第19話

わいわいがやがやと、楽しげな雰囲気が漂っていた。

ここは街の酒場である。深夜になれば、どこの街の酒場でも、酒を飲む人々であふれていた。

客は下級兵士たちや、街の人々である。

一族全ての者が力をもっているわけではなく、一族の半数は、力をあまりもたない者だった。

そういう者たちは、戦いはしないが、国の内政に携わったり、商売や農作業などをしている。

また、昔から蛇の一族に従っている種族などもいた。その者たちは、戦いの道具を作ったり、農園で農作物や、

酒を作ったりしている。

この国の名産品は酒だった。酒の消費量は、この世界でもこの蛇の国がダントツである。皆飲む量が半端ではない。

この国では、酒は大人になってから、という法律はなく、10歳くらいになれば、子供でも食事時に酒を飲んでいるほどだった。

ほとんど水と変わりはないのだ。

「かんぱーい！」

「王の御子に乾杯！」

王妃が子供を孕んだと聞いてから、乾杯の音頭はどこもそればかりだ。皆それだけ、ラクシュミに子供ができるのを

心待ちにしていた。

その時、一人の下級戦士が店に入ってきてカウンターに座った。カウンターには他の下級戦士たちもいる。

「さっきいいこと聞いちゃったぜ」

座った男が言った。

「なんだよ？」

店の親父が男の前に酒瓶を一本置いた。そして空のグラスも置く。酒を頼む単位も、グラス一杯ではなく、酒瓶一本である。

「一本おごってくれたら教えちゃうんだけどな〜」

戦士がにまにまと笑って言った。

「ち、しょうがねえな。一本だけだぞ？それで、いいことってなんだい？」

「最近、王妃がミルキダス様をいたく気に入って、しょっちゅう部屋であってるらしい」

「えー？」

「えー嘘だろ！」

「まさかー」

店の親父だけでなく、店の中にいた他の男たちも反応した。

「本当だって。確かな話なんだ」

「あの堅物を気に入るなんて・・・」

「ミルキダス様って女嫌いだろ？まあ相手は王妃だから、愛想笑いでもしてるのかな」

「・・・」

その時みんなの脳裏にミルキダスの愛想笑いが浮かんだ。

「それ、ちょっと怖いぞ」

「そうだな。怖いな。」

「あんまり想像したくないな」

「だが。前に王妃のお気に入りはヴィラ様だって言ってたじゃないか。王妃はああいう冷たい感じの男が

好きなんじゃないのか？」

店の親父が言った。

「あ、なるほど・・・」

と戦士たち。

「結局一番のお気に入りはだれなんだ」

親父が聞いた。

「さあ・・・ミカエル様やフリット様も王妃にはしょっちゅう会ってるみたいだけど」

「ミルキダス様だったらびっくりだな・・・」

どこの酒場でも、こんな風にゆりは話のネタになっていた。

しょっちゅうあっているといっても、ゆりは実際には、ミルキダスと３度ほどあっただけだ。ミカエルやフリットとも

せいぜい10日に一度会うかどうかである。それでも噂が流れると、話に尾ひれがついてそうなってるのだった。

話の出所は王の間の番兵だった。

ゆりの侍女たちは、ゆりのことについてラクシュミに報告しているし、だれが部屋にきた、というようなことも

報告している。その情報を適当に流しているのだ。

ゆりのそういう噂が国の中に流れるというのは悪いことではないので、ラクシュミがあえて話してもいいと言っているのだった。

ゆりが部屋でだれといようが、それを聞いた人が、ゆりのことをふしだらな、と思い蔑むことはない。

むしろ微笑ましく思うのだった。

そこの所の考え方は、ゆりの世界とはかなり違う。

もともと、王妃は恋人をもってもいいということになっているし、この国では、男女の付き合いは、一対一でなければ

ならないこともない。もし、ゆりのそういう話がなかったら、あんまり魅力的でないから男が寄り付かないのだろう

という噂でも流れかねない。

逆に適当な噂があったほうがゆりの評価があがるわけだ。



あちこちで酒の肴のネタになっているとも知らず、ゆりはその夜は、部屋でむしゃむしゃ、豆を食べていた。

なぜかむしょうにあんこが食べたくなったゆりは、自分で豆を甘く煮て食べていたのだ。

昨日から用意して、今日の昼間できてから、ずっと食べている。

今年も終わりに近づいていた。3月に妊娠して、今は13月。もう結構たっているが、いまだにゆりのおなかは

膨らんでくる気配はない。ゆりとしては楽だったが、本当に子供がいるのかと疑いたくなってしまう。

この世界では、子供は３年から5年かけて産まれるようだ。子供は産まれる一月前くらいになると、おなかが

でかくなるのだという。

食欲だけはあるけどねえ・・・

・・・眠い・・・・

ゆりは急にうつらうつらしてきたので、あわてて歯を磨きにいき、部屋に戻ってきてベッドのふとんをめくった。王の寝室

に行くのも面倒だったのだ。

すると、布団の中に二匹の蛇がいた。

「こら、でなさい」

そういうと、蛇はにょろにょろとベッドから降りた。

「まったくもう・・」

ゆりはそのままぐっすり眠った。

そして朝、ゆりは何か体がもぞもぞするのを感じた。

おかしいな。体を何かが触って・・・・

ゆりは自分の布団をめくり、久々に耳がつんざくような悲鳴をあげた。

「ぎゃー！」

「王妃！いかがされました！？」

横の部屋の方にいた侍女があわててやってきた。

「あら・・・」

侍女はベッドの上に大量の蛇がいるのを見た。

「な、なんなの。なんで・・・」

ゆりは驚いたままベッドから降りた。

「こんなこと今までないことですのに」

「びっくりしたーもう！」

胸がどきどきしている。

ゆりは寝室を離れてぎょっとした。そっちの部屋にもやたら蛇がいる。

「あら、さっきはいなかったんですよ？」

と侍女。扉の方を見ると、なんだか蛇がぞろぞろはいってきていた。

「王を呼んで参ります」

侍女はあわてて部屋を出て行った。

「何なの。一体・・・そうだ。ルーはどこだろ」

ゆりは青い蛇を探した。

「ルーどこ？」

呼ぶと、ルーはするするとゆりに近づいてきた。ゆりはルーを抱き上げた

「ねえ、なんで蛇いっぱいきてるの？」

ルーはさあねとばかりに首を揺らしている。

やがてラクシュミがやってきた。

「・・・おかしいな」

蛇はまだ部屋に入ってくる。

「なんでみんなくるの？」

ゆりが聞いた。

「さあな、」

「王様蛇と話ができるんじゃないの？」

「蛇と会話ができるわけじゃない。お前と同じだ。・・・ハザークを呼ぶか」

ハザークは蛇なので蛇と会話もできる。

しばらくして、金色の髪の男が現れた。

「これ、どういうことだ？」

ラクシュミが聞くと、ハザークはふっと笑った。

「お前に儀式をやってほしいようだな」

ハザークはゆりを見て言った。

「儀式？ザクート王の儀式か？」

ラクシュミが聞く。

「よかったな」

ハザークはそう言って消えた。

「・・・王様、私全然その気ないんだけど・・・」

「そうなのか？・・・」

「・・・王様が相手してくれるならその気になるけど・・・」

ゆりが意味ありげな視線を送った。

「すまないが・・・私は忙しいから無理だ」

「・・・・」

ゆりは唇を尖らせた。

「まあちょっと待ってみたらどうだ？その内にその気になるかもしれないだろ？」

「・・・私部屋出てていい？」

「ああ」

ゆりは違う部屋で身支度をしてご飯を食べた。

「はあ・・・」

「大丈夫ですか？王妃様」

侍女が心配そうに聞いた。

「大丈夫だけど・・・・」

そのうちむらむらくるのかなあ・・なんだか気が重いんですけど・・・

って言うか、王様つれなすぎる・・・ぐすん・・・

その時、ミカエルがやってきた。

「王妃の部屋、すごくなってますね」

「うん・・・」

「王妃。儀式、私も参加させてください」

ミカエルはゆりに近づいていった。

「・・・儀式っていっても、前と同じかどうかわかんないし・・・」

「違っててもいいですから」

「・・・前のこと覚えてないっていったよね」

「覚えてないですよ」

ミカエルがほほえんで言う。

「でも儀式には参加したいです」

「私ちょっと散歩してこよっと」

「王妃ー」

「まだわからないんだからさあ・・・」

ゆりはぶつぶつ言って部屋から出た。すると廊下の向こうから、ジュノーとヴィラがきた。

「王妃！」

「王妃！儀式は？」

「げ」

ゆりはぱーと反対側の廊下を走っていった。

「あ、逃げた」

「なんで逃げるんですー？」

その気もないのに儀式なんてごめんよ！

二人は追ってきはしなかったので、ゆりはそのまま城から外に出た。

すると、どこからか蛇がぞろぞろゆりの元にやってきた。

「えー」

蛇は嫌いではないが、大量にこられると怖い。

「もういや！」

「大丈夫ですか？」

男が宙に現れた。ミルキダスだった。

「私も浮きたい」

「はい」

ミルキダスはゆりを抱っこして宙に浮いた。下にいっぱい蛇が集まってきた。大きいのやら小さいのやらいろんなのがきている。

「一体どういう儀式すればいいのかなあ」

ゆりがため息交じりに言った。

「ねえ、ザクート王ってどんな王様なの？」

ゆりはミルキダスに聞いた。

「およそ1万年前の王ですよ。歴史史上最も魔力が強い王だったといわれています。その時代、この国はとても栄えていまして、

力が強い者もたくさんいたようです。王は死ぬ間際、『私は魂となった後も、永遠にこの一族を守る』と言い残されました。

そして言葉通り、時々現われては王の御子に何か魔法をかけるようです。どんな魔法かは知りませんが。」

「ふーん。別に儀式なくても現われてくれればいいのに」

ザクート王って、ケチね。

「・・・・どうしますか？これから」

「どうしよう・・・逃げててもしょうがないけど・・・でもなんでみんな儀式参加したがってるのかな」

ミルキダスは無言である。

「部屋の様子が見たいから連れて行ってくれる？」

「はい」

ミルキダスはゆりの部屋に移動した。すると、部屋の中のいすに4人の男が座っていてゆりはぎょっとした。

「な・・・なんでみんないるの？」

「なんでミルキダスといるんです？」

とミカエル。

部屋の床にはかなりの蛇がにょろにょろしていた。足の踏み場に困るほどだ。なので、ミルキダスはずっとゆりを抱き上げていた。

他の3人もミルキダスを奇妙な顔で見ている。部屋の中を微妙な空気が漂った。

「・・・・」

「いつから仲がいいんです？」

ヴィラが聞いた。

「そんなことより何してるの？みんな」

「儀式があるのなら参加したいなーと思って」

ヴィラが答えた。

「みんな？」

「みんなですよ。それより、私がだっこしてあげますよ」

ヴィラが近づいて両手を出した。

「ううん。もういいよーだ。おろして、ミルキダス」

ミルキダスがゆりを下ろした。

「では私はこれでー」

「待ってミルキダス。ミルキダスも儀式してみたい？」

ゆりが聞いた。

「いえ、私は別に・・・」

「じゃあ強制参加」

「え？」

言ったのは他の4人だった。

「王妃、我々は？」

ミカエルが聞く。

「・・・なんかちょっとその気になってきちゃった・・・かも。とりあえず、午後にしようよ。朝っぱらからそんなこと

したくないし・・・」

4人は無言だった。なんだか目で訴えている。

「・・・いいよ。みんなきても」

「いいんですか？」

ヴィラが聞く。

「４時くらいにきてよ。ミルキダスもきてね」

「はい」

「じゃあとりあえずヴィラ以外の人は行っちゃってくれる？」

ヴィラを残して4人は消えた。

ゆりは長椅子に座った。

「まだ蛇増えてるね」

まだまだ部屋の中に入ってくる。

「・・・いつの間にミルキダスと仲良くなったんです？」

ヴィラがゆりの横に座って聞いた。

「最近だよ。」

「なんで儀式に参加させるんです？」

「なんとなく、お気に入りだから？」

「・・・あなたの趣味は変ですよ」

「そうかな。ミルキダスって可愛いんだもん。顔すぐ真っ赤になって」

「5人も男いて大丈夫ですか？」

ヴィラはちょっと心配そうに聞いた。

「ついでに蛇も呼べないかなって思って。それに二人はきつそうだったしなあ・・」

「・・・」

「本当は覚えてるんじゃないの？」

「実は覚えてます」

ゆりがむくれた顔をした。

「あなたが気まずそうだったから」

「まあいいや。でも、蛇どんだけくるのかな」

「そうですね・・・」

これだけいると異様である。

ゆりはもう開き直っている。

子供のためと腹をくくるしかない。

女は度胸。がんばってやる！

ほとんどやけである。

「おなかすいちゃった」

「別の部屋行きましょう」

「うん」

「ミルキダスも参加するのか？」

王の間で報告を受けたラクシュミは驚いていた。

「はあ。王妃はやけにミルキダスを気にいってるようですね」

ミカエルはぶすっとしている。

「それでミルキダスは？」

「嫌がってはいなかったですよ」

ラクシュミはにやりとした。

「これでミルキダスがその気になれば・・・来年からは、女と過ごすな」

「・・・王・・・少しは王妃の心配もしてあげてください」

「ま、大丈夫だろ」

ラクシュミはあっさり気楽に言った。

「自分で５人とするといったんだろ？」

「そうですが、王妃は優しいから、選べなかったのかも」

「じゃあお前遠慮したらどうだ？」

「いやです」

ミカエルは力を込めて言った。

ゆりは時間が近づくと、お風呂に入った。

なんだか胸がどきどきしてくる。

よかった。その気になれそう・・・

自分の部屋に行ってみると、部屋の外に５人がいた。部屋の扉は開けられていて、中をのぞいたら、ものすごく

大量の蛇が重なり合っている。

「すごい、もう足の踏み場もないじゃない」

「別の部屋の方がいいんじゃないですか？」

ミカエルが言った。

「でも・・・これって何か意味があるんじゃないかな。ここの方がいいと思う」

「そうですか」

「ベッドの上だけきれいにしてきてくれる？」

「いいですよ」

ミカエルとフリットが消えた。

「・・・ミルキダス、いやだったら・・・」

ゆりが伺うように聞いた。

「いやじゃないですよ」

ミルキダスが言った。頬が赤くなっている。

「本当？」

「はい」


どうも怪しいとヴィラとジュノーは目を合わせた。

「きれいになったようですよ」

ヴィラの元にミカエルからの思念が飛んできた。

「じゃあいきましょ」

ヴィラがゆりを移動させて、ジュノーとミルキダスも移動した。

ベッドの周りの床にも、おびただしい蛇がいる。

「じゃあ、とりあえず・・・刺激的なミカエルから・・・」

ゆりが言うと、ミカエルがうれしそうにゆりを抱きしめた。

男たちはそれぞれ優しくゆりを愛撫した。

「ミルキダス、私を嫌わないでね」

「嫌いにはなりません」

５人の男たちの愛撫が終わるころ、ゆりの顔つきが変わっていた。

どうやら、だれかが降りてきたかのようだった。

「今日は前とは違うのよ。私だけが興奮すればいいんだけど・・・それじゃかわいそうよね。じゃあみんな

脱いで。最初はミルキダスから」

「？」

「ずるい・・・王妃・・」

ミカエルが言う。

「だって、最初だからね」

ゆりはミルキダスの腕を引いて、口付けた。手はミルキダスのズボンを脱がしている。

「お、王妃・・・」

「遠慮しないでいっていいからね」

ゆりは強引に脱がすと体をずらしてミルキダスの下半身に触れて、やがてそれに口をつけた。

ミルキダスがぎょっとする。

「じっとして」

「・・・」

ゆりはかまわずに口で奉仕する。他の4人はそれをじっと見ている。

「・・う・・・」

ミルキダスがうめいた。やがて、ゆりが口を離して、ミルキダスの体から精液があふれた。

「じゃあみんなきて。蛇蛇言ってるから、蛇も呼ぶから」

４人の男たちが体を寄せた。

それぞれゆりの体をまさぐり、ゆりも男たちに奉仕する。

部屋の中は、まだ蛇が入ってきていた。

ゆりの体から、すさまじい淫の気があふれだした。

「王妃・・・」

「ああ・・・」

男たちは変化して、愛撫は激しさを増している。

「ああ・・・ああ・・・」

「王妃・・・」

ゆりの口から再び、謎の言葉がもれだした。

「dtaitkkakkakaakkkkkkk」

「kksksllllsoiaoa！」

部屋の中に蛇霊神がぬっと入ってきて、ゆりの周りを回ってきた。

ゆりが再び何かを言う、ゆりの中に蛇霊神は入って行った。

「はあ・・・これでよしと」

男たちは元の姿に戻っていた。

「じゃあ、とりあえず体洗いたいな。みんなもそうして。今度はみんなは服着たままでしてもらうから。

お風呂に連れて行って」

ゆりが言うと、ミカエルがゆりを浴室に連れて行った。

「ミカエルもここで入ったら？」

浴室に行き、ゆりが言った。

「いいんですか？」

「だって、どうせ後で連れて行ってもらわなきゃならないし・・・」

ゆりは浴槽のお湯で体を流した。

ミカエルもそうすると、あんまり熱かったので、「あち！」と言った。

「こんな熱いの入ってるんですか？」

「うん」

ゆりはお風呂の中に入った。ゆりにとってはちょうどいい温度だ。

「ミカエルは無理だったらむこういく？」

「いかないです」

ミカエルも浴槽の中に入った。

「ねえ、王妃、私は、あなたの一番のお気に入りになりたい」

ミカエルはゆりを見つめて言った。

「なってどうするの？」

「どうもしないですが、なりたいんですよ」

「私、あなたの顔は一番お気に入りだけど」

ゆりがミカエルの顔を見て言う。

今のゆりは、理性は８割がた飛んでいる。その上違う存在もまだ入っていた。

裸を見られて恥ずかしい、という気持ちは全然なくなっている。

「顔だけじゃいやです。全部気に入ってほしい」

ゆりは顔を近づけた。ミカエルがゆりの唇を自らの唇で覆った。

「キスも好きだよ」

ゆりが言った。

部屋に戻ってきた時、4人は微妙な顔でミカエルを見た。

4人はもう服を着ている。

ミカエルも服を着た。

「じゃあ、みんな愛撫して」

「じゃあミカエル殿はずるしたから抜きで」

とヴィラ。

「え」

「当然ですね」

ジュノーも言った。

「私はどうでもいい」

とゆり。

「ひどい・・・」

いじけるミカエルの横で、4人の男たちがゆりに触れて愛撫した。

再び、ゆりの体から淫の気があふれてきた。その妖しい気は部屋の中に充満した。

蛇たちは、皆体をゆらしている。

「しゅる・・しゅる・・」

「しゅーしゅー・・・」

「しゅるしゅる」

蛇たちは体を摺りあわせて声のようなものを発していた。今や部屋の中はベッドの高さまで蛇で埋め尽くされていた。

時刻はすでに夜になっていた。部屋の中は灯りがともされていた。

「あ・・・あん・・・」

「シュー・・・シュー・・・・」

「しゅるる・・しゅるる・・・」

「蛇たちがなんだか落ち着かないなあ」

王の間の前にいる番兵が言った。

「そうだな」

廊下にいる蛇たちはせわしなく体をくねらせている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・！！！」

ゆりが発した言葉は古代語だった。

部屋の灯りが全て消えた。そして、大量の蛇たちの上に浮かぶ人影があった。

その姿に、五人はあっけにとられた。その威厳と豪華な服装は、王がまとうもの。強烈なのは、金色に輝くその瞳だった。

肩までの銀色の髪、美しくりりしい風貌。

「・・ザクート王・・・」

ミカエルが言った。

「いかにも、我が名はザクート。」

低い、魅力的な声をしていた。ザクート王がすっとベッドによってくる。五人はベッドから離れて浮かんだままひざをついた。

床には大量の蛇がいるからだ。ザクート王はベッドの傍らでゆりを見下ろした。そして、少し首をかしげた。

「随分変わった女だな。」

「異界の方なので・・・」

「いかい？まあいい」

ザクートが左手をふわりとあげると、ゆりの体が宙に浮かんだ。

「あ、あの・・・我々は・・・」

「そこにいてかまわぬ。今の王に伝言もあるゆえに。・・・・孕んでどれほどになる？」

「10ヶ月ほどです」

「そうか・・・結婚して何年で孕んだ」

「最初の交わりの月で、」

「随分早かったのだな・・・再び孕むかもしれないな・・・」

ゆりの体の周りを、くるくると白いものが回っていた。

「なるほど・・・面白い女を妻にしたものだな・・・」

ザクートがふっと笑った。

ゆりの体が縦になり、ザクートのほうをむいた。宙に浮いたまま。

ゆりはじっと王を見ていた。今、ゆりの体から別の存在は消えていた。

「今から、子供を守るための護法をほどこす。」

ザクートは何かをつぶやき、指で宙に線を書いた。それは光り輝く魔法陣となり、ゆりのおなかに消えた。

「王・・・様・・・」

ゆりがザクート王に手を伸ばす。王はゆりを抱き寄せて、腕に抱いてやった。その手が、優しくゆりの頬をなでた。

「これからはいかなる敵の干渉があろうとも、この護法が王妃を守る。子供が生まれるまでは有効だ。あまり城に閉じ込めるのは

よくないと王に言っておけ。子供も、王妃の目を通していろんな事を学ぶのだからな。産まれるまでに、国中を見せることだ」

「はい、伝えます」

ゆりの体がふわりと浮いて、ベッドの上に降りた。

「古の契約は果たした。わが一族に永久の繁栄を」

ザクートの姿は消え去った。


部屋の中には静寂が残った。灯りがともる。

男たちは感動のあまりぼんやりしていた。

「ああして、ずっと一族のことを守ってくださっているのだな・・・」

つぶやくように言ったのはフリットだった。

ゆりは横になって目を閉じていた。

ミルキダスはゆりの体に布団をかけた。

「ザクート様が現れる前、王妃は古代語のようなものを話していたな。なんていったか覚えてるか？」

フリットがミカエルに聞いた。

「・・・ザクート様の出現で、すっかり忘れてしまった」

ミカエルが頭をかいていう。

「一族の守護者、今は亡き偉大なる王よ。どうかお力をお貸しください。次なる王に加護をお与えください。といいました」

ミルキダスが言って、一同ぎょっとした。

「お前古代語知ってたのか・・・」

「はい・・・」

「そうか・・・よかった。王妃が古代語なぞ知ってるはずがない。やはり王妃に降りた存在が言ったのだろうな」

「この蛇、部屋の外に出したほうがいいですね」

ジュノーがベッドの周りを見ていった。

「王妃を別に移すほうが早いような気がするが・・・」

とヴィラ。なにせベッドの高さにまで蛇がいる。

「そのうちひとりでに出て行くんじゃないのか？」

とミカエル。

「無理ですね。ほら、皆脱皮の準備に入っている」

ヴィラが蛇をつかみあげる。蛇はくたーとしていた。どの蛇も、まったく動かない。

「これは大変だ」

「蛇たちも儀式を手伝ってくれたのだから、文句はいえませんよ」

とヴィラ。

「そうだな。」

ミカエルが言った。

こうして他の連中も呼んでの蛇の大移動が始まった。驚くことに、城の中にいたすべての蛇は皆脱皮の準備に入ってしまっていた。

「そうだ、ルーはおいておかないと、王妃が悲しまれる」

フリットが部屋の中を探す。

「あそこにいますよ」

ジュノーが鏡台の上を指した。そこに青い蛇が乗っていた。

「本当だ。よかった」



ラクシュミは王の間で、自分の横にいた大きな蛇が全く動かなくなったのを見た。

ミカエルが報告にきて、事のあらましを話した。


「王はすごい方だったか？」

ラクシュミが聞いた。

「ええ、伝説通り偉大な方でした」

ミカエルが答えた。

ラクシュミは、ミカエルが消えた後も、じっといすに座っていた。

ラクシュミの前に、ハザークが現れた。

「よかったな。儀式できて」

「お前は脱皮しないのか？」

ラクシュミが聞いた。

「我の脱皮はまだまだ先なのでな。どうした？喜んでいる風には見えぬが」

ラクシュミは、どこか暗い顔をしていた。

「・・・自分の情けなさを痛感しているんだ」

「あの時代と今では一族の数が全然違う。お前でなくてもどうにもならん。」

「・・・」

「それにあれは特殊な男だからな。」

「お前、実際にあったことあるのか？」

「ああ。ある」

「そうか・・・」

ラクシュミはハザークの正確な年齢も知らない。前に聞いたら、さあなといわれた。

「特殊な男ってどういうことだ？」

「あれの母親は、交わりの月の時に、100人の男と交わり、1000匹の蛇と交わった。それであれができたのだ」

「・・・王がよく他の男とさせたな」

交わりの月には、王妃は王だけと過ごす決まりがあるのだ。

「あれの母親も特殊な女だった。それゆえ、王はそうさせたようだ」

「すさまじい話だ・・・」

「だからあの男と比べても無駄だ」

どうやら慰めようとしてくれているようだ、とラクシュミは感じた。

「共に酒でも飲まぬか？」

ラクシュミが誘った。

「そうだな」

二人は違う部屋に消えた。

「では、古の王に・・・」

ラクシュミが杯を掲げて言うと、ハザークは少し苦い表情をして、酒を飲んだ。