだった。
「我々だって王妃のこと想ってるんですからね」
「うん。ありがとう」
ジュノーと入れ替わりでミルキダスがやってきた。
「王妃、久しぶりにバラクしませんか？」
「教えてくれるの？」
「はい」
ゆりは久々にミルキダスにバラクを教えてもらい、頭を使っていた。
こんな調子で男達は頻繁にゆりの元にやってきて、黒目のゆりも（なんかおかしいな）とは思っていたが、まさか赤い月の王様に怒られたせいだとはまるで思っていなかった。
ミカエルとのゲームは２回目もゆりが負けていた。ミカエルは一日一度しかそのゲームをしてくれないので、ゆりは次にミカエルがいつ来るのか気にしている。コインゲームだけではなくじゃんけんにしても
ゆりが負け、５回続けてまけてしまった。
「悔しい」
その時蛇の目のゆりが出て来た。
「ねえ、ゲームに勝ったら本当にミカミカが出てくるの？」
「出て来ますよ」
「じゃあ私ともしてよ」
「しません」
ミカエルはつれなく言い、蛇の目のゆりは「なんでよ」とミカエルを睨んでいる。
「あなたは王を裏切れないでしょう。だからこんな回りくどいことはしません」
「……実はね、赤い月の間、王様に頭の中を探られたの。え、こんなことできるんだ？ ってびっくりしちゃった。やっぱり王様って王様なんだね」
蛇の目のゆりはミカエルに近づいて小声で言った。
「我々もされましたよ。あんなことは初めてだったので驚きましたよ」
とミカエル。
「頭に手を当てて？」
「いえ、触れずに我らの思考を読んでましたね。普段の王にはできないんじゃないかな」
「王様、私の頭の中は探れても向こうの頭の中は探れなかったみたい。私には一族の血の縛りがあるんだなあ。そう実感したわ」
「どちらかにはなくちゃ困りますよ。とにかくあの時の王には二度とお呼びがかかりたくないですからね」
「私だってあんなのは二度とごめんよ」
４の月、外を出歩くにはちょうどいい季節になってきた。ラクシュミが少しなら外に出てもいいと許可を出してくれて、ゆりはシス、ナナミ、イシュタールと一緒に城の近くの山に行って野いちごなどを摘んだりして気分転換した。
神の国を探索するのもいいが、実際に外に出るのは楽しいものである。ゆりはミカエルとのゲームに１０回連続で負けていて、その愚痴をイシュタールに話していた。イシュタールとは仲良く手をつないでいる。
「何をやっても勝てないの。何か勝てるゲームはない？」
「トランプとかどうですか？」
「昨日負けちゃった。バラクは完全に負けるに決まってるし」
「うーん」
「シロクロは？」
ナナミが聞いた。
「シロクロ？ あ、オセロ？ オセロも負けちゃった」
「積み木積みは？ どれだけ積めるか勝負するの」
「積み木？ それなら勝てそう。じゃあ次はそうしよっと」
その二日後、ミカエルが部屋にきたのでゆりは勝負を挑んでいた。ミシェイラの部屋で、話を聞いたシス、ラギ、ナナミもやってきている。
いろいろな大きさの木を積んでいく簡単なゲームで、30数える間に積んで、最後に高い方が勝ちということになった。
「じゃあはじめ、1.、2」
子供達は数を数え、ゆりとミカエルは積み木を真面目に積みだした。積み木は四角いのばかりではない。最初四角いのばかり積んでいた二人だったが、四角い積み木がなくなってきたので三角の積み木を使うしかなくなってきた。
なんとか三角の積み木を組み合わせてバランスを取って積んでいたが、ゆりの方は今にも崩れそうだ。
「あ、ああ、だめ、崩れちゃだめ」
ゆりはおろおろしながら手で押さえている。
「29、30 はい終わり、母様手を離して」
ナナミが言って、ゆりは積み木から手を離した。絶対崩れると思っていたが、積み木は踏ん張っている。
「えーと、お母さんの方がちょっと高いね」
ラギが二つの積み木を見くらべて言った。
「はい、母様の勝ち」
ナナミが宣言し、ゆりが「やったー」と喜んだところで積み木は崩れた。ミカエルはシスをじろっと見ている。シスはそれとなく横を向いていた。シスがちょっと手助けしていたようである。
「ま、いいですよ。会わせてあげますよ」
ミカエルが言った。
「本当に会えるの？ やったあ」
ゆりは本気で喜んでいる。子供達もわくわく顔だ。ミカミカに会ってみたかったようである。
ミカエルは口元に手を当てて、手を離した。その瞬間、がらりとミカエルの雰囲気が変わったので、子供達は驚いていた。目の前にいるのはいつもの陽気なミカエルではなく、「影がある、ちょっと暗めの男」という感じである。
冷ややかそうにも見える。それは同じ人物とはいえないほどの変化だった。
「ミカミカ会いたかった」
ゆりは大喜びでミカミカに抱きついていた。
「…………」
「別ミカエルだ。すごい」
とナナミ。
「本当に別人っぽいね」
「うん」
「そんなに会いたかったか。鈍感女」
ミカミカがゆりを見下ろして言った。
「うん、会いたかった」
（鈍感女？）
子供達はびっくりしている。
「ミカミカ、私の部屋で話しましょ」
「いや」
「そう言わずに」
「……じゃあ……あっちでご奉仕してくれよ」
ミカミカは子供達に聞こえないようにゆりの耳元でぼそっと言った。
「え……」
ゆりの頬はちょっとピンクになっていた。
「やならいいけど」
「やじゃないよ」
「じゃあいこう」
ミカミカはゆりを連れて移動した。
「……別ヴィラとか別ジュノーにも会ってみたいんだけど」
ナナミが言った。
「肌の蛇、なんて奥深いんだろう……」
とラギ。
「母様うれしそうだったね」
シスは微笑んでいた。
別室に移動したゆりとミカミカだったが、ゆりはベッドの上でミカミカの背中に馬乗りになり、腰をもんでいた。
「あのーご奉仕ってこれですか？」
「そんなに何したいの？」
とミカミカ。
「何って、ご奉仕といえば……ですねえ……」
ゆりはてっきりあっちの方かと思っていた。ものすごくドキドキしてきたのに拍子抜けである。
「子作り以外で精力を使う意味がわからん」
「たまには子作り以外で使おうよう」
「いや」
「もうミカミカったら」
黒目のゆりはそれでもうれしそうにミカミカの腰をもんでいた。
ミカミカと会話ができたのがすごくうれしいようだ。
「後ろから抱きついてもいい？」
「だめ」
「抱きつきたい〜」
ゆりはそのままべたっと背中から抱きついていた。
「…………」
ミカエルの表情は普通に戻っていた。ミカミカはすでに消えてしまったようだ。
（しかし何なのあいつ。王妃に冷たくして好かれるっていうのがさっぱりわからん。マネしようにもできない）
最初ミカミカのマネをすればいいと思ったミカエルだったのだが、どうにもマネできない。仕方なく、自分の肌の蛇と交渉したのだった。
ミカエル自身摩訶不思議な領域に足を踏み込んだ気分である。
「ミカミカ好き〜〜」
ゆりはまだミカミカがいると思って抱きついている。
（王妃のツボはさっぱりわからんなあ）
ミカエル自身がゆりに冷たくすると、ちょっと違う感じになるだろう。そのさじ加減がミカエルには難しい。
（たまに出るからいいんだろうな。しばらくは、ミカミカで引っ張るか）
ミカエルは伏したまま、そう考えていたのだった。
つづく
１２部
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