第２２話
酒祭りは数日後に迫っていた。ゆりはなんとしても神の国に行きたかったが、行けなかったのでやきもきしていた。
そんな頃見慣れた風景の夢を見た。草原に数匹の豹、小高い丘に大きな木が生えている。
（神の国じゃなくてスペード様の夢？ これはこれでうれしい）
白い寝間着姿の黒目のゆりは、大木目指して小走りで移動し、大木の裏に回ってずるっと肩を落としていた。スペードもいたが、蛇の目のゆりも座っていた。
「どうやって私より先に来るわけ？」
「まあいいじゃない。私は別にスペードさんに恋愛感情はないし。ただ話をしてただけだもーん」
「横にひっついて話してるじゃない」
黒目のゆりはスペードの隣に座った。
「スペード様こんばんは」
「こんばんは」
「一体何の話をしてたの？」
「赤い月の話とか聞いてた。愛と本能の関係について」
蛇の目のゆりが答えた。
「何それ」
「愛は本能を超えるのかどうか、悩ましい問題だわ」
スペードは両方のゆりをちらちら見ている。黒目ゆりは話の内容も気になったが、なにせスペードにはたまにしか会えないので、（腕に触っちゃおうかな）などと思っていた。
（それくらいは許されるのでは？ だめかな）
「それで、どっちの方が好きだと思うんですか？」
スペードが蛇目のゆりに聞いていた。
「どっちも好きですよ。でも赤い月になって本能が強く出たとき、私はどちらと過ごしたいと思うのか、それはわからない。だから赤い月が怖いわけです」
「なるほど。でも赤い月の間、そちらの方は城にはいられないでしょう？ あなたも城から出られないだろうし」
「多分そうでしょうけどね」
蛇目のゆりは黒目のゆりを見てやれやれと思っていた。
「あ、両手にゆりちゃんじゃん、うらやましいなー」
あまりうらやましくなさそうな声が聞こえてきた。顔を向けると、そこにいたのははねぼすけである。
ねぼすけはぼさぼさの髪で青いパーカーを着ていた。
「ねぼすけさんこんばんは。ところで、そのパーカーはどこで買えるんですか？ 私も欲しいな」
黒目のゆりは元の世界の服っぽいのでつい懐かしくなって言っていた。
「これ？ 実は特注」
「あそこからエリザベスが出てくるんですよ」
スペードが言った。
「え？ そうなの？ どうやって？」
フードはぺちゃんこだったのでゆりはちょっと気になった。ねぼすけは二人のゆりとスペードの様子を眺めている。
「あ、そうだ。私ねぼすけさんに話があります。ちょ、ちょっとこっちに来てください」
黒目のゆりははっと閃いて立ち上がり、スペードから離れた所にねぼすけを引っ張って行った。
「お願いします。明日かあさって神の国に行ってくれません？ どうしてもガーベラ様の体を借りたいんです。ガーベラ様に会いに行ってください」
ゆりは小声で頼んだ。祭りは迫っている。こうなったらねぼすけに頼もうと思ったのだった。
「いいよ」
「ほんとですか？ 助かります。すぐ体を借りたいですって伝えてください」
「わかった。スペードには君がガーベラ様になってることまだ内緒？」
「内緒です」
「そう」
「ねぼすけさんに何を頼んだことにしよう。ところで、スペード様に用事があったんですか？」
「別に、世間話に来ただけだよ。あ、そうだ、神の国で、君の国にいた男に会ったよ。妙なことに巻き込まれちゃってるようだね」
「イシュタールですか？ そうなんです。まだ帰ってこられないみたい」
二人は元の場所に戻りながら話していた。
「まだ無理だろうね」
「どのくらいかかりそうですかね」
「さあ、それは僕も気になるところだ」
ねぼすけが答えた。
二人が離れた後、蛇の目のゆりは、スペードに「もう豹で来ないんですか？」と聞いていた。
「さーどうでしょう。豹でたまに会いたいような気もしますけどね」
「豹だと、思いもかけない話が聞けたりしますもんね」
今までのことを思い出し、スペードは「ははは」と笑っていた。
「まだ疑問は一杯あるんですけど」
「でしょうねー」
そこに黒目のゆりとねぼすけが戻ってきた。
「ねえ、ねぼすけさんがイシュタールに会ったんだって」
黒目のゆりがもう一人のゆりに言った。
「そうなの？ 元気でした？」
「元気だよ」
「私も会いましたよ。かなり強くなったようですよ」
とスペード。
「イシュタールはいつになったら帰れるんでしょう？」
蛇の目のゆりが二人に聞いた。
「さあ、それは……」
「僕たちも知りたい所だよ」
スペードに続いてねぼすけが同じ返答をした。
「じゃあ邪魔しちゃ悪いし僕は行くよ。じゃあね」
ねぼすけは手をひらひら振って去って行った。
「さようならー」
黒目のゆりも手を振った。
「ねぼすけに何の用だったんですか？」
スペードが聞いて、黒目のゆりはぎくりとしていた。
「実は、近々うちの国で酒祭りがあるんですが、ジンラ様の降臨が決まってまして、でもその細かい打ち合わせがまだ出来てないもので、ねぼすけさんに仲介を頼みました。まさかジンラ様を呼んでとは言えないので、クーリーフン様を呼んでって」
ゆりは本当のことを言いながらも、ちょっとしたことで嘘をつくことにした。全部嘘よりましだろうと思ってのことである。スペードはきょとんとした顔をしていた。
「ジンラ様降臨が決まってるって、すごいですね」
「ジンラ様、去年私達に濡れ衣をきせちゃったでしょ？ まだ気に病んでるみたいで、何かしたいって言うんで頼んだんですよ」
蛇目のゆりがフォローするように言った。
「ああ、そういえば、そういうことがありましたね。なるほど」
「酒祭りにジンラ様が現われてくだされば、他国にまだあるかもしれない私の疑いもすっかり晴れますしね」
黒目のゆりが言った。
「そうですね。あなたは人を害そうなんてまるで思わない人ですからね」
スペードは黒目のゆりを見て言っていた。
「そうなんです。平和主義ですから」
「神様が立たれた場所は聖なる場所になるみたいですよ。名所がまた増えますね」
「ジンラ様は馬車に乗ってパレードしてくださるんですよ。じゃあ通りが聖なる場所になっちゃう？」
「馬車で、パレード……？」
スペードはつい想像しながらも言っていた。神様のパレードなんて聞いたこともない。
「じゃあうちの城も聖なる場所になりまくってるね。神様がいっぱい来てるし。先月土の祭りをうちの国でしたんですけど、アリアス様とハロルド様がいきなり現われたんですよ。みんなびっくりして喜んだんですよ」
蛇の目のゆりがつい言った。
「アリアス様にハロルド様？ すごい組み合わせですね」
「おじいちゃんおばあちゃんたちは号泣してました。ハロルド様は子供を手渡されて抱っこしまくってました」
蛇目のゆりが笑いながら言った。
「へーすごいな。私はそのお二人をセットで見たことはないですが。そのお二人とも知り合いなんですか？」
黒目のゆりはぎくりとしていた。
「私達は以前神の国の癒やしの泉に沈んでたことがあるので、いろんな神様と知り合いですよ」
蛇目のゆりがにこやかに返した。
「そうですか。ハロルド様も素敵な神様ですよ。子供がお生まれになって、ちょっと変わったかな。以前はいつ見ても厳しい感じでしたが。ハロルド様の体つきはステキって思わないんですか？ 私よりよっぽどすごいですが」
スペードが黒目のゆりを見ながら言った。
「え？ はあ、ステキはステキですけど、神様ですから、そりゃ当然ステキですよ」
黒目のゆりは違うとも言えなかったので、作り笑いを浮かべて言っていた。
「神様の恋人は、ラーズ様だけなんですよね？」
スペードがとんでもない質問をしてきて、黒目のゆりの顔は引きつっていた。
「？」
黒目のゆりが困ってるふうなので、スペードは蛇の目のゆりを見た。
「実は、いろんな神様とプラトニックな恋人関係を結んでます」
蛇目のゆりが言った。
「プラトニックな恋人関係？ それって、体関係はなしってことですか？」
「そうです。今まで、いろいろありまして……それでもそっちの私はスペードさんの方が好みっていうんだから、みんなになんで？ って言われてるんですよ」
「その神様の中に、ハロルド様は入ってます？」
黒目のゆりは無言で空を見上げていた。
「入ってますよ。でもそっちの私は、そんなハロルド様に向かって、『スペード様が好き』って言ってむちゃくちゃ引かれてましたけど」
ここで嘘を言ってもしょうがないので、蛇目のゆりはすばり言っていた。
「はあ！？」
スペードはさすがに驚いていた。
「まさか、ほんとですか？」
「猫で会う以前の話ですよ？ それにハロルド様も、人間の一生は短い。やりたいならやれって言ってましたよ」
黒目のゆりは正直に言った。
「……なんかもう、わけがわからんですが……もしかして、イカ！ ハロルド様に巨大なイカをもらいました？」
スペードはそこではじめて、イカのことを思い出していた。
「もらいました」
黒目のゆりが答えた。
「あなたたちがイカの女だったんですか！？」
スペードはものすごくショックを受けた顔付きだった。
「あなたと会ってることを知ったら、ハロルド様が怒るんじゃないだろうか」
「大丈夫ですよ。やりたいならやれって本当に言ってましたから」
「どこから見てもハロルド様の方がいい男じゃないですか」
「神様は、神様なんで」
「神の寵愛を失ってもいいんですか？」
「そうなったらそうなった時のことですよ」
黒目のゆりはのんきに言った。
「だからスペード様は気にせずに、また会ってくださいね」
「はあ」
夢はそれで終わった。
目覚めたスペードはハロルドとの以前のやりとりをいろいろ思い出し、（リティアとの結婚話って、もしかしてハロルド様の嫉妬が原因か？）とようやく理由を知っていた。
（謎だ。神の寵愛を失わないってのも謎だし、ハロルド様に、俺のことが好きって本当に言ったのかな。よく言えるな。彼女という存在が謎すぎる。なぜあんなに無条件に神様に好かれまくってるんだろう？）
話せば話すほど、スペードにとってゆりの謎が多くなるのだった。
さて、ねぼすけは、せっかくゆりからガーベラに会う依頼を受けたので、髪を整えて、いそいそとでかけていた。神の国には、聖地のアシュラン神殿の裏に通り道がある。石碑に描かれた魔法陣であり、この魔法陣は神や妖精が手で触れると発動する。中には神の国と人間界を自由に行き来できる神もいる。風や光の妖精はそうである。クーリーフンは神の国から聖地に移動できる力がある。ガーベラも、人間を恋人にしたので蛇や豹の国に自由に移動できるが聖地に行きたい時は、この通路を通っている。神の国への出口は二カ所ある。雲の上のアシュラン神殿と、ハロルド神殿付近である。
ねぼすけはハロルド神殿付近に移動して、ガーベラの神殿まで途中馬に乗ったりしながら行ったのだった。
ガーベラは自分の神殿にいた。
「ガーベラ様ー！！」
「あらリアン君じゃない」
「ガーベラ様、今日もめちゃくちゃキレイ！！」
ねぼすけはガーベラのいい匂いに頬をゆるめつつ、部屋にいた銀髪の子供に目を向けた。はじめて見る子供である。
「この子はヴォルフよ。最近産まれたの。ハロルドとの子供よ」
「そうなんですか。それはめでたいですね。おめでとうございます」
ねぼすけは頭を下げた。そこにクーリーフンがやってきた。
「やあ」
「こんにちは。クーリーフン様も随分兄弟が増えましたね」
「はは、まあね。今日はどうしたの？」
「そうそう。ちょっと来てください」
ねぼすけはガーベラを連れ出さずにクーリーフンを外に出して、ゆりのことを話したのだった。
「へー彼女とどこで出会ったの？」
クーリーフンはそこに驚いていた。
「たまたまスペードの夢に行ったらいましたよ」
「彼女スペードと会ってるの？ もう大丈夫なのかな？」
「大丈夫でしょう。クーリーフン様も、彼女のことが好きなんですか？」
「好きもなにも僕のお母さんだよ」
クーリーフンは微笑んで言っていた。
（クーリーフン様にここまで言わせるとは、すごいな）
ねぼすけはゆりに感心していた。
クーリーフンは神殿に入っていった。
（今日もガーベラ様、キレイだったなあ……）
ねぼすけは一目ガーベラに出会えて今日は満足したようだ。去って行こうとして服を引っ張られた。後ろを見ると、先ほどガーベラと一緒にいたヴォルフが服をひっぱっていた。
「なんですか？」
「あなた面白い目をしてるね」
ヴォルフはねぼすけの顔をのぞくように見上げている。
「ありがとうございます」
「その目、欲しいな。ちょうだい」
ヴォルフはねぼすけの右目を指差していた。ねぼすけの右目は、黒に黄色い瞳孔の瞳である。
「右目をあげたら私は片目になってしまいますよ」
「変わりに僕の目をあげるよ」
「いやーそういうわけにはいかないですよ。簡単にとっかえるわけにも――」
ヴォルフが素早く手を出してきた。
（え、ちょ……）
ねぼすけが避ける間もなく右目に激痛が走り、ねぼすけはそのまま失神してしまった。
「リアン君、どうしたの？ リアン君」
体を揺すられてねぼすけは目を開けた。
「リアン君ったら、びっくりするじゃない」
「あれ？」
ガーベラと一緒にクーリーフンがねぼすけの顔をのぞきこんでいたのだが、クーリーフンはねぼすけの変化に気がついた。
「その目どうしたの？」
「あら、ほんとだわ。瞳の色が違うわ。どうしたのかしら」
「え？」
ねぼすけ自身、今は痛みも何も感じなかった。視界も普通である。
「僕の目、おかしいんですか？」
「黄色が入ってた目の方が、青くなってるわよ」
「え？」
「ちょっと来て」
ガーベラはねぼすけを神殿に連れて行き、手鏡を見せた。
「ほんとだ」
ねぼすけは自分で自分の顔を見てようやく気がついた。右目がガーベラのような青い瞳に変わっている。
「あの、ヴォルフ様はどこですか？ ヴォルフ様が、僕の目と交換しようって」
「え？ どういうことかしら？」
ガーベラがクーリーフンを見た。
「さあ」
クーリーフンも首をかしげている。
「体調はどうなの？」
クーリーフンはねぼすけを眺めて聞いた。
「いや、どこも痛くないです。この瞳ってガーベラ様とおそろいですね。そう考えたらまあ、悪くはないかな」
ねぼすけにとっては愛着があった瞳ではあったが、目を取り返さなければ、というような感情は起きなかった。
「ごめんなさいね。ヴォルフに会ったら聞いておくから」
ガーベラは申し訳なさそうである。
「大丈夫ですよ。体はなんともないんで。では僕行きますね」
ねぼすけは明るく言って去って行った。
「クーリーフン、ヴォルフを探してきてよ」
ガーベラが言った。
「その前に、彼女が緊急の用だったんじゃない？」
「あ、そうだっけ。じゃあ先に体を貸そうかしら。クーリーフン、ヴォルフに理由を聞いておいて」
「わかったよ」
ガーベラは寝室に行き寝転んだ。
人間界ではゆりは朝食を食べてまったりしていた所だった。ガーベラになれたので、すぐにジンラの元に行っている。
「ジンラー！」
「ガーベラ」
ゆりはジンラに会えたうれしさのあまり、ジンラに飛びついていた。
ここは神殿の外だった。少し離れた所に妖精達やアマンザもいた。
「はーい、アマンザ」
ゆりはアマンザに手を振った。
「おはよう。お母さん」
「ジンラ、中でお話したいんだけど、いい？」
「ああ」
ゆりはジンラと神殿の中に入り、二人きりになったところで、「酒祭りに来てくれること、覚えてる？」と聞いた。
「え、ああ、別ガーベラだったのか。全然気がつかなかった。もちろん覚えているぞ」
「よかった。打ち合わせがしたくて、ガーベラに体を貸してもらったの。酒祭りは十一の月八日、できれば朝のうちに来ていただきたいんだけど、大丈夫かしら」
「私はいつでもいいぞ」
ジンラはゆりに椅子を勧めて、自分も向いの椅子に座った。
「どこに来ていただくのがいいかしら。私は人が多い所にいけなくて、お城で魔法で祭りの様子を見せてもらう予定なの」
「とりあえず城に行こう。君にも会いたいし」
「本当？ うれしい！」
ゆりはとってもうれしそうだった。
「神官を連れて行こうと思っている。通訳もかねて」
「そうなの。みんなの喜ぶ顔が目に浮かぶようだわ。本当にありがとうございます」
「いや、たいしたことじゃない。それに私の信仰があがるのは喜ばしいことだからな」
「それからもう一つお願いがあるんです。うちの国の酒の農場主達に、声をかけていただけますか？ 来年からの酒造りの励みになると思うんです」
「いいとも。お酒を造る者達は、我が同胞だからな」
「ありがとうございます。みんな喜びます」
ジンラはふっと笑っていた。
「君は、自分のことよりも周りを喜ばせることが好きみたいだな」
「私ばかり神様に会うなんてもったいないですもん。素敵なジンラ様を、みんなにも見てほしいんです。石像よりも、百倍、いや一万倍素敵なんですもの」
「ガーベラ……」
ゆりはこの神の国に来て初めてジンラに出会った感動を思いだしていた。
（あの時アマンザが産まれてよかった。ジンラがガーベラの恋人のままでよかった）
「ジンラ、仲良くしましょう！」
ゆりはその場の勢いでジンラに迫り、二人は寝室にこもったのだった。
ねぼすけから二時間ほど遅れて、スペードも神の国にやってきていた。ハロルドのことが気になって仕方なかったからだ。ハロルドの神殿側の草原では、妖精達が相変わらず稽古中である。その中にはイシュタールもいた。ジェイクはもういたが、ハロルドは少し遅れてやってきて、スペードを見つけていた。
「スペードじゃないか。今日は稽古に来たのか？」
「あの、すいません。ちょっとハロルド様にお話があるのですが」
「ん？」
二人は妖精達と少し離れ、大木の側に移動した。
「話ってなんだ？」
スペードは周りにだれもいないのを確認して、「以前イカを上げた女性のことなんですけど」と切り出した。
「イカ？ ああ、それがどうしたんだ？」
「ハロルド様は、彼女のことが好きなんですよね？ 昨日その彼女に偶然会って、ハロルド様のことを知ったんです」
「ふーん、そうか。それで？ やったのか？」
「え？ いえ、昨日はやってません」
「昨日は？」
「え……その……」
スペードはたじろいでいる。
「別にいい。やりたきゃやれって言ったしな」
ハロルドは怒る様子もなかった。
「彼女はラーズ様の恋人でもあるんですよね」
「うん」
「どうしてそこまで神様に人気があるんですか？ いろいろな神様が一人の女性を好きになるなんて、普通はないと思いますが」
「ないな。まあ、あの女は特別なんだ。人間版ガーベラだからな。外見はまったく似てないが。私の好意を知った上で、『お前と付き合う許可をくれ』って言ったくらいだからな。お前に相当好意があるんだろう。人間の一生は短いんだ。今度あの女に会ったら、優しく抱いてやれ」
ハロルドは父親のような表情でスペードの肩に手を乗せていた。
「いえ、いえいえ、今はそんなことはしてませんよ。ただ、話をするだけですから」
スペードの方はあわてている。
「そうなのか？ あの女は、万年欲求不満だからな。国の男共は精力が少なすぎて、相手をしてくれないようだ」
「はあ……」
「ま、そういうわけだ」
「話をしてくださりありがとうございます」
スペードは頭を下げた。ハロルドは去って行った。
（話を聞いてもさっぱりわからん。ハロルド様は、彼女を対等に感じている？ そんな感じだな。ハロルド様にラーズ様にクーガ様に、恋人がすごすぎる）
一方ハロルドは、（だんだん王の性格に近づいてないか？）などと思っていた。
ゆりは酒祭りの前お礼とばかりにジンラといちゃいちゃし、子供はできなかったが、ジンラは喜んでいた。この一時は貴重だ、と思うと、行為にも熱がこもっている。ゆりはその後お酒を飲んで人間界に戻ったのだった。
気がつくとベッドだった。誰かが運んでくれたようだ。
寝室にヴィラがやってきた。
「王妃、起きたんですか？ 体調はどうですか？」
「こっちにいらっしゃ〜い」
ゆりは妖しく手招きしていた。
「さっきジンラ様に会って、お祭りの打ち合わせができたよ」
「ほんとですか？ よかった」
ヴィラもほっとしていた。ゆりは起き上がってヴィラに抱きついた。
「私は今、モーレツにヴィラをエッチな気分にさせたい！」
「なんか酔ってます？」
「あっちでお酒飲んじゃった。久々に、別室にいきましょ♪」
「はあ」
ゆりの気はピンクになっていたが、最近ヴィラはそっちモードになれていなかった。
「はやくー、もう一人だれか暇な人を呼びなさい」
ゆりの目は据わっている。
「はいはい」
ヴィラは別室に久しぶりにゆりを連れて行った。ゆりはのりのりでヴィラの服を脱がしている。
「まったく王妃ったら」
「うふふ〜♪」
今日休みだったシャナーンが呼ばれて来たときには、ゆりは口でヴィラに奉仕しまくっていた。
「ああ、王妃、私も混ぜてください」
「もちろんいいよー」
「ああ、王妃の口は、うますぎる……」
ヴィラは否応なしにその気にされて達していた。
「シャナーンも脱いでー」
「はい」
ゆりはシャナーンにも奉仕しながら、ヴィラの体から手を離さなかった。
「王妃、これじゃ王妃をかわいがれないですよ？」
「いいの。いっぱい達しなさい」
「ああ、王妃、気持ちいいです……」
シャナーンはとろけるような声をあげている。
「王妃、私もまぜてくださーい」
ジュノーもやってきた。
「どんどんこーい！」
ゆりは超ノリノリで、男達を昇天しまくったのだった。こうして、ちょっと下降気味だった男達の性欲も、結構あがったのだった。
ゆりが再び目覚めた時、ゆりは寝室で、横にはミカエルがいた。
「うーん、なんか、エッチな夢を見ちゃった」
ゆりはすっかり平常心である。
「夢じゃないですよ。王妃は我々を喜ばせまくって、寝ちゃったんです」
「え？ 喜ばせまくったの？ ほんと？ 全員？」
「ヴィラ、シャナーン、ジュノー、私の四人、久々なんでうれしかったですよ。またしましょうね」
ミカエルはうれしそうな顔付きでゆりにチュッとしていた。
「覚えてないわ。酔ってたのかも。まあいいか。ミカエル、おなかすいちゃった」
「何か軽い物でももらってきましょう」
ミカエルは消えた。
「……まあいいか。残りのみんなとも愛を深めなきゃ」
ペンギン事件からどうもみんなそういう気になれないみたいだったので、逆に良いことかも知れないとゆりは思った。
「そうよね。ガーベラだもんね」
ゆりは一人うなずいていた。
一方神の国のクーリーフンはヴォルフを探したが、この日はなかなかみつけることができなかったのだった。
つづく
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