第19話
神の国では、ルチアが虎の国から連れて帰った虎がラーズの神殿にやってきていた。
「わーい、でかいね」
サーラは喜んでいたが、ラーズは困っている。
「ルチア、虎の国に返してあげなさい。虎も仲間がいないとかわいそうだろう？」
ラーズがやんわりとルチアに言った。ルチアはぷっと頬を膨らませている。
「それに虎は肉を食うんだぞ。そこらにいるうさぎとか鳥とか食べられちゃうんだよ」
ラーズの神殿には色とりどりの鳥が遊びに来たりするのだが、虎を見ると鳥達は皆逃げて行った。
「でもヒョウはいるよ？」
サーラが言った。確かに豹がガーベラの神殿をうろついている。
「あれは神獣のくくりだからね。虎にとっては迷惑だろう。外れに連れて行くならいいけど」
ルチアは悩んだような顔付きだったが、やがてぽんと手をたたいて、何か閃いたような表情をした。そしてラーズに待ってて、とジェスチャーして神殿を出て行った。
一時間ほどでルチアは戻ってきた。ルチアの手には神器の杖、そしてソルも一緒である。
ルチアは寝そべってる虎に神器の杖をかざしていた。
「？？」
ソルとラーズ、サーラはルチアが何をするのか見守っている。ルチアの神器の杖は金色の輪が先端に二重についていて、中には黒い大きな石が入っていた。真っ黒ではなく、ルチアの瞳のように角度により色が変わる石である。
虎はその黒い石に吸い込まれてしまった。
「おおっ！」
ラーズが思わず声をあげた。ルチアは満足げな顔で杖を振った。すると黒い石からすとんと虎が出て来た。虎の姿に変化はない。虎はびっくりしたような顔付きできょろきょろ周りを見ている。虎を見つめていたルチアだったが、ルチアはソルにジェスチャーしていた。
「虎は人間界に返すそうですよ」
ソルが通訳した。ラーズの肩が下がった。
「結局返すのかよ。この一連の動作はなんだったんだ？」
ラーズはそう突っ込んでいた。
「ルーちゃん……ソルと仲良しさんになったんだね。ルーちゃんの言うことが全部わかるなんて、ソルすごい！」
サーラはそこに驚いていたのだった。
人間界では、蛇の目のゆりがムサカと仲良くなったわけだが、まだ男達はざわついてなかった。
「ハインリヒ、まだミカエル達に言ってないの？」
ゆりはハインリヒを呼んで聞いている。
「言ってないです。王には言ったんでしょう？ 王は大丈夫でした？」
ハインリヒも、ラクシュミに感想を聞く勇気はないようだ。
「王様は大丈夫だよ。今は。逆に相手をしてもらえてよかったな、みたいな」
「王らしい」
ハインリヒは頭に手を当てていた。
「それで、一番気になる所なんですが、ムサカ様と最後までしたんですか？」
「多分。したのはあっちの私なんで、私はさっぱり記憶がなくて」
「ムサカ様は長い間不能だったのに、それすら治してしまうとは……」
「え？ 不能だったの？」
「だからおじいちゃんになっていたんですよ」
「そうなんだ。じゃあ治ったのかな」
その時、ゆりの肌に金色の鱗がじょじょに浮かんできた。
「？ 王妃？」
「何？」
今、ゆりは元の姿に戻っている。ゆりの気の様子からして発情したから、ではないようだ。
「肌に鱗が現われたり消えたりしてますよ」
「え？」
ゆりは自分の手を見た。手にもうっすらと金色の鱗が現われていた。
「ほんとだ。どうしたんだろう？」
ゆりがハインリヒの手をがしっと握った。
「？」
突然ゆりの様子が変わったようだった。
「大量の気がいる。失敗したら、子供は消える」
「え、王妃」
ゆりはそれきり意識を失った。
ゆりが再び目覚めた時には、ゆりのベッドの周りには男達と子供達が取り囲んでいた。男達はゆりを見てほっとしている。そしてみんな疲れた顔付きである。説明するのが面倒だったゆりは、また目を閉じた。
「王妃、死にそうになったのがついこの間なのに、もう妊娠しちゃうなんて。王も間を空けると言っていたのに」
ぼやいていたのはミカエルである。
ゆりは再び目を開けた。そしてハインリヒと目が合った。ハインリヒは軽く首を横に振っている。
（もしかして、王様の子供ってことになってる？）
「でも、こんなに気が欲しいってことは、子供に魔力があるってこと？」
ナナミが聞いた。
「きっとそうだよ。赤ちゃん、よかったね」
とラギ。
「赤い月と魔力の関係も謎ですね」
ジュノーが言った。赤い月以外でできた子供は必ず魔力がない、というわけではないようだ。二人目のレーヌにも魔力があった。
「統計を取るにも、取れないからな」
とフリット。一族の間で魔力がある女性が、三人も赤い月以外でできた子供を産んだ記録がないのである。一族の女性は妊娠確率が低い上に妊娠回数も少ないため、絶対に赤い月に子供を妊娠したいと思っている。
「おめでとうございます。王妃」
「おめでとうございます」
男達は次々とゆりにお祝いの言葉を述べた。
「ありがとう」
「赤ちゃんたのしみね」
ミシェイラが言い、レーヌが「うん」とうなずいた。
「シス、みんなに話があるから子供達を連れて外に出てくれる？」
ゆりはシスに頼み、子供達は寝室から出て行った。ゆりは体を起こした。なんとなく体が重いが寝込むほどではなかった。
「王妃、大丈夫ですか？」
ミルキダスがゆりの体を支えた。
「私は、みんなに嘘はつきたくない。実はこの子供はムサカさんの子供なの」
ハインリヒ以外の男達は、皆目を見開いた。
「王妃、本当なんですか？」
フリットが聞いた。
「でも仲良くなったのは二日前よ。あっちの私が仲良くなって、私はまだなの。王様はムサカさんのためを思って黙ってる気だったんだろうけど、みんなに嘘はつきたくないから」
「ムサカ様の子供？」
ミカエルが言いながらハインリヒを見た。ハインリヒはうなずいている。
「王の子供よりもすごいことになりますが……」
とジュノー。
「そうだな。魔力がありそうだし、どんな子供が産まれるのか想像ができないな」
とフリット。
「ムサカ様と王妃がくっついたところも、まだ想像できないんだが」
とミカエル。
「でも王妃、王が外に出た日、王と仲良くしたんでしょう？ その時の子供って可能性はないんですか？」
ヴィラが聞いた。
「え？ あ、そういえばあの時王様と仲良くしたけど、王様は気をつけてたみたいだけど……」
確かに五日の夜はラクシュミと仲良くしたとゆりは思い出していた。
「じゃあもしかしたら、ムサカ様の子供かもしれないってことですかね？」
ジュノーが言った。
「まあ、そうね」
「今日の所は、王妃も安静にしたほうがいいですから、我々は行きましょう」
大勢で囲んでいるのもよくないので、ミルキダスが提案した。
「では、私が残ります」
ヴィラがすぐに言ったので、とりあえず男達はゆりの寝室から出て行った。
「ムサカさんのこと、ヴィラには今日言おうと思ってたの。ほんとよ」
ゆりは男達がいなくなってすぐに言った。
「本当ですかあ？」
「うん。それに私はその時のことが記憶にないからわからないのよねえ。ところで、私に気を与えまくったわりには、みんな元気だったね。いつもならげっそりして座り込んだりしてるじゃない？」
「我々より先にムサカ様が王妃に気を与えてくださったんですよ。だからです」
「そうなんだ」
「どんな子供が産まれてくるのか、見当もつかないですね。ですが、楽しみですよ。この先儀式もあるかもしれないし。王妃はムサカ様の子供だと思うんですか？」
「うーん、多分。多分ね」
「まあよかったです」
ヴィラはほっとしている。
「何が？」
「王かムサカ様の二択なんで。他の男達の名前まで加わったらややこしいことになるじゃないですか」
「はあ……私、そんなにいろんな人とやりまくってないですけど」
ゆりは一応そう言ったのだった。
その頃ムサカは、休憩室でラクシュミと一緒にいた。ムサカの気力はごっそり減っている。
「王、申し訳ありませんでした」
ムサカはラクシュミに謝りに来たのだった。ムサカはすっかり自分の子供だと思っている。
「いえ、とんでもないです。子供に魔力がありそうなので、今後ともムサカ殿にも協力していただくかと思いますがよろしくお願いします」
「はい、それはもう」
「私はむしろ喜んでいるくらいですから、気にしないでください。本当に」
ラクシュミはムサカよりもラギのことを気にしていた。
『赤い月以外の子供なのに魔力がありそうでよかった』
やはり皆そういう反応をしてしまうものである。ラクシュミはシスにラギの様子を思念で聞いていた。
シスがラギを探すと、ラギはベビーベッドにいるクロスを眺めていた。クロスは一人別の部屋にいるが、侍女がつきっきりで世話をしているし、へびっちや男達もクロスの世話にやってきている。クロスはまだハイハイはしないがよくうねうね動いていた。
「ラギ、ここにいたんだ」
「クロスさあ、僕が抱っこしてもあんまりうれしそうじゃないんだ。僕のこと、お兄ちゃんだと思ってないのかもしれない」
ラギがぼそっと言い出した。
「え？ そんなことないと思うよ。クロスは父様が抱っこしてもうれしそうじゃないし。あのね、父様が、ラギのことを気にしてたよ」
「なんで僕だけって落ち込んでないかって？ 僕にもシスにーくらいの魔力があったら、こんなに勉強はしなかったんだろうなあ。考えてもしょうがないことだけど、たまにみんながまぶしく見えたりもするよ。やっぱり落ち込んでるのかな。大丈夫だよ。少しすれば浮上できるから」
「僕にとってラギは、大事な弟だよ」
「ありがとう」
（産まれたのがこの時代じゃなかったならば、僕は、王族ではなく家臣の子供として育てられたのかもしれないなあ）
ラギはそんなことを思った。
（子蛇のおかげで僕に魔力が宿った。そんなに強い力じゃないけど、僕はまだ幸運だったんだ。それに僕には役割がある。過去のお母さんを助けた時にいたのは僕らしいし。僕がどうやってお母さんを助けたのかは謎だけど、今のところ僕が有力だ。でも考えてみたら、なぜ僕だったんだろう？ お母さんを落ち着かせるためならば、同じ黒髪のロイの方がよかっただろうに）
ラギはそんなことを考えた。
（なぜ僕が……ひょっとして……）
ラギは一つの結論にたどりついた。
「うーん、そういう理由なのかな？」
「何？」
「なんでも」
「だ、だ、だ」
クロスが声を発して手をバタバタ動かしていた。
「散歩したいの？」
「あー」
「いいよ、外に行こうか」
シスがクロスをだっこした。
「じゃあね」
「うん」
シスはクロスと消えた。
「僕にその役割を与えた理由……僕に存在意義をもたせるため、だったりして。僕にとっては、役割があるってことが支えだったりするもんなあ。僕はもういいけど、もしかしたらってことを考えると、赤い月に子供を作ればいいのにさ。全くお母さん達もこりないよねえ」
最後にはラギはぶつぶつ言っていたのだった。
ゆりの部屋にはハザークがやってきたので、ヴィラはハザークと交代した。
「王もこりないな。赤い月まで待てばいいのに」
ハザークはラギと同じ事を言っていた。
「ハザーク様実はですねえ」
ゆりはムサカとのことをハザークに伝えた。ハザークは目をまん丸くしている。
「そうなのか。まあ、さすがにムサカと赤い月を過ごすのは無理だな。でも本当にムサカの子供なのか？」
「いや、それはわからないですけど」
「強い男の子供が欲しいのは一族の本能だからな。王妃がムサカとひっつきたがるのも当然だ。ただ来年の赤い月がちょっと心配だが」
「そうなんですよ。来年の赤い月には、本気で避難しようかと思ってるんです」
ここで蛇の目のゆりが出て来た。
「以前はあの時の王様になら殺されてもいいと思ってたけど、やっぱり死にたくない。子供達が大人になる姿も見たいもん」
「ムサカを避難させりゃいい。さすがに赤い月に王妃がどこかに行くのはだめだろ」
「えー」
ゆりは不服そうだった。
「ところで、確実にムサカさんの子供ですかね？ わかります？」
ハザークはゆりのお腹をみたが、首をかしげていた。
「こんなすぐじゃわからんな。ムサカの子供なら力の差が大きいからな。うまく育てば幸運だと思うしかない。今はまだ赤ん坊ができかけているかなってとこか」
「そうですよね。じゃんじゃんみんなから気をもらわなきゃだめですね」
「そういうことだな」
『みんな』の中には自分も含まれていると気がついているハザークは、ちょっと宙を見上げていた。
ムサカがゆりの部屋にやってきた。
「ハザーク様、このたびはどうもすいません」
ハザークもゆりの恋人だと知っていたムサカは、ハザークに謝っていた。
「我に謝ることはない。本当ならば、過去の王族の気はもっと強烈だと思うが、かなり抑えてるんだろう？」
ハザークがゆりを見ると、恋する乙女の瞳になっていた。
「王はあんまり気にしないだろう。王の子供って事にしときゃいいし、実際にまだムサカの子供だと決まったわけじゃないからな。全然気にしなくていい」
「はあ……」
ハザークはゆりの肩に手を当てて、「王妃、あんまりがっつかないようにな」と言って去って行った。
「ムサカさーん」
ゆりが両手を出していたのでムサカは近づいた。ゆりはムサカの手を握りしめている。
「王様は何か言ってましたか？」
「気にしてないっておっしゃってました」
「だと思いました。ムサカさん、あの時のこと、ちらっとでも覚えてないです？」
「すいません。覚えてないんです」
「そうですか。あの時のムサカさん、ひょっとしたらもう会ってくれないかも」
「え？」
「あの晩、ムサカさんの蛇さんぽい人が出てたんです。多分赤い月のムサカさんだと思うんですけど、すごく優しくて素敵だったんですけど、妊娠したらもう会ってくれないかも。普通は、妊娠した女性を抱いたりしないでしょ？」
「……まあ、そうかもしれないですね」
ムサカはやんわりと言っていた。
「もっといっぱい愛し合ってからの方がよかったな」
蛇の目のゆりはしょんぼりとそう言って引っ込んだ。
「王妃様……」
黒目のゆりははっとムサカから手を離していた。
「王様何か言ってました？」
「気にしないからとおっしゃってましたよ」
「やっぱりそうですか。まだムサカさんの子供だと決まったわけじゃないので、あまり気にしないでくださいね」
「はい。では私はこれで。何かあったら呼んでください」
「はい、ありがとうございます」
ムサカは去って行った。
「ん？ なんか落ち込んでるの？」
目から涙が流れてきたので、黒目のゆりは涙を拭いていたのだった。
一方、ムサカも蛇の目のゆりの様子が気になっていた。ムサカはハザークの元に行き、蛇の目のゆりのことを相談してみた。
「あ、そういえば、昔、王妃が妊娠した後、王が一切抱かなくなって、かなりもめたことがあったな。一族の女は妊娠したらそういう行為はしたがらないものだが、王妃は違うんだ。蛇の目の王妃は一族の女性っぽいんだが、そういう所が一族の女と違うな。たまに優しくして抱いてやった方がいいぞ」
ハザークは真顔で言っていた。
「困ったことに私にあの晩の記憶がないんです」
「じゃあその晩王妃の相手をしたのはもう一人のムサカってことだ。そのもう一人の方が王妃に優しくしなきゃだめだな」
「もう一人にどうやって訴えたらいいんでしょうか」
「さあ、そっちの話は王妃の古い恋人に聞いた方がいいかな。ミルキダスを呼ぼう」
ミルキダスは今日は仕事は休みになり屋敷でのんびりしていたので、ムサカに呼ばれてすぐハザークの塔にやってきた。
そして昔あったゆりの事件をムサカに話して聞かせたのだった。
途中からムサカは青くなっていた。
「まあ、王妃も昔とは違う。今回は黒目の王妃は違うムサカに会ってないようだし、昔のようにはならないだろう」
ハザークが言った。
「心配なさらなくても大丈夫ですよ。時々王妃に優しくチューしてくださるだけでも」
とミルキダス。
「優しくチュー」
「好きだよ。ちゅっと」
「…………」
「チューだけで満足するかな？ 子供の顔が見たかったらがんばれ」
ハザークはムサカをはげましていた。
（ものすごく面倒なことになってきた。正直逃げたい。だが、今逃げたら最低男の烙印を押されそうだな）
ムサカはゆりの蛇達についなびいてしまったことをかなり後悔していた。
ゆりが王と赤い月の王を別人だと考えてるとしたら、あの晩のムサカにも出て来てもらってゆりに優しくしてもらう必要がある。
（やっぱり大変そうだ）
とムサカは思ったのだった。
さて虎の国では、ルチアと一緒に神の国に行った虎が戻ってきた。
「あれ？ あの時の虎じゃないか？」
「ほんとだ。戻ってきたんだ。神の国ってどうだったんだ？」
虎の男達が虎に近づいて聞いた。虎の一族は、虎の顔を見て区別がついている。
「キラキラだったぜい」
「へーキラキラ」
「キラキラかあ……え？」
男達はぎょっと虎を見た。虎から声が聞こえたような気がする。
「気のせいかな？」
「だよな？」
「虎が話すわけないよな」
虎の国にハザークのような存在はいない。長生きしている虎はいるが、せいぜい三〇〇年ほどである。
「無事帰れてよかったぜい。どうなることかと思ったぜい」
虎は口を開けていたが、そこから男の声が聞こえる。
「えー虎がしゃべってるぜ」
「だよな。神様に話せるようにしてもらったのかな？」
「すげっ！ 」
話す虎はかなり注目された。この虎、教会で神の国の様子を皆に話すことになった。
面白そうだったのでアヤコもガットも国王までやってきている。
「まずおれが言いたいことは一つだぜい。ルチア様はすげえ。何がすげえって、怪力。とにかく怪力。小さくても怪力。かわいいのに怪力。半端なくすげえんだぜい」
「そんなにすごいんだ」
「確かに、虎をひょいと持ち上げてたもんな」
中には実際にルチアが虎を持ち上げているのを見た者達もいた。
「すげえ神様なんだ」
「怪力すげえ！」
「ルチア様かあ……すげえな。アヤコ」
ガットも感動していた。
「虎に受けそうな女神ね」
とアヤコ。
（怪力以外に何かないの？）
と思ったが、周りは異常に熱狂していたので黙っていた。
「ルチア様を崇めよう！」
「そうしよう！」
「ああ、お前達はルチア様に会えたからいいなあ。わしも会いたかったよ」
国王は残念そうだった。
「兄貴はその時ジンラ様の酒を飲みまくってたろ」
ガットがちくりと言うと、国王は素知らぬ顔で立ち上がった。
「怪力の女神はわしらにふさわしい。国を挙げて崇めようじゃないか」
国王が立ち上がり宣言すると、他の者達は「おおー！」と拍手していた。
こうして、ルチアは虎の国でライオネルについで崇拝されることになった。
「怪力」以外のルチアの情報が欲しかったアヤコは、ロイにルチアのことを聞いてみた。
「ルチア様は元気いっぱい女神ちゃんなんだよ。朝から晩まで遊びまくって元気一杯だって。他の神様にも人気みたいだよ。海が好きでよく海で泳いでいるんだよ。お母さんはガーベラ様で、お父さんはえーと、ラーズ様とオルガ様だっけ。お父さんは二人いるんだ。一緒に七色のコウモリが産まれてね、コウモリと仲良しなんだよ」
「へー、なんでお父さんが二人いるのかしら？ さすがガーベラ様ってこと？」
アヤコは一人で妄想していたが、際どいことはロイに聞けなかった。
「ロイ君もよく知ってるわね。神話にそういうの出てたかしら？」
「へへへ」
ロイもゆりがガーベラになってるとは言わなかった。
「最近いろんな神様にいっぱい子供が産まれて、神の国も楽しそうよね」
「うん。絶対前より楽しくなってるよ」
ロイはゆりの顔を思い浮かべながら、そう言っていたのだった。
つづく
14部
目次