第40話
その者は何かの動物に乗り空を飛んでいた。目に見えるのは、真っ黒な翼、そしてたてがみである。どうやらその動物は、ペガサスであるようだった。しかも、真っ黒なペガサスである。その者の右手には、刀身が長い、大剣が握られていた。
夢を見ていたのはルチアだった。ルチアはオルガの神殿の自分の部屋で寝ていたのである。ベッドの上には七色のコウモリ達もいた。コウモリ達は、ルチアが寝ている時は、こうして一緒に寝ているのである。
ルチアは寝転んだまま夢を思い返していた。
黒いペガサスに乗っていたのは自分のようだ。しかし、神の国にあんなペガサスはいない。しかも自分は剣を握っていたようである。
ペガサスに乗ったまま戦うことができるのだろうか？
ルチアは頭の中に大きな「？」を浮かべていた。
その日、気になったルチアはハロルドに聞きにいっていた。ルチアは話すことができないので、ジェスチャーでハロルドに訴えていたが、ハロルドはさっぱり理解してくれなかった。ルチアはソルを連れてきて、ソルにジェスチャーした。
ハロルド達はハロルド神殿の近くの草原にいて、草原には妖精達もいた。その中にいたイシュタールは、（二人ともかわいいなあ）とルチアとソルを見て思っていた。イシュタールは、ゆりガーベラが産んだ神の子供を見るのが大好きである。神の国での楽しみの一つであった。
「ルチアは、ペガサスに乗って剣で戦うことができるかって聞いてます」
ソルがハロルドにルチアの意思を伝えた。
「え……それは無理だな」
ハロルドが答えた。
「ソル、今のでわかるなんてすごいな」
とさらに言っている。
ルチアはさらにジェスチャーしている。
「どうしても無理かって聞いてます」
「ペガサスに乗って剣で戦うって無理だろう。弓矢とか、魔法で敵を攻撃するってのならわかるが。ペガサスは魔物耐性がない。戦いに連れて行くことはできないぞ。前戦に出したらすぐ消滅してしまうからな」
ルチアは顎に指をあててうーんと考えるような仕草をしていた。
「どうしていきなりそんなことを聞いてきたんだ？」
今度はハロルドが聞いた。
ソルはルチアのジェスチャーを見て言った。
「夢で見たようですよ」
「夢。ペガサスに乗って剣で戦うって難しいだろう。翼が邪魔だし、敵に接近しなければ無理だし」
「そうですよね。ところで、ペガサスって、あんなに大きいのに飛ぶことができるなんて翼の力はすごいんですね」
ソルが言った。
「ペガサスは魔力を持っているからな。浮遊の魔法の力があって、あんなに高い所でも飛べるんだ」
「そうなんですか」
「ところでソル、今度魔物との大きな戦いがあるようなんだが、ソルも出てくれるか？」
ハロルドはソルに聞いた。
「はい。僕はトルメンタを今度は死なせない」
「たのもしいな」
ハロルドは妖精時代のソルは数えるくらいしか会ってはいない。ソルは引っ込み思案でいつもどこかに隠れていた印象があった。今では、はっきりとハロルドに自分の意思を告げるようにもなっている。
「ルチアも戦うの？」
ソルが聞くと、ルチアはうなずいていた。
「ルチアは今はまだ戦えない。ヒルデリアに大人にしてもらってからって感じだな」
ハロルドが言った。ルチアがジェスチャーをはじめた。
「大人になったらすっごく背が高くなるって言ってます」
「はは、そうか。どんな美人になるのか楽しみだな。もういいか？」
ハロルドは二人から離れた。
「ルチア、僕ね、この前雷獣の国にいってね、巫女ってのを選んだんだよ。彼女に何か贈り物がしたいってヒルデリア様に相談したんだ。僕の巫女の印に雷のマークのネックレスをあげることにしてね。それができたらルチアも一緒に雷獣の国にいかない？」
ルチアはうれしそうにうなずいていた。
「通訳にアマンザにも一緒に行ってもらおう。マチルダも連れて行く？」
ルチアはうなずいている。
「じゃあその時が来たら教えるからね」
ルチアはうなずいた。
人間界、暦は十三の月に入り、急に寒くなっていた。来年早々寒波が来るようだ。確かに、すでに例年よりも寒い。羊毛製品の値が上がっているようだとラギが言っていた。羊の国にとっては、羊毛商品は大事な輸出商品である。ゆりの元に羊の国から贈り物が届いた。ゆりと子供達におそろいの羊の毛で作られた丸っこい帽子が届いた。どれも茶色で染められていたが、ゆりの帽子の下半分には金色の毛がついていた。この毛はなんと羊の長老様の毛らしい。普通羊の長老の毛は国外に出すことはないらしく、今回初めてのようだった。
王の間にて、ゆりも子供達も帽子をかぶってみた。
「あったかい」
「あったかー」
「ぬくーい」
「ぬくぬく」
最後のはクロスの声である。子供達はゆりの帽子も順番にかぶり、違いを確かめていた。羊の長老の毛は魔力が宿っているらしいが、今は違いはわからなかった。
「王様もかぶってみない？ あったかいよ」
ゆりがラクシュミに言ったが、「私はいい」とラクシュミは辞退していた。
「お礼状をかかなきゃね。あなたたちも書きなさい」
「うん！」
「来年雪が降るのかなあ。あまり積もらないといいけどね」
ゆりが言った。
「マーうまうまほしーの」
クロスがゆりに訴えていた。クロスはちょっと話すようになり、ちょこちょこ歩くようになった。
「ごめんね。クロス。イチゴは今はないんだ」
「うまうま」
「今度もらえたらもらってくるからね」
「うん」
クロスは、この前サントスが持って来てくれたイチゴがかなり気に入ってしまったようだった。
イチゴはこの時期国内にはないし、あんなに甘くておいしいイチゴは春になってもない。
「またサントス様にもらえば？」
と子供達は気軽に言うのだが。
「何度もねだられたらどうするのよ」
「今度もらえたらもらうって言ったじゃない」
ナナミが言った。
「あれは言葉のあや……」
「マーミーのは？ クーにちゃんともらってくれるんでしょ？」
ミシェイラがゆりに言った。
「うん。クーリーフンにはちゃんと頼むよ」
「よかったあ！」
ミシェイラは喜んでいた。
「クーリーフンには頼みやすいけど、サントス様に頼んでもいいのかなあ」
「いいんじゃない？ イチゴくらいで嫌な顔するわけないよ」
ラギが言った。
「そうかな、子供の舌が肥えるのも考え物だわ。あなたたちなんて何度もジンラ様のお酒もらっちゃってるし」
「えへへ」
ラギとシスが笑っていた。
「ところで、母様、メメント食べてないけど、まだ平気？」
シスが聞いた。
「今のところは。もう食べなくていいんじゃない？ あれって最初の子だけの儀式だったかも。もしそうなら、メメントを食べ続けた私は一体ってことになるけど」
ゆりはシスの時からは、自発的に食べていたので、食べなかったらどうなったか、ということはわからなかった。今初めて試しているのである。
「昔、私が初めてアレを食べたとき、王様はいい気がしてなかった気がする。ムサカさんにはアレのことは言わないように。そうだ、ジャッツーさんなら、あれがいつからとか詳しいかも。そのうち聞いてみよう」
「雪が降ったらアレは手に入らないかもよ。今聞いてみようよ」
ラギがせかすので、ゆりはラギと一緒にハザークの塔に行った。今日は蛇先生はハザークの塔にいるようだ。ハザークは話相手が増えてきっと喜んでいるはずである。
ハザークの部屋にはディーンもいた。
「素敵な帽子だね」
ディーンが言ってくれた。
「羊の国からいただいたんですよ。この金色の部分、長老様の毛なんですよ」
「へー」
ゆりはうれしそうに話した。
「ジャッツーさんに聞いてほしいことがあるんです」
ゆりは、蛇の一族の王妃が蛇を食べるという習わしについてジャッツーに聞いてみた。
「そんな儀式があるとは知らなかった」
ジャッツーはそのことを知らなかった。
「我が知る限りは、ずっとあったぞ」
ハザークが言った。
「ニエを三日ほど、次の王に捧げた」
「ふーん。次の王に捧げるのなら、二人目の子供からはしなくていいような気がするが」
ジャッツーが言った。
「ですよね」
とゆり。
「多分、昔はそのニエの蛇に魔法でもかけたんじゃないかな。無事育つように保護の魔法とか、先祖に捧げて祈ったとか、それで子供ができた王妃が食べた。今は蛇を食べるだけになっているのなら、別になくていいと思うが」
「アナスターシャの時は、蛇を食べなかった私はやせていったんですよ。それで、蛇の代わりにメメントを食べて乗り切ったんです」
「メメント、あれか。いろいろと、一族の圧力なんてものが王妃にはのしかかっているのかもな。王族には目に見えない力がいろいろ働いているものらしいからな」
「王の間の、守護の力みたいなものですか？」
ラギが聞いた。
「そんなものだろう。メメントの中の何かが蛇に似てるのかな？ 確かに妊娠した大蛇はメメントをよく食べているが。子供にいい栄養でもあるのかな。もしかしたら、メメントは蛇を食うらしいから、それが関係しているのかもな」
「え？ メメントって蛇を食べるんですか？」
ゆりが聞いた。
「蛇を食べて育ったメメントを食べるってことで、ニエの代わりになったんじゃないか？」
「なるほど……」
「今からの時期メメントを探すのは大変だろうし、むしろちゃんとした儀式にしてみたらどうかな。蛇じゃなくて、蛇にみたてた何かを使う。赤ん坊が無事育ちますように、今から同族を体のなかに取り込みますってな儀式をする。それで子供をだますんだ」
「蛇に見立てた何かですか。うなぎとかももうあまりいないだろうし、蛇の形をしたパンとかでもいいんですかね」
「いいんじゃないか。ちゃんとした儀式をして蛇を食べるまねをする。それがだめなら、メメントの成分が関係しているということになるだろうなあ」
「それ、やってみたいですね。赤ちゃんって儀式が好きだから、そういう風な儀式も喜ぶかもしれません。ありがとうございます。蛇パンを作ってみます」
ゆりとラギは一緒に出て行った。
「蛇を食べる儀式かあ。パンで代用できたらいいねえ」
ラギが言った。
「うん。代用できるならこんなにうれしいことはないわ。相談してよかった！ ダメ元でやってみよう！ とりあえずは、お礼状よ。ラギも書いてね」
「うん」
ゆりもラギも自分の部屋に戻った。
二人がいなくなったところで、ずっと黙っていたディーンが口を開いていた。
「俺、嫌なこと思い出しちゃった。昔、人間の女に蛇の肉をくれと言われたことがある」
ディーンは嫌そうな表情で言った。
「食べてみたいからちょっとでいいからくれって。ぞっとして逃げたが、その女、他の大蛇の肉を捕ろうとしたみたいで、捕まって罰を受けてたな。王妃になりたくてもなれなくて、どうしても強い子供を産みたかったとかなんとか」
「我は、昔肉をやったことがある」
ハザークが告白しだして、ディーンもジャッツーも目を見開いていた。
「はあ！？」
「嘘だろう！？」
「まさか！」
どちらの頭のジャッツーも驚いていた。
「蛇の目の王妃にもやると言ったんだが、怒られた。二度と言うなと言われた。それもあって、侍女達は王妃のことが好きなんだ」
「ハザークさん、二度と言っちゃだめだ」
「そうだよ。ぞっとする」
「黒目の王妃は知らない話だ。ちょっと痛いくらいだし、いいかと思ったんだが」
「そういう自己犠牲はいらんよ。やめてくれよ」
ディーンが言った。
「あ、今思い出した。大昔、蛇だった始祖が死んだ時、始祖の体を食べた者達がいたらしい。それは始祖の遺言でな。魔力を継承させたいという思いからだった。それから来ているのかもな」
ジャッツーが言った。
「へー。魔力の継承か」
「本当に魔力が継承されたかどうかは知らんがな。ゆりさんがやる儀式、我々も参列しよう。参加者が多い方がらしくていい、ハザークさんが取り仕切ってやったらどうだ？」
「うーん、苦手だ。ディーンよろしく」
「俺、まあいいけど」
ゆりは手紙を書いて後、ラクシュミに相談した。
「パンで代用できるのか？」
ラクシュミは驚いたが、ゆりが儀式にしてやってみたいというので、やることにした。
ラクシュミはハザークと思念をかわしながら、「なるべく大勢集まった方がいいらしい。三日後の昼間にしよう」と決めた。
こうして、城の広間にて蛇を食べる儀式が行われることになった。ゆりの恋人達もなるべく集まるように声がかかり、将軍からは一人ヴィクターが、ザメハやフレイ、子供達はロイとアナスターシャ、クロスをのぞいて集まることになった。
ゆりは料理人と蛇の形をしたパンを作り、もっとも上手にできたパンを儀式に使うことにした。
儀式の日、広間にずらりと椅子が並べられて、人々がやってきた。ムサカももちろん来ている。皆広間の外で、儀式のパンは蛇だと信じるようにとラギとシスから言われた。特にミシェイラとレーヌは何度も言われている。
ゆりはせっかくなので綺麗に化粧をして広間にやってきた。
一同が席に座り、ディーンが座っているゆりの横に立った。
「では、これから儀式を行います。王妃様が蛇を食べるという儀式です。これは、赤ん坊が無事育つように、そして、強い子供になるようにとの願いが込められています。皆さんは、王妃様が無事蛇を食べるところを見届けてください」
ラギとシスが大皿を持って来た。その上にはとぐろを巻いた蛇パンが載っていた。
「皆さん、この蛇を見てください」
シスとラギは、皿を持って皆の前を回った。
「立派な蛇だ」
ラクシュミが言った。
「強そうな蛇ですね」
ムサカが言った。
「確かに蛇だ」
こんな調子で皆それぞれ声を出した。ミシェイラとレーヌは、「蛇ちゃんかわいそう」と言っていた。
「赤ちゃんの力になりますように」
「蛇の肉が力になりますように」
一同を回り、蛇パンはゆりの元にやってきた。
「では王妃様どうぞ食べてください」
「はい」
ゆりはパンを手に取り、胴体にかみついてむしゃむしゃ食べ出した。
（赤ちゃん、儀式よ。あなたの好きな儀式よー）
ゆりはそう思いながらパンを食べた。
「我らが立会人となり、儀式は無事行われました。王族の魔力が無事継承されますように」
ディーンのそんな言葉で儀式は終わった。男達はゆりに挨拶をして去って行った。
「マー、蛇ちょっと食べていい？」
ミシェイラがゆりに聞いた。
「いいわよ」
とぐろを巻いた蛇パンなので、結構な量である。
「昔は三日食べたのなら、明日もあさっても蛇を食べよう」
明日も新たに蛇パンを作ってもらうことになっている。
「じゃあ私は戻る」
「はい」
ラクシュミは王の間に戻り、男達はいなかったのでムサカが、「気をあげましょうか？」とゆりに言った。
「そうですか？ お願いします、皆さん。今日はありがとう」
ゆりはムサカに連れられて部屋に戻り、ミシェイラとレーヌで残りの蛇パンを食べた。
「蛇おいしいね」
「うん」
「成功するといいな」
ハザークがいい、フレイが「成功して欲しいです」と言っていた。
部屋では、ムサカはゆりを励ましたいような申し訳ないような微妙な顔付きだった。
「女王様は、普通に蛇を食べられたんですか？」
ゆりがムサカに聞いた。
「そうですね。拒否反応などはなかったような。そういうものかと思われていたんじゃないでしょうか」
「そうですか」
「王妃様は今まで苦労されたんですね」
ムサカは優しくゆりを抱きしめていた。
十三の月十五日、イシュタールが国に戻ってきて、ゆりに顔を見せにきた。
「イシュタール」
「王妃、ちょっと戻ってきました」
ゆりはイシュタールに抱きついた。
「さらにたくましくなったんじゃない？」
「はは、そうですか？」
イシュタールはますます精悍になったようだ。
「ジュメ達もうっとりね。会った？」
「この後会いますよ。丸一日こちらにいますので。来月も再来月も帰って来ますよ」
「そうなの？ それって……その……」
（戦いとやらが近いのでは？）
とゆりは思った。
「大きな戦いがあるんでしょ？ 出るなって言っても出るよね。やっぱり」
「はい。これだけは、王の御言葉でも聞けないんです。すいません」
「わかってるよ。ちょっとつけて欲しい物があるの」
ゆりは棚の上に置いてあった物を持って来た。
小さい革袋に革紐と留め具がついていた。
「これをベルトにつけてみてくれない？」
「なんですか？」
「中に魔石が入ってるの。戦いの時、これをつけて戦って。体力がすごく減ったら回復するとか言ってたよ」
「え？ 魔石？ そんな大切な物を私がもらうわけにはいきませんよ」
イシュタールは二歩も後ろに下がっていた。
「今は一番イシュタールが大変じゃないの。いいからつけてみて」
ゆりはイシュタールのベルトに強引に紐を通してつけてみた。
「どう？ 丈夫かな。ちょっとやそっとじゃ外れないならいいんだけど」
ゆりは革紐をひっぱったりしてみたが、外れないようだ。
「大丈夫かな。この皮袋はジュメに注文してもらったの。首に提げるよりこっちがいいかと思ったんだけど、どう？」
「えーと……その……」
「イシュタール、大丈夫よ。イシュタールの仲間達の分もあるから」
「ええ！？」
「精霊さんに一杯もらったの。だから、妖精さんみんなの分あるから、心配しなくていいの。これはイシュタールのものにして」
「王妃……」
「実は、王様にはこれをもらったことは言ってないの。イシュタールと仲間達にあげたいから。これはだれにもあげちゃだめよ。わかった？」
「はい。王妃、ありがとうございます。みんな喜びますよ」
イシュタールは涙目になっていた。
「私はもう一人のガーベラとして、妖精さん達のことだって気にしてるの。これがどれほど役に立つかわからないけど、お守りとして持ってて。他のみんなには、ジェラルド工房に渡して袋を作ってもらうつもりよ」
イシュタールはゆりの気遣いに泣いていた。ゆりの左目が蛇の目になった。
「イシュタール、お帰り」
蛇の目のゆりはイシュタールに抱きついた。
神の国である。ヒルデリアの間にソル、アマンザ、ルチアにマチルダがやってきていた。ソルは、巫女に巫女の印のネックレスを渡しにいくのである。
「四人で行くのか？」
ヒルデリアが驚いて聞くと、ソルは「はい」とうなずいていた。ルチアはにまにましてヒルデリアの横にいるトルメンタを見ていた。きっと雷獣の国で雷獣を捕まえる気でいるのだろうと横にいたアマンザは思っていた。
「まあ良いか。行っておいで」
どっちみちソル一人というわけにもいかないし、ソルがうれしそうなので、了承することにした。
「帰りは私の巫女に頼みなさい。私と話ができるようにしておきますからね」
「はい」
ヒルデリアは四人を移動させた。
「おかしな組み合わせだこと」
ふっと笑っていると、「あのー」と入り口で様子を窺っている妖精がいた。水色の長い髪を左右にわけてしばっている小柄な風の妖精、シルフィアである。シルフィアは好奇心が旺盛で、人間世界のこともよく知っている。そのため、神々もシルフィアからいろいろ情報を仕入れることがあるのである。
「シルフィア、入っておいで。なんぞ面白い話でもあるのか？」
ヒルデリアが聞いた。
「今ソル君、じゃなくて、ソル様来てなかったですか？」
シルフィアはヒルデリアに近づきながら聞いた。
「来てたぞ。今雷獣の国に降りたところだ」
「え……ああ……」
シルフィアはなぜか困った様子で頭をかいていた。
「どうしたのだ？」
「それがですね。雷獣の国で騒ぎが起こってまして、何があったのかな、と思って人間から情報を仕入れたんですが、雷の巫女が事故にあって、重症らしいんです」
「なに！？」
ヒルデリアは驚き、横にいたトルメンタもびっくりして立ち上がっていた。
「重症ってどのくらい重症なのだ？」
「巫女を見たわけではないのでわからないんですが、馬車が暴走してはねられたようなんですよ。とりあえず、ヒルデリア様にお知らせしようと思いまして」
ヒルデリアは絶句している。
「主、私雷獣の国に行きます」
トルメンタはあわてて出て行った。
「とりあえず、アシュランに知らせなければ。シルフィア、ありがとう」
「いえ」
ヒルデリアはアシュランに会いに行ったのだった。
つづく
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