第8話
「うーん……」
神の国、太陽の神殿では、神殿の主アリアスがうろうろしながら悩んだ様子だった。
「何か、もっと祭りを盛り上げる方法はないか」
「お父さんってそんなにサントス様のこと好きだったんだ？ 知らなかった」
神殿にいる娘が言った。
「お父さんが好きな男って美男子ばっかだもんね」
「ばかなことを言うな。サントスはヒルデリアから私達のことを何度もかばってくれた。昔、聖地にある私の神殿を建てる時だって、ヒルデリアには何度も邪魔をされたんだが、サントスがとりなしてくれたりしたんだぞ。神殿を建てる時もヒルデリアは、ハロルドより大きい神殿は許さないと言って、私は私で、ハロルドより小さい神殿なら入らないと断言し、カサンドラとサントスが仲裁して、神殿の大きさはぴったり同じになったんだ。あの頃はハロルドのことが大嫌いだったからな。あいつより小さい神殿なんて嫌だった」
ちなみに、神の国にある二人の神殿の大きさも最初の計画では一緒だったのだが、アリアスにはたくさん子供ができたという理由で、アリアスの神殿の方がでかくなった。ヒルデリアは今でもそのことを苦々しく思っている。
「とにかく、弟としてサントスに何かしてやりたい。ずっと思っていたから良い機会じゃないか。あ、良いこと閃いた。ちょっと出てくる」
アリアスは神殿から出て行った。
「土の祭りがあるのって蛇の国なんでしょ？ 神々の手型がいっぱいあるところよね？」
「そうそう。あそこの王妃はやり手よ。手型だって勝手に集まっちゃったんだもの。今回だって頼まなくてもお父さんまで動いちゃって」
「土の祭りって確かにあまり聞かないものね。秋祭りといえば、豊穣の祭りでイサドラ様がメインなことが多いし。サントス様って神格は高いのに目立たない感じよね」
「そうね。まあお父さんが目立ちすぎるのもあると思うけど。太陽の石、一杯あげちゃっていいのかしら」
「今年はあちこち配るからいいって言ってたわよ。今年は寒波がくるらしいから、寒い国に配るんだって」
「そうなの」
「土の祭り、祭りを盛り上げるために最後にはお父さんまで降臨しちゃったりして」
「ありうる。そうなったら人間達もびっくりよねー」
娘達は笑っていた。
城ではゆりは、朝から晩まで祭りのことばかり考えていた。当日まで時間がないので、準備が少なくて楽しめる競技をいろいろ考えた。ちなみに、神々からの贈り物の景品は今ゆりの部屋に置いてある。ミカエルとヴィラとハインリヒからは、「これを景品にだなんて、正気ですか？」とラギと同じ事を言われた。
「逆に景品にしないわけにはいかないの。欲しかったら出たら？」
「ヴィクター将軍が出たがってましたよ。私も出ようかな」
ミカエルは本気で悩んでいた。
「ちなみに一つだけもらえるとしたらどれが欲しい？」
ゆりは三人に聞いてみた。
「うーん、悩みますね。やっぱりジンラ様のお酒かな」
とヴィラ。
「飲んだことがあっても欲しいんだ？」
「はい。アシュラン様の像もすごいですけど、ずっと見られてると悪いことを考えるだけで罪悪感を感じそうで」
「家で何悪いこと考えるんだ？」
ハインリヒが笑いながら聞いた。
「私はダーナ様の笛かな。朝晩チューして楽しむ」
とハインリヒ。
「笛も欲しいがペンがいいな。ラギ様がいただいたペンで書かせてもらったら、すごく書きやすかったんですよ」
ミカエルが言った。
「意外に神様の像じゃないのね」
「お母さん、お祭りのチラシができたよ。とりあえず二十枚書いたよ」
ラギが部屋にやってきた。土の祭り開催のチラシを書いてくれていたのだ。
「ありがとう。ミカエル、役場とかにはってもらってくれる？」
「わかりました。東の街の人達もすごく楽しみにしてましたよ。あ、王妃、王が王の間まで来てほしいみたいですよ。ヴィラ、王妃を連れて行ってくれるか？」
たった今ラクシュミからミカエルに思念が来たのだった。
「王妃、行きましょう」
「うん」
ヴィラとゆりは消えた。
「必要なテントなんですけど、炊き出し用に二つ、美容用、休憩用、それから女の子の着替え用のしきりテントくらいでいいですかね」
ミカエルがラギに聞いていた。
「景品はどこにおく？」
「ああ、景品用のテントもいりますね。アシュラン様の石像を地面には置けないので、机にのせないと。景品は競技が終わるまで隠しておかないといけないな」
「大量の水も用意しなきゃだめだね」
「そうですね」
「美容って何をするんだ？」
ハインリヒが聞いた。
「ガーベラ様の美容液で王妃が何かしたいみたいだ」
「へー当日晴れるといいな」
「雨天の場合翌日にしたけど、当日やりたい。それこそ神様にお願いするよ。晴れますようにって」
ラギは手を合わせている。
王の間では、ラクシュミの言葉を聞いて、ゆりが「なんで？」と首をかしげていた。
「私の方が聞きたい。お前が言ったんじゃないのか？」
とラクシュミ。
「いえー？ だってクーガ様には会ってないし……」
クーガから王あてに手紙が届いたのだった。その内容は、「土の祭りが開催されるそうですね。是非見学させてください。神官が四人行く予定です。よろしくお願いします」と書かれていた。
「だれから聞いたんだろう？」
「一人がクーガ様で、太陽の神官、土の神官、月の神官から一人くるそうだ」
「へーいろいろな方が来てくれるんだね」
ゆりはきょとんとしながらも言っていた。
「祭りで神官を呼ぶことがあるっていうのは聞いたことがありますが、向こうから見学したいなんてこともあるんですね」
とヴィラは言いながらもミカエルに思念を送っていた。
―ミカエル殿、テントを追加してください。聖地からお客様が四人いらっしゃるみたいです
―わかった
「神官様がいらっしゃるのはいいけど、祭りの景品を見てびっくりするんじゃないかな。大丈夫かな」
ゆりはそこが心配になった。
「うーん、どうだろうな。クーガ様に手紙を書いて聞いてみたらどうだ？」
「そうね」
「ヴィラ、東の教会の牧師に接待を頼んでおいてくれ」
「わかりました」
ゆりは部屋に戻り、クーガに手紙を書くことにした。
来月一日の祭りに向けて、東の街付近の畑でも準備が始められていた。
祭り用の畑の草を抜いたり石を取り除いたりするのは、ラリーやヴィンセント達子供達がやっていた。王妃様のためと子供達も張り切っている。それでなくても今年はみんなにとって特別な年だった。ゆりがこの世界にやってきて４０年である。その日は城でパーティーをする予定だが、ゆりが喜ぶようなことをもっと何かしたいと皆思っていた。今回のことはちょうどよかったというわけである。
ジュノーはラギが作成したチラシを東の街の役場や商店街などにはっていた。
すると子供達が集まってきた。
「ねえ、戦士さん、僕たちも祭りに出ていいんだよね？」
「もちろん、子供向け競技もあるから出なよ。この日は学校も休みだし」
東の街では急遽祭りの日は学校は休みになっている。
「きょうぎって何があるの？」
「子供向けは、旗取りレース、宝探し、土投げ、粘土遊び、これは粘土で作品を作る遊びね、大人向けもいろいろあるから家族で参加するといいよ」
「どれに出よう」
「宝探しだってー」
「どんな宝か楽しみだね」
チラシには「女性が喜ぶ美容コーナーあり」と書かれていた。
「美容って何をするのかしらね？」
「楽しそうね」
チラシは街の酒場にもはられたので、人々の話題もそればかりだった。
ゆりはクーガに手紙を出して、クーガからの返信は次の日猫が持って来た。
「ニャーン」
猫のリュックに手紙が入っていたのである。
「おりこうさんねえ。よしよし」
ゆりは猫の頭をなでて手紙を開けた。
「祭りの件ですが、アリアス様に頼まれました。祭りを神官が見学すると、祭りの格式があがりますし、聖地新聞では神官が祭りのことを記事にしたりもするのです。年最後の新聞には、印象深い祭りランキングなんてものも載るので、神官に見学させたかったようです」
手紙にはそう書かれていた。
「へーアリアス様に頼まれたんだ。アリアス様、祭りにむっちゃ期待してくれてるね。ほぼ土遊びだけどがっかりしないかしら。でも祭りでクーガ様に会えるなんて思わなかったなあ。女性陣がきゃーきゃーいっちゃうだろうね」
手紙には続いて、景品のことが書かれていた。
「祭りの景品を神様からいろいろもらったとのことですが、神官が疑問に思ったら、アリアス様が暴走したことにしておきますので問題ないです。そう言えば皆さん納得しますので」
と書かれていた。
「え？ いいんだ？ アリアス様、そんなに暴走してんの？」
最後に「土の神官が記念にみかんの木を植樹したいそうです。できたらその時間をください」と書かれていた。
「記念樹？ ステキー！ クーガ様に返信を書こう。あなたもクーガ様にお手紙書きなよ」
黒目のゆりはお祭りの詳細を手紙に書き、蛇目のゆりは、「お祭りで会えるのを楽しみにしてます」と書いて、手紙を猫のリュックに入れた。
「じゃあ猫ちゃんよろしくね。しかし、こんなすごい祭りになると思ってなかったんだけどなあ。二回目は開催されるのだろうか」
毎回神様から景品をもらうわけにはいかないので、次をどうするか悩む所である。
「まあ、とりあえずは初回を成功させなきゃね。記念樹を植える場所を考えてもらわなきゃ」
準備の日はあっという間に過ぎて、九の月最後の日、ロイが虎の国から帰ってきた。
「祭りだやっほーい！」
ロイの肌は茶色くなっている。
「ロイ焼けたねー」
「おかえりー」
「ただいまーおっクロス大きくなったんじゃない？」
ロイがゆりが抱っこしているクロスを見て言った。クロスはご機嫌で笑っている。
「結構重くなってきたわよ」
「どれどれ」
ロイがクロスを抱っこした。
「きゃはっ」
「たかいたかーい」
ロイは上にクロスをほおりなげていたのでゆりは驚いた。
「こらー」
「僕よくハザーク様にしてもらったよ？」
「え？ ほんと？」
ゆりはシスとラギを見た。
「確かしてもらってた」
とラギ。
「母様、僕のための祭りを考えてくれてありがとう。僕うれしくて虎ではしゃいじゃったよ」
ロイはうれしそうだ。
「別にロイのための祭りじゃないけどね」
「ドロンコ祭り、何をするの？」
ロイはシスとラギに聞いていた。
「旗取りレースとか宝探しだよ」
「ナナも粘土であそぶ？ わたしたち粘土遊びでるよ」
ミシェイラがナナミに言った。
「私は笛吹き係りよ。レースで始まりの笛を吹くの」
ナナミは胸を張っていた。
「えーかっこいいね！」
「かっこいいでしょ？」
「ってことは、クロス以外いくんだ？ みんなで祭りに行くなんて珍しいね」
ロイが言った。
「私も行くのよ。王様が許可してくれたの」
とゆり。
「えーさらに珍しいね。じゃあ厳戒態勢ってやつだね」
「もちろん。ロイも祭りではしゃぎすぎないように」
シスの言葉に「りょーかい」とロイは手を挙げていた。
現地では、街の人達が手伝ってくれて祭り用のテントが建てられたり、競技の場所のしきりを作ったりしていた。人が集まるので簡易トイレも必要である。
大量の水を入れた樽をいくつか用意したりもしていた。
「あのー戦士さん、質問があるんですが」
テント近くにいたミルキダスに一般の男性が声をかけた。
「なんですか？」
「明日の競技に並びたいんですけど、どこに並んだらいいですか？」
「え？ もう並ぶんですか？」
まだ昼過ぎである。
「はい」
「今晩はどうするんですか？」
「そこで寝ます」
「そうですか。じゃあ木の札を立てますね」
ミルキダスは宝探しと旗取りレース用の札を立てた。男は宝探しの所に並んでいた。夜になると、宝探しの所に人が並び始めた。
「宝探し」という言葉に皆ロマンを感じるらしい。
祭りにもう並んでいる人がいると聞いてゆりは驚いた。
「もう並んでるの？ すごいね。私も明日は早起きしなきゃ。でも興奮して眠れない！」
祭り会場は夜通し戦士達が巡回していた。祭りのために並んでいた者達は、持ち寄った酒や食べ物で宴会をしている。あちこちにたいまつがついていて月明かりもあったので、そんなに暗くはなかった。
「いいなー。俺も祭りに出たい」
「俺明日休みだもんね。ふっ」
「まじかよ。いいなー」
などと話していた戦士達は、近づいてくる馬車に気がついた。
「なんですか？」
戦士達が馬車に近づいて聞いた。
「夜中にすいませんねえ。明日、ここで祭りがありますよね？ サントス様に頼まれて差し入れをもってきました」
「サントス様？」
「聖地の農場で採れた野菜なんですよ。降ろすの手伝ってください」
「はい」
嘘だとも思えないので戦士達が手伝い、木箱を降ろした。
でかい木箱五個を降ろして男は、「明日が良い日になりますように」と言って去って行った。
木箱にはじゃがいも、さつまいも、かぼちゃ、たまねぎ、にんじんがそれぞれの箱に入っていた。
「あの馬車どうやってきたんだろう？」
「さあ、どうやって帰るんだろうな。フリット様に野菜をどうするか聞いてみよう……朝まで置いておいてくれとさ」
「そうか。このかぼちゃおいしそうだな」
祭り当日、ゆりも子供達も早く目が覚めていた。
「やった、晴れたー！」
ゆりは窓の外を見てうれしそうに叫んでいた。
「わん！」
ゆりにつられジロウもはしゃいでいる。
朝食をさっと食べてゆりは厨房に向かった。朝早くから、炊き出しの支度を厨房でする予定なのだ。厨房では、料理人達と、レシピを考えてくれた寮母さんも来てくれていた。
「おはようございます。今日はありがとうございます」
「おはようございます。お役に立てるなんてうれしいですよ」
寮母さんはうれしそうである。でかい寸胴鍋が３つ用意されていた。そして野菜も大量においてあった。
「あ、さつまいもがある」
ゆりは一番にサツマイモを手にとっていた。
「王妃、昨晩聖地から野菜が届いたんですよ」
フリットが厨房にやってきた。
「えーそうなの？ うれしい！ さつまいももスープにいれます？」
「入れましょう。想定よりも大勢あつまりそうなので、鍋三つ分作りましょう」
寮母さんは張り切った様子である。
「すごい。食器は足りるかな？」
「足りなかったら洗いながらやるしかないですね」
「私も皮むきでも」
「とんでもない。私達にまかせてください」
料理人があわてて言った。
「そうですよ。王妃、聖地の方がいついらっしゃるかわからないですから、準備をしておきましょう」
フリットが言った。
「そうね。じゃあお願いします」
「はい！」
ゆりはフリットに部屋に移動させてもらった。
「あの野菜はいつ来たの？」
「夜中に祭り会場に届いたんです」
「そうなんだ。今日はフリットもよろしくね」
「はい。それでは後で」
「うん」
フリットはその後ムサカに会いに行き、「王妃はすごくはしゃいでますので、よろしくお願いします」と頼んでいた。
ゆりの部屋に侍女達がやってきた。
「みんな今日はよろしくね」
「はい！」
今日は王とクロスの侍女以外の女性達は祭りの手伝いに行くことになっていた。ジュメやユリウス達も来てくれると言っていた。
「じゃあそろそろ変身しますか」
城の前に祭りに行く女性達や、占い屋のミケもやってきていた。ミラ達は「先日はありがとうございます」とミケにお礼を言っていた。
「いえいえ、とんでもないです」
「それでは移動しますよ」
ムサカが大勢を一気に移動させた。祭り会場には、すでに結構な人達が並んでいた。
「さっそく整理券を配りましょう」
「そうね」
「私達はあれの準備」
侍女達はわらわらと別れて散った。
「俺は祭りまで何をしよう。まだ二時間もあるよな」
ミケは泥畑の近くにミカエルを発見して近づいて行った。
「ミカエル様、俺どうしたらいいんですか？」
「おお、おはよう。占い屋は、占い屋の視点で警護に加わってくれ。なんなら競技に参加してもいいし」
「いやですよ。服を新調したばかりなんですからね」
ミケは新品の茶色いローブを着ていた。
「景品は豪華だぞ」
「あの中に入るのはちょっと……」
泥畑を見てミケはしぶっていた。
「今日、本当に王妃様はいらっしゃいます？」
ミケは小声で聞いた。
「ああ、すごく楽しみにしてたからな」
「そうですか」
侍女達は人気がある競技の整理券を配っていたのだが、宝探しの列にヴィクターを見つけて驚いていた。
「よかった。間に合った。昨晩から並んでるって聞いて、朝早く来たんだ」
整理券をもらったヴィクターはうれしそうである。様子を見に来たロナウド将軍は、普段着姿のヴィクターを見て、「本当に大人げないな」とあきれていた。
「うるさい。心はいつまでも若いのだ」
今日は東の砦担当のロナウドが祭りの警備責任者になっている。ロナウドもムサカが来てくれるので安心していた。酒祭りのように街の中ではないので、見晴らしがよく、警備はしやすい。だが、いつ何があるかわからないので、祭りが終わってゆり達が城に戻るまでは、緊張の糸を切るわけにはいかなかった。ちなみに北の砦は午前はジュノー、午後はヴィラがいることになった。全員祭りに集合するわけにもいかないのである。
ゆりの部屋では、「アシュラン様、さようなら」とラギがアシュランの木像と最後の別れをしていた。木像は時々動くらしいが、ここに来てから動かなかった。ラギはどうしても動いたところがみたかったのだが。
「お母さん、アシュラン様だけでも置いておかない？」
「だめだったら」
「アシュラン様、お願い、ちょっとでいいから動いてください。お願いします！」
「動くっていってもそんなに動かないんじゃない？ 突然座ったらそりゃびっくりだけど」
「手が上がったり首が回ったりするんじゃない？」
「首が回ったら怖いわ。ホラーだわ」
二人がやいの言っていると、木像の片目が閉じて、二人はぎょぎょっと木像を見た。
「え？ ウインクした？」
「やっぱりされたよね。やった！ ありがとうございます」
ラギは喜んでいたが、ゆりは（絶対部屋に置いておきたくないわ）と思っていた。
（アシュラン様に監視されるみたいでやだわー）
ノックと共にムサカがやってきた。
「おはようございます。王妃様……え？」
ムサカはゆりを見て驚いている。
「えへ。かわいいですか？」
ゆりの耳は大きくなっていた。ロイは虎から帰って来るとき、変身できる紫の実を持って帰っていたのである。
「えー？ どうやったんですか？」
「魔法です」
「魔法？」
ムサカが驚きまくっていたので、ラギは笑っていた。
ムサカは不思議そうにゆりを眺めている。今のゆりは、どこから見ても一族の女性に見えるのだ。
「虎の国には変身できる不思議な実があるんですよ」
「そうなんですか」
「お祭りの一時間前に移動をお願いします」
「わかりました」
「こきつかっちゃってすいません」
ゆりは申し訳なさそうに言った。
「私も今日のお祭りが楽しみなんですよ」
ムサカはそう言ってくれた。その後カールがゆりの部屋に来て、「王妃様、かわいい！」と喜んでいた。
「かわいいでしょ？」
蛇の目のゆりが出て来てカールにひっついた。
「かわいいですーーーどうやって変身したんですか？」
「変身できる実を食べたのよ」
「なんだか感動です！」
カールには厨房で煮込んだ鍋を会場に移動させてもらうつもりである。
「お母さん、本当にアシュラン様を誰かにあげちゃうの？」
ラギは蛇の目のゆりにも聞いた。
「そうよ。いらないわよ。そ……いや、他の人達の信仰のためにも、あげましょ。私達はもう信仰しまくってるから」
蛇の目のゆりは、だれに聞かれているかわからないので言い直した。
「うう。わかったよ。いい人にあたるといいな」
ラギは名残惜しそうに木像を見ていたが、あきらめたのだった。
神の国では、サントスが早起きしてウキウキ顔である。昨晩からガーベラが泊まりにきている。神の国と人間界では時間のずれがあるので、サントスはガーベラが持っている魔法の鏡で人間界の様子を見ていた。
「人がいっぱい集まってきたけど、まだみたい。サントス、心配しなくても祭りはすぐ終わらないから」
「わかってるけど、気が急いちゃって。落ち着かないんだ」
「かわいいんだから。でも土の祭りってありそうでなかったのね。知らなかった。ガーベラの祭りなんてのもないし、アシュランの祭りもないわよね。聖地ではどの神殿でも年に一回はお祭りをするけどね」
「人間達が教会に行ってお祈りするのが、アシュランの祭りみたいなものなんですよ。アシュランを讃えるのは普通のことなので、祭りは他の神をまつりたいって感じみたいです」
「そうなんだ。ダーナの祭りも聞いたことないし、お祭りって自然に関係したのが多いわね」
「そうですね。カサンドラは起きたかな？」
サントスが落ち着きなくうろうろしだした。カサンドラは人間界ならば好きな場所に移動ができる神器を持っているので、それで祭りの場所まで移動するのである。この神器、なぜか神の国間は移動できない。
「人間に化けても神器が使えるなんていいわね」
「カサンドラはしょっちゅう人間にばけてますので、神器を使うのに慣れてるから人間のままいられるみたいですよ」
「入るよ」
部屋にカサンドラがやってきたのだが、すでに人間になっていた。
「わー……若くない？」
茶色い髪を後ろで結い上げた背が高いちょっと綺麗なお姉さんといった感じである。
「ははは。ほら、サントスも」
カサンドラがサントスを変身させた。カサンドラにはそういう能力もある。サントスの肌が茶色くなくなった。髪もストレートになっている。
「これだけでも印象が変わるだろう？」
「うん。いい。今度その姿でしましょ」
ガーベラは笑顔で言い、サントスは恥ずかしげに頬を真っ赤にしていた。
「ネルと見てるから、楽しんできてね」
「うん。もう行ってもいいかな」
「祭りは、まだみたいだけど、もうすぐ始まるかも」
「えーと、場所は……」
「ここよ」
ガーベラが鏡を見せた。カサンドラは鏡の映像を引き、場所を確認した。
「よしわかった。行こう」
「行ってらっしゃい」
二人は移動した。
城にいるゆりと子供達もムサカに移動させてもらった。
「無事お祭りが終わりますように」
全員が祈るようにそう思いながら、ゆりも祭り会場に入ったのだった。
つづく
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