第11話
女の子の宝探しの方は、シャナーンの妹ミーシャと、イシュタールとジュメの子供メリッサも出ていた。ジュメはこのときはメリッサの応援に畑の周りにいた。
女の子の石は全員分あったのだが、最後の子の石がなかなか見つからず、他の子も手伝ってようやく見つかり、女の子のゲームは終了した。
「これにて女の子は終了します。男の子のための準備をします。男の子達は、全員目隠しをしてもらいます。なお、30歳以上の子については、ハンデとして、こちらの土を背負っていただきます」
戦士達が土が入った袋を持ってきた。
「え？ そうなの？」
「聞いてないよ」
30歳以上の子達はブーブー言っていたが、小さい子達はほっとしていた。
「準備の間、女の子達に景品を渡します。集まってください。一番から十番まで番号順に並んでください」
女の子達が並んだ。「1」の数字を取った女の子は二十歳くらいの子だった。とってもうれしそうに飛び跳ねている。
長い机が運ばれて、そこに景品が並べられた。周りの者達はざわついている。大人達もこちらに注目していた。
「では、一番尊い景品を発表します。こちら、なんと、カサンドラ様お手製のタペストリーです！」
戦士の一人がタペストリーを開いて皆に見せた。タペストリーには真っ白なユニコーンがいる。
「え？」
「ええ！？」
「おおー！？」
ざわめきが起こった。女の子達はぽかんとした様子である。
「冗談ですよね？」
と誰かが言った。
「冗談ではありません。なんなら神官様に見ていただきましょうか？」
皆が神官に注目していたので、太陽の神官が側によってタペストリーを眺めた。
「本物です。私が保証します」
「おおおー！」
どよめきが起こった。
「どうやっていただいたんですか？」
人々は当然疑問に思っていた。
「土の祭りが開催されることをたまたま知ったサントス様が、カサンドラ様からいただいてくださったんですよ。そして次の景品、太陽の石、こちらもアリアス様からサントス様がいただいてくださったのです。ありがたいですね。そして王妃様からの景品として、北の街への旅行券こちらは博物館の優待券がセットになっております。家族で旅行できます。こちらの券が三つ、南の街の教会見学券、こちらは希望日に戦士の方が瞬間移動で連れて行ってくださいます。こちらの券が二つ、残りの三つは、女の子が喜ぶネックレスです。一番から選んでください」
「えーどうしよう。お母さんどうしよう！」
一番の女の子はかなり悩んでいた。二番目以降の子供達も悩み顔である。
「なんか景品すごくないか？」
「大人用はどんな景品があるんだろう？」
大人達はひそひそ話し、目隠しに頭巾をかぶった男の子達は、「景品すごい」「絶対良い番号を取る！」とどきどきわくわくだった。
「タペストリーが欲しいです！」
母親は「好きに選んでいいよ」と言ったので、一番の女の子はタペストリーを選んだ。
「では女の子のお母さんが代わりに受け取ってください」
女の子達は手がキレイとは言えなかったので、景品は母親に渡された。
「すごくキレイだね」
「毎日カサンドラ様にお祈りする！」
女の子はうれしそうにユニコーンを見ていた。それを遠くから眺めていたカサンドラも、うれしそうである。
二番の子は太陽の石を選んだ。そして次の子達は北の街旅行券を選んで行った。番号がない子供達は文具セットをもらった。
メリッサもミーシャも文具セットだった。
「残念だけど、楽しかったな。お父さんがいいの取れるといいな」
ミーシャは父親であるヴィクターの応援に行った。
「準備が終わりました。男の子達の宝探しを始めます！」
「うおおお！」
大人の方の二回目も始まった。女の子の景品がかなりよかったので、宝探しもさらに熱を帯びていた。
大人も子供も泥だらけになって石を探している。
それを眺めていたサントスは、（ガーベラとまた遊びたいな）などと思っていた。
「あのー神官様、祭りでこのように神様の物が提供されることってあるんですか？」
牧師が土の神官に聞いていた。
「たまにありますよ。千回目の祭りとか、実は土の祭りってあまり他の国でもなくて、話を聞いたアリアス様がすごく喜ばれたようなんですよ」
「そうなんですか。アリアス様が」
「サントス様の祭りを盛り上げたいと思われたようですよ」
人々の歓声がすごく大きいので、隣にいても声が聞こえづらいほどだった。
石を見つけた人々が畑から出て来た。男の子の出場者は七十人、その中の五十人しか石を見つけることはできない。ラリーやクリス、ヴィンセント達は、砂を背負いながらも石を発見していた。ゼッドとフランツも発見できていた。ユリウスとジェナサイトは畑の周りでフランツを応援していた。ゆりも子供達を応援している。どうやら知っている子供達は全員石を拾えたようだ。
最後の石が拾われて、ゲームは終了となった。
「うわーーーん」
石を拾えなかった十歳くらいの男の子が泣いていた。
「ぐすんぐすん……」
泣きながら男の子が畑から出て来た。
「……ほれ」
ゼッドが泥まみれの石を男の子にあげていた。
「え？」
「やるよ。どうせ外れだろうけど」
「いいの？ ありがとう！」
男の子はとたんに笑顔になっていた。
「皆さん袋から石を取り出してください！」
男の子達が石を布から出した。
「八番だ！」
なんとゼッドの石は八番だったようだ。
「え？ 嘘！」
石をあげたゼッドはショックを受けていた。
「あのゼッドが……」
ゼッドの家族は皆ゼッドの行いに感動していた。そのゼッドは石を返してもらおうか悩んでいたが、男の子が喜びまくっていたのでもうあきらめた。
大人達の方も終わった。ヴィクターは石を拾えたようである。
「やった三だ！」
ヴィクターは三の石を取ったようだ。喜びまくっている。少し離れた所ではシャナーンが恥ずかしく思っていた。
「まずは男の子の景品を発表します。尊い景品として、太陽の石があります。そしてこちらの立派な剣が二つ、こちらの短剣が二つ、博物館優待券付き北の街旅行券が三つ、南の町の教会見学券が二つ、十番までは以上です。そのほかの石を取った男の子には文具セットが贈られます。石を取れなかった子にはお菓子を渡します。取りに来てください」
ゆりが知っている子供達の中では、唯一フランツだけが番号付きだった。五番である。そのほかのみんなは番号がなかった。ゼッドが石をあげた子は、南の町の教会見学券をもらって喜んでいた。フランツは短剣をもらっていた。
（まあいいか。南の町の教会なら、誰かに頼んで連れて行ってもらえるし）
一族以外の子が他の街に移動するのも馬車を使わねばならないので、ゼッドは石をあげてよかったかなと思っていた。一番の太陽の石は四十歳くらいの男の子がもらっていた。
「やけどをしないように気をつけてくださいね」
太陽の石は太陽の神官が渡していた。
「はい！」
拍手が起こった。
「あーあ、残念だな。旗取りレースに参加した方がよかったかも」
とラリー。
「まあな。でも、僕は楽しかった。準備とか手伝えて」
ヴィンセントが言った。
「うん。そうだね。みんなで準備したの、楽しかったな」
とクリス。
「それではお待ちかね、大人用宝探しの景品を発表します！」
「あ、行こう！」
「行こう行こう！」
子供達も大人の方に移動した。
大人の方はすごい人だかりができていたので、ゆりは少し離れた所にいた。
「あ、そうだ。ミカエルはどうしたかな」
「ミカエル殿、呼んでみましょうか？」
とムサカ。
「お願いします」
「……疲れて休んでるみたいですよ」
「え？ そうなんですか？」
「美容テントの中にいるみたいです」
「ちょっと行ってみましょう」
ムサカに移動させてもらって行くと、ミカエルはぐったりして座っていた。
「ミカエル、大丈夫？」
ゆりが心配して聞いた。
「王妃、なんかすごく疲れちゃって、どうしたんでしょう」
「実はさっき、ミカエルにちょっとした御方が乗りうつってたの。そのせいかな？」
「え？」
「実は神様が」
ゆりがこっそり言うと、ミカエルは「え？」と目を見開いていた。
「神様が私に来たって言うんですか？ それで記憶がちょっとないんですか？」
「うん。そう」
「なんだ。そういうことだったのか」
ミカエルはうれしそうだった。
「病気かと思って心配したじゃないですか」
「言うのが遅くなってごめんね」
「神様ってだれなんですか？」
「えーと、男のガーベラ様」
「なんかすごくハンサムだという？」
「そう。ミカエルがハンサムだから、きっと選ばれたんだと思う」
ミカエルはすっかり元気になって、ゆりと一緒にテントから出て来た。
宝探しの景品が発表され、人々はどよめくどころではなかった。
「尊い景品として、アリアス様の石像をいただいております。皆さんご覧ください。アリアス様の美しい姿を！」
「おおおおー」
「おーすごい！」
「そして、なんと、ジンラ様のお酒もいただいております」
「ぎゃー！！！！」
人々の間から悲鳴にも似た絶叫があがった。
「すげえ。飲んでみたい！」
「すごい！」
「さらにジェラルド様が作られたガラスペン、こちらは書き味抜群です。さらにさらに、ダーナ様の笛、ダーナ様、ダーナ様の笛です！ もちろん、ダーナ様が演奏されたものです」
「まじかーーーーーー！！！！」
司会がダーナを連発したので、男達から絶叫があがっていた。
「アリアス様からさらに太陽の石が二つ、博物館優待券付き北の街旅行券が4つ、宝探しの品は以上の十個になります！ さあ、一番の方から選んでください！」
「すげえ」
「ダーナ様の笛が欲しい！」
「俺はジンラ様の酒が飲みたい」
「ジェラルド様のガラスペンって……」
人々はどよめきまくっている。これらのすごい景品を見て、クーガ達神官は苦笑するしかなかった。
（アリアス様が集めたのだろう）
と皆思っている。
一番の石を取ったのは中年の男だった。東の街の役場で勤務しているらしい。
「どうしよう。どれを選んだらいいかわからない！」
男は悩みまくっていた。
「ジンラ様のお酒も飲んでみたいが、飲んだらなくなってしまうものだし、ガラスペンも使ってみたい。アリアス様の石像にも惹かれる……」
「せがれ！ アリアス様の石像をもらっておくれよ！」
男の父親らしき男が言っていた。
「わしは毎朝アリアス様を拝みたいんじゃよ！」
「アリアス様をいただきます」
父親の声で、男はアリアスの石像を選んだ。
「次に二番の方、どうぞ」
「ジンラ様のお酒をいただきます！」
二番の若い男はジンラの酒を選んだ。そしてヴィクターは、「ダーナ様の笛をいただきます！」とうれしそうにダーナの笛をもらっていた。
「お父さんおめでとー！」
「将軍よかったねー」
「将軍おめでとうございます！」
あちこちから「おめでとー」と声が飛んでいた。
「ヴィクター将軍はダーナ様の笛をもらったみたいですよ」
離れた所にいたミカエルがゆりに言った。
「そうなんだ。将軍よかったね」
ゆりも喜んでいた。
さて、その頃神の国では、アリアスは飽きずにずっと祭りの様子を眺めていたが、アシュランは途中でいなくなっている。盛り上がっている人々を見て、アリアスもちょっとうずうずしていた。そこにハロルドがやってきた。
「ん？ アシュランはいないのか？」
「ああ、今はいない」
「何を見ているんだ？」
ハロルドが床の映像に気がついて近づいてきた。人々が集まって騒いでいる。
「事件か何かか？」
「……そうだ。ハロルド、ちょっと付き合ってくれ」
「どこに？」
「ここだ」
アリアスが床の映像を指した。
「ここ？」
アリアスがハロルドに触れた。
「あ、おい！」
祭り会場では十番までの景品が渡り、そのほかの人々は参加賞のお酒をもらっている。
まさにその時、光が満ちた。
人々はまぶしさのあまり目を細めた。
太陽の神官は（やはりいらした！）と人々の前に出た。
「平伏してください。尊い御方がいらっしゃいました。太陽の神アリアス様、そして戦いの神ハロルド様です」
ハロルドも一緒だったので、太陽の神官はさらに驚きつつ人々に告げていた。
「え？」
「ええー！」
「ああああ？」
人々は驚きつつも次々に平伏していた。
離れた所ではサントスが顔に手を当てている。
「ハロルドまで」
「人は生涯に一度神に会えれば幸運だと言われているが、一度に二人とはな。ははは」
カサンドラは笑っていたので、「笑い事じゃないですよ」とサントスが言っていた。
そして離れた所にいたゆりは、光の柱を見てぽかーんとしていた。
「王妃、アリアス様とハロルド様ですよ。アリアス様は初だ！ 近くで見てきます！」
ミカエルはいなくなった。
「あ、えーと、ムサカさんも、近くに行きたかったらどうぞ」
ゆりはぎこちなく言っていた。
「ここからでも見えますよ。アリアス様、美しい方ですね」
神に近い者達は皆地面にひざをついていた。
「なんと、ありがたやーありがたやー」
老人連中は泣きながら手を合わせている。
アリアスはにこやかにしていたが、ハロルドはここがどこかもわからず、キョロキョロしていた。そして見知った子供を見つけ、（ここは蛇か？）と気がついた。ハロルドは少し離れた所にゆりらしき女を見つけ、ゆりはその視線に気がついたのかムサカの後ろに隠れていた。
「祭りが楽しそうだったのでつい来てしまった。私の石像をもらったのは、おお、お前か、朝に晩に、祈るように」
アリアスが優しく言った。
「ははー！」
石像をもらった男は石像を抱きしめつつ頭を下げていた。
「太陽の石をもらった者達も、朝に晩に祈っておくれ。お前達の信心が、我々を支えてくれるのだ。そのことを忘れないように」
「ははー！」
「ははー！」
皆泣いていた。子供達も、大人達も。神に慣れているシスとラギもつられて泣いていた。アリアスの存在感は、やはりすごいものがあるようだ。
畑から離れたところにいた者達も、光の柱に近づいて行った。粘土の作品作りをしていた子供達も、ミシェイラとレーヌ以外いなくなった。
「神様がやってきたようだぞ。アリアス様とハロルド様のようだ」
ハザークが言った。
「ハロ様がきたんだ」
ミシェイラが言ったが、作品作りに没頭していたので動く気はなさそうだった。
「まさか神様をこの目で見ることができるなんて、こんなにうれしいことはないよ。あなたたちもぼさっと突っ立ってないでひざをつかなきゃだめだよ」
女性が横にいたサントスとカサンドラに言っていた。
「あ、その二人はいいんです」
比較的近くにいた月の神官が言っていた。
ハロルドはカサンドラとサントスに気がついた。
「二人、なにやってんだ？」
「ハロルド様、どうかお願いします。うちの子をだっこしてください」
女性が赤ちゃんをハロルドに見せていた。
ハロルドは赤ちゃんを抱っこし、他の女性達も「うちもお願いします！」と子供を抱っこしてもらっていた。
アリアスは優しい微笑みを浮かべて、老人達には「元気で長生きするのだぞ」などと言っていた。老人達は感激しまくっている。
「お会いしとうございました」
「そうだろう。そうだろう。私も、お前達に会いたくてつい来てしまったぞ」
「ああああ」
「なんと！」
人々はアリアスの言葉に感激し、さらに泣いていた。
辺りは気温があがったかのように暖かくなっていた。
ハロルドが子供を抱っこしまくった後、「お願いします。握手してください！」と今度はハロルドの前に子供達が列を作っていた。
ハロルドの後ろにはジロウがやってきて体をすりすりよせていた。
「春みたいに暖かくなってきましたね。アリアス様、やはりすごい」
ゆりもアリアスのすごさを感じていた。存在感でいったら、ハロルドの上を行くかもしれない。
「こんなに神様に会えるなんて、本当に夢みたいです」
ムサカが言った。
「本当ですよね。ふふふ」
「ではそろそろ行かなければ。皆引き続き楽しんでくれ。ハロルド行くぞ」
子供達はあわててハロルドに触りまくり、アリアスとハロルドは消えた。
「皆さん、よかったですね。これも皆さんの信心の賜です。今後も神々を敬って行きましょうね」
太陽の神官は、最後にキレイに締めていた。
牧師も泣きまくっていた。
「うれしいです。牧師になって八十年、こんなにうれしいことがあるなんて……」
「わしも生きててよかったよ。牧師さん」
「私もうれしいよ」
神々が消えた後も、人々は泣いていた。
アリアスとハロルドは雲の上の神殿、アシュランの間に戻っていた。
「さっきのはなんだったんだ？ なぜ人々が集まっていたんだ？ サントスとカサンドラもいたじゃないか」
「土の祭りをしていたんだ」
「土の祭り？」
「サントスがすごくうれしそうに私に話してくれた。私もいろいろ協力したんだ」
「ガーベラに頼まれたんじゃないのか？」
とハロルド。
「ガーベラは関係ない。祭りが盛り上がって私はうれしい」
「土の祭りにアリアスが行く意味がわからないが」
「お前にはほんと兄弟愛ってものがないな。今回のことを知らなかったということは、サントスはお前より私の方を頼りにしているんだな」
アリアスはうれしそうだ。そこにアシュランが戻ってきた。
アシュランは床を見て、「祭りは終わったか？」と聞いた。
「ああ、終わった終わった」
アリアスは床の映像を消した。
「ん？ ハロルドはどうしたんだ？」
アシュランが聞いた。
「いや、休憩に、ちょっと酒でも一緒に飲もうときただけだ」
「そうか」
「では私は行く」
アリアスは去って行った。
「土の祭りなのになぜアリアスがあんなに張り切っているんだ？」
ハロルドはまだ不思議そうだ。
「さあな、あ、ところで、王妃の耳が大きかったぞ。お前なぜか知ってるか？」
アシュランが小声で聞いた。
「え？ 耳？ いや知らない。やっぱりさっきのは王妃だったのか？」
「耳が大きくて、こっちの人間ぽくなってた」
「もう一度映像を見せろ」
「いや、もういい」
「見せろよ」
「見せない」
「そこまで言っておいて」
ハロルドはその後ガーベラの神殿に行ったが、ガーベラはいなかった。
カサンドラの神殿で魔法の鏡を見ていたガーベラとネルは、アリアスとハロルド登場で口をぽかんと開けていた。
「お父さんも驚いてるね」
「そうね。ぷっ」
ガーベラはつい笑っている。
「人間達泣きまくってる」
とネル。
「でもみんなうれしそう。サントスの祭りなのに、アリアスの信仰度が上がっちゃいそう」
「ほんとね」
ネルも笑っていた。
祭り会場では野菜たっぷりのスープが配られていた。皆おいしいおいしいと喜んでいる。皆の話題は七割がアリアスのことだった。
「土の祭りだけど、アリアス様の信仰度が上がりそうね」
ゆりもガーベラと同じ事を言っていた。
「お母さんそりゃもう、仕方ないよ。アリアス様、すごすぎるよ。僕たちも泣いちゃったもん」
とラギ。
「うん。私もアリアス様には感動しちゃった」
ナナミが言った。
「僕たちに会いたかったって言ってくださったんだもの。感動しちゃうよね」
とシス。
「さすがだわ。アシュラン様を抜かして、好感度一位の人気者なだけあるわ」
ゆりも納得していた。信者に「会いたかった」なんてセリフ、ハロルドは絶対言いそうにない。
ゆりと子供達はテントの中でスープとパンを食べていたが、ミシェイラとレーヌはいなかった。
「二人はまだ作ってるのかしら」
「もう少しで終わるってさ」
とロイ。
ミシェイラは超大作を仕上げていた。お城である。
「すごいぞ。ミシェイラ」
ハザークは手をたたいて喜んでいた。そしてレーヌはとぐろを巻いた蛇を作っていた。鱗の筋も細かくいれていたので、ハザークが「すごい」と言っていた。
カサンドラとサントスは、粘土の作品作りの所を眺めていた。カサンドラはレーヌを見て、（もしや？）と気がついた。
ハザークに、「あの子の名前はなんですか？」と聞いている。
「あの子はレーヌという」
「レーヌ、やはり！」
「？」
「いえ、かわいい子ですね。そちらの子もかわいいですが」
（私の名付け子だ！ 大きくなったなあ）
カサンドラはレーヌに会って喜んでいた。
「そうだ。このお兄さんは、粘土作りがすごくうまいんだぞ。何か作ってもらったらどうだ？」
カサンドラが言った。
「えー？ ほんと？ つくって、つくって！」
ミシェイラが喜んでいる。
「いきなりだなあ。何を作ってほしいのかな？」
「ジロウ君」
「ジロウ？」
「ワン！」
ジロウが側にやってきて、またカサンドラにすりよっていた。
「この犬がジロウ君よ」
「ジロウ君か」
サントスは粘土の塊を持って来て、こねて形を作り出した。粘土は瞬く間にジロウの姿に変わったので、ミシェイラとレーヌは感動して手をたたいていた。
「お兄ちゃんすごい！」
「すごい！」
「いいな。僕にも作って作って！」
他の子も寄ってきた。
「いいよ。何が好きかな？」
「馬！」
サントスはジロウの粘土をミシェイラに渡して、新しい粘土をこねた。
ミシェイラとレーヌは粘土をゆりに見せに来た。
「マーみて、みて！ すごいでしょ！」
「わーすごい。だれが作ったの？ ジロウ君じゃないの！」
それは一目でジロウと分かる粘土だった。
「お兄ちゃんが作ってくれたの」
「お兄ちゃん？ ところでハザーク様は？」
「粘土のところで待ってる。これを見せに来ただけだから」
「これを作ってくれた人に会いたいな。私も行く」
ゆりは二人と一緒に粘土作りの所に行った。ハザークは飴を持ったまま、サントスが作る粘土を見ていた。
「はい、馬」
躍動的な馬だった。
「やった！ ありがとう！」
子供は喜んでいる。
「うまいもんだな」
ハザークも感心していた。
「このお兄ちゃんが作ってくれたんだよ」
ミシェイラがゆりに言った。ゆりはサントスを見て、（あれ？）と気がついた。
（髪がストレート、肌の色は違うけど、でも……）
サントスの方はゆりを見て、少し首をかしげている。
「どうもありがとうございます。すごく上手ですね」
「どうも」
（やっぱりサントス様だ。横のお姉さんはだれだろう。カサンドラ様かな？）
ガーベラではないので、ゆりはカサンドラかと思った。
「お兄さん、僕にも馬を作って！」
「いいよ」
他の子にせがまれて、サントスはまた粘土をこねていた。
「マー見て、ミーの作品！ お城よ」
ミシェイラは自分の粘土をゆりに見せた。
「すごいね。よくできたわね。レーヌの蛇もすごくいいね。動いちゃいそう」
「えへへ」
「王妃、我はそろそろ戻る」
ハザークがゆりに言った。
「そうですか。今日はありがとうございます」
「パパ、ありがとう」
「ありがとう」
「じゃあ無事帰ってくるんだぞ」
ハザークはゆりに飴を渡して消えた。
サントスの二頭目の馬もできた。こちらも躍動感にあふれている。
「すごい！」
ゆりも子供達も手をたたいていた。
スープの寸胴の二つは瞬く間に空になった。こちらを配るのは一族の女性達が手伝いに来てくれた。フリットの母ロアンナや、ジュノーとヴィラの母親も配膳の手伝いをしている。食器を回収したり洗ったりしている女性もいる。
「私達パックしてもらったの。どう？ 若返ってない？」
うれしそうな母親達に、フリットは「はいはい」と適当に答えていた。
「ムサカ様って本当にいい男よね」
「私達があと四十歳ほど若ければ！」
手を動かしながらも、母達はこんな話に花を咲かせていた。あちこちにゴザが敷かれて、人々はそこに座って休憩したり食べたりしていた。
占い屋のミケもスープをもらって食べていた。そこにいつもの青い髪の侍女がやってきた。
「ミケさんも神様見ました？ すごくステキでしたね」
「見ましたよ。びっくりしましたよ。いやー神様に会えるなんてねえ」
ミケも驚いた様子である。
「子供のようにはしゃいじゃいましたよ」
「うふふ、私もですよ」
「ん？ なんか良い匂いがしますね」
薔薇のような花の匂いがした。
「これの匂いでしょう」
侍女は小さいポシェットを開けて見せた。その中には青い花が入っていた。
「とっても良い匂いなんです」
「良い匂いですね」
侍女はポシェットを閉めた。
「みんな楽しそう。こういうのっていいですよね」
侍女が周りを見ながら言った。
「そうですね。いいですね」
なんだか良い気分になりながら、ミケもうなずいたのだった。
つづく
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