第２４話
（体中がいてえ……そういや刺されたんだっけ。店の中でやらなきゃいけなかったからやりづらいったらなかったぜ。あいつの死体どうなっただろうなあ。帰ったら大掃除か。めんどくせえ……）
目を閉じたまま、占い屋のミケは意識を戻していた。どれくらい横になっているのかは不明だが、先生が治療してくれたようだ。ベッドの上に寝かせられているようだし、体に包帯が巻かれている感触がある。殺し屋として生きてきた彼にとっては、これくらいの傷は珍しくはない。内臓に達していなかっただけ、かなりましな方ともいえる。
（久しぶりに昔の夢をみちまったな……）
殺し屋になる前、ミケはある強盗団の一味の中にいた。主に旅人や商人を襲ったりして金品や食料を奪う者達で、捕まらないように根城はあちこち変えていた。彼らは魔法が使える強盗団で、旅人や商人にとってはかなりやっかいな相手だった。そんな強盗団の中に、ミケは五歳の頃からすでにいたのである。それより以前は両親と暮らしていたはずなのだが、いつの間にか、ミケはそこにいた。
「お前は森の中で捨てられていたのを俺が見つけたんだ。お前には魔法の素質がある。将来魔法を使って俺たちを手伝うんだ」
強盗団の頭は、機嫌が良いときは優しかったが、機嫌が悪くなると途端に豹変して人を殴ったりする男だった。自分がここにきたいきさつを詳しく聞いた時は必ず不機嫌になり怒鳴ったり殴ったりしてきたので、ミケは次第に聞くのをやめた。仲間の連中も似たり寄ったりだった。機嫌が良いのは、大体仕事が無事終わった後だった。そしてミケが魔法に成功した時などは、かなりほめてくれた。
「やっぱりお前には魔法の素質があったんだ。すごいぞ。ミゲル」
当時ミケはミゲルという名前で呼ばれていた。ミゲルは親がつけてくれた名前である。何十年もそこで暮らす内に、ミケは両親の顔を忘れかけていた。すると夢の中、両親が現われて、ミケに微笑んだりするのだった。あんなに優しそうな両親が自分を捨てたなんて、ミケには考えられないことだった。ミケは頭以外のその連中の中では一番温和な男に、機嫌が良い所を見計らって、自分のことを教えてくれと頼んだ。すると男はこう言った。
「実はお前を森で拾ったってのは嘘だ。あの頃あの辺りで飢饉があってな、食料とお前を交換してやったんだよ。もう気にするな。今じゃ俺達がお前の家族なんだからよ」
男は最後には慰めるようにミケの頭をなでていた。
なんと自分は食料と交換されたという。それもかなり怪しい話ではあったが、ミケは物心がつくころから連中の中にいたために一般的な常識などもっていなかった。連中以外の人間と話す機会もなかったのだから無理もない。
成長したミケは当然彼らの仕事を手伝うようになった。それが悪いことだとわかっていてもやめることができなかったが、ミケが大人になった頃のことである。転機が訪れた。
彼らはミケが大人になったことを喜んで祝ってくれた。そして頭が「お前に贈り物だ。立派な男になるためには経験しとかないとなあ」と、ミケに贈り物をしたのだが、それは生きている女だった。
彼らはどこかの街で大人になったばかりの女の子をさらってきて、ミケに与えようとしたのである。女の子は手足をしばられて、布もかませられていた。
女は涙を流し、体は絶望に震えている。さすがにミケはこの贈り物を喜ぶ気にはなれなかった。
「ミゲル、やり方がわからなかったら教えてやるぜ」
仲間は皆にやにやしてミケをみていた。そのやり方などは、男達が面白おかしくミケに教えていた。
「経験してみたかったんだ。恥ずかしいから出てってくれよ」
ミケは男達を追いだして、その女を襲う振りをして女にささやいた。
「隙を見て逃がしてやるから、今は襲われている振りをしろ」
と。行為が終わったとしても、女を元の街に返すつもりは彼らにはなかっただろう。男達の慰み者にされて、殺されるのは目に見えている。ミケはこの女を助けてやりたいとそう思った。ここは森の中の洞窟の奥で、今女を逃がすことはミケにはできなかった。ミケは女が気に入った振りをして、だれにも手を出させないようにし、二日後の夕方、隙を見て女を連れて逃げた。大人になり、ミケの魔法力もかなりあがっていたためになんとか逃げることに成功したのだが、すぐそれがばれて彼らに追われることになった。
「逃がさねえ！」
男達が側まで迫ってきていた。
「おれがあいつらとやり合ってる間になんとか逃げてくれ」
ミケは女に言った。
「ミゲルさん……」
「早く行け！」
女は一人で逃げて行った。なんとかして5人の男達を一人で食い止めなければならない。失敗すれば逃げた女は捕まり、むごい目に遭わされることだろう。
「ミゲル！ 恩をあだで返す気か！」
風がミケの右腕を切り裂いた。ナイフがあちこちから飛んできて、ミケはそれをかわすのが精一杯だった。
「森の妖精、風の妖精、だれでもいい。彼女を助けてくれ。俺はどうなってもいいから彼女だけでも助けてくれ！」
ミケは逃げながらも妖精に助けを求めていた。
「ミゲル、今戻ってくれば許してやる。戻ってこい！」
頭の声が聞えた。
「いやだ」
「お前の家族は俺達だろう？ お前をずっと育ててやったじゃねえか。俺が拾ってやったんだぞ！」
「もういやだ！」
「なら死ね！」
「まてよ。何も殺すことはねえ。じっくり話せばミゲルもわかってくれるって。だから最初は娼婦にしとけって言ったじゃねえかよ」
「そうだよ。何も生娘にしなくてもよかったんだ」
「うるせえ」
男達が言い争いを始めていたが、気配は4人分しかなかった。
（一人足りない。途中までいたのにもう一人はどこに行った？ いつの間にか俺を追い越して彼女を追ったのか？！）
ミケは女の後を追った。
「待て！」
「だれでもいい。彼女を助けてくれ。逃がしてくれ！」
ミケの背中にナイフが刺さっていた。
「うう……」
「お仕置きだぜ。ミゲル。お前は殺さねえ。まだまだ役に立ってもらわねえとな」
「逃げろ……」
ミケの足はふらつき、止まってしまった。
「女は逃げられねえよ。今頃は死んでら。お前が逃がそうとしたからこうなったんだぜ」
「ちくしょう」
ミケは腹を蹴られて意識を失ってしまった。
その後目を覚ましたミケは、全く見たことがない部屋のベッドで眠っていた。体には包帯が巻かれているようだ。薬草か何かの匂いがした。明らかに洞窟の中ではない。
「気がついたかね？」
側にやってきたのは長い白髪であごひげも長い老人である。ローブ姿で、魔術師のような風体だった。
「ここは？」
「風の妖精がお前さんをここに連れてきた。全く迷惑なことじゃ。勝手に押しつけて行きおった」
「風の……妖精？」
ミケは体を起こそうとして、痛みに顔をゆがめていた。
「背中を刺されておるし、あちこち怪我もしておる。しばらく安静にしなさい」
「女は、女はどうなったか知りませんか？」
「女は街に連れて行ったとか言っておったかな。お前さん、街に一緒にいけない理由でもあるのかね？」
「…………」
「わけありだからここに来たんじゃろ？ 安心せい。わしも昔はかなり悪さをしておった部類じゃ。今は隠遁生活をしておるがね」
その老人は、馬車も通らないような森の奥で、小屋を建てて一人で住んでいたのだった。
「誰かに知らせたりもしないから安心しなさい」
「話を聞いてください」
ミケは自分の身の上話を目の前の老人に話して聞かせたのだった。老人はミケの話を一通り聞き終わり、「大変だったのう」と言った。
「お前さんの話で分かったことがある。まず一つ目、お前さんは両親に捨てられたわけでも食料と交換されたわけでもないよ。お前さんには魔力がある。魔力がある子供を捨てる親はいないんじゃ。なぜなら、将来的に金を稼いでくれる存在になるからじゃ。国にとっても魔力持ちは貴重じゃ。もし売るにしても、国を相手にするはず。多分お前さんは魔力があったからそいつらに目をつけられてさらわれたんじゃろう。将来仕事を手伝わせるためにな」
「さらわれた？」
「そうじゃ。お前さんの両親は、きっととても心配してお前さんを探したはずじゃよ。もしくは、そいつらに殺されたのかもしれんが。お前さんのように様々な血が混じった混血児で魔力持ちは珍しい方じゃ。さらっても一族の者は本腰を入れて動かんだろうし、やつらにとっちゃちょうど良かったんじゃろう」
「…………」
「何か覚えていることはないかね」
「……何も……思い出そうとすると頭が痛くて……」
「ふうむ、何か暗示をかけられている可能性があるのう。わしはその道のプロじゃ。ちょっと待ってなさい」
老人はろうそくの炎でミケにかかっていた暗示を解いた。ミケは幼い時のことを思い出した。
「バク……バクを見たことがある。近くの森によく遊びに行っていて……気がついたら別の場所にいた。一緒にいたお父さんは……あいつらに殺されたのかもしれない」
ミケは小さい時の記憶をようやく思い出すことができた。暗示か何かで忘れるように仕向けられていたようである。
「獏か。獏は獏の国にしかいない。あの国のどこかの街に住んでいたのじゃな。お前さんの血の中にはバクの一族の血が入っている可能性がある」
「あいつらのせいで……」
きっと幸せだっただろう生活がすべて奪われたのである。ミケの心の中に激しい憎悪の感情が浮かんでいた。
「殺す。全員殺してやる。よくも俺の人生を奪いやがったな。許せねえ！」
ミケは泣きながらわめくように叫んでいた。
「許せねえ！ 許せねえ！」
「お前さんにはまだ無理じゃ。現にこうして傷を負ってしまっておるではないか。もっと強くならなければ。５年待ちなさい」
「５年？」
「わしがお前を鍛えてやろう。５年、わしの元で修行しなさい」
「どうして会ったばかりの人間に親切にしてくれるんですか？」
「わしとお前さんの境遇はよく似ておるんでな。気持ちがよくわかる。わしも混血児の魔力持ちよ」
その老人はミケの師匠になり、ミケに魔法を基礎から教えたのだった。５年が経つ頃には、ミケは結構な魔法が使えるようになっていた。
「師匠、今の俺ならば、あいつら４人相手にして戦えるはずだ。ありがとうございます。あなたとの一時は、とても、とても平和な一時でした」
強盗団にさらわれて毎日が緊張した日々を送っていたミケにとっては、修行の日々は、安らぎに満ちた日々でもあった。できることならばずっとここにいたかったが、あいつらを殺さなければ自分の中で決着がつかない。
「そうか。ならこれを持っていけ」
師匠はミケに、魔石がついたネックレスを二つ、ミケに渡したのだった。
「これは……」
「魔力がぐんとあがる魔道具じゃ。わしの魔力が強い理由の一つはこれのおかげじゃよ。これは龍の国の鉱山で盗んだ物じゃ。ばれたら殺されるからな。肝に命じておけ」
「いただいてもいいんですか？」
「わしはもうすぐ死ぬでな。ミゲルよ。復讐を果たした後はどうする？」
「わかりません」
「わしはな、昔は結構悪いことをしてきた人間じゃが、今になって、あの時差し出してくれた優しい手を握っておけばよかった、と思うこともあるんじゃ。あの時はつい振り払ってしもうたが。もし、お前さんにそういうことがあったなら、迷わず手を握っておけ。わしからの遺言じゃ」
「もっと長生きしてくださいよ。後１００年は」
「ははは。お前さんが復讐を果たした報告をしにくるまでは生きていたいがのう。金貨じゃ。道中盗みはするなよ」
「はい。ありがとうございます」
ミケは魔道具と金貨三枚をもらい、師匠の元から旅立ったのだった。根城を次々と変える強盗団を探すのに二年ほどかかった。この世界で強盗団は一つではないので、違う強盗団に遭遇することも多々あったのだ。ミケはとうとう因縁の強盗団を見つけ復讐を果たした。終わってみると実にあっけなかった。彼らよりもミケの魔力の方がぐんと勝っていたのである。その後ミケは報告のため師匠の元に戻った。師匠はそれから半年ほどで亡くなり、ミケは師匠の弔いをして、その場を去ったのだった。ミケは自分の生まれ故郷であろう獏の国に行き、当時の自分のことを調べてみたが、確かに自分のことらしい記録が残っていた。子供は森で行方不明になり、父親は殺されて、母親はその一年後に亡くなってしまったそうだ。
それから良い道に進めばよかったのだが、どうしたわけか殺しを生業にするようになってしまった。金に困ってつい仕事を引き受けて、そのままずるずるとその世界に浸ってしまったというわけである。そして今は、大きく方向転換している。
目を閉じたままぼんやり今までの自分の人生を振り返っていたミケは、ようやく目を開けた。あたりは明るかった。ミケは体を起こそうと思ったが、体が思うように動かなかった。
「あ、気がつきました？ 先生、ミケさん目を覚ましましたよ」
看護婦が気がついて医者を呼びに行った。医者がベッドの側にやってきた。
「ミケさん、よかった。一体どうしてあんな傷を負ったんですか？ 4カ所も斬られてましたよ」
「先生のおかげで助かりましたよ。強盗と鉢合わせちまって」
ミケは寝転んだまま、ばつが悪そうに言った。
「強盗？ それは災難でしたねえ」
「あいつの死体はどうなりました？」
「役人が処理したんじゃないですか？」
「やっぱりそうですか、今何時ですか？」
「もうお昼ですよ。スープをもってきましょう」
「すいません。面倒かけます」
少しして、看護婦がスープとパンを運んできた。
「少し起きれますか？ 食べさせてあげますね」
「え？ いいですよ。恥ずかしいし」
「遠慮しなくていいですよ」
この病院には看護婦は二人いる。一人は中年の女性、こちらは先生の奥さんで、もう一人は若いかわいらしい女性である。茶色い長い髪を後ろで束ねた背は低めの女性である。今ミケの体を起こすのを手伝っているのは若い方だった。
「背中に傷があるから寝ていても痛いでしょう。後で痛みを和らげるお薬を飲みましょうね」
「ありがとうございます」
女性に食べ物を食べさせてもらうなんて初めてだったため、ミケはどうにも恥ずかしげだった。
薬を飲んだ後、ミケは再び横になった。
（考えてみりゃ、あのやろうを外に誘ってもよかったよな。逃げられたって別によかったような気がする。あいつだってすぐに実行に移せなかっただろうし。……早く店の掃除がしてえ）
王妃の恋人がもし殺されたとしても、城に死体を入れないようにと忠告さえしておけば、仕事をしていることになるような気がするが、あの時は王妃をけなされてつい頭に血が上っていたために、やらなければ、と思ってしまった。
（まあ王妃様を悲しませないってのも任務の内か？ ついかっとなっちまったよなあ）
ミケははっと自分の首元を触っていた。
（あれがない）
「すいません。看護婦さん」
「はい？」
看護婦が側にやってきた。
「俺のネックレス知りません？」
「そこにありますよ」
看護婦がベッドの横の棚を指した。
「あ、ほんとだ。よかった。ありがとう」
ミケはネックレスを見るとほっとして、棚の引き出しの中にしまったのだった。
薬が効いてきたのかいつの間にか眠り、夕方になり見舞いの者がやってきた。
「災難だったみたいだな。占い屋」
やってきたのはミカエルである。ミカエルと一緒に若いハンサムな男が一緒にやってきた。顔に蛇がついているのが印象的だった。
「なんか一杯斬られたって聞いたぞ」
「いやー……まあ……はい……」
ミケは寝転んだまま答えた。
「でも皮を斬られただけなんで、大丈夫です」
「そうか」
「腹の傷が一番大きくて、右肩に一つ、背中に二つ傷があります。どれも深い傷ではないですよ」
医者が側にやってきてミカエルに説明していた。
「そりゃ寝るにも体が痛いだろうな。うーん、腹以外の傷を治しとくか」
ミカエルは少し考えるように言った。
「え？」
「彼は回復魔法が使えるんだ。だが事件は結構広まっちゃってるんで、全部治すってわけにもいかない。けが人が城に殺到しても困るんでな。先生頼みます」
「はいはい、ミケさんよかったですね」
医者と看護婦がミケの体をそっと起き上がらせた。
「回復魔法？ なんで私にそんな……」
ミケは戸惑っている様子である。
「この前のお礼かな」
医者がそっとミケの服を脱がせて、背中と肩の包帯を取った。血でにじんだ傷が痛々しい。
「じゃあカールよろしく」
「はい」
カールはミケの体近くに両手をあてた。
カールは小さな声でぶつぶつと呪文のようなものを唱えている。
ミケはじんわりと体中が温かくなるのを感じていた。ミケにとっては魔法とは相手を傷つける手段であったが、まるで別物である。この世にこのような優しい魔法が存在するとは。
やがて背中から痛みが和らいでいた。
「すげえ」
「すごい」
「すごいわー」
医者と看護婦も感嘆の表情である。なにせ回復魔法を使うことができる者は稀なため、目にする機会もそうないのである。
カールが手を引っ込めた。
「具合はどうですか？」
「痛みが随分和らぎました。なんか腹の傷もましになってきたような気がします」
「そうですか。一部だけ治すってのもちょっと難しいんですよね」
「まあいいか。服も着てたんだし、誰かの前で裸になることもないだろう？ しばらく痛そうにしといてくれ」
ミカエルが言った。
「はあ……」
「それからしばらく病院には通うように」
「はあ」
ミケは傷がなくなったことに驚いていたので生返事だった。
「いやー回復魔法を見るのは初めてなんで興奮しましたよ」
医者が言った。
「今は使える者がいなんですよねえ。彼は特別なんですよ」
「あの、店に戻っていいですかね」
ミケが聞いた。
「明日にしろ」
とミカエル。
「早く掃除がしたいんですが」
「掃除はもうしたぞ。あのまま置いておけないからな」
「え？ そうなんですか？」
「そう。だから安心して休んでろ」
「ありがとうございます」
「じゃあな」
「それではお大事に」
ミカエルとカールは病院を去ったのだった。
（まさかまさかだ。あの人、俺がやつとなんでやりあったとか全然聞かなかったが……先生がいたせいかもしれんが、どう思ってるんだろうな）
何も聞かずに傷を治してくれたことにミケは驚いていた。それほど自分を信頼している、というわけでもないだろう。
「ミケさんミカエル様と知り合いだったんですか？ 魔法を使ってもらってよかったですね」
看護婦が言った。
「知り合いって言うか、店を調べにきてただけですけどねえ。もう一人の方の名前はなんというんですか？」
ミケが聞いた。
「カール様ですよ。カール様はすっごい過去からいらしたんですよ」
「過去？」
「だから回復魔法が使えるんですよ。最近王妃様の恋人になったって噂ですよね？」
看護婦が医者に聞いた。
「そうみたいですね」
「王妃様はすごく魅力的なんですねえ。あんなに恋人が大勢いるなんて」
ミケが嫌みではなく言った。
「王妃様には以前女神ガーベラが降りられたことがあるくらいですからね。すごく魅力的なところがあるんじゃないですか？」
「へーガーベラ？」
「博物館にある神様の手、王妃様が頼んだって噂ですよね。王妃様って神様にも好意をもたれてますよね」
看護婦が付け加えていた。
「そうだね。あれはすごいね」
（やっぱり王妃様ってすごいんだな）
自分が守る相手なので、誰かにほめられると悪い気はしなかった。
一方ミカエルとカールは城に飛んでいる。
「昨日の今日なのに悪かったな」
昨日、カールもゆりに気を与えたのである。カールは若いために気の回復も早いが、気力はまだ満タンではなかった。そのため、カールに魔法を頼むときも、ミカエルはかなり申し訳なさげだった。
「ひどい怪我ではなかったので、平気ですよ。どうして彼を助けたのか聞いてもいいですか？」
「この国はいまや一族だけではままならないんでな。一族以外でも気になる者には目をかけているんだ。彼もまあ、そうかな」
「そうですか」
「回復魔法はハインリヒにも使えないよな。なぜなんだろう？」
「やはり向き不向きがあるんでしょう。私は火は使えないし、風の魔法は苦手ですよ」
「そうか」
庭園にいた二人の元に、ゆりがやってきた。
「あ、王妃、今日は元気そうですね」
ミカエルが微笑んだ。
「もう元気いっぱいだよ」
「よかった」
「珍しい組み合わせね」
「仕事の話をしてたんですよ。それじゃ王妃また」
ミカエルはゆりの頬にちゅっとして消えた。
「カールは時間ある？ ちょっとお話しましょう」
「はい」
二人は東屋に座って、しばし歓談した。
「ねえ、カール、今晩、部屋に来てくれる？ 誰かと一緒にいろって言われちゃって。昨日みたいに気を奪いまくったりはしないと思うんだけど」
「もちろんいいですよ」
「ありがとう。じゃあ儀式部屋の方でね」
「はい」
カールは微笑んだ。
（ちゃんと役に立ってる。よかった）
カールはそう思って喜んでいる。
そして街の病院にいるミケは、夕飯は自分の手で食べることができた。
「回復魔法、すげえ。他人の魔法で感動するって師匠以来だ」
ミケはしばらく回復魔法のすごさに感動していたのだった。
つづく
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