第41話
ソル、アマンザ、マチルダ、ルチアの四人は雷獣の国にあるヒルデリアの神殿に降りた。突然四人が現われて、神殿にいた者達はびっくりしている。
「僕たち雷の巫女に会いに来たんです」
アマンザが人の言葉で言うと、黄色系統のローブを来た少女がやってきてひざまずいた。だがその少女はソルが選んだ少女ではなかった。
「あれ？」
白いローブ服の女性がその横に膝を突いた。
「申し訳ありません。ソル様が選んでくださった巫女は、怪我をしてしまいまして、今療養中なのです。彼女が元に戻るまで、代理としてこの者が巫女の代わりを致しますので」
アマンザは驚いてソルに通訳した。
「え？ 怪我？」
アマンザはどのくらいの怪我なのか女性に聞いていたが、ソルは自分が選んだ巫女に会えなかったことにショックを受けていた。ルチアとマチルダも、意外な展開に拍子抜けしてぼんやり突っ立っている。そこに雷獣トルメンタがやってきた。トルメンタが来てくれてアマンザはほっとしていた。人間の言葉をかなり覚えたといっても、難しい話になるとちょっとわからなかった。
トルメンタが代わりにいろいろ聞いてくれた。
「しばらく起き上がることはできそうにないですが、三ヶ月もすれば、きっと元通りになりますよ。巫女に会いに行きますか？」
「う、うん」
四人は馬車に乗って病院に行くことにした。ルチアはちらりと膝を突いたままの巫女代理に目を向けた。少女はちょっと寂しそうな表情をしていた。
巫女は雷獣の国で一番大きな病院で治療を受けていた。病室も大きく、ベッドの側には医師っぽい中年の男と、男が一人いた。バートランドにどことなく似ている男だった。この国の王子だろう。二人とも四人を見て膝をついた。トルメンタはベッドにいる金髪の少女を眺めてちょっとほっとしていた。死ぬほどの怪我ではなさそうだ。少女の体の周りは淡い光に包まれていた。おそらくは治癒の魔法だろう。
布団がかけてあったので少女の体の状態は分からなかったが、左の頬に大きな青いあざができていた。少女は目を閉じたままである。
「巫女を守れず申し訳ありません」
青年が頭を下げて謝っていた。四人は巫女を見降ろしたまま無言だったので、トルメンタが代わりに聞いた。
「巫女の体は大丈夫ですか？」
「はい、三月もすれば巫女の勤めをすることもできるようになるでしょう」
王子の魔力はかなり減っていた。きっと治癒魔法をかけ続けているせいだろう。世界的にも治癒魔法が使える者は少ない。雷獣の国でも、王族しか使えない魔法である。小さい怪我や傷くらいならすぐ治るが、全身の損傷となるとすぐには治らない。何日もかけて魔法をかけ続ける必要があった。事故にあった時、少女はかなりひどい状態だったのだろうと、トルメンタは思った。
アマンザは、巫女がそのうち元気になると聞いてほっとしていた。
「ソル、ネックレスは彼女が元気になってから渡す？」
「うん」
「それがいいね」
ルチアは巫女の頭をなでなでしていた。ルチアはソルに自分もしろというようなジェスチャーをしていたので、ソルもそっと巫女の頭をなでた。
その時である。ばっとソルの脳裏にある映像が飛び込んできた。
金髪のおさげの少女はソルが選んだ巫女である。巫女に、他の少女達が詰め寄っている映像だった。
「巫女を辞退しなさい」
相手の少女がびしっと言っていた。
「私は、ソル様が選んでくださったから……」
「今まで何もしてこなかったくせに、いきなり巫女だなんてあり得ないわ。神様は気まぐれであなたを指名しただけよ。一族の学園にも通っていないくせに。しかもまだ大人でもない。全部あり得ない。辞退すべきよ」
「そうよね。ヒルデリア様の巫女ウーラ様は学園一の才女だったし魔法においても上級クラスの持ち主。あなたは何もないじゃないの」
「あなたにはふさわしくない。辞退するべきだわ」
「一体何をしているの？」
そこにヒルデリアの巫女がやってきた。
「私達、彼女を励ましていたんです」
「そうですよ」
その場はそれで少女達も去って行った。
「私が巫女をしても本当にいいんでしょうか？」
少女はヒルデリアの巫女に聞いていた。
「もちろんよ。ララ、神様が選んでくださったんだもの。あなたには、素晴らしい素質があるのよ。陛下にも相談したのだけれど、学園に通いましょう」
「私が学園に？」
「そうよ。ここでお祈りするだけではなく、様々なことを勉強してほしいの。あなたはまだ子供で、大人になるまでにまだ二十年ほどあるわ。一気にいろいろなことをしなくてもいいの。徐々に習っていきましょう。先は長いのだから」
「はい」
ララはうれしそうだった。
「私が学園に通うなんて夢みたいです」
ところが、一族の上級にいる少女達はあきらめなかったようだ。
「まだやる気なら、できないようにしてやるしかないわね。巫女も、次の王妃の座も、私のものよ」
ほくそ笑んでいたのは、先ほど神殿で出会った少女だった。
（どういうことなんだ？ これは一体……）
ソルの脳裏に次々と映像が流れ込んできた。人々が言っている言葉も理解できた。ソルが選んだ少女は、他の少女達の反感をかったようだ。
少女に指示された者が馬車につながれた馬に何かをかがせていた。そのせいで馬車は暴走し、通りを歩いていた巫女はそれに巻き込まれた。他に五人ほど怪我をしていたが、巫女の怪我が一番ひどく、馬に蹴られて馬車の車輪にも踏まれていた。巫女はすぐに病院に運ばれて、王族の者が魔法を使った。それがなければ、巫女は死んでいただろう。
ソルは巫女から手を離した。
「帰りたい。神の国に帰りたい」
ソルがぼそりと言った。
「うん。帰ろう」
四人は再び馬車に乗って神殿に戻った。神の国に戻るには、ヒルデリアの力がいるからである。
神殿に戻ると、巫女の代理という少女が近づいてきた。
「ソル様、どうか代理として雷の巫女に指名していただけないでしょうか」
少女は膝を突いて懇願している。ソルには少女が言っていることはわからなかったが、ぼそりとつぶやいていた。
「え？」
アマンザとトルメンタがソルを見た。
「とにかく、帰りましょう」
トルメンタは神殿でヒルデリアに連絡をつけて、神の国に戻してもらったのだった。
神の国に戻ると、ヒルデリアがソルを気遣うような言葉をかけた。だが、ソルの頭の中はそれどころではなかった。
本当に彼女のせいなのか？
僕が彼女を巫女にしなければ、あんなことにはならなかった。
全部、僕のせいじゃないのか？
僕の……
ソルは初めて人間の悪意を感じて、混乱してしまったようだった。
「ソル！」
「ソル？」
ソルの神気がごっそりと減り、姿も変化していた。ソルは元の妖精の姿に戻ってしまった。
「な……ソル、どうしたの？」
周りは皆驚いている。
「僕には神様は向いてないみたい。下に降ろしてください」
以前とは違い話はできるようだが、なぜ妖精に戻ってしまったのか、ヒルデリアもアマンザもさっぱりわからなかった。
「ソル」
「降ろしてください」
「わかったわ。落ち着いたら話をしましょうね」
ヒルデリアはカサンドラの神殿近くにソルを送った。
「一体どういうことだ？」
ヒルデリアは三人とトルメンタを見回して聞いた。だが戸惑っているのは三人も一緒だった。ルチアは首を横に振り、マチルダも首をかしげていた。
「最後にソル、気になることを言ってたよね。巫女の代理の少女に」
アマンザがトルメンタに聞いた。
「そうですね。僕は君が嫌いだって」
「巫女の代理とは？」
ヒルデリアが聞いた。
「あそこに行ったら、雷の巫女の代理の少女がいたんです。ソルは去り際、その少女に向かって嫌いだって言ってました」
「そうなのか。うーむ、まあとりあえず、三人とも今日はご苦労だった。地上に降ろそう」
ルチアは、待ってというようなジェスチャーをして、トルメンタをひょいと抱き上げていた。
「ルチアは雷獣を一杯だっこしたかったんだもんね」
アマンザがいうと、ルチアはうなずいていた。ルチアはトルメンタを10秒ほど抱っこして降ろし、ヒルデリアは三人を地上に降ろした。
「……馬車が暴走したとのことだが、ほんとうに事故なのかのう。もしかしたら、故意にされたものかもしれんな」
ヒルデリアはトルメンタと二人になってから言い出した。
「だとすれば、許されないことです。ですが王族の者は彼女を助けようと必死でしたよ」
「巫女は、国での地位が高い。妬んだ者の嫌がらせの可能性があるな。困ったことになったのう……」
ソルが元の妖精に戻ってしまった。この件は、神々を驚愕させた。
だれが聞いてもソルは理由を話さなかった。
それを聞いたハロルドはあわててアシュランに会いに来ている。
「アシュラン、一体どういうことだ。ソルが妖精に戻ってるじゃないか！」
「私にもさっぱりだ」
アシュランも困った表情だった。
「巫女が原因と聞いたぞ。巫女を、癒やしの泉にいれろ。それしかない。早く巫女を元気にしろ！」
「私も彼女の様子を見たが、治癒魔法がよくきいているし、もうしばらくすればよくなると思う。ヒルデリアが怪我によく効く薬を送ると言ってた。それに巫女が元気になればソルが神に戻るとかいう単純な物じゃないと思う」
「じゃあ原因はなんなんだ」
「さあ、わからん。ソルは繊細だからな。頭の中を探ろうと思えば探れるが、あんまりそういうことはしたくない。しばらくそっとしておこう」
「しばらく？ そうこうしている内にアレが来るんだぞ。さっさとなんとかしないと」
「わかってる」
その頃人間界、虎の国、バートランドはまだロイと一緒に虎の国にいるのだが、バートランドが持っていた雷神剣が突然抜けなくなった。
「え？ どうしたんだろう？ 俺が持ち主じゃなくなったとか？」
バートランドにはさっぱりわからない。
今年も終わりが近づいてきて、ゆりはようやく神の国に行く事ができた。手には袋の紐がまきついている。精霊の涙が入った袋だった。ゆりはいつ神の国にいけるかわからなかったので、数日袋の紐を手につけて寝ていたのだった。場所はガーベラの神殿だった。
「手に持っている物が来るのって不思議よね。服はなんでこないんだろう？ 謎。とりあえず、ジェラルドにこれを渡してー」
ちょうどいい具合にクーリーフンがやってきた。
「いいところに。ジェラルド工房につれていって」
「お母さん、神の国は今それどころじゃないんだよ。大変なんだ」
クーリーフンが困ったように言っていた。
「え？ 何があったの？ ガーベラにまた何かあった？」
「お母さんは元気だよ。ソルだよ。ソルが妖精に戻っちゃったんだ」
「え？ なんで？」
「おまけに、アマンザも小さくなっちゃった」
「はあ？」
クーリーフンはとりあえず、自分が知っている情報をゆりに話した。ソルが人間界に行き、雷の巫女を選んだこと、その巫女に贈り物をしようとして再び行ったら、その巫女が怪我をしていたことをである。
「それでソルはショックを受けて妖精に戻ったっていうんだよ」
「はあ。アマンザは？」
「アマンザは……詳しく話してくれないんだけど、一緒にショックを受けたとか、そんな感じで」
「なんかおかしくない。それ。ちゃんと話を聞いたの？」
「もちろんいろんな神がソルに話を聞こうとしたよ。でも、ソルは何も話してくれなくて。アシュラン様は、ソルが人間と交流するのが早すぎたかなって言ってた」
「はあ……とにかくよくわからない。私が二人に会ってみるわ。ちょっとこれ神殿においといてくれる？」
ゆりは袋を棚に置いた。
「まずはアマンザに会いましょう」
「うん。頼むね」
ゆりはクーリーフンに抱っこされてまずはアマンザに会いに行った。ゆりはぶどう農園にいるアマンザを発見した。
「やだ、懐かしい！」
そこにいたアマンザは生まれた頃のアマンザだったのでゆりは懐かしかった。
「お、お母さん……」
アマンザは視線を下げていた。
「クーリーフン、ちょっと二人にしてくれる？」
「うん」
ゆりはアマンザの手を引っ張って行き、農園の近くにあったベンチに座った。
「アマンザ、何があったか話してちょうだい」
「…………」
「雷の巫女が怪我で入院しているのよね。それでどうしてアマンザがショックを受けるの？」
「僕が、ソルに巫女を選んだらって言ったんだ。だから、僕のせいなんだ」
「アマンザのせいじゃないでしょう。その子が事故にあうかどうかなんてわかるわけないんだから。他に理由があるんじゃないの？」
「……ソルに聞いたら、ようやく話してくれたんだ。ソル、巫女に何があったかみえたんだって。彼女は、巫女になりたい女の子に殺されそうになったんだ。ソルはそれを自分のせいだと思ってるんだ。僕があんなことを言わなかったらよかったのに……」
アマンザはしくしく泣きだしてしまった。ゆりは唖然としている。まさか同族の者に殺されそうになるなんて、蛇の国では考えられないことである。
「そうなの。辛かったわね。アマンザ、ソルも一緒にお話をしましょう。アマンザにも聞いてほしいから一緒にきて」
「うん」
アマンザは涙を拭いた。
「ソル、サントスの近くにいるといいけど」
ゆりはアマンザの手を握りしめてサントスの元に移動した。場所はカサンドラの神殿の外だった。近くにサントスがいた。
「サントス、ソルはどこにいるかしら」
「畑にいると思うよ」
「案内して、三人で話がしたいの」
「うん」
ゆりはアマンザの手を握ったまま、サントスについていき、畑の真ん中に座っているソルを発見した。畑にはいろいろな種類の野菜が植えてあった。
「ありがとう」
ゆりはサントスに言って、アマンザと一緒に畑に入っていった。ソルはこちらに気がつくと逃げて行こうとしていた。
「ソル、あなたの巫女は、巫女をやめたいって言ったの？」
ゆりが聞いた。
ソルが足を止めた。
「言ってないのにあなたが先に逃げるなんてどういうことなの？」
「…………」
「あなたには、彼女を巫女にした責任があるでしょ」
「だから……僕のせいで彼女が傷ついたから、全部僕のせいなんだ」
「それは人間達のせいで、あなたのせいじゃないのよ」
「僕は、神に向いてないんだ」
ソルの声は震えていた。
「向いてるとか向いてないとか、あなたが決めることじゃないのよ。とりあえず、あなたは自分の巫女を任命した。彼女はまだちゃんと生きているんでしょう？ それなのに逃げるの？ 彼女が元気になったとき、だれに祈りを捧げたらいいの？ 彼女に再び害が及ばないように、守ってあげないの？」
「守る？ 僕にはそんな力はない」
ソルは泣きそうである。
「僕には雷を作る力しかないんだよ」
「ソル、何を言ってるの。あなたは立派な神だったじゃない。神として、人間に神託を授ければいいの。あなたが人間界に降りた時、人間達はあなたを敬っていたでしょう？ 人間には偉そうにするくらいでいいの。ハロルドとか参考にすればいいわ。ちょっと待って、私がセリフを考えてあげるから」
手をつながれたままのアマンザは、ぽかんとしてゆりを見ていた。ソルもそうである。巫女を守るなんてことまでは、考えていなかった。
「私はすべてを知っている。私の巫女がなぜ傷ついたのか、すべて知っているのだ。もし再びこのようなことがあるのならば、それは私への侮辱として受け取る。私はもう二度と、この地に降りることはないだろう。……どう？」
ゆりはアマンザに聞いていた。
「え」
「今のどう？」
「どう……かな」
アマンザも首をかしげている。
「ソルはどう思う？」
「え……さあ……」
「とりあえず、練習しましょう。私が言うセリフを言ってみて」
「え……」
「あなたが言わないと意味がないでしょう？」
「でも」
「私はすべて知っている。はい」
「…………」
「ソル、練習しなきゃ。自分は偉い神だ、って気持ちで言うのよ」
「僕はもう神じゃないし」
「逃げちゃだめよ。とりあえず、あなたは巫女が傷ついたのは自分のせいだと責任を感じているんでしょう？ なら、彼女のことを守ってあげなきゃいけないわ。あなたの言葉一つで守れるのよ？」
「……本当に守れる？」
「もちろんよ。いい、ハロルドを参考に、自分は偉い神だ、って気持ちで言うの。私はすべて知っている。はい」
「私は、すべて知っている」
ソルはもぞもぞ言っていた。
「もっと偉そうに。上から目線で。胸を張って、そうね。足を開いて堂々と立って言ってみて」
ソルは足を開いて胸を張ってみた
「私はすべて知っている」
「いい感じよ。ハロルドやアリアスを参考にして。自信満々でえらそーに言うのよ。私はすべて知っている。私の巫女がなぜ傷ついたのか、すべて知っているのだ。もし再びこのようなことがあるならば、それは私への侮辱として受け取る。はい、言ってみて」
ゆりはソルに何度も練習させた。すると、ソルもそれらしくなってきた。
「どう、アマンザ、いい感じじゃない？」
「うん。いい感じになってきたよ」
「じゃあソル、そのセリフ、神の姿で言ってみて」
ゆりが言うと、ソルはどきっと肩をふるわせていた。
「お母さんは、僕が神にふさわしくないって思わないの？」
「全く思わないわ。神に必要な事ってなんだと思う？」
「さあ」
「それは、良い神でいたいって気持ちがあるかどうかだと思うの。立派な大人の神だって、失敗したり、悔やんだりするのよ。完璧な神なんていない。あなた達は生まれたばかりじゃない。いろいろ経験して、成長していけばいいの。目の前にあることを一つ一つ解決しましょう。まずは、あなたの巫女が、安全であるように、あなたが手助けしなきゃ。神としてね」
「……うん。わかった」
ついにソルはうなずいた。ソルの神気が一気に膨れ上がり、ソルの姿が再び神の姿へと変わった。
「よし！ アマンザ、ソルが変わったんだから、あなたも元に戻りなさい」
ゆりがアマンザに言った。
「うん」
アマンザも元の姿に戻った。
「服きつい？ 大丈夫？」
「余裕があったから大丈夫」
「僕も」
「じゃあ、その姿で練習よ。えらそーに言うことを忘れないで」
「う、うん。私はすべて知っている」
ソルは両足を開いて胸を張り、セリフの練習をしていた。ゆりはこっそりアマンザに（ガーベラに説明しといてね）と耳打ちしたのだった。
神の国では翌日になり、ソルとアマンザがヒルデリアの神殿にやってきた。ヒルデリアはソルが神に戻ったことをとても喜んでいる。ソルの計画はすでにヒルデリアに伝えられていた。ソルはゆりが去った後、ずっとセリフの練習をし、アマンザもそれに付き合い、ガーベラはアマンザからこっそり事情を聞いて、途中からサントスやカサンドラも加わっていた。
「神託は国王に聞かせるのがいいだろう」
とカサンドラが言ったので、ヒルデリアは自分の巫女を通して国王を呼ぶようにと伝えていた。
国王にヒルデリアの巫女、雷の巫女代理が部屋にいた。
ソルはヒルデリアの部屋にある水晶玉に手を当てた。
「ソル、がんばれ」
アマンザは小声で応援している。
ソルは足を開いて胸を張った。
「これより私の言葉を伝える。私はすべてを知っている。私の巫女がなぜ傷ついたのか、すべて知っているのだ。もし再びこのようなことがあるならば、それは私への侮辱と受け取り、私は再びその地に降りることはないだろう。以上だ」
ソルは水晶玉から手を離した。
「よかったよ。ソル」
アマンザは手をたたいていた。
（お母さんにも見せたかったよ）と思いながら。
ヒルデリアは水晶玉に軽く手をあてて、雷獣の国の様子を映していた。
国王はソルの言葉に驚愕している。
「一体どういうことだ？ あれは事故ではなかったのか？」
後ろでは、巫女代理でいた少女が震えていた。国王はそんな少女の様子に不信を抱いた。
「そなた、何か知っているのか？」
「いえ……私は……」
少女は逃げようとしたが、国王はすぐに少女を捕まえて額に手をあてていた。国王には心を読む力があるようだ。やがて国王はわなわなと震えていた。
「馬鹿者！ お前はなんということをしたのだ！」
「申し訳ありません！」
少女は泣いて平伏していた。
国王はその後巫女の様子を見に行ったが、巫女は起き上がれるまで回復していた。国王は巫女の様子にほっとしている。
「元気そうだな。よかった。今回は、巫女を守れなくて申し訳なかったな」
「いえ、事故なのですから、仕方ないですよ。私、ハロルド様から元気になる水や薬草をいただいたり、ガーベラ様に顔を綺麗にしてもらったり、本当に幸せです。ガーベラ様は息子の巫女だからっておっしゃってましたが、ハロルド様はどうしてなんでしょう」
どうやら、事故の後ガーベラやハロルドが直接来たようである。巫女の顔は綺麗になっていた。
「そうなのか。神二人に会えるとは、うらやましいのう」
「早く元気になって巫女としての務めを果たしたいです。ガーベラ様にも、がんばってねって言っていただきました。すっごくうれしかったんです」
「ソル様も喜ばれることだろう」
国王は巫女に笑顔を見せてから城に戻った。巫女を排除しようとした少女とその両親は一族の格をかなり落とされることになり、少女の取り巻き達には厳重注意が下ったのだった。
「よかったー」
神の国で大喜びしていたのはハロルドである。
「クーリーフンに聞いたが、あっちのガーベラが説得してくれたらしい」
（お礼に二個送っとくか）
アシュランはゆりの木箱の花の飾りを増やすことにした。
「そうなのか？ とにかくよかった」
ハロルドは、戦力が元通りになったのでかなり喜んでいた。
そんなことがあって翌日、アマンザが猫のリーファを抱っこしてソルの元にやってきた。
「お母さんに報告に行こう」
「え？」
「僕に触って」
「？」
「リーファ、頼むよ」
「ニャーン」
二人と一匹は移動した。移動先は、蛇の国の城である。
その時ゆりは、部屋でおやつを食べていた。ジロウもいる。ゆりもソルのその後を気にしていた。
「ワンワン」
ジロウはリーファに会えて喜んでいた。
ソルは、なぜここに来たのかさっぱりわかっていなかったが、アマンザはかまわずに、「お母さん、ソルうまくできたよ」と言っていた。
「ほんと？ よかった」
ゆりもつい言っている。
「もう言う頃合いだと思ったんだ。ソル、お母さんは二人いてね。時々この人間の女性がお母さんになっているんだよ。この前セリフの練習をしたときいたのもこっちのお母さんなんだ」
アマンザが説明した。
「え？」
「前に、この人は特別だって言ったでしょ？ お母さんだから特別なの」
「え……えええええー！？」
ソルはのけぞっていた。
そしてバートランドの雷神剣は再び抜けるようになっていた。
「一体なんだったんだろう」
バートランドは自分の国で騒動が起きたことは知らないまま、「まあいいか」と雷神剣を鞘にしまったのだった。
つづく
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