第44話
1の月半ば、ロイがバートランドと一緒に蛇の国に戻ってきた。
「雪がすごいって聞いたから、僕も雪かきとか手伝った方がいいかなって思って戻ってきたんだ。雪がない！ すごい！」
ロイは、城の外に出て驚いていた。城の周りは全く雪がないが、その外は一面銀世界である。
「すげー雪だ」
「虎の国は雪は降らなかったの？」
シスが聞いた。
「今年は寒いって言ってたけど、雪が降るほどじゃなかったよ」
ロイが答えた。
「城の周りは雪がないなんてすごいね。これって、もしかしてムサカさんの魔法？」
ロイが聞いた。
「そうだよ。すごいよね」
「すげーさすがだね」
「ロイはいつまでいられるの？」
ラギが聞いた。
「ずっといるよ。虎の修行は一段落ついたって先生が」
「そうなんだ」
バートランドは王の間に呼ばれて、ラクシュミからロイの世話をしているお礼を言われていた。バートランドは恐縮がっている。バートランドは再びミカエルの屋敷で世話になることになった。
そのバートランドも城の外に出て驚いていた。
「すげえ。城の周りだけ雪がない。結界に合わせて温度を調節してるんだ。王様すごー！」
バートランドはラクシュミの魔法かと思ったようだ。
「これは父様の魔法じゃなくてね」
ロイが暴露しようとし、ラギがロイの口に手をあてていた。
「また闘技場で稽古をするんですか？」
ラギがロイの口に手をあてたまま聞いた。
「雪が降ってる間は雪かきを手伝おうと思ってね。あれは体の鍛練にもいいし、ところで、この雪かきだれがしたの？ すごいね」
バートランドは城の正門から道ができていることに気がついた。その両側には雪の壁ができていた。
その雪の壁も、1メートル以上積み上がっている。この雪かきも二度目がされていたのである。
「ほんとだ。すごい！」
ロイも道に出て来て感嘆している。
「だれがしたの？ ムサカさんの魔法？」
「違うよ。してくれたのは、えーと、僕たちのお兄さん的存在の人だよ」
ラギが言った。
「お兄さん的存在って？」
ロイが聞いた。
「今は西の道を雪かきしてくれてる。邪魔しちゃだめだってお母さんが、ってちょっと！」
ラギが言ってる間にもロイは飛んで行ってしまった。
「俺もその人に会いたいな。連れて行ってくれる？」
バートランドが聞いた。
「全くロイったら……シス兄さん行ってきて」
「うん。先生一緒に行きましょう」
シスはバートランドを連れて西に移動した。
西の雪かきはほぼ終わりかけていた。街の近くに移動して、ロイはようやくヴォルフを見つけていた。
「すげえ！」
ヴォルフは大きなスコップでぽいぽい雪をかいては投げていた。しかもかなりのスピードである。近づくと危なそうなので、ロイは少し離れた所からそれを眺めていた。ちなみに寒いのに上着も着ていないが、あまりの光景に寒さも忘れている。
「かっこいい！」
遅れてシスとバートランドがやってきた。
「すげえ」
バートランドもヴォルフを見て感嘆していた。
「彼は、人間ではないですよね？」
バートランドが聞いた。
「妖精さんですよ」
「妖精」
（妖精がなぜこの国の雪かきをしてるの？）
バートランドにはさっぱりわからない。
―彼はガーベラ様の子供だよ。ここ数日ずっと雪かきをしてくれてるんだ。彼は母様のこと、本当にお母さんだって思ってるんだ
シスはロイに思念で話しかけた。
―そうなんだ。すごい妖精だね
三人は雪かきをみていたが、やがて一段落ついたところでヴォルフがこちらを見た。途中から気がついていただろうが、雪かきに専念していたのだろう。
「お兄さんすごいね。僕、ロイだよ。よろしく」
ヴォルフの手が止まったので、ロイが近づいて話しかけた。
「銀色の髪だから、本当にお兄ちゃんでもいいくらいだね。ははは」
ロイは愛嬌たっぷりに言っていた。ヴォルフは近づいて、ロイの頭をなでていた、が結構無表情なのである意味怖い。ヴォルフはバートランドを見た。ヴォルフがもっているねぼすけの瞳、その瞳ではバートランドを見たことがあった。
「俺はバートランドです。雷獣の国の者です」
「あいつの子供？」
「え？ あいつ？」
「聖地にいる、えーと、スペード」
「スペードは俺の師匠ですよ。師匠のこと知ってるんですか？」
「うん」
「なら話が早い。ちょっと話があるんですが聞いてくれませんか」
バートランドが真剣な表情で言った。
「……この人、お母さんとなんか関係ある？」
ヴォルフはロイとシスに聞いていた。
「関係ありますよ。バートランドさんは、ロイの先生ですから。お母さんも彼のことは好きですよ」
シスが答えた。
「ふーん、ならいいけど」
「とりあえず城に戻りましょうよ。ここだと寒いし、お母さんが、ヴォルフ様にお礼を言いたいって言ってましたよ」
「僕は別に、頼まれてしたわけじゃないから……」
ヴォルフはちょっと照れた様子である。
「とにかくみんなで城に行きましょう」
シスはラクシュミに断りを入れてから、城に移動した。
とりあえず全員でゆりの部屋に行った。
「ヴォルフ君、いっぱい雪かきをしてくれてありがとう」
ゆりはヴォルフの手を握ってお礼を言っていた。
ヴォルフはちょっと照れた様子で、「別に……」と言っていた。
「遊んだだけだから」
「本当にありがとうね。ロイとバートランドさんはおかえりなさい。また虎に行くの？」
「しばらくはここで修行を続けたいと思ってます」
バートランドが答えた。
「そうなんだ。修行代わりに街の雪かきを手伝ったら？」
ゆりがロイに言った。
「うん。そうする」
「先生がヴォルフ様にお話があるって、ちょっと客間に連れて行くね」
シスが言った。
「そうなの？ またね」
シスが二人を客間に連れて行った。
バートランドと二人きりになると、ヴォルフはとたんに無表情になっていた。
（この人、よっぽど王妃様が好きなんだな。なんてわかりやすいんだ）
とバートランドは思った。
「ヴォルフ様は、かなり強い方ですよね。もしかして、今度あるという大きな戦いに、出陣されるんですか？」
バートランドは、あのヴォルフの雪かきを見ただけで、ヴォルフがかなりの怪力で、強いということはわかっていた。これほどの強さならば、ハロルドのお呼びがかからないわけがない。
「失礼なのはわかっていますが、どうか、ロイ君を鍛えるために力を貸していただけないでしょうか？」
ヴォルフが瞬いた。
「大きな戦いの際、人間界にも魔物が現われるかもしれないんです。ハロルド様は、ロイ君に戦わせるつもりで、俺もロイ君の力を引き上げるためにいろいろ稽古をつけたりもしたんですが、相手が人間ではなく魔物なだけに、俺一人の力では限界があるんです。もっと強く恐ろしい者の相手をさせたいんですよ。俺はその時多分違う場所で戦うことになるだろうから、ロイ君を手伝うことはできないんです。どうか、力を貸してください」
バートランドは頭を下げた。妖精に頼るなどハロルドに怒られるかもしれないが、今一番重要なのは、ロイの力を上げることだった。
「あの子を、魔物と戦わせる？」
「それを見据えて、俺はロイ君に稽古をつけているんです。人間界にどれほどの魔物がやってくるのかわかりませんが」
「やっぱあいつ嫌いだな」
ヴォルフはぼそっと言っていた。
「ロイ君にはハロルド様の加護がついているんです。今はその加護の力はありませんが、その時には普通の人間よりも戦えるはずです」
「ふーん、まあ強いに越したことはない。あの子のことはいいよ。ところで、君が死んだらお母さんは泣くのかな」
ヴォルフはバートランドを見て聞いた。
「お母さん？」
「さっきいた……」
「王妃様ですか？ 多分泣いていただけると思いますけど」
バートランドはいろいろ疑問に思いながらも聞いた。
「そっか。君達は魔物を見たこともないんだろう？ 魔物と戦うなんて、勇気がいると思うよ。人間界にそうそう強いのはこないと思うけど、何が起こるのか、僕にも予想はできない。とりあえず、明日の朝、城の前に来るよ」
「ありがとうございます」
バートランドは喜んで頭を下げた。
「じゃあ、僕はこれで」
ヴォルフは姿を消してしまった。
「あードキドキした。しかし、王妃様がお母さんってどういうことなんだ？」
バートランドはミカエルの屋敷に行き、ミカエルと再会を喜びあってから、そのことを聞いてみた。
「え」
ミカエルもかなり返答に困ったのだった。
城では、ロイが双頭の蛇ジャッツーにあって驚いていた。
「すげえ、かっこいい！」
「ははは、しかし、ゆりさんの子供達は、いろいろで面白いな」
ジャッツーは笑っていた。
「しゃべってる！ すげえ！」
「すごいでしょ」
ミシェイラが自慢げである。
「ミーとレーちゃんが連れてきたんだからね」
「すげえ、クロスも大きくなったね」
クロスはジャッツーの胴体に乗っていた。クロスはジャッツーがかなり好きなようで、姿をみかけると体に乗っている。
「クロス僕のこと覚えてる？」
ロイがクロスに聞いた。
「お兄ちゃんだよ。お兄ちゃん」
クロスは知らんぷりしてきゃっきゃと笑っていた。
ロイが元気に帰ってくれてゆりは喜んでいる。
「アナスターシャにも会いたいね。元気でがんばってるかな」
ゆりが過去の時代でのアナスターシャを想像していると、ロイがやってきた。
「母様、あのヴォルフ兄さんが明日稽古をつけてくれるんだって。あの人ってガーベラ様の子供なんでしょ？」
「うん。稽古をつけてくれるってヴォルフ君が言ったの？」
「先生が頼んだみたいだよ」
「そうなんだ。ヴォルフ君ってば、本当に優しいんだから」
「明日の朝来るとしか言わなかったから、詳しく何時に来てくれるかわからないって言ってた」
「そうなんだ」
翌朝、城の結界内で、バートランドもロイも準備運動や軽く剣の打ち合いなどをしながらヴォルフが来るのを待ち、ヴォルフが来てから、どこかに連れて行かれた。
「ザザーン……ザザーン」
と何かの音が聞こえてきた。目の前に真っ青な色彩が飛び込んできた。
「え？ ええ！ これって、もしかして、噂に聞いた海！？」
ロイはかなり驚いていた。目の前に大量の水があり、動いている。自分達は砂浜にいた。一面砂だらけで歩きにくい。
バートランドも口を開けていた。明らかに蛇の国からかなり離れた場所である。
「すげえ、海だ……」
ロイは海を見るのは初めてだった。結構暖かかったので、ロイは上着を脱いでいた。
「すげえ。すげー！ あそこにあのイカがいるのかあ」
「あのーここはどこなんでしょうか」
バートランドが恐る恐る聞いた。
「南」
ヴォルフが答えた。
（すげえ、ざっくりしてるー！）
あたりに人の姿は見えないようだ。
「人がいないところがよかったから。じゃあ今日は、僕が追いかけるから君達は逃げなよ」
海を見ていたロイがヴォルフを見て、「え？」と瞬いていた。ヴォルフの頭は金色の狼のような頭になっていた。
「え、ええ！？ お兄ちゃん、変身できるの？ すごい！」
あっという間にロイはヴォルフに捕まっていた。
「逃げなきゃ」
「あ、はい」
ヴォルフはロイを離して、バートランドを見た。
「剣を抜いてもいいよ」
「はい」
ヴォルフは丸腰だったが、顔が獣なだけに、向かってくるだけで結構恐ろしかった。バートランドは剣を抜いたが、剣をはたき落とされてすぐに終わった。バートランドにはハロルドの加護がついてはいない。スペードのようにヴォルフの相手をするのは無理があった。
ヴォルフは今度はロイを見た。
「あ、逃げなきゃ」
走ろうにも砂浜は走りにくい。国の外では瞬間移動もあまりできなかった。飛んでみたが、5メートルほど先に移動しただけだった。ヴォルフは素早く走ってロイにおいついていた。
「魔法攻撃とかしてもいい？」
「いいよ」
ヴォルフはロイから離れてバートランドに向かって行った。なんといっても、動きの素早さがバートランドとは段違いである。魔法攻撃なども難なくかわされ、剣もまったく届かなかった。
（ちょっと待て、魔物って、こんなクラスじゃないだろうな。相手どころか俺でも死ぬわ）
バートランドは早い段階からもはや青ざめている。三時間も経つ頃には、ロイもバートランドもへろへろになっていた。
「じゃあ帰ろう」
ヴォルフの方はまったく疲れてない様子である。顔は元に戻っていた。
「じゃあ、三日後にまた来る」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ヴォルフは二人を蛇の国に連れて来て消えた。
「お兄さんすごかったな」
「対抗できるのはハロルド様くらいだと思う」
「次はもっと逃げられるようにがんばるぞー」
ロイは楽しそうだった。
（ロイ君は魔物のことなんてまだ知らないんだもんな。ああ。なんだか気が重くなってきた。だが、やるしかない）
「そうだね。午後は、街の雪かきの手伝いをしようか」
「はーい。先生ミカエルの屋敷に連れて行きましょうか？」
「頼むよ」
ロイはバートランドを連れて行ってから、ラクシュミに呼び出された。
「どこに行ってたんだ？」
と聞かれたロイは、「南」と答えている。
「南ってどこだ？」
「さあ。父様、ヴォルフ兄さんすごかったよ。すっごく強くて、速くて、とにかくすごかったんだ」
「そうか。ロイには師匠運でもあるんじゃないか？ 次々に強い人が見てくれてるじゃないか」
「師匠運？ そうかー。僕にはそういう運があるのかーすごい！」
ロイは自分で感動している。
「ロイ、ちゃんとお礼を言って感謝しなきゃだめだぞ」
「うん。わかってる。あのお兄ちゃん、むちゃくちゃかっこよかったよ。母様にもはなしてこよっと」
ロイは王の間を出て行った。
「ロイはゆりの強運を継いでるのかもな」
ラクシュミがつぶやいていた。
ロイが強くなるにあたっては、この国の者だけではなく、様々な者がロイに関わってきた。その一人に、ヴォルフも加わることになるようだ。
神の国に戻ったヴォルフは、子供の姿でカサンドラの神殿にやってきた。そして神殿の外にいたカサンドラに、「聞きたい事があるんですけど」と声をかけた。
「何かな？」
「前回の聖戦で、人間界にはどんな魔物がきたんですか？」
「え？」
人前でできる話ではなかったので、カサンドラはヴォルフを神殿の中に入れた。
「どうしてそんなことが気になったのかな？」
「だって、僕も戦いの名簿だかにのってたんでしょ？」
「ああ、そうだったな。ヴォルフは戦いに出る気なのか？」
「多分。人間界にも強い魔物が来るの？」
「あの戦の最中、人間の精神を狂わせる魔物が人間界のあちこちに現われてな、そのせいで人間界が混乱してしまった。大量の魔物がはずれに現われたせいか、人間界の守りにも隙ができたようだ。あの時は、最終的にはオルガやアリアスが人間界に降りて魔物を排除した。戦いの最中は神の国からも力が送られている。アリアスが人間界に降りたので、その力も弱くなってしまったようだ。ハロルド達の戦いにも影響した」
「次はどうするの？」
「前回よりも神々が増えているから、神の国の力は強化できるだろう。人間界には、今回は光付与をつけた武器をあちこちに配り、人間にも対処させるとハロルドは考えているようだ。それから精神異常を回避する物をキュリアが作ってみている。うまくできたらいいな」
「人間が魔物と戦えるのかな」
「そう強い魔物は現われないとは思うがな。もし人間に対抗できない物が現われたならば、その時は神が誰か降りることになるだろう」
「そっか」
「ヴォルフは、大人になれるそうだな。大人になれる時間の制約などはないのか？」
「さあ、どうだろう。疲れ切ったら子供に戻っちゃうかも」
「そうか」
「カサンドラはいるかー？」
男の声が聞こえてきた。ハロルドである。ハロルドが部屋に来ると、ヴォルフは消えていた。
「今ヴォルフがいたんだ」
「そうなのか？ あいつ私を避けてるんだ」
「戦のことを気にしてたぞ。人間界にどんな魔物が現われるのか、とか」
「そうなのか？ どうしてそんなことを気にするんだろう？」
「あっちのガーベラのことを気にしてるんじゃないのか？ ヴォルフは、あちらのことも慕ってるんだろ？ クーリーフンに聞いたぞ。なんでもルチアと雪かきをしてあげたらしい」
「え？ 雪かき？ ヴォルフが？ しかもルチアを連れて！？ まさか頼んだんじゃないだろうな」
ハロルドはかなり驚いている。
「ヴォルフが自主的にやったんだろう。優しいじゃないか」
「うーむ。私との対応の差がすごい」
ハロルドは考えるように腕を組んでいる。
「最初の対応はまずかったかもしれんが、ちょっとは心を開いてくれてもいいと思う」
「ま、いいじゃないか。妖精は自由なものだ」
「そうだけどな。少しは……」
ハロルドはぶつくさ言っていた。
人間界蛇の国では、バートランドとロイは夕方まで街の雪かきを手伝っていた。屋根の上の雪を下ろしていたら、顔見知りの風の妖精がやってきた。
「バートランド君だ、しばらくどこに行ってたの？」
「虎の国ですよ」
「そうなんだ」
「雷獣の国は、雪は積もってます？」
「結構積もってるよ。ここよりすごいかもね」
「そうですか」
「雪よりも結構な事件があったんだよー。ソル様が選んだ雷の巫女がいたんだけどね、身内の嫉妬で殺されそうになってさ」
「はあ！？」
バートランドは途中で驚きの声をあげていた。
「王子達が回復魔法を使いまくって、巫女は助かったんだよ。ソル様怒っちゃってさ。次にこんなことがあったら、あの国には二度と行かないって言ったんだよ。巫女ちゃんは今は元気になったからよかったけどね」
「そりゃ事件だ。それって去年のことですよね？」
「そうだよ」
（雷神剣が使えなくなったことが関係しているのかな）
バートランドはそれに気がついた。
「詳しくは来月聞こう、巫女様が元気になってよかった。ソル様、また会ってくださればいいけど」
雷獣の国の者が一番得意なのは雷魔法である。雷の神にそっぽを向かれるなんてシャレにならない話である。風の妖精は去って行った。
風の妖精が去ってから、ロイがバートランドの側に来た。
「今ソル様がお城に来てるって」
「え？」
「先生と雷遊びがしたいって言ってるみたいだよ」
「遊びます。遊びまくりますよ」
バートランドは力強く答えた。
「でも闘技場は雪まみれじゃないのかな？」
「今日はたまたま闘技場の一部の雪をどけてるんだって。行きますか？」
「行きましょう」
ソルはアマンザと一緒に猫に連れてきてもらい、ソルが巫女にあげるネックレスをゆりに見せにきたのだった。金色の雷マークがついたネックレスである。
「ステキー巫女さんも絶対喜ぶよ」
ゆりはソルがこれを見せに来てくれたことがうれしかった。アマンザはお酒を瓶で二本もってきてくれた。
「どうもありがとう。バートランドさんが虎の国から帰ってきたのよ。会いに行く？」
ゆりがソルに聞くと、「雷で遊びたい」とソルが言ったので、ゆりはラクシュミに頼んでロイに思念を回してもらったのだった。
闘技場では、シスが水の魔法で雪を溶かしたりして実験していたので、たまたま闘技場の一角には雪がなかった。
バートランドはソルに会えてうれしそうな顔で「こんにちは」と言った。
「こんにちは」
ソルが人間の言葉で挨拶を返した。
離れた所ではアマンザが微笑んでいる。どうやらソルも人間の言葉を学んでいるようだ。
「じゃあ遊びましょう」
二人は雷を出しまくって遊んだのだった。
「いいなあ。僕も雷魔法を使いたいなあ」
離れた所ではロイとシスも見ていた。
「シスにーは水の魔法が使えていいなあ」
「ふふふ。ロイはそのかわりいろいろすごいからいいじゃない。ハロルド様の加護もあるしさ」
「そうだけどさー。アマンザ様、今日ヴォルフ兄さんがきたんだよ。すっげえかっこいいね。あの人、じゃない妖精」
ロイがアマンザに話しかけた。
「ヴォルフ？ ヴォルフがきたの？」
「うん。追いかけっこした」
「おいかけ？」
「稽古稽古」
「けいこ？」
「かっこいいよね。僕ファンになったよ。髪銀色で僕のお兄さんでもいけるし」
「はあ……」
「アマンザ様もお兄さんって呼んでほしい？」
ロイがにやりとして聞いた。
「え……」
「アマンザにいさーん」
「えー」
アマンザはかなり照れた様子である。
「ロイってば神様をからかっちゃだめだよ」
シスがロイを小突いた。
「だって、みんなお母さんの子供だからさ。僕らの兄弟でもいいじゃん」
「そうだけどさ」
雷遊びが終わったのか、ソルとバートランドがこちらに近づいてきた。
「ソル様、僕、雷が使えるようになりませんかね」
ロイが聞いた。アマンザはソルに通訳した。
「うーん、君は、雷はムリ、土ならいけそう」
アマンザがまた通訳した。
「土？」
ソルがロイの腕に触れた。なんだかびりっとくる感触があった。
「それじゃ帰ろう」
ソルが促して、ソルはバートランドに手を振り、シスはアマンザとソルを連れて城に戻った。
「ロイ君土の魔法が使えるようになったのかな？」
バートランドがロイに聞いた。
「土の魔法って、どんな魔法でしょう？」
「土の魔法は犬の一族では結構使われてるよ。畑を耕したりするのに」
ロイの肩がずりっと下がった。
「攻撃とかはできないんですかね？」
「土で攻撃とかもできるかもしれないけど」
ロイは地面の土に力を送ってみた。すると、土がぼこっとえぐれた。
「おー」
「すごいじゃない」
続けてみると、土がぼこぼこえぐれている。
「畑を耕す。なるほど！ 立派な農家の人になるぞって、違う！」
ロイは一人でツッコミ、バートランドは笑っていた。
「君のそういう明るい所が好きだよ」
バートランドは不安を抱えていたが、ロイの明るさに救われた気分になりながらも、そう言ったのだった。