第５２話
あれはいつのことだったか。ティカが闇の世界に行ってしまった後のことだ。その夜は神の国にもやがかかっていた。
あまりにひどいもやだったので、私はでかけるのをやめようとしたのだが、何かに呼ばれるように出かけたのだ。
私は夜空をさまよい、やがて運命の泉と呼ばれる泉にやってきた。その泉はその時々で色を変える不思議な泉である。その泉の上にかかっていたもやがぱっと晴れた。
泉はわずかに光り輝いている。
泉の上には女が一人立っていた。
妖精なのか神なのか、不思議なことにそれはさっぱりわからない。女だと思ったのはその体格からである。女はこちらに背中を向けていたが、男とは思えない華奢な体つきをしていた。
その女の髪は長かったが、その色は、黒と金が混じった不思議な色だった。腰までのストレート、房ごとに違う金と黒の髪。肩を出して、足下までの白い布地の衣服を着ていたが、金色の腰帯をしていた。
今までそんな女には会ったことがないので、今いる誰かではない。
女は右手に金の杖のような長い物を持っていた。上の方には丸い飾りがついている、
話しかけようか、と思ったとき、女はその杖を回した。シャリーンと音がした。杖についている飾りの音のようだ。
もう一度女が杖を回した。
「シャリーン」と再び音がした。金属が触れるような音だが、うるさくはない。優しい音である。その音は反響するように辺りに響き渡った。
あの女の顔がみたい。一体どのような風貌なのだろう。そしてその瞳の色は、何色なのか。
私はその女の側によろうとしたのだが、再び泉の上にもやが立ちこめて、女の姿は消えてしまった。
あれから何度か泉の近くを飛んでみたものの、二度とその女に会うことはできなかった。
ゆりはラーズに強引に寝室に連れて行かれていた。そしてオルガも、後ろからついてきている。
ゆりは今まで３人でするのは経験していたので、今更「いや、そんな恥ずかしいことできない」などと言う気はなかったのだが、ガーベラはオルガとは複数ではしなかった男である。
「ねえ、一万数千年もオルガとは一対一だったんだから、それには理由があるんじゃない？」
ゆりは真面目な顔をラーズに向けていた。
「たまたまだよ」
とラーズは答えた。
「一万数千年もたまたま？ ガーベラ怒らないかな」
「怒るわけないよ」
「そうかなあ」
「なあ、ラーズは、ガーベラと３人でしようって誘われたりするのか？」
オルガがラーズに聞いていた。
「いや、たまたまガーベラの所に行ったらラクアがいたりして、混ぜてって感じ。最初から今日は３人でしようって流れじゃないな」
「そうか」
「ま、別にかわりばんこにやればいいんだ。さ、おいで」
ラーズはさっさと女神の腰帯を取り、服を脱がせていた。
「私はとりあえずどうすればいいんだ？」
オルガが聞いた。
「綺麗なガーベラを見てて」
「え？ 見てなくていいよ」
「一番ガーベラが綺麗なとこだよ。見なきゃ」
ラーズはベッドの上にゆりを寝かせて抱きしめ、口づけていた。
見てて、といわれたオルガは、どこで見ていればいいのか、ちょっと戸惑っている。ラーズは女神の胸をなで回しながら口づけていた。
ゆりはオルガが気になってしょうがない感じである。
「集中しなさい。時間がないんだから」
「だって」
ラーズは体を下にずらした。
「オルガ、ガーベラに口づけてて」
ラーズはそう言ってから女神の足を広げて、下の愛撫へと移った。
「え」
オルガが近づいて来てゆりはどきっとした。
（いきなり二人きちゃうの？ なんか恥ずかしい）
オルガが顔を寄せてきた。
「顔が真っ赤だ。ガーベラ。かわいいな」
オルガはゆりの頬にキスして、唇を重ねた。
（やばい。恥ずかしい。恥ずかしい）
ラーズの愛撫で声が出そうになるのをゆりは耐えている。
「我慢してるところがかわいいよな。オルガにかわいい君をいっぱい見てもらおう」
ラーズは今日は愛撫もそこそこに、体を寄せて挿入した。
「んー！！」
オルガはゆりの唇を覆い、舌をからめている。
「ん……ん……」
「ガーベラ、気持ちよさそうだな」
オルガは女神の胸をなで、胸の先を指でこすっていた。
「うう……」
ラーズは花弁を広げて、最も敏感な部分を指で刺激しながら腰を動かしている。ゆりは気持ちよかったのだが、ラーズは奥まで挿入しようとはせず、途中のところまでしかこなかった。
（もっと奥まで欲しいのに……あ、なんかいじわるしてる）
ラーズはゆりの反応を見ながらにやっとしている。
「ずるい」
「何が？」
「もー」
「どうしたんだ？」
とオルガが聞いた。
「ラーズがいじわるする」
「いじわる？」
「もっと奥まで欲しいって言ってほしいなあ」
「やだ、オルガにしてもらっちゃうもん」
「あ、そういうこというの？ しょうがないなあ」
ラーズは女神の足を持って奥深くへとつながった。
「はあん」
ゆりはつい声が出ていた。
「あ……ああ……オルガ、手つないで」
ゆりはオルガの手を握りしめて、なんども体の奥をラーズの体で刺激されて、ついに昇天していた。
「はあ……ああ……」
ラーズも同時に達して、ゆりから離れた。
「気持ちいいね。じゃあ交代」
ゆりはオルガの手を近くでじっと見た。ラーズの指に比べると、オルガの指の方が細いようだ。ゆりはオルガの手にちゅっとキスした。
「オルガの手、キレイだな。私オルガの手形が欲しい」
「手形？ どうやってつくるんだ？」
オルガがラーズに聞いた。
「ジェラルドに頼んで材料を用意してもらうんだ。結構時間がかかるから、一人じゃ退屈だぞ。だれか巻き込めば？」
「そうか。じゃあ……ジンラにでも頼むか」
サラディンはつきあってくれそうにないのでオルガはジンラにしていた。
「ジンラ？ 私ジンラの手形もほしい。ありがとう。オルガ」
ゆりはうれしそうにオルガに両手を広げている。オルガはゆりを抱きしめた。
オルガは正常位でゆりを抱いていた。ゆりは一度達していたのですんなりオルガを受け入れていた。
ラーズはゆりにキスした。
ゆりは興奮で頬を上気させている。体の方は卑猥な水音を立てているのだが、快楽に我を忘れないように我慢しているようである。
（もっと身もだえてあえいでもいいのに。快楽に溺れないところがまた悔しい）
とラーズは思っていた。
「かわいい君をみてたらまた興奮してきた。口でして」
ラーズは自分の興奮した体をゆりの口にあてようとしていたのだが、
「ラーズ、それはだめだ。前回、私が先に約束してたから」
オルガはそう言って、女神の体を抱き寄せてゆりの唇を自分の唇で覆っていた。
「そんな約束したの？ ふーん」
（神気がくるくる、くるくるしてきた。楽しい）
ゆりは３人の神気がうまい具合にらせん状になっているのが見えたので、そちらにも気を取られていた。
（神気って確かにキレイだな）
「ガーベラ……」
「オルガ……」
ゆりはオルガの腰に足を回している。ゆりの手はラーズの手に触れていたので、ラーズが指をからめていた。
（ラーズの指もすごく好き）
「ガーベラ、ガーベラ……」
「オルガ、好き」
「はあ……ああ……」
「ああん」
オルガはゆりをぎゅっと抱きしめて、達した。ゆりの腰がびくっと震えていた。
「気持ちよかったよ。オルガ」
「本当か？」
「うん」
（そしてさあさあ、次はこっちよ。なんか来い。なんかこーい！）
ゆりは神気から何か生れないかとどきどきしている。すると、何かが下にべたっと落ちてきた。それはいくつか落ちてきて、ゆりの頭にも落ちてきたのでゆりは「ぎゃっ！」
と叫んでいた。
「何？ 何これ」
「あ、コウモリだ」
オルガがゆりの頭に乗っていたコウモリを手に取った。
「え？ コウモリ？ これが？」
「随分鮮やかなコウモリができたな」
ラーズは笑っている。コウモリは全部で７匹もいた。しかも、全部違う色なのだ。黒いコウモリもいない。赤、青、オレンジ、黄色、緑、紺色、紫色のコウモリである。虹の色彩らしい。
コウモリはまだ赤ちゃんのようで、べたっとシーツにへばりついていた。
「えー面白いコウモリができたね。かわいい」
とゆり。
「夜行性なのだろうか？」
オルガはそこが疑問だった。ゆりはコウモリを触ろうかどうしようかちょっと悩んでいたが、そろっと触っていた。コウモリ達のそれぞれの瞳は、体の色と同じである。
「なんだ、赤ちゃんはできないのか。残念だなあ」
とラーズ。
「まあいいや。もっとしよう」
ラーズはゆりを抱き寄せた。ゆりが上をみると、まだ神気の渦のようなものは残っている。オルガは生まれたコウモリ達を集めてなでなでしている。なんだかうれしそうだ。
「オルガ、離脱する？」
ラーズが聞いた。
「そうだなあ」
「だめ」
ゆりがオルガを見て言った。
「離脱はだめなの。まだするの」
ゆりは強気である。
（上が気になる。すごく気になる）
「のってきたの？」
ラーズがゆりに聞いた。
「だって、あれ気にならない？」
ゆりが上を指した。
「あれ？ ああ、なんか気になる？」
ラーズは神気が見えているようだが、きょとんとしている。
「私はとっても気になる」
「そうなの？ じゃあ次はどうやってしようかなあ。後ろからしよう」
ラーズはゆりの体を四つん這いにさせて後ろから挿入した。この体勢でゆりは一瞬スペードとのことを思い出してしまった。
（だめだ。相手はラーズなんだから、ラーズのことを考えなきゃ）
「オルガも側にきて」
「ああ」
オルガは７匹のコウモリ達を邪魔にならないようにベッドの隅に集めておいて、ゆりに近づいた。オルガは女神の髪をなでている。
「ラーズ、私ラーズの顔を見ながらの方がいいな」
「いいよ。じゃあおいで」
二人は体勢を変えて、ゆりはラーズの膝の上に乗った。
「君が動いて」
「うん」
ゆりは腰を動かした。
「はあ……ああ……」
ゆりはラーズの頬や髪に触れて、ラーズに顔を寄せた。ラーズはぎゅっとゆりを抱きしめて口づけた。
「ラーズ大好き」
「私もだよ」
ゆりは動くのをやめてしばしラーズに抱きついていた。
（ガーベラの力は、愛の力なんだ。愛のらせん……だから愛情一杯にしなきゃ）
「ガーベラ、君は本当にかわいいなあ」
今度はラーズが腰を動かして、ゆりはそのまま達していた。ゆりはラーズから離れてオルガに抱きついた。
「まだ君なんだろう？ さっきとえらく違うんだな」
ゆりの変化にオルガはちょっと戸惑っている。
「今は、子供欲しい欲しいモードに入っちゃって」
「子供？」
「おっ子供できるかな？」
ラーズが聞いた。
「わからないけど、まだしたい。胸がすごくどきどきするから」
「そうか」
オルガは女神の髪をなでて、ちゅっとキスしていた。
「じゃあ、この前の約束……」
ゆりは前屈みになり、オルガの下半身へと手を伸ばした。ゆりは口での奉仕をはじめて、ラーズはゆりのお尻をなでて、指を膣内へと挿入していた。
「はあ……ああ……ガーベラ……」
オルガは興奮しているようだ。ラーズの指が体の奥で動き、ゆりはそれで軽くいってしまっていた。
「オルガ、もう一度抱いて」
「ああ」
ゆりはベッドに横たわり、オルガはゆりの上に覆い被さった。
ゆりはラーズを見上げている。
「口でしたいな」
「ありがとう」
ゆりはオルガに抱かれながらラーズにも奉仕し、やがて３人は同時に達していた。
(愛のらせんが一杯）
ゆりは寝転んだまま、神気のらせんを見上げている。
（来て、来て、なんか来て）
神気は渦になり、やがてそこから白い足がぬっと下に出て来た。
「あ、やった！」
ゆりが声をあげて、オルガとラーズが上を見た。ベッドの上空で、白い足だけがぶらぶらしているのが見えるので二人は驚いている。
「足だ」
「足だな」
ゆりは起き上がって正座した。３人は待ち構えていたが、まだ足しか出て来ない。
「ひっぱった方がいいのかな？」
ゆりが言った。
「どうだろう」
「まだ子供っぽいな」
とオルガ。足はそんなに大きな足ではない。
「おいでーおいでー」
ゆりはわくわくして待っている。
なかなか出てこないので、ゆりは、「ラーズ、足をくすぐってみて」と言った。
「わかった」
ラーズは立ち上がり、指で足の裏をこしょこしょしてみた。すると足はくすぐったそうに動き、やがてすとんと子供が落ちてきたのだった。
「女の子だ！」
裸の女の子は結構大きい。ゆりは布団をひっぱって女の子の体を覆っていた。
「面白い髪だな」
ラーズが女の子の髪に触っている。女の子は肩までのストレートだったが、金と黒が混じっていた。その髪を見てオルガはどきりとしていた。
（この色彩は見たことがある。あ……あの時の女だ！）
オルガはある夜見かけた女のことを思い出していた。
ゆりは女の子の顔を見ていた。前髪は眉毛まで、眉毛は両方黒である。女の子は大きな目をしていたが、ちょっと目尻があがっている。どうひいき目に見てもかわいいのだが、瞳の色がどうもはっきりしない。
角度によって黒に見えたり、青く見えたり、赤みがかって見えたりするのである。
「ねえ、この子の瞳何色かな？ いろいろ色が変わってみえるの」
ゆりはいろんな角度で女の子の顔を見ている。
「本当だなあ」
ラーズは服を着ながら言っていた。
「サーラの瞳とも違うし、これはこれでキレイじゃないか」
「そうだね」
「オルガ、服」
ラーズはオルガの服を拾ってオルガに渡していた。
「あ、ああ」
ゆりもようやく服を着ていた。
オルガは服を着て女の子の顔を見ようとしたのだが、女の子はコウモリ達をみつけると、布団をぬけだしてそちらに行ってしまった。
「こらこら、あ、そうだ。ティラの服とかある？」
「あ、そうだな」
オルガは服を取りに行った。
「うーん、キュリア達よりはちょっと小さい感じかな？」
ゆりは女の子の大きさを計っている。
「あまり変わらないんじゃないか？」
「そうかな」
オルガがティラの黄色っぽい服を持ってきたので、ゆりは女の子に着せた。女の子はコウモリが気に入ったようで、膝に乗せてうれしそうにしている。
「何も話せないのかな？ ところで妖精？ 神？」
肝心なところがまだだった。
「神だよ」
ラーズが言った。
「神様なの？ すごいね。３人の力が混じってる？」
「オルガの力は完全に入ってるよな。私のも入ってると信じたい。入ってるよね？」
ラーズは女の子に聞いている。女の子は意味がわかっているのか不明だが、うんうんうなずいていた。
「おお、入ってるって。やっぱり入ってるよな」
ラーズは喜んでいる。オルガはベッドの側に立って、女の子をうかがうように眺めている。
「どうしたの？ 触ってもいいんだよ？」
ゆりが言った。
「なんだか不思議で。私は前にこの子に会ったことがあるんだ。運命の泉で」
「えー？」
二人は驚いている。
「あの時は大人の姿をしていた。どんな顔だったんだろうと気になっていた」
女の子はオルガを見てにこりと微笑んでいた。
「かわいいな」
なんだかオルガが泣きそうな顔になっている。
「あのー……」
その時部屋の外から遠慮がちな声がした。ティラの声である。
「ティラ、おいでー妹ができたよー」
ゆりは声をかけ、ティラは部屋の中に入ってきた。そしてオルガの他にラーズまでいたので、ティラは一体どういう状況で子供ができたのかとちょっと動揺しつつ、妹に近づいていた。
「わあ、かわいいなあ」
「やったね。ガーベラ。二人目の３人の力が混じった神の誕生だよ」
ラーズがゆりの肩に手を乗せて言った。
「二人目？」
「ニイニは妖精だったろ？ 神はランスロットに続いて二人目だよ」
「あ、そうかあ。じゃあみんな驚かないよね」
「いや、みんな驚くよ。なあオルガ」
「ああ、驚くだろう」
「そんな驚かないんじゃない？」
「いや驚くよ」
「そうかな」
（いろいろやばい。ハロルドもやばいけど、神様が誕生すると聖地にもすぐ話が行っちゃうのかな。そっちもやばいかも……）
などとゆりは思ったが、子供ができてうれしいことはうれしいので、まあいいかと開き直った。
「またガーベラ様？ お盛んねとか言われたらどうしよう」
「ははは。いいじゃないか。じゃあ、名前を決めてもらいに行こうか。ガーベラも行く？」
「私はいいや。もうあんまり時間がないだろうし、ここにいるね」
「そう。ガーベラ、ありがとうね。また愛し合おう」
ラーズはゆりの頬にちゅっとキスした。
「ありがとう」
オルガもゆりに微笑んでいる。
「僕も行っていいですか？ 名付けの瞬間に立ち会いたいです」
ティラが聞いた。
「もちろん、一緒に行こう」
ラーズは女の子を抱っこして、オルガとティラも一緒に去って行った。ゆりは７匹のコウモリたちと、ベッドに座っている。
「どんな神様なんだろう。わくわくしちゃうね」
ゆりは喜ぶアシュランを想像してにやっとしていた。
その少し前、雲の上の神殿では、金属音のような、不思議な反響音が鳴り響いていた。その時アシュランは不在で、ヒルデリアは何の音だろうと雲の上の神殿の中を歩き回っている。
アシュランが神殿に戻ってきて、アシュランの間にいるヒルデリアに出会った。
「どうしたんだ？」
「先ほどから奇妙な音が鳴り響いていたのですよ。今はやみましたが」
「どんな音なんだ？」
「金属が触れる音のような、とにかく不思議な音で……」
その時、天井から光の筋が降りて、金色の長い棒のようなものが下にすとんと落ちてきた。アシュランはその棒をぱっと手に取っている。
「杖ですか？ 神器ですね」
ヒルデリアが言った。金色の杖のようなものだが、先端には丸い二重の輪があり、その中に黒い大きな石が入っていた。輪っかからは細い金色の棒がいくつも垂れ下がっている。
アシュランが杖を回すと、「シャリン」と金の棒がこすれる音がした。
「あ、この音かもしれませんわ」
とヒルデリア。
黒い大きな石は、角度により色を変えている。
アシュランはにやりと笑っていた。
「ガーベラか？ でかした！」
オルガのベッドの上では本物のガーベラが目を覚ましていた。ガーベラはすぐ目の前に毛玉のようなものが転がっていたのでなんだろうかと顔を近づけてみていた。
毛玉には顔があったので「わっ」と飛び退いている。毛玉達がちょこちょここちらに動いてきた。
「え、ちょ、ちょっと、これ何？ あれ？ オルガの神殿だけど、オルガ？」
ガーベラはきょろきょろベッドの周りを見ている。オルガの気配はまるで感じられない。ガーベラは恐る恐る毛玉達を見た。顔がある毛玉には翼のようなものまであった。一匹ずつ色も違う。
「なんでこんな色をしているのかしら。なんでオルガいないの？」
毛玉達は這うようにガーベラに近づいてきて、ぴったりガーベラの膝にひっついた。
「わっ！ あれ？ コウモリ……かな？」
ガーベラは青い毛玉を手に取って、ちょっと翼を広げてみた。形はコウモリである。
「こんな色のコウモリなんているのかしら」
下に降ろすと、青いコウモリはガーベラの膝に寄り添っていた。
「この子達ほっておいてもいいのかしら。それとも連れて行った方が？」
コウモリ達はまだ子供っぽかったのでガーベラがどうしようかと思っていると、鐘の音が鳴り響くのが聞こえてきた。
「あ、もしかして！？」
ガーベラは雲の上に行きたかったが、多分オルガが大事にしているだろうコウモリ達だったので、放置できなかった。
「そうだわ。袋。袋に入れて持っていきましょう」
ガーベラはベッドから降りて、あわてて袋を探したのだった。
つづく
１２部
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