第11話
神の国ではある日のこと、虹の神殿にのっそりと豹がやってきていた。薄い黄褐色に黒い豹紋があるでかい豹である。ルチアと一緒にやってきたので、ラーズはまたお土産かと思っていた。
（海の土産よりはましだけどなあ、こういう土産も困るなあ）
ラーズは頭をかいてる。
「わーい、でかいネコだ！」
サーラはぴょんと豹の背中に乗ったので、ラーズが驚いていた。
「こらこら。怒られるぞ」
豹は背中をぶるっと震わせたが牙はむかなかった。思ったよりおとなしいようだ。
「はずれから連れてきたんだろ？ ちゃんと連れていかなきゃだめだぞ」
ルチアは熊や龍もこの近くに連れてきたことがあるので珍しいことではなかった。ルチアは手を横に振っていた。そして身振りで何かを伝えている。
「勝手にきたんだって」
サーラが言った。
「そっか。勝手にきちゃったのか」
「ネコ、動いて」
サーラは豹の上で足を振っている。豹は寝そべったままである。
「猫じゃなくて豹だよ」
ラーズが言った。
「豹うごけ」
豹は四つんばいになるとぶるっと背中を震わせてサーラを落とし、すたすたと神殿を出て行った。
「パティウスに狩られないように気をつけろよー」
ラーズが去って行く豹に声をかけていた。
いよいよ星祭りは明日からである。前日の今夜でも、夜空には星がちらほら流れていた。ゆりはベランダで子供達と夜空を眺めている。
「星ってなんで流れるの？」
レーヌが聞いた。
「どうしてだろうね」
とシス。
（流星って確か、宇宙の塵か何かなんだよね。でも説明するとロマンチックじゃないな）
とゆりは思い、黙っていた。
「流星が流れている間に恋人とチューすると来世でも会えるんだよ。カー様みんなとチューしなきゃね」
ロイが言った。
「羊の国の言い伝えよね。羊の国では数日チューしまくるのかな」
ゆりはその場面を想像していた。羊の国では祭りの間、みんな赤い月のようにラブラブしていそうだ。
「明日からはいっぱい流れるのかな？」
ナナミが言った。
「そうなんだろうねえ」
とラギ。
「いっぱいってどのくらいかな。100とか200とか？」
「さあ」
「街ではお祭りがあるんだけど、行っちゃだめだって。行きたかったなあ」
ナナミは残念そうだった。
「ミカエル達も警備で忙しいって言ってたなあ。あなたたちは勝手に行っちゃだめよ。特にロイ」
ゆりがロイを見た。
「ミカエルは病院で忙しいんじゃない？ カーラがそろそろ産まれるんでしょ？」
とロイ。
「そうそう、そっちもあるの。もうすぐみたいね。王様がそわそわしまくってる」
新聞にも、「とうとうカーラさんの子供が産まれるか！」との文字があった。国中でどきどきしているといっても過言ではない。
「街での賭けは最終的に女優勢で終わったみたいだよ」
とラギ。
「そう。まあどっちでもいい、元気で産まれて欲しいね」
ゆりが言った。
（カーラ、がんばっ！ しかし、ガーベラの儀式のお茶のおかげか、カーラに何事もなくてほんとよかったわ。儀式をやってよかった！）
あのお茶がなかったら、カーラは再び妊娠することはなかったかもしれない。
（やっぱり何事もやってみるに限るわ。うん）
儀式のお茶でカーラは元気な妊婦になり、ロアンナの目の病気も治ったようなので、ゆりはそれだけでも儀式をやってよかったと思っていたのだった。
「祭りの間で産まれるのかあ、王様と一緒に私もドキドキ」
この夜は、ナナミがゆりのベッドにやってきて一緒に寝たのだった。
ゆりは気がついたら神の国だった。ガーベラの神殿である。マチルダが産まれて4、5日しか経っていないはずだ。
ちょうどクーリーフンがやってきたので、ゆりは、「ガーベラはマチルダを見て何か言ってた？」と聞いてみた。
「やあ、きたんだ。お母さん、マチルダが人間に人気が出そうな美人だから、微妙な顔付きだったよ」
クーリーフンが答えた。
「え、やっぱりそうなの？ ガーベラもそう思ったりするんだ」
ゆりは自分だけじゃなかったとちょっと安心した。
クーリーフンは頭をかいている。
「うーん、どうしようかな」
「なあに？」
「実は、さっきスペードをみたんだ」
「え？」
「ジェラルド工房の前にいたのを見かけたよ。会いたい？」
「えーえーちょっと顔を見に行っちゃおうかな」
ゆりはそわそわしだした。
「彼、最近聖地とここを行ったり来たりしてるみたいだよ」
「そうなの。ジェラルド工房に連れて行って」
「やっぱりあきらめきれないの？ この際ガーベラでやっちゃえば？」
「そういうわけにもいかないでしょ。大体スペード様がガーベラに手を出すとも思えないし」
「鉄は熱い内に打て、恋も熱い内だよ。特に彼って執着心とかかなり薄いタイプだからね。今は彼もあなたのこと好きみたいだけど、来年にはわからないよ」
「なんで執着心が薄いとかわかるの？」
「そういうタイプじゃないと妖精にはなれないんだ。物事にはあまり執着しないのが妖精として長生きする秘訣さ」
「そっか、いずれ忘れられるのかあ。まあそりゃそうだよね」
ゆりはちょっと切なげに斜め上を向いていた。
「ハロルドにはやりたいことは今全部やっとけ、とか言われるし、どうしたらいいのか私もわからない」
「ハロルドがそんなことを？」
「妖精だからって一〇年後に生きてるかどうか分からないとか言われて」
クーリーフンは首をかしげていた。
「ハロルドらしくないセリフだね。いよいよ不穏か」
「え？」
「こっちのこと。まあそうだね。やらなくて後悔するよりも、やって後悔する方がいいんじゃない。するなら人間の体じゃなくガーベラの体でしなよ。彼とはガーベラでのことと割り切れれば、付き合うこともできると思うけど」
「はあ、別に会って話をするだけでもいいんだけどなあ。男と女ってそういうの無理なのかなあ」
「お母さんがそれを言っちゃだめだよ」
クーリーフンには言われてしまった。
とりあえず、ゆりはクーリーフンに抱っこしてもらってジェラルド工房の近くで降ろしてもらった。ジェラルド工房の外にはだれもいない。
「ちょっと中の様子を見てきて」
「はいはい」
クーリーフンは工房の中に入って行った。
厨房の中にはスペードとねぼすけがいた。二人はそれぞれ武器を手に取ってみている。工房の中には鎧などの防具やら、剣や槍などの武器やらが並べられていた。だれが見ても物騒な感じである。
「あ、クーリーフン様」
ねぼすけがクーリーフンに気がついた。
「やあねぼすけ君、今日は起きてるんだね」
クーリーフンは冗談交じりに近づいて行った。
「最近寝るとたたき起こされる日々なんですよ。戦い系の妖精が生まれたそうですね。美人ですって？」
「そうそう。今日は何をしに来たの？」
「新しい武器ができたって聞いて見に来たんですよ」
ねぼすけは槍を一本持っている。かなり長い槍で、穂先には斧のような形状の武器がついていた。他にも尖った穂先の槍やらが立てかけてある。
「ジェラルド様は教えてくれないんですけど、絶対近いうちに何かありますよね」
ねぼすけはクーリーフンにこっそり聞いていた。
「いやー僕は知らないけど」
「ハロルド様も教えてくれないんですけど、大きな戦いがありそうだな。これを見ればだれでもそう思うでしょ」
ねぼすけは工房の中を見回している。ジェラルドは苦笑いしていた。
「スペードは剣だけなの？」
クーリーフンがスペードに聞いた。
「槍も使いますが、剣の方が好きなので。5本ほど作ってくださるそうなので、やはり何かありそうですよね」
スペードも苦笑している。
「ま、僕たちはこのために妖精になったんだけどね。ところで、ガーベラ様は今日はどこですか？」
ねぼすけが聞いた。
「お母さんは外にいるよ」
「本当ですか？ 会ってこよう！」
ねぼすけは槍を置いて工房を飛び出して行った。
「君も会いに行きなよ」
クーリーフンはスペードにも声をかけていた。
「え、私は別に」
「まあそう言わずにさ」
クーリーフンはスペードの腕を引っ張っていたので、スペードも工房の外に出た。
ねぼすけはいたが、ガーベラはいなかった。
「どこにもいないですよ」
とねぼすけ。
「あらら、行っちゃったのか」
「残念だなあ」
ねぼすけは残念そうだった。
その頃ゆりはすたこらさっさと逃げるように移動していた。
（やっぱりガーベラなのにゆりの気持ちを引きずり過ぎるなんてよくないわ。スペード様に会いたかったら、ネコになって会いにいけばいいじゃない）
などとゆりは思い、会わないことにしたのだった。
（ガーベラでくどくっていっても無理だしなあ。まあ今日もスペード様は元気そうだし、いいかあ）
適当に移動していたら花がちらほら咲いている草原に出た。小高い場所があり、大きな木が生えている。
（スペード様の夢っぽいわね）
と思いながら、ゆりは大木の近くまで移動して腰を下ろした。
（困ったわ。スペード様のことを考えたら、他の神様と仲良くなる気がなくなってしまった。ごめんジュリアン。神獣を産まなきゃなのに。息子の初願いなのに。気持ちをリセットしたらその気になるかも？）
ゆりはしばらくその場に座って目を閉じていた。しばらくそうしていたら、膝の上に何かが乗っかってきた。何かに似た感触である。
「ん？ ジロウ君？」
ゆりは目を開けて「うわっ！」と腰を浮かしていた。横にいたのは犬のジロウではなく豹である。黒豹ではなく、黒い豹紋がある方の豹だ。
「うわっびっくりしたーどこから来たの？ ここらじゃ珍しいわね」
豹は顔を寄せてきて、くんくん匂いをかいで、女神の頬をべろっとなめていた。
「ん？」
ゴロゴロのどがなる音が聞えてくる。
「ゴロゴロ」
豹は女神の体にすりすりしてきている。
「あらら、豹君ごめんね。豹枠はもう埋まってるの」
ゆりは立ち上がろうとして、豹にドーンと上に乗られてしまった。
「こらー」
豹はしっかりと女神の体を抱きしめるように両手両足を回している。
「こらこらこらこら」
豹は女神に腰をすりよせて、やがて離れた。ゆりは顔を引きつらせている。女神のスカート部分が濡れていた。速攻で射精されてしまったようだ。
「こら、女神様になんてことをするのよ。もー」
豹は横に寝そべっている。終わってすっきりした感じである。
「おのれ、もー着替えなきゃ」
ゆりは立ち上がり、そこではっとした。ライサの一件を思い出したのである。ライサはガーベラの服から産まれたのだ。そしてガーベラの服にはグレンの精液がついていた。
「ん？ もしや、これは何かの前振り？」
本家ガーベラならばここで着替えて終わりだろう。
「ガーベラの神気と豹の精液で何かが産まれたりして、それとももう一つ何かが必要とか」
ゆりはスカートをじーと見ていたが何も変化はなかった。
「ライサの時も結構時間がかかってたよね。うーん。何もないかもしれないけど、ここは行動に移すしかない。ここで何もしなかったら、私がガーベラになってる意味がないじゃない」
ゆりは豹の頭をなでなでして消えた。
（それにしても、頭の切り替えの速さに感心するわ）
ゆりはラーズの元に移動したのだが、ラーズはジンラとジンラの酒蔵の前にいた。
「やあガーベラ」
ジンラはゆりを見て微笑んでくれた。
「こんにちは」
「ガーベラ、服が濡れてるぞ」
ラーズはそれに気がついていた。
「今はこれがちょっと重要なことなの。私、どっちかと仲良くなりたい」
ゆりは二人に訴えるように言っていた。
「え？」
ゆりはラーズと仲良くなろうと思ったのだが、ちょうどジンラもいたので、ここは成り行きに任せてみることにした。
「どっちかと？ じゃあ私と」
とラーズ。
「それとも、サラディンの次を期待して、続けざまに二人とする？」
「「え？」」
ジンラとゆりの声は同時だった。
「パティウスが最近うるさいんだよなあ。いろいろな組み合わせで子供を作ってみてくれって。ジンラは今のところ、だれともからんでないだろ？ 面白いじゃん」
とラーズ。
「ああ、まあそうだが……あれは一体どういう仕組みなんだ？」
ジンラがラーズに聞いていた。
「さあ」
「私が思うに、3人の神気が混じって、そういう子供が産まれるのよ。私もサラディンの時は狙って次にハロルドとしたけど、まあ、毎回狙わなくても。ジンラはあまり気にしなくていいわよ」
ゆりは笑顔で言ったが、「そう言われると逆に気になるな」とジンラは気にしていた。
「気になるよな。真面目なオルガとサラディンが参加しちゃってるもんな」
とラーズ。
「この際、今から続けてやってみる？」
ラーズがジンラに聞くと、ジンラは「うーん」とうなっている。
「あの、私今日はそこまでその気じゃないんだけど」
とゆり。
「なら私の神殿に行くかい？」
「うん」
「待った、そこまで言われて去られると、何やら寂しいんだが……」
とジンラ。
「じゃあ、やっぱり続けてしてみる？」
ラーズが聞いた。
「ああ」
なんとジンラがその気になってしまったのでゆりは驚いている。
（これも運命かも？ もうこういう機会はないかもしれないし）
「じゃあ、ラーズ、いっぱいその気にさせてくれる？」
「いいとも」
ラーズは女神の体を抱き上げて、ジンラの神殿の中に入っていった。
ゆりは裸になっても服は丸めて横に置いておいた。
「わたし、どうしてもすごい神獣が欲しいの」
「神獣？」
「ジュリアンに頼まれたから」
「そうなんだ。じゃあすごいのができたらいいな」
「うん」
ラーズはゆりを優しく抱きしめて、愛撫を始めた。ラーズの愛撫でゆりも盛り上がり、ラーズと一度愛し合った後に、ジンラとも愛し合ったのだった。
ゆりはジンラの優しい表情につい赤い月のラクシュミを思い出していた。
（王様、来年は絶対大丈夫だからね）
などと思いつつ。
3人の神気は絡み合っていたが、何事も起こらなかった。ゆりは服を丸めて膝に乗せている。
「残念だったね。まあ、最近続いてるから。また今度のお楽しみだな」
ラーズが寝室にやってきて言った。
「うーん、何も起こらないのかな？ まあいいや。ちょっとしばらくこの服は洗わないでおこう」
「ガーベラの服、ここにあるから持ってこよう」
ジンラが服を着て寝室を出て行った。
「ジュリアンはなぜ神獣を頼んだんだ？」
ラーズが聞いた。
「ジュリアンは、神獣使いだから」
「え？ そうなんだ。そりゃ神獣がいなきゃ話にならないな」
「そうなの。話にならないでしょ？ だれにも扱えないようなすごい神獣がいないとね」
丸めていた女神の服がもこっと動いた。
「ん？」
服がもこもこ動いていたのでゆりはあわてて服をかきわけた。すると服の間から金色の毛並みの猫のような顔がにょきっと出て来た。
「やった！ 何かできた！」
「おおー」
ゆりもラーズも驚いている。毛がふさふさの猫のような獣の背中には金色の小さい翼がついている。
「おー神獣だ。すごいな」
「やったやった！ 今回蛇いない？」
ゆりは獣の尻尾を見た。すると、金色の蛇がなんと2匹もひっついている。
「やったー！」
ゆりはガッツポーズをしていた。
「そこに喜ぶんだ。蛇はいなくてもいいと思うけど」
ラーズはつい言っていた。
ガーベラの服を持ってきたジンラも獣を見て驚いていた。
「なんだこれは、すごいのができたな」
ジンラは顔を近づけて見ていた。
よくみると、獣の首には金色の輪っかのようなものがはまっていた。
「神器つきじゃん、すごいな。神器がついてる神獣って初めてじゃないか？」
ラーズは獣の首の輪っかを触っている。
「そうだな。珍しいな」
とジンラ。
「ハンターよりも随分小さいけどね。大きくなるかな」
まだ普通の猫くらいの大きさだった。だが手は大きめである。
女神の服がまだもこっと動いていた。
「え？ まだ何かいる？」
ゆりがぱっと服をめくってみると、豹紋柄の赤ちゃんがそこにいた。
「かわいい！！ 豹の赤ちゃんだ」
「普通の豹っぽいな。どうしてだろう？」
ラーズは首をかしげている。
「実はさっき、豹に興奮されちゃったの。そのせいかな」
「えー？」
「実際にやってはないわよ。私の方は興奮してないし」
ゆりは誤解がないように言っておいた。
「こっちも神獣っぽいがな」
ジンラが言った。
「え？ ほんと？」
「そういう気がする。まあ、すごいのは断然こっちのやつだが」
「ジュリアンに見せよう。喜ぶといいなあ」
ゆりは服を着て、獣2匹を抱っこしてさらにラーズに抱っこされた。
「ジンラまたねー」
「ああ」
ゆりはラーズに抱っこされて飛んで行き、ジンラは地上で手を振っていた。
「ジンラの力は入ってないのかな」
ラーズが飛びながらゆりに聞いていた。
「でも、3人の神気がからまってたから、全く関係ないこともないわよ」
「そうか」
「ジュリアンはどこにいるかしら」
「神殿で待ってて、探してきてあげるよ」
「ありがとう」
ゆりは獣2匹をだっこしたままガーベラの神殿に入った。すると、なんと先ほどの豹がソファの上でくつろいでいる。
「あらいたの。ほら、もしかしたらあなたの子供かもよ」
ゆりは翼がない方を豹の側に降ろした。すると豹は、赤ちゃんの匂いをくんくんかいで、顔をべろべろなめていた。
「やっぱり子供なんだ？ ってことは、ガーベラは豹の子供を産んじゃったのかも？ こっちはどう？」
ゆりはもう一匹の方を側に降ろしてみた。豹はそちらを見て首をかしげている。
「やっぱり不思議がっている。でも顔は、柄は違うけど二匹とも似てるよね」
ゆりは尻尾の蛇をなでなでしてみた。蛇はゆらゆら動いている。
「ハンターよりもすごくなるかもね」
神殿の中にあわててやってきた者がいた。ジュリアンである。
「神獣ができたんだね！」
「うん。すごいでしょ？」
ジュリアンは目を輝かせて近づいてきて、翼があるほうを抱っこしていた。
「すごいよ。ありがとう」
ジュリアンはすごくうれしそうだ。
「こっちの子も一緒にできたんだよ。こっちは神獣かな？」
ジュリアンはもう一匹を見た。
「こっちも神獣だよ。二匹もうれしいな」
「よかった」
ジュリアンがすごくうれしそうなのでゆりもうれしかった。
「どんな風に大きくなるか楽しみね」
「うん。外に連れてくね」
ジュリアンは二匹を外に連れて出て行った。
「ねえ、どいてくれない？」
ゆりはソファでくつろいでいる豹に言った。豹は少し後ろにずれたので、ゆりは隙間に座っている。
クーリーフンが神殿にやってきた。
「クーリーフン、さっきはごめんね。あっちの私の感情をあまり出しちゃいけないと思ってさ、やっぱり会わない方がいいと思ったんだ」
ゆりは申し訳なさそうに言った。
「そうなんだ。神獣を作ったんだって？ さっきラーズに会って聞いたよ」
「うん。ジュリアンに頼まれてたから。すごく喜んでたよ」
クーリーフンはゆりの側にやってきて、ゆりの手を握っていた。
「ありがとう。お母さん、別に無理にこっちの誰かのために何かをしなくてもいいんだよ。僕らもお母さんには期待しちゃってるけど、もう十分だからさ、もっと、自由に遊んでいいから」
クーリーフンは真面目な顔で言っていた。
「どうしたの？ 私自由に遊んでるよ」
「なんかあなたが使命感を帯びちゃってるようだから」
「そんなことないよ。それに、私がいる間にできることはやっときたいの。私も永遠に来られるわけじゃないから」
「お母さんってば……」
「神様って、サインに疎いから、私がいる間は機会を逃したくないの。あ、この子恋人になった豹君、ガーベラに紹介しといてね」
ゆりはクーリーフンにそう説明した。
「え？ 恋人？」
「心の恋人ってことで。神獣にはこの子の特徴も入ってるから、この子がいなきゃできなかったのかなあ。ハンターはハロルドとラーズの神気でできたけどね。毎回同じってわけにはいかないのかな。謎だわ」
ゆりは首をかしげつつ、やがて人間界に戻ったのだった。そして目覚めたガーベラは、ソファの下に豹が寝そべっていたのでびっくりして足を浮かしていた。
「お母さん、その子お母さんの心の恋人だってさ」
部屋にいたクーリーフンが説明した。
「え？ 心の恋人って？」
「お母さん豹の子供を産んじゃったんだよ。神獣だったんでジュリアンは大喜びさ」
「え……えー！！？」
ガーベラは目をまん丸くしていたのだった。
（結局、私はガーベラと仲良くならなくてもよかったのかな？）
神殿にて、ジンラはそう疑問に思っていた。
（まあ、私とラーズの力が混じった子ってのがそもそも想像できないが……）
などと思っていたら翌日、ジュリアンが二匹の神獣を連れてやってきた。
「こんにちは、お酒をください」
「ジュリアンが飲むのか？」
「リリーが飲むんですよ」
「リリー？」
「こっちがリリー、こっちがレオです」
ジュリアンは神獣に名前をつけたようだ。
「リリー、翼がある方は女の子か」
「そうですよ。女の子です」
「へーそれでその子がお酒を飲むのか？」
「はい、昨日飲ませたら飲んでました」
「はあ」
ジンラは半信半疑で、浅い皿にお酒を注いで床に置いてみた。リリーはお酒の匂いをくんくんかいでいたが、くるりと体を回転させて、お酒の方に尻尾を向けて寝そべっていた。なんと、尻尾の蛇達がお酒を飲んでいるではないか。
「へーこれはまた奇妙な……」
ジンラは驚いている。
「ジンラ様の力の影響ですよ」
「そうなのか？ わたしのせいで酒好きになったのか？」
ジンラは笑いながら聞いている。
蛇達は満足したのか酒をある程度飲むと顔をあげていた。リリーの体の周りが輝いて、リリーの体はちょっと大きくなっていた。首の神器も同時に大きくなっているのか、苦しくはないようだ。
ジンラは口をぽかんと開けている。
「お酒で成長するんですよ。面白いですよね」
「これはびっくりだ」
「レオは普通にヤギのミルクを飲むんですけどね」
「へー」
「ありがとうございます。また来ます」
ジュリアンは二頭と去って行った。
「酒で成長するとは、それにしても尻尾で酒を飲むのも変わってるな」
ジンラは笑っていた。
ガーベラの神殿では豹が出て行ったと思ったらまた帰ってきた。
豹はガーベラが気に入ったのか、ガーベラに体をすりよせたり喉を鳴らしたりしている。
「私の魅力は獣にも通じるのかしら。子供ができちゃったんじゃ追い出せないわねえ。まあ好きなだけいていいけど、まさか豹の恋人ができるとは思わなかったわ。彼女のことだから蛇ならあり得るかもとは思ったけど、ここらにはあまりでかい蛇っていないしねえ。次は熊とか恋人にしちゃったりして」
ガーベラは動物の恋人が続いたらどうしよう、などと思っていたのだった。
そして人間界にいたゆりは、「まさか豹で浮気しちゃうとはねえ、まあやってはないけど、どうせなら黒豹君の神獣とか産んであげたかったなあ」などと思っていた。
（黒豹君はガーベラにあんなことは絶対しないぞ）と蛇の目のゆりはひそかに突っ込んでいたのだった。
つづく
13部
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