第65話
この日、スペードがどこかうれしそうな顔をしていたので、ハロルド神殿にいた他の神官がスペードに声をかけた。
「何か良いことでもありました？ すごくうれしそうな顔をしていますが」
「え？ そうか？」
スペードはあごをなでている。
「実はとってもすごいことがあったんだが、お前達には言えない」
「えー教えてくださいよ」
「いやだ」
スペードは昨晩精霊の国にお邪魔していたのだが、半分は夢ではないかと思っていた。たとえ夢でも楽しい夢だった。
（精霊さんが俺のために超すごい剣を造ってくれるらしい。超すごい剣……どうすごいのか楽しみだな）
剣士にとっては、剣は命である。スペードもかなり良い剣は持っていた。剣聖になる時にアシュランがプレゼントしてくれた剣である。ジェラルド作の素晴らしい剣で、スペードの愛用剣であるが、普段持ち歩くことはない。剣は消耗品である。普段の稽古などに使うにはもったいないのだ。ジェラルドに刃を研いでもらうのも申し訳なさすぎるので、魔物と戦う時くらいにしか使ってはいない。次の大戦用に他の剣も造ってくれているので、スペードはそれも楽しみにしていた。精霊の剣はこの世界では超レアな剣で、数本しか世の中にはないに違いない。その新たな一本が自分の元にくるのだからスペードにとっては、この上なく楽しみなことだった。
（どうして俺にくれることになったのかわからないが、とにかくうれしいな）
「おはようございまーす」
ロイがやってきた。
「おはよう」
「すごくうれしそうですね。何か良いことありました？」
ロイが聞いた。
「そんなにうれしそうかな」
「そう見えますよ」
「今日はお兄さん達は何をするの？」
「アデリーヌ様の神殿に行くみたい。午後は図書館に行っていろいろ本を買いたいとか言ってたかな。午後ドルイドがこっちに来るかも」
「そう。じゃあ行こうか」
「はい」
スペードはロイを連れていつもの空き地に移動した。
ラギ、ドルイド、ムサカは一番に聖地の案内所に来ていた、スタンプラリーの景品をもらうためである。スタンプが二十個たまったのである。景品はいくつかの中から選べるようになっていた。
お守り石、お守りの護符、ネックレス、本などである。
ラギは本を選び、ドルイドはお守り石、ムサカはお守りの護符を選んでいた。
「目標が達成できた。うれしいなあ」
ラギは喜んでいる。ラギ達はその後、馬車で運命の女神の神殿へと行った。
「そういえばお母さんから運命樹の話は聞いたことがないなあ」
運命の女神アデリーヌは、運命の泉という泉と運命樹という大きな木を管理しているらしい。
「神の国の特別な場所にあるのかもしれないなあ」
運命樹が枯れるとき、この世界は終わるそうである。二時間ほどかかり、馬車は神殿についた。神殿は教会のような建物で、屋根の上に塔があり大きな鐘が見えた。神殿の中に入るとすぐ大広間で、大きな透明な丸いドームがテーブルの上に設置されていた。その中には一本の木が見えた。
「幻の木ですかね」
ドルイドが言った。
「これが運命樹？」
とムサカ。
「そちらの樹は世界に一本しかない運命樹を投影したものになります」
緑色のローブ服を着た神官が教えてくれた。
「へーじゃあこれが本当の運命樹ってことなんですね」
ラギが聞いた。
「そうですよ」
「へー」
三人はドームに近づいて樹を眺めている。とても大きな幹で緑の葉が茂っていた。
アデリーヌの真っ白な石像があったが頭に乗せていた葉の冠は、本物のようだった。
「あちらの冠は本物の運命樹の弦と葉でできています」
「そうなんですね」
「あれが運命樹の葉……」
三人はアデリーヌにお祈りをした。広間の一角にカフェのような場所があった。ガイドブックによれば、アデリーヌの神殿は、商人にも人気らしい。
「アデリーヌ様は紅茶が大好きな女神様なんですよね？」
ラギが神官に聞いた。
「そうですよ。様々な種類の紅茶も販売していますので、よかったらどうぞ。土産物屋の方にはないものもありますので」
「お土産にいいね。買っていこう。ドルイドもお母さん達に買おうよ」
「そうですね」
ラギは大量に紅茶を買っていたので、店の人がカフェで紅茶をご馳走してくれた。焼き菓子なども売っていたので、ラギはそれを買い、帰りの馬車の中で三人で食べた。
「ラギ様は随分紅茶を買いましたね」
ドルイドが笑って言っていた。
「侍女達にいいと思ってさ。休憩室用にね」
「なるほど、優しいですね」
とムサカ。
「ものすごく珍しい紅茶があったから、サン王子にもわけてあげようかと思って。王子は多分、お土産を見てる暇もそうないだろうからさ。ラメーン様の神殿で一日楽器の稽古をしてそうだったじゃない？」
「素晴らしい気配りですね。いやーたいしたものです」
ムサカはラギに感心していた。
「ははは。でも、聖地にいる間はもう王子に会えないかな。その場合は、帰ってから送ることになるかな」
「サン王子達はいつ帰られるんでしょうかね」
「さあね。でもあちらはあちらで楽しんでそうだね」
蛇の国では、聖地から戻ってきたイシュタールからの思念がシスに届き、それがゆりにも回ってきた。
「聖地のみんなは元気だって」
「そう、よかったわ」
「ロイはやっぱり稽古してもらったりしてるって」
「そうなんだ」
ラクシュミもいたのでゆりはスペードのことは言わなかった。
「みんなで浜辺で貝殻を拾ったりしたんだって」
「まあ」
ゆりはついイシュタールがピンクの貝殻を拾っている所を想像した。
「メリッサが喜ぶわねー」
「イシュタールはその気になれば聖地にもいけるんだ、すごいね」
「そうね」
「こんな体験ができるなんて、ラギ達は幸せだな」
ラクシュミはしみじみと言っていた。
「王様も聖地に行ってみたい？ 引退したら行こうよ」
「私がか？」
「うん。日帰りならいいじゃない」
「聖地か、そりゃ行けるものなら行ってみたい気がするが」
「その頃には二箱目がいっぱいになってるんじゃない？」
ナナミが言った。
「お花の石、増えた？」
ミシェイラが聞いた。
「増えてないよ」
「もっと増やして」
「そうね。できることならいろいろな子供達を聖地につれて行ってあげたいな。信仰心をあげるために、いろいろな国の子供を一年に五人招待するとかしてくれないかなあ」
「そうしたらもめることもあるだろう。龍の国の子供とかちあったりしたら、もめるんじゃないか？」
とラクシュミ。
「そうねえ。どうにかして、ラリー達にも聖地を見せてあげたいけどね」
ゆりがもらったバッジは五回聖地にいけることになっていた。今回ラギ達が使って、あと二往復である。
聖地にいるラギ達は、アデリーヌの神殿からハロルドの神殿に向かい、そこでドルイドと別れて、ラギとムサカは博物館の隣にある図書館に向かった。図書館は二階建てで博物館の半分ほどの大きさの建物である。聖地だけあってほとんどが神々の本に違いない。
「魔法陣の本なんてないですかねえ」
「聞いてみたらどうですか？」
「そうですね。聞いてみましょう」
ムサカは図書館の司書に、魔法陣に関する本はないか聞いてみた。
「そういう本はないですね」
「もし魔法陣を依頼するとしたら、どちらが窓口になるかわかりますか？」
「うーん、工房ですかね。ちょっとわかりません」
「今城にある魔法陣って依頼できるんでしょうかね？」
ラギが疑問に思ってムサカに話しかけた。
「どうでしょうね。工房か。ちょっと工房の方に行ってみましょうか」
「行きましょう」
二人は職人達の工房が並ぶ通りを聞いてそちらに行ってみた。一番に目についた大きめの工房に二人は行ってみた。その工房は神々の石像を造っている工房である。
「すいません、ちょっと聞きたいことがあるんですが」
ムサカの金色の目を見て、一人が近づいてきた。
「なんでしょうか」
「場所を移動する魔法陣が蛇の国の城にあるんですが、昔聖地に依頼をして造ってもらったそうなのです。今はそういう依頼って受け付けているのかどうかわかりますか？」
「魔法陣ですか？ さあ……ちょっと待っていてください」
その男は店の奥に行き、老齢の男を連れて来た。椅子を促されて、ムサカとラギは椅子に座った。
「魔法陣ですか、確かに昔はそういう依頼も受け付けていたようですが、今は魔法陣を造れる職人がいないんですよ。たまたまその時は職人がいて依頼できたんでしょう。普通の職人じゃあれは無理らしいですよ。ノイトラールにも魔法陣がありますけど、あれを新たに造れる職員は、今はいませんね」
「そういう本を見ることはできないでしょうか」
ムサカが聞いた。
「見せられないんですよ。見てもマネはできないでしょうけど」
「魔法陣の参考にしたかったんですがね。魔力回復の魔法陣を造りたくて」
「魔力回復？ それならとりあえず石を買ったらどうですか？」
「石？ 魔道具ですか？」
「三件先の工房に行ってごらんなさい。いろいろな石を売ってますよ」
「行ってみます。ありがとうございます」
二人は三件先の工房に行ってみた。そこでは宝石などの加工をしているのか、様々な宝石の原石なども置いてあった。
「すいません、こちらに魔力回復の石があると聞いてきたのですが」
ムサカは工房にいた職人に話しかけた。職人は五人いて、白髪頭の職人がこちらにやってきてくれた。
「ああ、ありますよ。こちらの青い石です」
それは一メートルほどの高さの四角柱で、青と灰色のマーブル状の色がついていた。二人は値段の札を見て目を丸くしていた。
「金貨５千枚？」
城が一軒建つほどのばか高い金額である。こんな高い物が工房の中に無造作に置かれているのにも驚きである。
「この石って、どこで採れるんですか？」
ラギが聞いた。
「聖地で採れるんですよ。ちなみに、許可を得た職人しか採掘にはいけないんです」
「もっと小さいのってありますか？ それからどの程度魔力を回復してくれるんですか？」
ラギが続けて聞いた。
「ネックレスになる小さいのもありますよ。でも、あなた様が使うと、この石でも百回も回復すれば壊れるかもしれないです。回復できる魔力に上限がありますし、一度にこんなに大量には回復できないです。せいぜい、あなた様だと三分の一程度ですかね」
職人はムサカに言った。
「もしかして、龍の国ってここのお得意さんだったりしますか？」
ラギがもしやと思って聞いた。
「あの国は、かなりの石をここから買ってますよ」
「やっぱりかー」
「とりあえず、小さい石を見せてもらえますか？」
ムサカが聞いた。
「奥にどうぞ」
工房の奥のさらに奥に通された。そこには横に長いガラスケースが置かれて、飾り物になった青と灰色のマーブル状の石が並べられていた。普通の宝石の飾り物も並べられている。もしかしたら魔道具なのかもしれない。
「土産物屋でも見たことがないです」
ラギが言った。
「土産物屋には置いてないですよ。店員に特別な石がほしいといったら、奥に案内されると思います。悪いことをするヤツもいるんでね」
「さっきのでかいのは入り口近くにありましたけど大丈夫なんですか？」
ラギが聞いた。
「この工房には魔法がかかってますからね。盗んで外に出ようとすると、死にますよ」
「ええー」
「確かに、魔法がかかっているのを感じますね」
ムサカは建物を見回していた。
「こちらの石は、どの程度の魔力が回復しますか？」
ムサカがアクセサリーを見て聞いた。
「持つのがあなた様なら……百分の一程度かな。こちらの大きめの石で、ようやく五十分の一でしょうねえ」
職人が示したのは、飾り物ではなく直径10センチほどの丸い平べったい石だった。金貨150枚の値段がついている。たいした回復力ではないように思えるが、ムサカの魔法力がすごすぎるからである。普通の者ならば、もっと回復するのだろう。
今回ラギがもって来たお金は金貨20枚だった。１５０枚はラギにもおいそれとだせる金額ではなかった。
「実は魔力回復の魔法陣を造りたいと思っているんですが、そういう魔法陣の話とか聞いたことはないですか？」
ムサカが聞いた。
「魔法陣？」
「魔法陣は星の石で描くといいというのは知っています。他の国にある魔法陣を見せてもらったんですが、文字を変えるだけでうまくいくのかどうかわからなくて」
「移動する魔法陣なら知ってますがね。ノイトラールにある魔法陣は、昔魔法陣造りの天才が造った物みたいですよ。今はそういう天才はいないですからねえ。職人もいないし。魔力回復……とは違いますけど、魔力を使う量を少なくする物なら知ってますよ」
「なんですか？」
「魔法糸を使った服を着るんですよ。魔法糸は魔法蜘蛛が出す糸なんですけど、これが丈夫でしてね。小物もありますけど、効力を期待するのなら服がいいですよ」
「魔法グモなんて初めて聞きました」
ラギが言った。
「魔法グモは聖地にしかいないですからね。しかも大量にはいないので、ひっそりと売ってる感じですよ。ものすごい効果ってほどでもないですし。隣の工房ですよ」
「行ってみます」
魔法グモという言葉に惹かれて、二人は隣の工房に行ってみることにした。そちらの工房は女性が三人いた。織機などもあり、布や服がかかっていた。
「魔法グモの服があると聞いてきたのですが……」
中年の女性三人は、ムサカを見て近づいてきた。
「いらっしゃいませ。まあ王族の方だわ」
「すごい」
「すごいわーどちらの王族の方ですか？」
「蛇です」
「蛇。蛇の国にもこんなハンサムがいるのですね」
「ハンサムね」
「ハンサムだわ」
女性三人はひそひそ話している。
「あのー」
「はい、こちら魔法グモの織物をしている工房ですよ」
「服って買うことはできますか？」
「ただいま発注を受けている製品を製作中でして、すぐお売りすることはできないのです」
「頼んだらどのくらいでできますか？」
「十年ほどかかるでしょうか」
「十年？！」
「魔法グモの糸は大量に手に入るわけではないので、主に普通の服を作っております」
「そうですか。残念ですね」
「大人用の腹巻きならば、一つ余っておりますので今売ることはできますが」
「腹巻き？ お値段はいかほどですか？」
「金貨10枚です」
「金貨10枚、僕買います」
ラギが手を挙げていた。
「！？」
女性の一人がはっと目を見開いていた。ラギが手を挙げた時、上着がめくれてシャツにつけていたバッジがちらりと見えたのである。
「ぼっちゃま、今何か見えましたが」
「え？ あ、これですか？」
ラギが上着をめくった。女性三人はぎょぎょっとした顔をしていた。
「特別な御方でしたか。お買い物は、タダでようございます」
女性達は頭を下げていた。
「いえ、お金は払いますよ。このバッジをもらったのは僕じゃなくて、僕のお母さんですから。こんな高価な物をタダでもらえないですし」
このお金がアシュランに請求がいくのかもしれないと思うと、タダですますなんてラギにはできなかった。アシュランに腹巻きを買ってもらうなんて恥ずかしすぎる。
「でも」
「買わせてください！」
ラギは譲りそうになかったので、職人の女性達はうなずいた。
「わかりました。ではサービスをさせていただきますね。それならいいでしょう」
「サービス？」
「普通の服のおまけをつけますね。シャツなんてどうでしょう」
職人達が素早く動き、二人に合うサイズのシャツをもって来てくれた。ムサカのシャツは水色で、ラギのシャツは青かった。
「ありがとうございます」
「ステキですね。うれしいです」
二人はこれは素直に受け取ることにした。
「あの、魔法グモの糸って毛糸のようなんですね」
ラギが腹巻きに触ってみてから言った。普通のクモの糸のようにネバネバはしていない。光沢がある細い毛糸で編まれた物のようである。腹巻きなだけに伸縮性がある。
「魔法クモの糸も均一ではないのですよ。そういう毛糸のような糸を出してくれることがあって、その時はシャツではなく別の物を作っているんですよ。シャツには向きませんので」
「なるほど、ありがとうございます」
こうして、真っ白な腹巻きにシャツを二枚受け取り、ラギはお金を払って店を出た。
「詳しく話を聞かずに買っちゃった。つい、僕でも買えると思ってうれしくて」
「着る者によって、腹巻きの効果も違うのではないでしょうか。ようは、着てみないとわからないのでは。工房の方もどれだけの人に着てもらって調べているのかもわかりませんし」
「ですよね。あ、一応シャツの値段を聞いてきます。もしすごかったら十年後でも欲しいから」
ラギはだっと店に行き、少しして戻ってきた。
「大人用のシャツだと、一枚金貨五十枚だそうです。でも僕が頼むとしたら、金貨四十五枚に負けてくれるって」
「二枚頼むとそれだけで金貨九十枚ですか。まあ、腹巻きを試してもらってからですね」
「そうですね。お父さんが腹巻きかあ……してくれますかねえ」
「してくれるんじゃないですか？」
二人はラクシュミが白い腹巻きをしている所をつい想像していた。
「着心地が悪かったら着てくれないかもしれないですが」
「そうですね。でもこの店はガイドブックにもなかったなあ。あまり客が来ると面倒だから載せてないのかも。魔法グモがどんなクモか見てみたかったですね」
ラギが言った。
「そうですね。この世界にはまだまだ知らない事がたくさんありますね」
「……クモの糸ってことは、お父さんには内緒にしておきましょう」
「その方がいいかもしれないですね。魔力がある糸で作られた腹巻きとだけ伝えましょう」
二人はうなずいたのだった。
「それで石の方はどうしますか？」
ラギが聞いた。
「石はとりあえずいいです。回数に限りがあるようだし、王の魔力を回復させるほどの石となると相当な値段になりますし」
「そうですね。じゃあ僕、夕方まで図書館で本を見てもいいですか？」
「いいですよ。お小遣いがなくなったのではないですか？ 私が出すので好きな本を買ってください」
「ありがとうございます！」
ラギはウキウキ顔で図書館に戻ったのだった。
一方、ハロルド神殿からロイが稽古をつけてもらっている空き地へと移動したドルイドだったが、こちらはかなり珍しいことになっていた。
「ヴォルフ兄かっけー！！ ジェイク様もかっけーすげー！」
と喜ぶロイに青ざめる大人達が四人、空き地の真ん中で対峙していたのは、金色の獣の顔をした者と、少年だった。
（え？ なんだなんだ？ どういうこと？ あの二人は一体……）
金色の獣の頭をした者はどでかい斧と槍がついた武器を持っていて、少年の方は剣で戦っていた。
どちらもただ者ではない。ドルイドの目でも追えないほど、二人の動きは素早く、二人の周りには風圧も起こっていた。スペードは興奮して前に出ようとするロイの服を引っ張り、他の神官三人はかなり離れたところにいた。だが、ここでも風圧を感じるほどだ。
「あの方々はだれですか？」
ドルイドは神官の後ろで聞いた。
「金色の狼の方はヴォルフ様、お相手はジェイク様だよ」
「え？」
ドルイドはヴォルフのことはロイやラギから聞いていた。城の周りの雪かきをしてくれたことも知っている。
「かっけーーーー！」
ロイは大興奮である。
（こわー……）
大きな斧を軽々と振るヴォルフに、ドルイドは恐怖を感じていた。その斧を難なくかわすジェイクは、さすがハロルドの息子であり、神である。
（これが神の領域か、すごすぎる）
普通の人間には立ち入る事は許されない、まさに神々の戦いの世界である。ドルイドが目をまん丸に見開いて見ても、さっぱり動きを捉えることもできない。やがて二人の動きが止まった。
「二人ともすごかったよ。かっけーかっけー！！」
興奮してわめくロイに、神官の一人は、「子供最強だな」とつぶやいていた。ヴォルフの頭が普通の人間の頭になった。
（変身できるんだ。確かにかっこいいな）
ドルイドもそう思った。
「ありがとうございました」
スペードが頭を下げて、神官達もあわてて頭をさげて「ありがとうございました」と言っていた。
「あ、ドルイド来てたの？ こっちに来なよ」
ロイはドルイドを見つけるとだっと走ってきてドルイドの手を取り、ジェイク達の元にひっぱっていった。
「こちらがジェイク様、それでこちらがヴォルフ様。ヴォルフ様のことは、親しみを込めてヴォルフ兄さんって呼んでるんだ。こちらはドルイドだよ。お母さんが可愛がってる子だよ」
まだ興奮しているのか、ロイはかなり気安くジェイク達にドルイドを紹介していた。神官達はこっそりとスペードを呼び、「あの子を止めた方がいいんじゃないですか？」と話している。
ドルイドはペコペコ頭を下げていた。一方ヴォルフの方は、「お母さんが可愛がっている」という言葉を聞いてちょっと反応していた。
「ドルイドさっきの見てた？ すごかったよねえ。二人ともすごいよねえ」
「はい、すごかったです！」
「僕が二人が戦っているところがみたいといったら、戦ってくれたんだよ。ヴォルフ兄、武器に触ってみてもいいですか？」
「いいけど、もてる？」
「無理かな。もてるかな？」
ロイはハルバードを持ってみていた。神官達はハラハラ顔である。ロイはハルバードを両手で持ち、持ち上げていた。それを見て神官達は目を見開いていた。ちなみに神官達はこの武器を持ち上げることは、無理かもしれない。
「すごく重いや。これを振り回すなんて兄はすごいよ！」
「ロイ様もすごいです、僕にはもてないですよ」
「今はハロルド様の加護があるからだよ。なかったら持つのも無理だよ」
ロイはハルバードを降ろしてヴォルフに返していた。
「すごい武器だよね」
「すごいです。あの、変身姿、とってもかっこよかったです！」
ドルイドは思い切って言っていた。スペードに対してはいつも無表情のヴォルフが、ちょっと照れたような顔付きである。
（子供ってすごい）
スペードもそう思っていると、いつの間にかジェイクがすぐ側にきて、スペードの腕をひっぱっていた。
「ねえ、どうしてヴォルフとロイ君があんなに仲が良いのか、スペードは知ってる？」
ジェイクは神の言葉で聞いた。
「え……え……と……」
神に嘘はつけないので、スペードはどう答えて良いやら心底困ったのだった。
つづく
14部
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