第29話
とうとうサントスが蛇の国の城にやってきた。しかも蛇の一族の上級戦士並の気の強さである。ジュノーがサントスをゆりの部屋に連れてきたのだが、つい蛇の目のゆりが現われて、「すごい！」と言っていた。
「サントス様が仲間になってる。感激です！」
「私はよくわからないんですが、そうなんですか？」
サントスは照れた様子で頭をかいている。サントスは神の時の姿そのままで人間になっていた。肌も茶色である。服装も茶色系統の上着にズボンだった。さすがのアシュランも、サントスにはグレンの時のようないたずらはしなかったようだ。
（ということは、グレンよりもすごい蛇が肌にいるのかも？ これは後でひんむくしかない）
蛇の目のゆりは微笑みながらもそんなことを考えていた。
黒目のゆりに戻った。
「サントス様、来てくださってうれしいです」
「これをあなたに」
サントスはゆりに袋を渡した。
「ありがとうございます」
袋を開けると、そこには綺麗なイチゴがたくさん入っていた。
「あ、イチゴだわ。おいしそう！ ありがとうございます。後で子供達といただきますね」
これだけ見事なイチゴはあまり見たことがない。ゆりはジュノーにイチゴの袋を渡し、ジュノーはそれを持って一旦消えた。
「ワンワン」
ジロウがサントスの側に近づいてきて、サントスがジロウの頭をなでた。ジロウは尻尾を振っている。
「このハロルドの絵、サントス様が変えたんでしょう？ あの日笑っちゃいましたよ」
ゆりがハロルドの絵の事を言った。
「そうです。たまにはハロルドのそういう絵もいいかなと。ところでアシュランにこの話を聞いた時は驚きましたよ。いつアシュランに会ったんですか？」
「ガーベラ様が赤ちゃんを産んだでしょう？ 実は私の時にできた赤ちゃんで、アシュラン様は、よくやった褒美を何かやろうって言ってくださったんですよ。それで」
「わざわざこんな願いを？ 私に直接言ってくだされば、いくらでもかなえられる望みなのに」
サントスは感動しているようだった。
「実は昨日はグレン様がいらしてくださったんです。神様と人間の恋人同士のように過ごしたくて。サントス様は土の祭りで人間になっていたから、また人間になって来てくれそうだなって思って」
「そうなんですか。そんな些細な願いをアシュランに頼むことはないのに……あなたはかわいい人ですね」
サントスはアシュランの要望だったが、ゆりは自分の要望ということにしておいた。
「昨日はグレンとどうやって過ごしたんですか？」
「いろいろお話をしましたよ」
「話だけですか？」
「……それは、秘密ですよ」
「あやしいですね」
いきなりいいムードになっていたので、部屋に戻ってきていたジュノーも二人に近寄りがたかった。
「サントス様、土の祭りの時に植えたオレンジの苗を見に行きましょう」
「ああ、マリスが持って来たやつですね。いいですね」
「ワンワン」
「ジロウ君も一緒に行きたい？ じゃあ行こうか」
「では、私がお連れしますね」
ジュノーはようやく二人に近づいて、ゆりにひっついたジロウも一緒に瞬間移動した。
オレンジの苗は、農家の人々が休憩や集会に使っている建物の横に植えられていた。ゆりは苗を植えた時のことを思い出している。苗は元気に緑の葉っぱをつけていた。
「元気そうですね」
「そうですね」
サントスはしゃがんで土に触ってみていた。ジュノーは少し離れた所にいるが、もっと離れた所にミルキダスもいる。二人は細かく思念をしあっていた。この周りには畑が広がっていて、今日は人はまばらである。敵が潜むとしたら、畑から少し離れた北側にある林の中だろう。
「オレンジはいつごろからなるか楽しみですね」
とゆり。
「そうですね。来年はどうだろう。もっと大きくならないと立派なオレンジはできないだろうけど」
「オレンジは南の国の方でよく採れますよね。やはり暖かい方がいいんでしょうね」
「そうですね。雪が多い地方では、ちょっと無理ですね。でも麒麟の国には大きなガラスの温室がいくつかあって、そこで、オレンジや作物やらを育ててますよ」
「ガラスの温室ですか。かなり大きなガラスですよね？」
ゆりは想像しながらも、作るのが大変そうだな、と思っていた。
「ガラスですからね。割れることもあるでしょうし。そうそう、来年の一の月辺り、大寒波がくるようなんですよ。この辺りにも雪がつもるかもしれません」
「大寒波ですか？」
「アリアスがそう予想していましたよ。北の国では死者が多くでかねないですからね、北の国々には神官を通してアリアスが勧告していましたよ。この国は北ほどひどくはならないと思いますけど、気をつけてくださいね」
「わかりました。大寒波……」
この国にも雪が積もったことはあったが、もっと積もるのかもしれないとゆりは想像した。
「神であろうと自然の力を変えることはできないので」
「そうですよね」
二人はオレンジの苗の前で真剣な話をしている。その後ろにいたジロウが耳をぴくりと動かして北を向いていた。ジュノーもジロウと同じ方向を向いている。
（林に誰かいる？ あっちにはミルキダスがいるし、いざとなったらミルキダスが処分するだろう。あまり神の前で殺生はしたくないが。念のためにハインリヒ殿も呼ぼうかな）
などとジュノーが思っていると、ジロウの頭の上に金色の小さい矢が出現した。
「？」
その矢は目にも止まらぬ速さで林の方向に飛んで行った。
（なんだなんだ？）
それから三分ほどして、ミルキダスから思念が来た。喉に矢が刺さった男が一人、倒れているらしい。男は意識があり、矢は刺さっていたが、それは致命傷というほどの傷ではないようだ。どうやら男は身動きが取れなくされただけのようである。他の戦士が男を連れて行くと、金色の矢は消えたらしい。
ミルキダスは不思議そうにいろいろ聞いて来た。
（今のって、ジロウ君の魔法？ え？ ジロウ君って魔法も使えるの？ すごっ！）
そのジロウは普通の状態に戻っている。ジュノーの様子に気がついたゆりが顔を向けた。
「どうかしたの？」
「え？ いえ、別に何もありません」
（ジロウ君、すごっ！)
ジュノーはとにかくジロウに感心していた。
ゆりとサントスは、次に祭りの話をしていた。人々が本当に楽しそうで、自分も楽しかったとサントスは話していた。祭りに詳しいカサンドラによれば、こういう祭りは神を称えるためのものなので、このように人々が楽しむ祭りは珍しいようだ。
「この国って一般庶民が楽しむ行事が少ないんです。だから、たまにはこういう祭りがあってもいいと思って」
「あなたは素敵な王妃様ですね」
「そんなことないですよ。でも、そう思っていただけるなんてうれしいです」
「王妃、そろそろ戻りましょう」
ジュノーがそっとゆりに言った。
「そうね。お城に戻りましょう。サントス様、昼食に付き合ってくださいますか？ 子供達にも会ってほしいんですが」
「もちろんいいですよ」
ゆりたちは城に戻り、食堂で昼食を食べることになった。子供たちはみなサントスに挨拶をしている。食堂のグレンの絵は外されていた。
（ナナミかな。さすが）
とゆりは察している。子供たちはサントスの気を感じて、「アシュラン様のお力かな。すごいね」「すごい」と感心していた。
昼食には、サントスが持ってきてくれたイチゴも乗っていた。
「おいしい！」
ゆりは食べるなり感動していた。
「おいし！」
「うまっ！」
「うまうま」
クロスはつぶしたイチゴを侍女に食べさせてもらっていたが、喜んで「うまうま」言っていた。
「あの時生まれた子供が、もうこんなに大きくなったんだね」
サントスはクロスを見て目を細めていた。
「甘くておいしいー」
「おいしーね」
これほどの甘いイチゴはかなり珍しく、子供達にも大好評だった。
「私も人間の言葉をもっと習いたくなりましたよ」
サントスがゆりに言っていた。
「神官以外とはあまり交流することもなかったから」
「サントス様は、あまり人間界に降りることはないんですか？」
「私が行くのは聖地くらいですよ。かなり前、人間界で実る農作物などを見て回ったりもしましたがね。カサンドラがなんでも統計を取りたがって」
「そうですか」
ナナミがゆりにジェスチャーで訴えていた。
（塔の部屋、オーケー…ナナミ、ママはナナミの行く末が怖いわ）
「うまうま、うまうま」
クロスがイチゴのおかわりを催促していた。
昼食後、ゆりはちょっとサントスから離れて歯を磨き、食堂に戻って来た時には誰もいなかった。
「皆さんがサントス様を塔に連れていきましたよ」
侍女が伝言をゆりに伝えた。
「そ、そうなんだ……」
サラディンの部屋は改装されていた。赤い要素は消えて普通の部屋になっていた。その部屋に行くと、サントスは一人だった。
「この部屋に何があるのかな？」
とサントス。
「何かがあるわけじゃなくて、その……その……実は気になってることがあるの。サントス様の肌に、蛇がいないかなって」
「蛇？ 私の肌に？」
サントスはきょとんとしている。
「一族の人には肌に蛇がいることがあって、サントス様は今、一族の人になってるから」
「ああ、いるかな？ ちょっと脱いでみようか？」
「はい」
ゆりはわくわくしながら待っている。サントスは上着を脱いで、シャツも脱いでみた。すると、胸に蛇の顔が見えた。しかも──
「すごい。蛇がひっついてる」
「金……」
（金……だと！？）
サントスの肌にいるのは金色の蛇だった。しかもかなり大きい。もしかしたら、サントスの全身をめぐって蛇がいるのではないだろうか。
（これはもう、脱がすしかない）
ゆりの中にあるどでかいスイッチがズコーンと押されていた。
「サントス様、全部脱いで♪」
ゆりはかわいらしく頼んでいた。
「え、ぜ、全部？ でも、興奮して君に襲いかかったりしたら、その……」
「どーんと来てください。今日はもう、受け返しちゃいますから！」
ゆりは自らの胸に手をあてている。
「え？ それって……」
「一族の男であるサントス様と、仲良くなりまくりたいです。実は今妊娠しちゃってて」
「え？ そうなの？ もう妊娠しちゃったの？」
「はいー。ですから、この前の続きをしても大丈夫です」
「ガーベラ……」
サントスはうれしそうだ。
「この蛇ちゃんの全身が見たいです」
「わかりました」
サントスは思い切って全部脱いでいた。茶色い肌に大きな金色の蛇がひっついている。蛇は胴体をめぐり、サントスの左足の方までまきついていた。
ゆりは拍手をしていた。
「なんて綺麗な蛇なんだろう」
サントスの肌が茶色いので、金色の肌が際立って見えた。
「ガーベラ、あなたの匂いをかいでいるだけで、興奮してきたよ……」
ゆりはもう匂いを発しているようである。
「サントス様、うれしい。私に興奮してくださるなんて……」
ゆりも服を脱いだ。
「サントス様、今日のこと、ずっと、ずっと覚えていてくださいね」
「もちろんだよ。私が抱く人間の女性は、あなただけだから」
「サントス様うれしい！」
ゆりはサントスに抱き着いた。
ゆりはサントスがたじたじになるほど興奮しまくっていた。ベッドに倒れるなりゆりはサントスの上にまたがり、興奮したサントスの体を自らの体の中に導いている。
「ああ、ガーベラ……」
「サントス様が素敵すぎて我慢できません」
「ガーベラ、うれしいよ……」
サントスの頬が紅潮し、肌にいた金色の蛇は、ゆっくりと動いていた。
（え？ これが変化！？ すごい！ すごいー！！！）
ゆりは興奮しまくって腰を動かしていた。
「ああ、ガーベラ……そんなに動かれると……はあ……」
サントスは達していたが、ゆりは離れず、サントスは再び興奮状態になっていた。
「サントス様、素敵ですよ。とっても。サントス様のシャイな所も好きですけど、身体も素敵です」
「ほ、ほんとう？」
「本当ですよ」
「私も、気持ちよすぎる。あ、君の肌にも蛇がいる。二匹も」
「気持ちよすぎて出てきちゃったんですね」
「うれしいよ。君が興奮してくれてうれしい」
「私も、サントス様が私に興奮してくれてうれしいです」
二度目の絶頂で、ようやく二人は体を離していた。
その後もゆりが攻め続けてサントスは否応なしに興奮させられていた。
ベッドの上はかなり濃厚な淫の気で満ちていた。
「そういえば、アシュランが、夕方には帰すって言ってた。そろそろ服を着た方がいいかな」
かなり長い間いちゃいちゃしていたようだ。太陽はもう傾いていた。
「そうですか」
「途中、君の目が変わっていたよ。どちらの君も、気持ちよく思ってくれてうれしかった。私はガーベラと抱き合ってても、いつもどこか自信がなくて、ガーベラが気持ちのいい振りをしてくれてるんじゃないか、とか、つい思ってしまうんだ」
「とっても気持ちよかったですよ、。ガーベラだっていつもそう思ってますよ」
「ありがとう」
サントスはゆりをぎゅっと抱き締めた。
「長生きしておくれよ」
「はい」
ゆりもサントスの背中に腕を回していた。
二人は服を着た後も手をつないでいたが、やがて金色のぽわぽわしたものがサントスの周りに浮かんでいた。
「ガーベラ、またね」
「はい。今日は楽しかったです」
「私もだよ」
サントスの姿は消えた。
「サントス様、こんな私を受け入れてくれてありがとう。あんなに興奮するなんて、恥ずかしすぎる」
ゆりのお腹がぐーぐー鳴っていた。
「おなかすいた。やばい、なんかスイッチが切れない」
お腹はすいていたが、まだまだエッチなことをしたい気分でもある。
ゆりはよろよろと塔を降りて外に出た。
「外気にあたればそういう気分も鎮まるはず」
冷たい風にあたっていると、ミルキダスが近くに現れた。ミルキダスはゆりを見て驚いた顔つきである。
「え？ どこか変？」
「あの……お部屋に戻られた方がいいですよ」
「ピンクになってる？」
「まっピンクです」
「連れて行って」
「はい」
ゆりはミルキダスに部屋に連れて行ってもらった。
「今日は夕食はここで食べよう。ラギにいろいろ言われそうだから」
「頼んできますね」
ミルキダスは離れようとしたが、ゆりはミルキダスの腕を離さなかった。
「あのー……」
「あ、赤ちゃんの声が聞こえる。ぬくもりがほしいって。ミルキダス、やっぱり儀式部屋にいこっか」
「え！？」
ミルキダスは真っ赤になっている。
「あの、私身体も洗ってませんし……」
「いーのいーの。そうだ。今から二人でお風呂に入りましょう。私の優秀な侍女は、もうお風呂の準備もしているはず」
「え」
「でもお腹もすいちゃったな。やっぱりご飯を食べてからにしようかなー。２時間後にみんなきて」
「み、みんな……ですか。儀式ですかね？」
「わからないけど、なんだかスイッチが入ったまま切れない。まあ儀式じゃなくても、みんなと愛を深めるのもいいかも」
「はあ、じゃあみんなに言っときます」
ミルキダスはようやくゆりから去った。
「……儀式には早いけどなあ。赤ちゃんには魔力があるのかな？ まあいいか。ここは流れに身を任せてみよう」
ゆりは自分の部屋に食事を運んでもらい、とりあえず腹ごしらえをした。
一方神の国に戻ったサントスは、自分の寝室に飛ばされていた。
「ガーベラ、本当に長生きしてくださいね」
サントスは涙目で、そう言っていたのだった。
つづく
１４部
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