暦は３の月に変わっていた。日にちは７日、外は嵐で雨がザーザーぶりだったが、ゆりの心の中は、すっかり晴れている。
その夜、明日からの交わりの月のことを考えて、ゆりは興奮して眠れなかった。
明日からは大変なんだから眠らなくちゃ。だけど・・・眠れない・・・
横にはラクシュミがいたのだが、もうすっかり頭の中は、別のラクシュミのことで頭が一杯だった。
ラクシュミはゆりがあまりにごろごろ体の向きを変えているので、寝るに寝れずにいた。前回はゆりが子供を産んだばかりだったので、ラクシュミはゆりを眠らせた。そのせいでゆりはひどく悲しんで、大変なことに
なったのだ。
一体なぜそこまでゆりが思い入れているのか。ラクシュミは交わりの月の記憶が全くないため、わからない。今では逆に覚えている方が怖い気もする。
そこまで性格が変わっている自分とは、どのような自分なのだろうかと。
「ゆり、よかったな。いよいよ明日だな」ラクシュミが声を出すと、ゆりは顔を向けて「うん」と言った。
「お前の男によろしくな」
ラクシュミが冗談交じりにいうと、ゆりはまた「うん」と言った。
冗談も通じない・・・
ラクシュミはちょっとあきれたが、もう何も言わなかった。
出産の女神ヒルデリアよ。今年も多くの子供が、女の腹に宿るように・・・
ラクシュミはそう念じて、眠りについたのだった。
第９話
８日になり、ゆりは朝からそわそわしっぱなしだったが、その日は爪を磨いたり、お風呂に入って体をマッサージしたりして、早めにベッドの上にいて待っていた。すっかり裸だ。
どきどきしながら待っていると、しばらくして、部屋に銀色の髪が見えた。
「王様・・・」
「ゆり・・・」
ラクシュミはベッドに近づいて、ゆりの頭をなでた。まだ普通の姿をしていた。
「ちゃんと体は元に戻ったのか？ゆり」
ラクシュミは、いつもよりも、甘い声で言った。
「うん。すっかり元通りよ。王様」
「そうか・・・じゃあ遠慮しなくてもいいんだな？」
「うん。遠慮しなくてもいいよ」
ラクシュミは優しくゆりの体を押し倒した。
「愛してる。王様・・・」
「私もお前を愛してるぞ」
ラクシュミは優しくゆりの頬をなでて言った。その後ラクシュミは変化して、ゆりは一杯愛撫されて優しく抱かれた。
「ゆり、お前も出て来い」
ラクシュミがゆりに言うと、ゆりの左目が黄色と黒に変わった。ゆりは微笑んでラクシュミに抱きついて、ラクシュミはもう一度
さっきのゆりと同じように、こちらのゆりも抱いたのだった。
朝、ゆりは心も体も大満足していたので起きてからもぼんやりしていた。横にはいつもの姿に戻ったラクシュミがいた。「王様、昨日はいつも以上にすっごく優しかったね」
ゆりがうれしそうに言うと、ラクシュミは微笑んでゆりの髪をなでた。ラクシュミは、いつもはあまりゆりに愛撫らしいことも
しないのだが、昨日はかなりの時間をかけて、体中に触れて、キスもしてくれたのだ。
「今回は、お前が私の子供を産んだご褒美だからな。当然だ」
優しく微笑んで言われて、ゆりはぽわんとしてしまった。
ああ、もうこのまま死んでもいい！いや、やっぱり死ぬなら10日後がいい。全部過ごしてからなら死んでもいい〜
「王様って、交わりの月の時は、声の質も違うんだねえ」ゆりはうっとりしていった。
「そうか？自分ではわからないが・・・」
「いつもはそっけないもん。声の質も。今は違うよ」
「まあ、それはしょうがない。私は王だからな、普段はお前のことばかり考えてるってわけにはいかないんだぞ。」
「わかってるけど・・・」
「そのかわり、月があけるまで一杯かわいがってやるからな。今回は１０日全部抱かれても平気かな？」
「平気〜」
「そうか、でも、無理な時は無理って言うんだぞ？」
「うん」
ラクシュミはゆりを抱きしめて口付けた。
朝も昼も晩も、ラクシュミはずっとゆりと一緒で、時にはアナスターシャと昼間過ごしたりもしたのだが、ゆりはずっとラクシュミにべったりひっついていた。甘い匂いに包まれて、身も心もすっかり愛に包まれて、ゆりはとても幸せなひと時を過ごしたのだった。
１０日の夜が過ぎた朝、ラクシュミは起き上がり、横にいたゆりを見下ろした。ゆりはとても幸せそうな顔で眠っている。ラクシュミの表情は、少し冷たいものに変わっていた。
だが、今回は少しだけ覚えていた。最後の夜の部分だけ。
お願いだから行かないでと、泣いて、体にすがって、また来年会えるからとなだめすかせて。
別の男か・・・ゆりにとっては、そうなのだろうな・・・
ラクシュミはベッドから降りた。
この日からはまた、王としての日々が始まるのだった。
目覚めたゆりは自分の部屋に戻り、久しぶりに蛇のルーと対面した。ルーはうれしそうに体をくねくねさせている。「ゆり様、その様子では、よかったんですね？」
ミラがにんまり笑って聞いてきた。
「よかった〜今までで最高によかったかも」
ゆりの目はぼんやりしていて、頭の中はまだどっか別の所に行っている。
「ミラは？」
「今年も去年の彼と過ごしたんですけど、まあ、普通です。」
ミラは街の方に同じ猫族の彼がいるようだった。
「やっぱりいいよね〜あの時の王様は」「ゆり様ったらふふふ。あ、そうですわ。月の間に、ジュノー様とヴィラ様の子供がお生まれになったそうですよ」
「そうなんだ。どっち？」
「どちらも男の子です」
「そうなんだあ・・・早くみんなの子供みたいなあ・・」
「そのうちに見れますよ」
「後はフリットの子供だけね」
「そうですねえ・・・」
「今日はゆっくり寝ようっと」
ゆりは朝ご飯を食べたあと、寝室に行って眠った。月の間はどうしても眠るのがもったいなくて、あまり寝てないのだ。
ゆりが目覚めると、その日はもう夕方だった。「・・・・・」
ゆりはなんだか体がおかしいなと思った。部屋の方に行くと、ミラではない別の侍女がいた。
「お体の調子はどうですか？」
侍女は優しく微笑んで聞いた。
「ねえ、ちょっと男の人呼んできてくれないかな」
ゆりは侍女に言った。
「どなたですか？」
「力が強い人４人くらい」
「４人もですか？」
「うん」
侍女はすぐ部屋を出て行った。
ゆりはいすに座った。なんだか気がほしくて仕方がない。大量に、すごく大量に気がほしい。
やがてミカエルとフリットがやってきた。「王妃？どうしたんですか？」
フリットが心配げに聞いた。
「うん。気がほしくてしょうがないの。ちょうだい」
「いいですよ」
ゆりはフリットに抱きついた。やがて、フリットの顔が青ざめてゆりはからだを離した。
「ミカエルちょうだい」
「はい」
ゆりはミカエルにも抱きついて気を奪った。
ミカエルの顔も青ざめて、ゆりはからだを離した。ミカエルもフリットも無言でいすにぐったり座っている。
「まだいる。」
「今他にもきますからね」
フリットが言った時に、ミルキダスとイシュタールが現れた。
ゆりは同じように二人からも気をもらって、ようやく落ち着いた。
「王妃・・・・まさか・・・」ミカエルが青ざめた顔で言った。
「もしかして、できちゃった？かも？」
ゆりがきゃっと笑っていった。
「本当ですか？」
フリットが聞く。
「まだわからないけど、だって・・・こんなに気がほしいなんておかしいじゃない・・」
ゆりの侍女はあわてて部屋を出て行った。
男４人は唖然としている。ここ１０００年でいっても、王の子供を最初の交わりの月で孕んだ女もいないが、子供が生まれてすぐに次を孕んだ女もいない。
一族の女でも、まれなことなのだ。
「もし本当なら、記録ですよ」ミカエルが言った。
「これも愛の力だよ〜」
ゆりはうれしそうに両手の指をからませて顔をゆらした。
一方、ゆりの侍女から話を聞いたラクシュミは、ぶっと酒を噴出した。休憩室で酒を飲んでいたのだ。「もうできた？」
ラクシュミはぎょっとした。
「嘘だろ？」
「その可能性があるようですが・・・」
ラクシュミはしばらく唖然として動かなかった。
おしまい