第６話
7の月、 謎の商人ミケはいよいよ蛇の国の城の北にある街に小さな店を開いていた。裏通りにある目立たない店である。表には「占い屋」という看板が掲げられて、店の中には身を守る石だの恋が成就する石だの、魅力が増す石だのが売られていた。
店を開店して数日後、ミカエルがこの店を訪れている。
「いらっしゃいませ。おやミカエル様じゃないですか。さっそくご来店ありがとうございます」
さえない風貌の男は目一杯愛想良く言っていた。
「店まで開くとは、お前流れの商人じゃなかったのか？」
ミカエルが聞いた。
「気が向けば店も出してますよ。私はちょっとした占いも得意です。ところで一つだけ教えていただきたいことがあるんですが」
「なんだ？」
ミカエルは店の中を眺めながら聞いた。いろんな色の石は安いのから高いのまで値段は様々だった。
「王妃様の生年月日です。これだけ教えてくださいよ」
ミケは拝むように頼んでいた。
「王妃の生年月日……実は私も知らない」
「またまた」
「本当だ。本人しか知らないんだ」
「そうですか」
ミケはしょんぼりしていた。
「いつまで店を出す気なんだ？」
「１０年弱は」
「また１０年か。まあがんばれよ」
ミカエルは店の中をチラチラみて去って行った。
「生年月日もわからんじゃ占いようがねえなあ」
ミケは頬杖をついてぶつぶつ言っていた。裏通りの小さな店ならば、金さえ払えばだれでも借りることができる。中には怪しい者もいるので戦士達もしょっちゅうここらはうろついている。
（王妃様の毛髪なんて無理だろうし、服も無理、産まれた日もわからねえ、顔は……博物館に王妃様の石像があったが、あれだけじゃなあ……）
ミケは王妃の今後を占ってみたかったのだが、占うにはそれなりの情報が必要である。本人が目の前にいれば占いもできるが、王妃様に会うのはそれこそ不可能だった。
店の扉が開いて、扉についていた鈴がリンリンなった。
「よお」
入って来たのは、この店の左向かいにある店の主人である。腹が出た恰幅がいい男で、頭の上ははげている。この男の店は様々な壺を売っていた。
この裏通りには10ほど店があったが、ミケは半分は怪しい店だと勘ぐっている。
怪しいというのは偵察のためにここに店を出している連中ということである。
「ミケさん、せっかく知り合ったんだし、今夜一緒に飲みませんか？」
男はミケを誘いに来たようである。
「私は酒はあんまり飲めないんですよ」
「まあそう言わずに、いろんな国を巡っていたんでしょう？ その話でも聞かせてくださいよ」
男は愛想が良さそうな男であるが、誰かと仲良くなりたい気分でもない。
「まあ、またでお願いしますよ。まだ店の中が片付いてないんで」
「そうですか。ではまた」
男は去って行った。
（あの男の店は怪しいのかどうか、まだわからねえな）
ミケはタロットカードを机の上に出して札をシャッフルし、３枚を横に並べた。
一番左のカードをめくった。そのカードは「恋人」の正位置である。
次に真ん中のカードをめくった。カードは「世界」の正位置だった。二枚のカードは良いカードである。良い伴侶を得て、順風満帆な人生を送っているというカードの暗示である。
「問題はこれだよ」
最後に右のカードをめくった。そのカードは「塔」の正位置。
「よくねえな。王妃様の近未来が何度占ってもよくねえんだよなあ。近い内に何かが起こるんじゃないだろうな。こええ。全く関わるんじゃなかったぜ」
ミケはタロットカードをまとめていた。ついお遊び半分で王妃様の暗殺を引き受けてしまったがために、自分よりも格上の者に目をつけられるは、散々である。
（あの石を渡したのは痛かったが、もう一個あるし、命があってこそだからな）
ミケは服で隠していたが、自分の首にも魔具のネックレスをつけていた。ミケは同じ魔具を二つもっていたのである。これらは自分の師匠である魔術師が死んだ時に遺産としてもらったものだった。その師匠は昔龍の鉱山で二つ魔石を奪い、龍ではお尋ね者だった。自分がこの石を持っていることを龍の連中は知らない。知れば自分の首にも賞金がかかるだろう。
（これを持っていることを、やつはすぐ見抜いていた。普通わからねえのに）
夢にやってきた男は「裏技を使ってるな？」と言ったのだ。魔具で魔法力をあげていることを、すぐに見抜いた様子だった。
（あいつには二度と会いたくねえ。王妃様の今後も気になるし、ここでしばらくはひっそり暮らすか……）
ミケはまとめたタロットカードから一枚引き抜いた。そのカードは「審判」の正位置である。
「悪いことさえ乗り切れば……また良い方向に流れる可能性があるな。全く、何の因果でこんなことになっちまったんだろうなあ」
ミケは大きなため息をついていたのだった。
街にいたミカエルは城に戻っていた。ミカエルは猛烈にゆりの誕生日が気になりだしていた。元々この国の人達は誕生日に無頓着である。祝うのも１０年ごととか、１００歳に盛大に祝ったりするくらいである。
毎年祝っているのは王族の子供くらいで、ラクシュミ自身の誕生日も祝ってないくらいだ。
ミカエルがゆりの部屋に行くと、ゆりはいなかった。
「王妃様はカール様とお風呂ですよ」
と侍女が教えてくれた。
「お風呂か、いいなあ」
出直そうかと思っていると、ゆりがぱっと現われた。蛇の目のゆりの方である。
ゆりの髪は濡れていて、ゆりは首にタオルを巻いていた。
「あらミカエル来てたの？」
「カールと遊んでたんですか？」
「うん。ようやく暖かくなってきたから！ しかも気もいっぱいもらったし」
「よかったですね。実は聞きたい事がありまして。王妃の生まれた日っていつなんですか？」
「生まれた日？ 知らない。聞いてどうするの？」
「なんとなく知りたくなったんです」
「こっちの生まれじゃないから、聞いてもわからないと思うけど、交代してあげる」
黒目のゆりになった。
「あれ？ ミカエル」
「王妃、王妃の誕生日っていつなんですか？」
「誕生日？ 今更？ こっちに来たのが10の月５日だから、それが誕生日でいいかなって思ってるけど」
黒目のゆりは自分の首からタオルを取っていた。
「私お風呂にいたのかしら？」
「お風呂で遊んでたみたいですよ」
「そうなの？ もしかしてカールと？」
「そうですよ」
ゆりの足がふらついて来て、しゃがみこみそうになったので、ミカエルがゆりの体を支えていた。
「大丈夫ですか？」
「なんか気分が急に」
ゆりはお風呂で遊んでいたことにショックを受けたわけではない。
ミカエルは先ほどまで気で輝いていたゆりの体から、気が急激に失われているのに気がついた。
「気をあげましょう」
ミカエルはゆりを抱き上げてベッドに運んだ。
（なぜ急に？）
ミカエルはゆりを寝かせてその横に寄り添った。
「私の気、一杯とっていいですよ」
「ありがとう」
ミカエルは念のため、ハインリヒと医師のフレイも呼んだのだった。ミカエルとハインリヒの気を奪うとゆりは回復していたが、念のためベッドで安静にしていた。
フレイはゆりを診て、その後ラクシュミに報告していた。
「ミシェイラ様が妊娠中の時は時々ああいったことがありましたから、それかもしれませんな」
「ミシェイラはハザークの血が入っているから特別な子だったが、今回は……そういや子蛇か。子蛇が２匹ついてるんだったな」
「そうですな。そのせいかもしれませんし、たまたまかもしれません。まあ妊娠中は何が起こるかわからないといえばわからないものですから」
「最近は大丈夫そうだったから油断してた。ゆりには念のためにブレスレットをつけるように言っといたほうがいいな」
「過去からいただいたのがありましたな、それがいいでしょう」
ラクシュミがゆりの寝室に行ってみると、ゆりのベッドにはヴィラとジュノーがいた。ゆりはミカエルとハインリヒの気は奪った後のようだ。
二人はラクシュミに気がつくと、座っていた。
ゆりは目を開けた。
「王様、だいぶ具合よくなったよ」
「そうか、ゆり、過去から来たブレスレット、念のためにつけておいたほうがいいぞ」
「そうかな」
「ジュノー、お前がつけていた、あのネックレスはどうしたんだ？」
ラクシュミがジュノーに聞いた。ジュノーはへびっち回復のために、ゆりのブレスレットにある石と同じ石が入ったネックレスを預かっていたのである。
「ムサカ様に渡しました。ムサカ様がまた気を入れてくださるそうで」
「そうか。ありがたいな。ゆり、夜もあまり一人にならないほうがいいぞ。私の所で寝てもいいし、誰かと寝てもいい。お前のところには神がよく来るからあれだが……あちらには来る時には予定を知らせるように言っといたらどうだ？」
「え？」
ヴィラとジュノーはちょっと笑いそうな顔付きである。
（どうやって知らせてもらおう？ どっちみちここでいちゃいちゃはハロルドくらいとしかしてないけど）
ゆりが考えていると、
「ワン！」
寝室にいたジロウが吠えていた。ラクシュミが顔を向けると、ジロウは胸を張って座っている。
「ジロウ君がまかせろって言ってる」
ゆりは笑っていた。
「ワン！」
「じゃあこれから一人の時は、部屋の扉は開けっぱなしにしておけ。子供達の部屋も」
「うん」
「ジロウ君は強力な護衛だなあ。王、毎月お手当をあげたほうがいいですよ」
ヴィラが笑いながら言った。
「確かに役に立つな。だが、なるべく一人にならないように」
「わかった。今夜はナナミと一緒に寝るね」
「そうしろ」
ラクシュミは去って行った。
「今日は突然だったからびっくりしちゃった」
とゆり。
「気をつけてくださいね。また王妃と寝たいな。遠慮しないで言ってくださいね」
ジュノーが言った。
「うん。ありがとう。そうだね。ミシェイラの時みたいに、またみんなと順番に寝るのもいいかもなあ……ところで、今へびっちはどうしてるの？」
「今はヴィラにいますよ」
ジュノーが言った。
「へびっち、過去に行きたいみたいなんですよ」
とジュノー。
「え？ どうして？」
「過去の世界の恋人の様子を見に行きたいみたいです」
「へーそうなんだ。へびっち、過去に行ってもいいけど、今度は長居せずに帰ってきてね」
ゆりはヴィラを見て言った。
「夢がつながらないといけないですからね」
とヴィラ。
「へびっちに会えたらアナスターシャは喜ぶだろうね。私も一緒に行きたいな。久しぶりにアナスターシャに会いたいし、ディラン達にも会いたいなあ」
「王妃は儀式しちゃいそうだからだめです」
とヴィラ。
「クロスは絶対したがるだろうね。マーみんな恋人にして、とか言われそう」
ゆりは笑っていた。
子供達はゆりのことを心配し、シスが「今夜は僕が一緒に寝るよ」と言ってくれたので、そうすることにした。
夜、ゆりのベッドにシスがやってきた。
「実は残念なことと良いことがあってさ」
シスがゆりの横に寝転んでから話を切り出した。
「なに？」
「ロイがさ、ハザーク様にメメントらしきものをもっていってたんだ。それで僕たちは、やった、また侍女さんが妊娠したんだ、と思ったんだよね」
「え？ 妊娠したの？」
ゆりは驚いている。
「それがさ、違ってたんだ。ロイにさっき聞いたら、妊娠したのは侍女さんじゃなくて、ハザーク様の塔にいるメスの大蛇なんだって」
「あらら、残念ねえ」
「それがさ、相手はディーンさんらしいんだ」
「ええー！！！！」
ゆりは飛び起きるほどに驚いていた。
「本当？」
「その可能性が高いらしいよ。ディーンさんもびっくりしてるんだって。ディーンさん、昔子蛇ができたことはあったらしいよ。人にはならなかったらしいけど」
「へーディーンさんの子供となると、ハザーク様の親戚ってことだよね。すごい。子蛇が長生きすればいいなあ。卵はもう生まれた？」
「メス蛇は卵が生まれる前に塔から出て行っちゃったみたいだよ」
「そうなんだ。何匹生まれるか楽しみだね」
「うん」
「子蛇ちゃん、塔に居着いてくれないかなあ」
ゆりは小さい金蛇が数匹ハザークの部屋をうろうろしているのを想像しながら、目を閉じたのだった。
夢の中、二人のゆりはディーンの子蛇の想像をしていた。
「ハザーク様も、ここに来て親戚が増えまくりだよね。人生何が起こるかわからないね」
と蛇の目のゆり。
「そうだね。ディーンさんがいてくれて、本当にうれしいよ。カーライル様は霊だけど、ディーンさんは生きてるもんね」
ディーンの寿命はわからないが、もうしばらくは生きていてくれそうである。以前とは、ハザークの心もだいぶ違うはずだ。
そんな話をしていたら、黒豹がひょいと近づいてきた。
「え！ スペードさんだ！ なんか久しぶりだー」
黒目のゆりは驚いて近づいてきた黒豹を抱っこしていた。黒豹はぺろっとゆりの頬をなめている。
「もーしばらく来ないから、虎と狼を紹介してもらう所だったよ」
ゆりは冗談まじりに言っていた。
「紹介してもらったら夢に来るのかな？」
蛇の目のゆりが聞いた。
「え？ 来るんじゃないの？ 現実に来たりして？ それも面白いけど、遊びに来るの大変じゃない？」
「そうだよね」
「王妃様、虎が王妃様に会いたいと来てますがって？ ぷっ」
「ガル」
黒豹が声を出していた。
ゆりは黒豹をなでなでした。なんだか久々の感触である。
「ジロウ君といい、やっぱり毛がある動物っていいよね。現実世界にいるジロウ君はすごくかわいいんだよ。寂しかったら側にいてくれて」
「ジロウ君って犬ですよ」
蛇の目のゆりが黒豹に説明していた。
辺りを白い霧が立ちこめてきた。
「なんだろう？」
霧が濃くなってきた。真っ白い霧の中、動物の影が見える。イノシシのような風体の大きな動物である。
「何かな」
ゆりが立ち上がると、黒豹はゆりの前に素早く移動していた。まるで行くなと言っているかのようだ。
それを見て蛇の目のゆりも足を止めた。霧が薄くなり、その動物の姿を見ることができた。
二人のゆりの頭には大きな「？」が浮かんでいる。それは、ピンクの花柄の動物だった。
「……なんだろう？」
「変な動物だね」
「イノシシでもないし……バクかな？」
黒目のゆりが首をかしげながら言った。イノシシにしては鼻が長い。黒豹はゆりの前からどいている。黒目のゆりはおずおずとその動物に近づいてみた。
よく見るとまつげが長く、かわいい目をしている。
「やっぱりバクっぽいけど、こんなバクいるのかな？」
「バク……」
「やあ」
と声がかかって、二人のゆりはびくっと体を揺らしていた。見ると、側にいたのはねぼすけだった。相変わらずフードがついた上着を着ている。
「え？ ねぼすけ君？」
「そう、こちらは僕のペットのエリザベスだよ。よろしく」
ねぼすけはバクの紹介をしていた。
「エリザベス？ 女の子なんだ？ かわいいペットだね」
「かわいいでしょ？ なんだ先客がいたのか」
ねぼすけは寝そべっている黒豹を見た。
「久々に話でもと思ったんだけどさ」
「現実にこんなかわいいバクがいるの？」
黒目のゆりが聞いた。
「いないよ。エリザベスは夢の世界の住人だからね」
「そうなんだ。なでてもいい？」
「いいよ」
黒目のゆりはエリザベスをなでてみた。毛はすごく短かった。
「かわいい柄だね」
というと、エリザベスは鼻をひくつかせていた。
ねぼすけは黒豹を見て、「スペードとはだめになったんだってね。怒ってる？」と黒目のゆりに聞いた。
「怒ってないですよ」
「あいつ暴走しちゃった？」
「スペード様、怖かったけど、ステキでしたよ。ねぼすけ君は元はどの一族なの？」
「僕？ 獏だよ」
「バクなんだ」
「獏の一族は夢を操る能力に長けててね。その中でも僕は変わり種さ。眠るのが好きでいくらでも寝ちゃう。それで妖精になったようなものさ。先客もいるから今日は退散するか、またね」
「また来てくださいね」
二人のゆりは手を振り、ねぼすけはエリザベスと一緒に消えた。
「ねぼすけ君も不思議な人だなあ」
「そうだね」
「バクか。私がまだ見てない動物、たくさんあるなあ。獏の国はあんな動物がたくさんいるのかな。夢に関連してるなんて面白いなあ」
元の世界とこちらの世界、違うようで似たような動物がいて、似たような伝承もある。不思議なものである。
ゆりの夢はそのくらいで、後は変わったこともなく、黒豹をなでなでして過ごして終わった。
ゆりの状態は普通だったので、一緒に寝ていたシスはほっとしている。
一方ゆりの夢に来たねぼすけは、一旦帰り、違う夢へと行っていた。
その夢では、服を着た男が裸の美女に抱きついてキスしまくっていた。
「やあ」
とねぼすけが声をかけると、男は「ぎゃああ！」と驚きまくり、女の姿はぱっと消えていた。
「な、何？ 俺何もしてねえっすよ。もしかして、王妃様死んだ？」
脅えていたのは以前ねぼすけが会った暗殺者である。
「いや、死んでないよ。今日は折り入って話があってさ、君もいつまでも暗殺してる場合じゃないだろうとおもってさ。ほら、そういう連中の末路は、野垂れ死にって決まってるし」
ねぼすけは明るい口調で言った。
「俺は、いえ、私はもう暗殺なんてしてませんよ。きっぱりと足を洗いました。本当に。それどころか今はもう王妃様の健康を気遣う毎日ですよ。はい」
この男、蛇の国で店を開いたミケである。ミケは無理に笑顔を作りつつ、ねぼすけに言っていた。
「え？ ほんと？」
「本当ですとも」
「ならちょうどよかった。実は逆に依頼したいと思ってさ。まだあの王妃様いろいろ狙われてるらしいんだよね。僕も依頼主もずっと見張ってるわけにもいかないし、君どうかなと思ってさ。たまには誰かを守るってのもいいだろ？」
「守る……はあ……」
ミケは拍子抜けした表情だった。
「戦士の連中もいろいろやってるみたいですがねえ」
「そうだろうけど、裏の道に君なら詳しいだろう？ 君も凄腕って言われていたんだからね」
「それはそうですが……」
「報酬は一年に一度、宝石で支払うよ。期間は、王妃様か君が亡くなるまで。もし長生きしたら、長い契約になるね」
「この先１００年生きたら１００年契約ってことですか？」
「そうだよ」
「ひえー……」
まさかこんな依頼が来るなんてミケも考えてもいなかった。だが、自分が死ぬまでとなると、途方もない。
「あのーとりあえず、１０年だけってことにしてくれません？ その後はそれから考えるってことで。いくら金があっても、ちょっと息抜きもしないと」
「それでもいいよ。とりあえず１０年ね。君今どこにいるの？」
「蛇の国ですよ。ちょうど小さい店を買った所です。もう王妃様のことが気になっちゃって」
「あそう、ちょうどよかったじゃない。なんて店？」
「占い屋です。城の北にある街の裏通りにあります」
「わかった。じゃあそこに宝石を届ける。細かいことはまかせるよ。それじゃね」
ねぼすけは消えた。ミケは口を少し開けたままねぼすけが消えた所を眺めている。
「引っ越した途端にこうなるとは……これはあれだな。俺の運命なのかもしれねえ。しかしあの人の依頼主はだれなんだ？ 王様？ うーん、わからねえ」
その数日後、ミケの元に手渡しで封筒が届いた。
「受け取りのサインをお願いします。その前に確認します。これを受け取ったら依頼を受けたとみなされますが、どうしますか？ そう聞いてこいと言われましたが」
「え？ 依頼、ああ、あれか、受け取る」
「ではサインを」
ミケは書面にサインをして封筒を受け取った。
「どうも、ではさようなら」
宅配の男は去って行った。
ミケは封筒を開いた。中には小さい革袋が入っている。開けてみると、色とりどりの宝石が１３個入っていた。直径１センチもない小さな宝石だが、金に換えれば結構な金額になりそうだ。
「おおーすげえじゃん。１３個、一月一個分ってことか。……依頼としてはありえねえ。俺が何もしなかったらどうするのかねえ」
何か働いた後に報酬を払うというのならわかる。もし王妃直属の護衛ならばこれもありだが、ミケは実際には王妃に近づくことはできないし、ミケができるのは、ここで怪しいやつを見張るくらいである。
（それでもこれだけのものを払うとは、依頼主は相当王妃様に死んでほしくないんだな。その上金持ちだ。ここの王様はそんなに大金持ちじゃなさそうなんだがなあ……）
「まあいいか。かなり気持ち悪いが、どうせ逃げる気もないし、何か、王妃様のことでできそうなことがあったらするかな」
ミケは宝石を革袋にしまって、ベッドサイドの引き出しにしまったのだった。
そしてもう一つ、夢での出会いがあった。ヴィラはディランと出会い、へびっちはディランにひっついて行ってしまったのだ。
「へびっち、今度は短めで帰ってくるんだぞー」
ヴィラはそう叫び、ディランとの夢の出会いは終わってしまったのだった。
つづく
１３部
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