神々の黄昏４

これはむかーし昔の物語。ある朝のことです、愛欲の女神ガーベラはご機嫌で森の中を散歩していました。

朝日を浴びて、ガーベラの美しい金髪はますます美しく輝いていました。

「なんて気持ちの良い朝でしょう。歌いましょう。さあ、鳥達も一緒に歌ってね。なんて〜すてきな〜あさ〜♪」

ガーベラは大きな声で歌い出しました。しばらく歌いながら歩いて行くと、お花畑が見えてきました。

ガーベラはお花畑に入って行きました。

ガーベラの歌に誘われたのか野ウサギや鹿がやってきました。ガーベラが花のつぼみに触れると、つぼみは開き、きらきらと輝く

花を咲かせました。

「この世は素敵な事ばかり〜♪」

ご機嫌で歌っていた時です、お花畑の向こう側で誰かが起き上がるのが見えました。

ガーベラはその人物に近づいていきました。

「おはよう〜♪」

その人物はガーベラをじろりと見上げ、一言いいました。

「ひどい歌だ。せっかく良い気持ちでいたのに君の歌で全て台無しだ」

「え？」

ガーベラは驚いて瞬いていました。

「ひどい？ひどいってどういうことでしょう？」

「君の歌はひどい」

その神様は立ち上がりずばり告げました。ガーベラはガーンとショックを受けました。

面と向かって「ひどい」などという言葉を使われたのは初めてです。

「あの、あなたって男ですよね？」

ガーベラはその神に確認するように聞きました。たいていの男は自分には好意的なのに、この神様はどうも違うようです。

「私は男だ。女に見えるかね？」

「見えませんけど・・・」

その神は男といってもたくましいタイプではありません。線は細く、金髪の髪は肩までで細かいウエーヴがかかっていました。

「ああ、そういえば最近すごい女神が生まれたと聞いたが君のことか。だが君の歌ではとうてい愛と欲望はかりたてられないな」

その神はそれだけ言うとガーベラに背中を向けて去って行きました。


「・・・・今のどういうことかしら？」

どうも侮辱的な言葉を吐かれたようですが、ガーベラにはよく意味がわかりません。

その時「ふふふ」と笑い声が聞こえてきました。

横を向くと風の神がふわふわ飛んで来るのが見えました。風の女神、ルオーネです。

ルオーネが近づいてくると小さなつむじ風が起こり、ガーベラはスカートを押さえました。

「あなたにあんな態度を取るとは、女に興味がないというのも筋金入りねえ」

「さっきの神様知ってる？私初めて会ったの。初めて会ったのに歌がひどいって言われたわ」

「さっきの神は音楽の神ラメーンよ。まあラメーンを満足させる歌を歌うのは至難の業でしょうね」

「音楽の神様？」

「そう、音楽の神様」

「私の歌ってひどいのかしら？」

「さあ、でもうまくなりたいのなら彼に教えを請うといいわよ」

「でも感じ悪いわ。他に誰かいないかしら」

「いないわねえ。まあ好きにすればいいじゃない」

風の女神はそう言い残して去って行きました。


ガーベラはうーんと考え込みました。

（音楽の神がひどいというのだから私の歌はひどいのかもしれないわ。もう一度彼にじっくり話を聞いてみましょう）

ガーベラはそう決心してラメーンに会いに行くことにしました。


ガーベラは近くにいた白馬に「ラメーンの神殿に連れて行って」と頼みました。

白馬は森を抜けて、草原をたったか駆けていきました。その時です。空を一頭のペガサスが飛翔していきました。

「誰か乗ってるわ。誰かしら。ダーナみたい」

ペガサスは前方に降りてきて、白馬もその近くで止まりました。

「ガーベラじゃない。どこに行くの？」

やはり乗っていたのはダーナでした。

「ラメーンの神殿よ」

ガーベラは素直に答えました。

「ラメーン？どうして？」

「私の歌を聴いてもらおうと思って・・・・」

するとダーナの表情がさっと変わりました。

「やめておきなさい。ラメーンは実はすっごく女嫌いなの。女性を見ると辛く当たる神様なのよ。だから行っちゃだめ！」

ダーナはペガサスから降りてきてガーベラを食い入るように見つめました。ガーベラはびっくりしたようにぱちぱち瞬いています。

「私も何度泣かされたか・・・とにかく近づかない方がいいわ。あなたのためよ。ラメーンは怖い神様よ」

「そうなの？じゃあ行くのやめようかしら」

「やめた方がいいわ。あ、そうそう、花の女神達が新しい花を作っていたわよ。見せてもらったら？」

「新しい花？楽しそう！」

「楽しいわよ。あっちよ」

「どうもありがとう」

ガーベラは白馬にまたがり、指された方向にかけていきました。

（ダーナってなんて優しい女神なのかしら）とガーベラは思っていました。

ガーベラは花の女神達が作った花を見せてもらい、楽しい一時を過ごし、すっかり歌のことは忘れていました。


夕方になり、ガーベラは歌おうとしてふと朝のことを思い出しました。

「そうだわ。オルガに私の歌をじっくり聴いてもらいましょう」

ガーベラはオルガの神殿に向かいました。しかし神殿にはオルガの姿はありませんでした。

「もう出掛けてしまったみたいだわ」

ガーベラは神殿から出てぶらぶらと白馬で移動しました。そして妖精達が集まって騒いでいるのを発見しました。

草原の真ん中で、どうやら輪になって宴会をしているようです。その場には神様が２人いました。老人姿の森の神と酒の神

ジンラです。

「こんばんは〜」

ガーベラが近寄っていくと、妖精達から「おおー！」と歓声があがりました。

「よ、ようこそ！」

「ガーベラ様だ！」

「おおおっ！」

その場にいたのは男ばかりだったので、皆ガーベラに目を奪われていました。

「せっかくだからここにおいでおいで」

白髪姿であごひげの長い森の神はガーベラを手招きし、ガーベラは森の神の横に腰を下ろしました。

ジンラはその反対側に座っています。

「皆さん宴会しているのね。私も混じってもいいのかしら？」

「いいとも。皆ガーベラを近くでみたいみたいと言っておったのよ。せっかくだから見せてあげておくれ」

「はあ・・・」

妖精達を見回すと皆頬を赤らめて恥ずかしそうでした。

「お酒をどうぞ！」

１人の妖精がガーベラにお酒の杯を差し出しました。

「どうもありがとう」

妖精達はガーベラを気にしながらも笛やハープを再開しました。

「いやー酒がうまいのー」

森の神は目の前にどんとあるガーベラの胸を見つめながらお酒を飲んでいました。その横にいるジンラは苦笑しています。

「あのー長老って生まれた時から老人なんですか？」

ガーベラが知る限り、神様で老人なのはこの森の神だけでした。

「ほほほ、実は老人姿なのはわざとよ。若いわしはむちゃくちゃ格好良い男でのう。かっこよすぎて女神達がくらくらくるので

この姿をしておるのじゃ」

森の神は真面目な顔で言いました。

「え？そうなんですか？」

「そうじゃよ。妻が妬いてしょうがないでのう」

長老の妻である森の女神は老女ではありません。カサンドラと同じくらいの大人の女性です。

（もしかしたら妻の前では若い姿なのかしら？）

「ちょっとだけ若い姿が見てみたいです」

「ほほほだめじゃ。わしはいい男すぎるでの。所でガーベラよ。楽器の演奏はできるのかね？」

「楽器？いいえ」

「それはいけない。楽器を習いなさい」

「どうしてですか？」

ガーベラは無邪気に聞きました。

「素晴らしい女神とは、顔を見せなくても人を虜にするものじゃ。ガーベラは愛欲の女神なのじゃから姿だけではなく

歌と楽器でも男を魅了できるようにならねばのう」

「はあ・・・そういうものですか」

「そういうものじゃ。のうジンラ」

森の神が話をふると、ジンラは「はあ」と気の抜けた返事をしました。

「そうだわ。私の歌を聴いてください！」

「いいとも」

妖精達は演奏をやめました。ガーベラは歌を歌い、妖精達はその歌に合わせて楽器を演奏しました。

歌が終わると拍手が起きました。

「素晴らしい声です！」

「さすがです！」

皆喜んでいます。

「私の歌どうですか？」

ガーベラは長老に聞いてみました。

「素晴らしい声じゃよ。だが・・・もっとうまくなると思うぞ」

「そうですか・・・誰に教えてもらったらいいでしょうか？」

ガーベラは続けて聞きました。

「それはもう音楽の神ラメーンじゃ。彼しかいないじゃろう」

「ラメーン？怖い神様じゃないですか？」

「怖い？」

「ダーナがそう言ってましたが・・・・だから近づかない方がいいって」

ガーベラの言葉に森の神は「ほほほ」と笑い長いひげをなでました。

「それはダーナに一杯食わされたのう」

「何も食べさせられてませんが？」

「そういうことではない。つまりガーベラがラメーンに教えてもらうのが嫌だったから、ダーナが嘘をついたのじゃ」

「え？嘘？」

「ダーナは歌も楽器もラメーンに指導を受けておるぞ」

「ええ？」

ガーベラはさらに驚きました。

「そのおかげか、ダーナの歌も楽器の演奏もそれは素晴らしいものじゃ。ガーベラも才能はあるのだからすぐに上達するぞ」

「ありがとう・・・」

ガーベラはやがてその場から去って行きました。ダーナに嘘を言われたのがショックだったのか、ちょっとしょんぼりしていました。



「うーむ、生まれたばかりの女神は初々しいのう。ダーナが怖れるのも無理はない。ほほほ。こいつらでさえ、こうじゃ」

妖精達は皆ガーベラの残り香に酔っぱらったかのようになっていました。

「ジンラはどうじゃ、ガーベラを恋人にしたいとは思わぬのか？」

「私は別に・・・・それにもうオルガの恋人になったようですし・・・」

「ふふふ、ガーベラは愛欲の女神ぞ。オルガ１人で満足するものか。気になるのなら、遠慮なく行くがよいぞ」

森の神はジンラの耳元でこっそり言いました。

「え・・・ええ・・・・それは・・・」

ジンラは返答に困っていました。

「愛は戦いぞよ。若いもんが臆病になってどうする」

森の神はばしっとジンラの背中をたたきました。

「長老・・・」

ジンラは困ったように頭をかいていました。傍らでは「ガーベラ様・・・」と妖精達はまだつぶやいていました。



その夜のことです。、肩を揺り動かされて音楽の神ラメーンは目を覚ましました。ベッドの横には金髪の女神が立っています。

「なんだ？なんでここにいる？」

ラメーンはわけもわからず身体を起こしました。

「こんばんは。ラメーン、実はお願いがあって・・・歌と楽器を教えてくださーい」

ガーベラは両手をそろえていいました。

「は？あのな、今何時だと思っているんだ」

「夜ですね」

「夜ですねじゃない。私は寝ているのだ。わざわざ起こすな！」

ラメーンは不機嫌そうに言いました。

「ごめんなさい。迷っていたらこんな時間になってしまって・・・じゃあいつ来たらいいかしら？」

「明日の朝にしなさい」

「わかりました。さようなら」

ガーベラは素直に去って行きました。

「全くなんなんだ・・・・」

ラメーンはそのままばたりと身体を横たえました。

そして次の日の朝、ラメーンが寝室を出て広間に行くと、ガーベラが椅子にちょこんと座っていました。

「おはよう〜歌と楽器を教えてください」

「・・・・」

（早すぎだろう）ラメーンはそう言う気もすでになくしていました。だが、ラメーンの引きつった顔にもガーベラはにこにこです。

ラメーンは一度ため息をつきました。

「いいだろう。だが、君はまだ私が教えるレベルではない。妖精達にいろいろ教えてもらいなさい。君がある程度上達したら

私が見てあげよう」

「はい！」

この日からガーベラの音楽のレッスンが始まりました。ガーベラは妖精達にいろいろな楽器の弾き方を教えてもらいました。

ガーベラの飲み込みは早く、妖精達も驚くほどでした。


ある日のこと、ラメーンの神殿の近くでガーベラはダーナに会いました。

「あ、ダーナ、この前ラメーンが怖いから会うなって嘘ついたでしょー自分は教えてもらってるくせに」

ガーベラの言葉にダーナは何食わぬ顔で返しました。

「そんなこと言ったかしら？

「ラメーンが怖いって言ったわよ。神様が嘘ついちゃいけないんだー」

「ラメーンが怖いってのは本当よ。だから嘘じゃないの」

ガーベラはじーとダーナを横目で見ていました。

「私がすごい女神になるのが怖いのねー？」

「なんですって？私が怖い？笑っちゃうわね。あなたがたとえラメーンに教えてもらったってね、私の歌の方が上よ！」

「そんなことないもん」

「上よ。そうに決まってるわ。ね、そうでしょ？」

ダーナは通りがかりの妖精に同意を求め、妖精は首をかしげて去って行きました。

「とにかく、私の方が上よ。ぶん」

ダーナは横を向いて去って行きました。

「なによ。私だってうまくなるわよ！今日も教えてもらうわよー！」

ガーベラは音楽の楽しさに目覚めてしまい、昼も夜も夢中でした。

歌と楽器でも人を魅了させるような女神になりたい、そう思っていたからでした。


一方ガーベラの来訪が途切れて、夜の神オルガはしばらく静かな夜を過ごしていました。

ですが次第に「あれ？ガーベラはどうしているのだろう？」と気になり出しました。

「もしかして他に男ができたのではないだろうか？」

（直接聞いてみよう）と思ったオルガでしたが、ガーベラの神殿を訪れてもし、誰か男といたら、と思うとちょっと憚られました。

「こういうときは噂付きの風の妖精に聞くに限る」

オルガは草原を漂っていた妖精にそれとなく聞いてみました。

「ガーベラ様？オルガ様からラメーン様に乗りかえたって話は本当ですか？」

「え？」

オルガは逆に聞かれてしまいました。

「最近はずっとラメーン様の神殿に行かれてるようですけど」

「ラメーンの神殿に？」

「さすがのラメーン様もガーベラ様に愛を感じたのかと皆噂してたんですが・・・」

「うーん・・・」

オルガもラメーンの性格は知っています。

（まさかとは思うが・・・・だがラメーンも男だからな。ここはラメーンに聞いてみよう）


オルガは神殿で寝ていたラメーンを揺すって強引に起こしました。

「ん？なんだ？今度はだれだ。オルガじゃないか」

目を覚ましたラメーンは迷惑そうに言いました。

「ラメーン、聞きたいことがあるのだが」

オルガは上からラメーンをのぞいて言いました。

「こんな夜になんだね？」

「ガーベラと何かあったのか？」

「ガーベラ？」

「最近ずっとガーベラが来ているそうじゃないか」

「ああ、歌を教えているだけだ。他は何もない」

眠たいラメーンは眠ろうとして再び肩を揺すられました。

「本当か？」

「本当だ。頼むから寝かせてくれ！」

「そうか。悪かった。思う存分眠ってくれ」

「全く・・・」

ラメーンは迷惑そうにぶつぶつ言っていたのでオルガは夜の闇を贈り、ラメーンはすぐに深い眠りにつきました。

「そうか、ただ習っていただけか」

オルガは納得すると夜の空を飛んでいきました。


ガーベラは音楽の才能を開花させ、一段落つくとオルガにも素晴らしい愛の歌を歌うようになりました。

「うれしいぞ。ガーベラ」

オルガはますますガーベラに魅了されました。ガーベラは再び性の喜びに目覚めてオルガと愛の日々を過ごしました。

そして再びオルガはたじたじになっていました。

（参ったな・・・素晴らしい身体だがこっちの身がもたないぞ・・・他人にすれば贅沢な悩みだろうが・・・）

夜の見回りにでるオルガはやがてふらふらになっていました。


「もっともっと愛し合いたいわ！オルガと愛し合うほど私の力は高まるんだわ！だから一杯愛し合いましょう！」

「あ、ああ・・・」

無邪気なガーベラにオルガは苦笑いしながらも、ガーベラを抱きしめたのでした。




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