第６話

ついに、最後の一人サントスにもゆりがガーベラだったことがばれてしまった。神の光が目に慣れてきた所でゆりはサントスの表情を探ってみたが、怒っているのかどうかまだわからなかった。

「あのー、こんばんは。とりあえず、座ってください」

「あ、はい」

サントスがベッドに座り、ゆりはベッドの上で正座をした。犬のジロウは猫と遊んでいる。

サントスは茶色系のチュニックにズボン、腰には金色の帯を巻いている。一見地味だが、その神の輝きは、ハロルドにもひけをとらない。サントスは高位の神なのだと、それでわかるくらいである。

緊張したゆりの様子に、サントスはぷっと笑っていた。

「すいません。勢いで来たんですけど、何から話したらいいだろう。とりあえずお礼を言った方がいいかな。ネルが助かったのはあなたのおかげだったんですよね。どうもありがとう。ネルがあんなことになって、私は本当に悲しくて、ネルが生き返ってくれて本当にうれしかった。本当にありがとう。今後は、もう私の所に来ていただかなくても大丈夫ですから」

ゆりは一瞬サントスが言っていることの意味を考えて、「……やっぱり怒ってます？」と聞いた。

「怒ってないです。ガーベラに私の相手をするように頼まれたんでしょう？」

「頼まれてないですよ」

「あなたはハロルドやラーズとも仲良くしているんでしょう？」

「それは……はい」

「アイナが出来たとき、あなたはガーベラに頼まれて私の所に来たんじゃないんですか？　あの時のガーベラがガーベラじゃなかったって聞いてショックで、あなたにも腹立たしく思いましたが、ネルのことを考えると怒ることはできない。あなたもガーベラの頼みを聞いて私の相手をすることなどなかったのに」

「頼まれてません。あれは私の意思なんです」

「嘘です」

「嘘じゃないです」

ゆりはむきになって答えた。

「言い方は悪いが、やりたいならラーズやハロルドに頼めばいいじゃないですか。なぜわざわざ私と。ガーベラに頼まれる以外にどんな理由があるんですか」

「サントス様のことが好きだからです」

「…………」

「泥遊びをしたのだって私の意思ですよ。ネル様とソル様はサントス様と交わらなくても子供ができたから、アイナちゃんの時は、ついに交わるんだって、なんだか感慨深かったです。子供ができた後に交わるなんて面白いですよね」

「……本当にガーベラが頼んだんじゃないんですか？」

「私達が好きなガーベラ様は、そんなこと頼まないですよ。でも、中身が私だったなんてショックですよね。サントス様は、ずっとガーベラ様のことが好きだったんですもんね」

「ガーベラは、あなたももう一人のガーベラだって言ってました。私は全く気がつかなかった。こんなに長い間ガーベラが好きだったのに」

「だれも気がつかなかったから大丈夫ですよ」

「私のどこが好きなんです？　１００人女性がいれば、全員ハロルドやラーズを選びますよ」

「そんなことないですよ。もっと堂々としてください。サントス様がガーベラの横にいたって、全然おかしくないですよ。ちなみに、私は以前のかわいいサントス様も好きでしたよ。ある日姿が変わっていたからびっくりしました。今の姿も素敵ですよ」

「……ガーベラ……ガーベラは本当に私のことが好きなんでしょうか」

「もちろん好きに決まってますよ」

「じゃああなたも？」

「はい」

ゆりは笑顔で答えた。

サントスはゆりに近づいてゆりの手を握った。

「あなたのこともガーベラと呼んでいいですか？」

「え、はあ、サントス様がよければ」

「ガーベラ」

サントスはがばっとゆりを抱きしめたのでゆりはびっくりした。

（え？　ちょっ……あれ？　ジロウ君が邪魔しにこない？）

その時犬のジロウは寝床で猫と寝てしまっていた。

（なんだか予想外の展開がきたー！）

サントスはゆりの頬や首にチュッチュとキスしていた。

「あの、サントス様？」

「ガーベラでいる時と同じように話してください」

「はあ、でも」

「あなたは私と抱き合ったじゃないですか。あれはあなたの意思なんでしょう？　好きならこうされてもうれしいはずでは？」

「う、うれしいですよ」

「本当ですか？」

サントスはまだ何か疑っているようだったので、ゆりの方からちゅっとサントスの唇にキスした。

今度はサントスが驚いている。

「アイナちゃん、あれからどうなりました？　私は全然会ってないから。少しは大きくなりました？」

「まだ赤ちゃんですが、すごくかわいいです。もうアイナは神器の弓の矢を作ることもできるんですよ。大きくなったらどんなかわいい子になるのか楽しみです」

「楽しみですね」

「あなたからはたくさん贈り物をもらいましたね。ガーベラ、ガーベラだと思ったらあなたが本当にガーベラに見えてきた」

「そんなばかな」

サントスはゆりをベッドに押し倒して口づけた。

（ジロウくーん！）

ゆりは心の中で叫んでいたが、ジロウは邪魔をしに来なかった。

（猫に催眠術でもかけられてるのー？）

「ガーベラ」

ゆりは、まさかサントスがガーベラの体以外でその気にはならないだろうと思ったが、サントスはゆりの体をまさぐってきている。

「あ、あの、まずいんです。私、妊娠率高いので、ガーベラの時に思う存分しましょう」

ゆりはあわてて言った。

「ハロルド達とはしてないんですか？」

「妊娠中にしかしてないですよ」

「そうですか。じゃあ挿入はしないでおきます」

サントスはゆりの寝間着をたくしあげていた。

「え……あの……私汗かいて……それにサントス様はガーベラ様以外にその気にならないでしょう？」

「あなたがガーベラならなってもおかしくないですよ。話し方、いつもの通りでと言ったじゃないですか」

「はあ、でも……」

唇を唇で塞がれた。

話の流れ的にここで逃げるわけもいかず、ゆりは為すがままにされていた。口づけされながら肌をまさぐられていると、ゆりもちょっと興奮してきた。

「ガーベラと同じ匂いがする。ガーベラ……ああ、すごく興奮してきた。やっぱりあなたはガーベラなんだ。あなたが命に限りがある人間だなんて」

サントスが悲しげに言い出した。

「しばらく死なないから大丈夫ですよ」

「最近死にかけたじゃないですか。ハロルドに頼まれて薬草を集めたんですよ。ハロルドは肝心なことは何も言わないんだから」

「そうだったんですか。ありがとうございます」

「とにかく、今までのように時間をかけていたらあなたはいなくなってしまいますので、がんばって誘惑しようと思います」

サントスは恥ずかしげに言っていた。

「サントスの口から誘惑なんて言葉が聞けるなんて……」

ゆりはついガーベラの時のように言っていた。

「ガーベラ」

「サントス〜」

二人は抱き合い、盛り上がってきたので互いの体を触りあったり、ゆりはサントスが本当に興奮していたのでうれしくて、口で愛撫もしてしまった。

「あなたは、一番好きな神はだれですか？　やはりハロルドですか？」

「ガーベラ様の恋人は全員好きですよ」

「人間の恋人も大勢いるんですか？　やっぱり」

「はい」

「なんだかみんなで楽しくやってそうですね」

「実は私二重人格なんです。ガーベラ様になっている時は、二人が混じってる状態なんですよ」

「へーじゃああなたは正確には半分のガーベラ。もう一人の方にも会えますか？」

ゆりの左目が変わった。

「あなたがもう半分のガーベラ」

「はい。キスしてください」

蛇の目のゆりはサントスに抱きつき、サントスはこちらのゆりにもチュッとキスした。

「サントス様がこんなに積極的になってくださるなんて感激です」

「がんばりました」

サントスは自分で言っている。時々恥ずかしげにしているのもなんだかかわいいとゆりは思っていた。

「サントス様、ラクア様のところで産まれた神獣はどうなりましたか？」

「ペンギンですか？　今神の国で話題ですよ。すごく芸術的なんです」

「芸術的？」

「今度来たとき見てください。私の所にも来てくれたらうれしいですけど」

「はい。サントス様に会いに行きますね」

なんだかんだでサントスは朝までゆりと一緒にいた。

「ワンワン」

朝、ジロウがベッドにあがってきた。

「ジロウ君、遅すぎるよー」

ゆりはジロウについ突っ込んでいた。

「くーん」

「そうだ、私の絵画がありましたよね」

朝起きるなりサントスが言った。

「あ、はい」

横の部屋に移動したサントスは、当然一回り大きいラクアの絵画に目を向けていた。

「ラクア様が、前にあったのはいまいちだからって絵をくださったんですよ」

「そうなんですか。私はあまり自分の絵画とか好きじゃないですけど、飾ってもらえてうれしいですよ」

ゆりはサントスに近づいて手を握った。

「ラクアは全然怒らなかったですか？」

「なんとか大丈夫でした」

「あ、あれはなんですか？　すごい宝石がありますね」

サントスが棚を指している。

「実はあれはラーズ様がくださったんです」

「へーラーズが。その横のはなんですか？　気になる箱がありますね」

サントスはゆりの側には行かずに、ハロルドの絵画の前に立っていた。

「あれは実はアシュラン様がくださって……サントス様？」

「あ、寝室にも気になるものがあったんです。さあ行きましょう」

「は、はい」

サントスはゆりの背中に腕を回して寝室に連れて行った。サントスはベッドの横の棚に置いてあるクーガの木像に気がついたようだ。

「これはクーガですか？」

「実は私クーガ様のファンクラブに入ってるんですよ」

「そうなんですか。ファンクラブの話は聞いたことがあります。じゃあそろそろ帰ります。また会いましょう」

「はい。ありがとうございます」

サントスは猫を抱っこして消えた。

「うーん、まさかああいう展開になるなんて思わなかったなあ」

なんとも予想外の一夜だった。

「くーん」

「ジロウ君ってば、すっかり寝てたでしょ」

「ワン」

「猫ちゃんに説得されたの？　あー全員にばれちゃったか。でも肩の荷が下りた気分でもあるかなー」

ゆりは部屋の方に行った。

「ワンワン」

ジロウがハロルドの絵画の前で吠えている。

「ハロルド様に会いたい？」

ゆりはハロルドの絵画に目を向けた。

「え？」

どこかがおかしい。ゆりはハロルドの絵画に近づいた。て、その異変に気がついた。

「ぷ、ぷぷ……ぷぷぷ。ちょ、ちょっとこれは……まさかサントス様が？　ぷ……だめだ。見ると笑ってしまう。おかしすぎる。ぎゃはははは」

ゆりは��腹を押さえて笑い出した。絵画の中のハロルドは、むちゃくちゃ笑顔になっていた。


つづく


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