第20話

神の国には男ガーベラが再び現われて騒然としていたが、意外なことに、男の神々からの苦情などはあまりなかった。多くの女性達を恋人にしたにも関わらずである。

男のガーベラの不思議な魅力は、女にだけではなく、男にも有効であるらしい。男達でさえ、男のガーベラに魅力を感じてしまうのである。

ガーベラがダーナを恋人にしてしまったが、ダーナの恋人達はだれも怒らなかった。ダーナは自分の魅力が増したかのように喜んでいたので、男達はそんなダーナを見て微笑ましく思っているくらいである。

ガーベラはダーナに対しては恋人達に気を遣って接していたようである。男達もそれを理解したようだ。

ガーベラに抱かれると、女達はウキウキ幸せ気分になるらしい。女同士の争いもないので、アシュランなどは、「私が浮気した時との差が違いすぎないか？」などと言っていた。


「男の時の方がガーベラの神気は強いような気がする」

カサンドラはそう思っていた。

「最初からガーベラが男だったら、結構恐ろしいことになっていたかもしれんな」

「私ガーベラ父さん大好き」

とネル。

「僕もガーベラが男でも好きですよ。変な意味じゃなくて」

サントスも言っていた。


ラクアの神殿の外では、ラクアの妹達は新しく産まれた子供と一緒に湖にいてはしゃいでいる。子供は一人しかできなかったが、それでも3人ともうれしそうだ。

水の妖精の名前は「シレーヌ」に決まった。シレーヌはラクアの娘達より少し小さいくらいで、遊び相手にちょうどいい。

ラクアもかなり複雑な心境ではあったが、最終的には、「まあいいか」と思っていた。

「他の男に取られるよりはいいかなあ」

しかも、妹達は3人とも喧嘩もせずにうれしそうなので、ラクアが文句をいうこともなかった。

ラーズが飛んできた。

ラーズは3人の女の子達を眺めている。

「どういう心境？」

「まあいいかって心境。妹達、うれしそうだしね」

「女達が争わないってのは、やっぱりガーベラだからなんだろうなあ」

「そうだね。クーリーフンは、またアリアスに狙われてない？」

「今回はディアメラに子供ができたから、そっちに気を取られてるみたいだよ。ディアメラに子供ができる日が来るなんてなあ」

「そうだねえ」

ラーズもラクアも、ちょっとぼんやりといった様子である。


女になったクーリーフンはまたアマンザをからかって遊び、本気で嫌がられていた。シャリィは二度目だったので、一緒にいたラメーンはたいして驚きもしなかった。そしてジュリアンは女になったからといって心の変化などはなかった。それよりも神獣のことが気になっていたが、心の中で呼ぶといろいろな動物達が集まってしまうのだった。

まだ出会っていない神獣がいるのか、それともこれから出会う神獣なのか、自分でもよくわからないので困ったものである。

ライオネルはやっぱり度々引き寄せられていて、ジュリアンに頭をなでられて喜びつつも、（俺はバカなのか？）とちょっと恥ずかしく思っていた。


人間界、ゆりは過去や神の国の妄想を膨らませていたが、ガラスをコツコツ何かがたたく音が聞えてベランダを見た。ガラスの向こうに白い大きめの猛禽類のような鳥がいる。

「シロだわ」

ゆりはすぐにガラス窓を開けた。シロは布の袋を下げていて、それをゆりの手に落とすと飛んで行った。

「シロ、ありがとう」

ゆりはお礼を言ってから布の袋を開けた。中に入っていたのは巻き貝が一つである。

「ラーズかな？」

前回ラーズが巻き貝をくれたことをゆりは思い出した。ゆりは耳に巻き貝をあてた。

『今夜行く』

それだけ聞えてきた。

「え？」

ゆりはもう一度巻き貝をあてた。

『今夜行く』

話し方からしてもうラーズではない。

「ハロルドだ。ハロルドが今夜来る？　わっ予告訪問？」

ゆりは驚いて何度も巻き貝を聞いてしまった。何度聞いても声は同じである。

（予告して来てくれるってのはありがたい。だって準備ができるもんね）


ゆりは夕食時、子供達に、「今夜は私の寝室には来なくていいからね」と言った。ゆりが突然気が欲しくなった時のために、たびたび子供達がゆりのベッドにやってきてくれていたのだった。

「お父さんと寝るの？」

ラギが聞いた。

「違うの。えーと、ちょっとね」

「誰か来るんだ。わかったよ」

とシス。シスは恋人の誰かがくるかと思ったようだ。

「そうなの」

ゆりは微笑んでかえした。


ゆりはハロルドと何かあるかもしれないので、お風呂で念入りに体を洗ってから夜ベッドで待っていた。

ジロウにだけは、「ハロルドが今夜来るよ」と言ったので、ジロウはゆりの寝室でそわそわ歩き回っている。

よっぽど待ち遠しいらしい。

やがて金色の光が寝室に入ってくると、ジロウは尻尾がちぎれんばかりに振りまくっていた。

ハロルドはジロウの頭をなでた。

ゆりもたくましい神様を見て結構うれしい気分である。

「会えてうれしいだろ？」

ハロルドがゆりに聞くと、ジロウが先に「ワン」と答えていた。

「ぷぷっ私もワン！」

ゆりはハロルドに抱きついた。

「朝までこの胸板に抱きついて寝たいです」

「その前に楽しませろ。いろいろ」

「そんな、ジロウ君の前で」

「ワンワン」

「気にしないそうだ」

ハロルドがゆりごとベッドの上に乗ったとき、金色の輝きがもう一つ寝室にやってきたのだった。

「げっ、ハロルド！」

やってきたのはラーズである。

「ラーズ、今夜は帰れ」

とハロルド。

「やだね、大体この犬が邪魔してこっちじゃ全然してないんだからな」

ジロウはラーズをみて、ぷいと横を向いていた。

「ハロルドこそ犬を連れて帰れ」

「やなこった」

「ジロウ君はだめなの。もう私の癒やしだから」

とゆり。

「ガーベラ今男になっちゃってるんだよ。寂しいから君と愛し合いたい」

とラーズ。

「私は今夜は約束してきてるんだからな。ラーズに帰れって言え」

ハロルドがゆりに言った。

「え？」

「そうだな。君に帰れって言われたら仕方なく帰るよ」

とラーズが言った。

「えー！」

ゆりはハロルドのことも好きだが、ラーズのことだって好きなので、帰れなんて言えるわけなかった。

「そんなこと言えない。だってラーズのこと好き。超好き。もう超超好き」

ゆりは言いながらハロルドの腕から抜け出してラーズに抱きついていた。

「おーい……」

ハロルドはむすっとしている。

「なんか変」

ゆりはラーズに抱きつきつつも言っていた。

「いやな予感がする……また会えるなんて感激〜〜〜！　好き〜〜〜」

ゆりは突然うれしそうにラーズに力一杯抱きついていた。

（やっぱりだーーーーーー！）

ゆりは気が遠くなっていた。

「わかった。この前の蛇の女の子だ」

ラーズもわかったようだ。

「あたりです。覚えてくださっていたなんて。そしてまた愛し合えるなんてうれしい」

「どういうこった」

ハロルドが聞いた。

「前に言ってた儀式だよ。儀式の蛇ちゃんが来たんだ」

「儀式？　そういやそんなことあったっけ」

ハロルドも思い出したようだ。前回はハロルドといる時、女蛇は来なかったのだ。

「また儀式をしましょう♪」

「いいけど、この男はどうする？」

ラーズが聞いた。

「そちらの御方も、お相手してくださる？」

ゆりは目をキラキラさせている。

（こらー話を勝手に進めるんじゃない！）

ゆりは抗議していた。

「王妃様も喜んでるわ。これで赤ちゃんの力があがるって。ちがっ！　違うって。女蛇の言うことは気にしないで。そんな神様二人に儀式の相手をしてもらうなんて、悪いし」

「別にいいぞ。前にそうする気だったし、前はどうこう言ってたが、別に抱いてもいいんだろ？」

ハロルドが聞いた。

「もちろんです」

ゆりが言った。いや、ゆりの中の女蛇が。

（ちょっとー！）


―別にいいじゃない。ミカエル達には内緒にしとけば

（えーでも……）

―儀式、したくないの？

（う……したい、したいけど、ミカエル達としたいんだけど）

―私はラーズ様としたい。ラーズ様に抱かれたい〜〜〜♪　ところでこっちの神様はだれ？

ゆりは再び気が遠くなってきた。

あの時とは違い、今はもう二人とは抱き合った仲なので、ゆりは恥ずかしいというよりは申し訳なさそうに、「あのー儀式してくれる？」とハロルドに聞いていた。

「私が先だからな」

「ラーズ、ハロルド、ありがとう」

ゆりはもう心を決めて、ハロルドに抱きついた。

ハロルドは全く遠慮なくゆりを裸にして抱いていた。


―これよこれ！　これが本来の儀式！

女蛇は喜んでいるようだ。

（みんなには絶対に内緒だからね。絶対だからね）

―はいはい

（絶対よ！）

―わかったってば

「ハロルドの腹筋がとっても好き！」


ラーズはベッドに座っていたのだが、ゆりの肌から良い匂いがしているのに気がついていた。

ガーベラと似た匂いのようである。前回も匂いはしていたが、前回以上に良い匂いである。

一方ハロルドも、ゆりを抱きながらちょっと怪訝な表情である。

「なんか顔付きが違うような。そういや前もあったな。この花」

ハロルドはゆりの右胸の上にある青い花を指で触っていた。

「好き〜〜」

ゆりはハロルドの顔に顔を近づけてチューしていた。

「この胸板、最高に好き」

ゆりはハロルドの胸や腹筋に触りまくっている。

「はあ……ああ……ああ……」

ハロルドは達した後もゆりにひっついていた。

「終わったんなら代われ」

とラーズ。ハロルドは仕方なくといった感じでゆりの体を離した。

次にラーズがゆりを抱いた。

ゆりはうれしそうにラーズにひっついている。

ラーズが深くつながると、ゆりは「ああん、ラーズ好き」と声をあげている。

「前よりも気持ちいい。もしかして、魂だけじゃなく、体もガーベラに近くなったのかも？」

ラーズがゆりにひっついたまま言った。

「体もって、体の中だけだが」

とハロルド。

「はまりそうなほど気持ちがいい」

ラーズもやはり、達した後もゆりと離れがたかった。

「ガーベラに何かされた？」

ラーズが聞いた。

「男ガーベラ様に何かされたっぽいです」

とゆり。

「男ガーベラと寝たの？」

「まさか。まさか」

「匂いも前よりさらにガーベラに似てるし、体も気持ちよさすぎるよ」

「そうなの？」

ハロルドがラーズを手で追い払ってゆりを抱き寄せていた。ゆりをひざの上に乗せてそのまま抱いている。

「私も気持ちいい。とっても。二人とも大好き」

「…………」

ハロルドとラーズにとってはどこか奇妙な感じだった。相手は人間なのだが人間ではないような、主導権はゆりの方にあるような気さえしている。だが、それも不快ではなかった。

「君のような人間はもう二度と現われないだろうな。君は確かに愛欲の女神だよ」

ラーズが言った。

「大好き」

ゆりはハロルドに抱きついてる。

ハロルドは、（愛してる）とつい言うところだった。いいかけて、（それだけは言うものか）と止めていた。

（今は言いたくない。ラーズの前でなんて）

この場の雰囲気がそうさせるのか、ゆりの匂いのせいなのか、抱いてもすぐに男達は興奮状態になっていた。

「何度でもできちゃいそうだな。君はまだ平気？」

ラーズが聞いた。

「平気です」

結局二人の男と三回ずつもしたので、ラーズが「ガーベラでもこんなにしないのに大丈夫？」とゆりを心配していた。

「明日には体は元に戻るので大丈夫です。ありがとう。私、うれしい。二人と愛し合えて本当にうれしい。ありがとう」

ゆりが不思議な言葉を口にして、2匹の大きな蛇が部屋に入ってきた。

「おっ……」

ハロルドは初めて見て驚いている。蛇は2匹とも白っぽい色だったが、ラーズはその一匹に触れて、「また鮮やかにしよう」と言った。一匹は七色の鮮やかな蛇に変わり、ゆりのお腹に入った。

「じゃあ私は」

ハロルドはもう一匹に触れた。その蛇は頭から先まで金色に輝き、ゆりのお腹に入ったのだった。

「ありがとう」

ゆりは目を閉じた。

欲望の夜ではあったのだが、それだけではなかった。二人の神は、確かにゆりを愛しいと感じていた。


「……いや、まいったな。体でもこんなもっていかれるなんて……おーい、ハロルド？」

ハロルドはぼんやりしていた。

「なんかいろいろ驚いたな。人間の男はこの女の相手をして大丈夫なのか？」

ハロルドは男の心配をしていたのだった。


（ハロルドとラーズと交互に抱き合い絡み合い〜って私欲求不満？　すごい夢だったわー）

ゆりは苦笑しながらも目を覚ました。

（欲求不満にもほどがあるわ）

などと思いつつ、ゆりは自分の髪がすごくのびているのに気がついた。自分の腕に髪の毛があたっているのである。

「まさか……夢じゃなかったー！！！！」

ゆりは自分の髪を手で持って飛び起きて絶叫していた。

「お前、平気か？」

はっと横を見るとそこにはたくましい体つきの光り輝く男がいて、ゆりは「うぎゃっ！」っと変な声をあげていたのだった。


つづく


13部


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