第27話
ある夜のこと――
「……様……ハザーク様……」
（……王妃？）
とても良い匂いが鼻腔をくすぐっている。ハザークは目を開けて、自分の上に金髪の女がいたので「うわっ！」と驚いていた。
「え……ええ！？」
金髪のウエーブがかった髪はかなり長かった。青い瞳、あまりにも整った顔立ち、そして、二つの丸い膨らみはかなり大きめである。さらに体の周りはわずかに輝いているではないか。
「ハザーク様♪」
女はハザークにぶちゅっとキスしてきたので、ハザークは「ぎゃあ！」と逃げていた。
「ひどい、ハザーク様ったら」
女はベッドの上に座り、ちょっと悲しげな表情である。
「ガ、ガ、ガーベラ！？ まさか、夢か！？」
ハザークはガーベラの下から抜け出ている。
「そうよ。ガーベラよ。こんばんは」
ガーベラはにこやかに言った。
「な、なんだ？ どうした？ 何かあったのか？！」
ハザークは慌てた様子で聞いた。ガーベラ姿のガーベラに会うのは、これが初めてである。
「実はね、私、豹の長老さんを恋人にしたの」
ガーベラは突然そんな告白をしだした。
「豹の長老？」
「そうなの。ひょんなことから知り合ったんだけど、素敵な人だったから恋人にしちゃったんだ」
「……はあ……それで？」
「それでね」
ガーベラはハザークの横に移動してきた。側にくると、大きな胸の谷間がどーんと見える。ガーベラは肩も腕も出し、胸元が開いた服を着ていた。ピンク色の布地だが、ちょっと透け気味で、こんな格好で神の国を歩いてもいいのか？ というような服である。ハザークの心臓はバクバクと大きな音を立てていて、これ以上近寄られると心臓が止まってしまうかもしれないと本気で思っていた。
「それでね、ハザーク様とも、私のこの姿で仲良くなりたいなって思ったの」
「……はあ？」
「いつもはベツベツマーで仲良くなってるでしょ？ たまにはこの姿で愛し合いたいなって思って」
「……それは……無理だろ。我の方が無理だ。多分死ぬ」
ハザークの方は逃げ気味である。
「大丈夫。神の力は落としてそっとするから」
「豹の長老は大丈夫だったか？」
ハザークは豹の長老の心配をしていた。
「大丈夫だったわよ。あ、途中、やばそうではあったけど、死んでないから」
ガーベラはにこやかに言っている。
ハザークはちらちらとガーベラを見ながら、「いやー無理だろう」と言っていた。
「大丈夫よう。ハザーク様とは、何度もしたし」
「しかし」
「したいの」
「しかし……」
ガーベラは横からハザークに抱きついていた。柔らかい膨らみが押しつけられて、ハザークは蛇に変わりそうになっていた。
「人のままでがんばって。ハザーク様は寝てていいわよ。私がしちゃうから」
「えー……」
「いやなの？ ハザーク様は私が嫌い？」
「嫌いなわけない。好きだ。すごく、好きだ」
「よかった」
「しかし……その……」
「大丈夫、彼女は怒らないわよ」
ガーベラはハザークに抱きついて頬にキスしていた。
「なんだったら、夢だと思ってくれてもいいわよ」
「夢？ 夢なら平気だな」
「うん。平気平気」
「そうか。夢か……」
現実でガーベラがやってきて自分に抱かれたがるなんてないだろうと思ったハザークは、「多分夢だな」と思いつつ、ガーベラの為すがままにされていた。
「ガーベラはかわいい声だな」
目の前に胸の膨らみが露わになると、ハザークは自己防衛機能が働いたのか、目を閉じてしまった。
（とてもじゃないが直視できない。夢でもすごいな。夢でも……死んだりして……）
興奮した体はやがてガーベラの柔らかい肌の中へと導かれ、ハザークは、「あ、死ぬ」と声を出していた。
「大丈夫大丈夫。がんばって」
「死ぬ。良すぎて死ぬ」
「大丈夫」
（本当に、なんて夢だ……実際にガーベラがやってくることなんてないだろうに。優しくて……残酷な夢だな……）
ハザークは途中から意識を飛ばしてしまい、そのまま失神してしまった。
「あらら」
ガーベラはハザークの胸に耳をあてた。ちゃんと心臓は動いている。
「やっぱり刺激が強すぎるのかしら？ でもだいぶ慣れたわよね。ちゃんとできたし。ハザーク様、またね」
ガーベラは服を着て去って行った。
翌日、ゆりがハザークの部屋に遊びに来ると、ハザークはベッドで寝転んでいた。寝室はものすごく良い匂いがした。ゆりはよく知っている匂いである。
「……ガーベラが来ました？」
ゆりが聞くと、ハザークはぎょっとした表情になった。
「……昨晩、王妃が来たろ？」
「私ですか？ 来てないですよ」
「いや、来たろう。ガーベラの姿で」
「来てないですよ。それ、本人ですよ」
「ええ！？」
「ガーベラが遊びに来たんですか？」
「え……まさか……我はてっきり夢だと……」
「ガーベラと仲良くなったんですか？」
「はあ！？」
ハザークはぎょぎょっと目を見開き、「まさか」と言っていた。
「何もなかったんですか？」
「…………」
ハザークはドロンと蛇に変わってしまった。
ゆりはぷっと笑っている。
「あ、もしかして、私が怒ると思ってるんですか？ 怒らないですよ。だって、ハザーク様の恋人になってってガーベラに頼んだの私達だし」
ハザークは驚いたように顔をあげていた。
「ガーベラは死なないから、ハザーク様の恋人になって欲しかったんです。私が先に死んじゃっても、ガーベラが時々ハザーク様の所に来てくれたらいいなって思ってあっちの私が。私も同意見ですよ」
「…………」
ハザークは人に変わっていた。
「王妃……ばかだな。女神にそんなことを頼むなんてどうかしてる」
「でも、頼んだ時にはガーベラはもうハザーク様と仲良くなってたし、昨晩はガーベラは自分の意思で来たんでしょ？ ガーベラがハザーク様のこと本気で好きになってくれたらうれしいな」
「…………」
「でも、よく無事でしたねえ。前に私にガーベラが降りてきた時はキスされただけで大変だったのに。何度か来てるからそれで慣れたんですかね」
ゆりの左目は蛇の目になっていた。
ゆりはベッドにあがってハザークに抱きついていた。
「ガーベラを好きになってもいいですけど、私だってハザーク様のこと好きですからね」
「王妃、うんと長生きしてくれ。王妃が死んだ後のことなんて考えたくない」
「もちろん、長生きしますよ」
ゆりは笑顔で言っていた。
「まったく、本当に、女神にそんな頼みをするなんてどうかしてるぞ」
「そんなことないですよ。ハザーク様は神様と同じくらい長生きしてるんですから。ガーベラの恋人になっても不思議じゃないです」
「ガーベラは豹の長老も恋人にしたと言ってたぞ」
「豹の、長老？」
蛇の目のゆりは豹の長老をイメージしていた。ハザークが若い外見なだけに、豹の長老も若い精悍な男をイメージしている。
（あっちの私には会わせられないわ。ガーベラが恋人にするくらいだから、やばいくらいにいい男なんだろうなあ）
「そうなんだ。ガーベラもいろいろ冒険してるのね」
ハザークはゆりの頭をなでていた。
この日、子供達は闘技場でムサカに修行をつけてもらっていた。ムサカが作った光の球をそれぞれ追いかけるというもので、上の子供達の光の球はビュンビュン飛び回っていたが、下の子達の光の球は、それよりは遅いスピードで飛び回っている。
「ムサカ様の修行、すごいな」
たまたま様子を見に来たジュノーは、その様を見て感動している。ムサカがしてくれる修行は、ジュノー達にはできないことである。
（本当にありがたい方が来てくれたよー）
と感謝する毎日である。体を動かしまくったレーヌとミシェイラは、午後疲れたのか並んで眠ってしまった。そしてまた、神の国に行ってしまったのだった。
「やったやった！」
広大なお花畑で目覚めたミシェイラは大喜びである。
「ここ神様の国だよね。クーいるかな」
「またこれたんだ。やったね！ あーラージュちゃま！」
「ほんとだ！」
そこに偶然ラーズが飛びながら通りかかった。「ラージュちゃまー！」という声を聞いてラーズは顔を向けた。
ラーズは二人の元に飛び、地上に降りた。
「やあ、どうしたの？ 遊びに来たの？」
「うん」
二人はうなずいている。
「ラージュちゃま、クーは？」
ミシェイラが期待に満ちた瞳で聞いた。
「クーリーフンは今日は聖地に行くって言ってたかなあ。残念だね」
「なんだあ。じゃあハロさまに会いたい」
「ハロ様？ ハロルドのこと？」
「うん、ミーはハロ様のシンジャなの！」
「はあ。あのやろう、こんな小さい子を取り込むとは……」
ラーズは小声でぶつぶつ言っている。
「ミーちゃん、私の信者になろうよ。私はクーのお父さんだよ」
「え？ そうなの？」
ミシェイラは初めて聞いたように目を見開いている。
「知らなかった？ そうだよ」
「なる。ラージュちゃまのシンジャになる！」
「良い子良い子」
ラーズはミシェイラの頭をなでなでしていた。
「そっちの子も私の信者になろうね」
「うん。レーちゃんはラージュちゃま好き。だって色キレイだもん！」
「良い子良い子」
ラーズはレーヌの頭もなでていた。
「ミーちゃん、おへやのこといおうよ」
レーヌが言った。
「そうそう、あのね、お城にね、ラージュちゃまのおへやできたんだよ。今度きてね」
「私のお部屋？」
「うん、ハロ様にも言わなきゃ」
とミシェイラ。
「ハロルドの部屋もあるの？」
「うん、オルガ様にも言うの」
「オルガの部屋もあるの？ オルガに言ってもいいけど、ハロルドには内緒にしとこうか」
ラーズは笑顔で言った。
「なんで？」
とミシェイラ。
「ハロルドは忙しいから、しばらくそっちには行けないんじゃないかな」
「そうなの？」
「もうハロルドはむちゃくちゃ忙しいからね。私から伝えておくよ」
「わかった」
「オルガ様に会える？」
レーヌが聞いた。
「オルガの所には連れて行ってあげようか」
ラーズが二人をどうやって抱っこしようかと考えていると、なんとペガサスの翼の音が聞えてきて、ラーズは「げっ」と上を見た。ペガサスは下に降りてきた。
やはり乗っていたのはハロルドである。
「ハロ様ー！」
二人は喜んでハロルドに近づいていた。
「なんだ、また来たのか？」
「あのねーあのねーいいたいことがあってね」
ラーズはあわてて二人の口に手を当てていた。
「ハロルドは忙しいから、今度ゆっくり話そうな。ほら、早く行かないと、オルガがどっかいっちゃうかもよ」
「そうなの？」
「行こう行こう」
「ハロ様ばいばい」
二人はハロルドに手を振っている。
「ちょっと待て、この子達何か言いかけただろ。何を慌てて行こうとしてるんだ？」
ハロルドは鋭く気がついていた。
「別に何も」
「あのね、ハロ様のおへやができてね、今度きてねって言いたかったの」
ラーズが止めようとしたが、ミシェイラがしゃべってしまった。
「私の部屋？ どこにできたんだ？」
「お城にある塔よ。暇になったら見に来てね」
「じゃ、行こうか」
とラーズ。
「ちょっと待った。その部屋って、 なんのための部屋なんだ？」
ハロルドがラーズを制して聞いていた。
二人はきょとんとしている。
「えーと、じゃあ、ラーズの部屋はあるのか？」
「うん。あとね、オルガさまとージンラさまとーサラディンさまのお部屋があるよ」
とレーヌはそこまでしゃべってしまった。
「私とラーズとオルガとジンラとサラディン？ なんだそりゃ」
「お部屋一杯作ったんだね」
ラーズが言った。
「ニー達ががんばってたよ」
とレーヌ。
「あの女、これ以上ばらす気か」
ハロルドは小声でぶつぶつ言っていた。
「ラクアの部屋がなくてよかったじゃん」
とラーズ。
「ばか。そういう問題じゃないだろ」
「おこってるの？」
ミシェイラが首をかしげて聞いた。
「いや、おこってない」
「じゃあ、オルガの所に行こうか」
ラーズは両脇に二人を抱えて飛んで行った。
「ばいばーい」
ハロルドはため息をついている。
「一体何を考えているんだか。全く呆れる女だな」
ハロルドは、ゆりが部屋を作ったと思い込んでいたので、ゆりに呆れていた。
夕食の時間、食堂にて、ミシェイラとレーヌはシスとラギに神の国に行ったことを話した。
「ちゃんとお部屋のこと言ったよ。来ると良いね」
シスとラギは顔を見合わせ、ラギは、「その話、お母さんには内緒にしとこうか」と言った。
ゆりはまだ食堂には来ていなかった。
「なんで？」
「突然神様が来た方がびっくりしていいでしょ。だから」
「そうかな。じゃあないしょね」
「わかった」
二人は納得している。
―母様怒るかな？
シスがラギに思念を送っている。
―怒らないけど言ったらびびっちゃうかも。内緒にしておこうよ
―そうだね
まさか本当に二人がハロルドに会って伝えてしまうとまでは思ってなかったので、シスとラギは内緒にしておくことにした。
ゆりがやってきて、食事を食べながら、「今晩は誰か部屋に来る？」と子供達に聞いた。
最近はシスやナナミがゆりと一緒に寝ることが多い。それもゆりの体調が急変することがあるからだ。
「えーと、今晩は、僕だめなんだ」
シスが申し訳なさそうに言い、ナナミも、「私もだめなんだ」と言った。後から来たナナミには二人が思念で話をしている。
「何かあったらジロウ君が教えてくれるでしょ」
とラギ。
「まあそうだけど、じゃあ王様と」
「今日はやめといた方がいいよ。お父さんちょっと不機嫌そうだったから」
ラギが言った。
「そうなの？ じゃあやめとくかな」
ゆりはあまり気にしなかった。
―今晩、ハロルド様がいらっしゃるかな？
シスがラギに聞いた。
―ハロルド様、お母さんを愛しまくってるから来る確率が高いと思う。お会いしたいけど、今晩は怖いからやめておこう
―そうだね
ほのぼのとした夜が想像できなかった二人は、おとなしく部屋にいることにした。
ゆりが夜寝室に行くと、すぐにジロウがゆりの側にやってきた。ゆりはベッドに座っている者がいたので目を見開いている。真っ白な大きな翼が見える。
「ラーズ！？」
「やあ、こんばんは。お嬢さん」
ラーズはにこやかに言っていた。
「いきなりびっくりしちゃった」
ゆりがラーズに近づいて行くと、ジロウはゆりとラーズの真ん中にすぐに移動していた。ラーズがいれば寝室に灯りがなくても結構明るくなってしまう。
「実はね、今晩ハロルドが来そうな予感があって、私も来たんだ」
「え？ ハロルド？」
「多分君を怒りに来るだろうと思って」
「え？ 何について？ 私何かしたっけ？」
ゆりは真剣に考えたが、ハロルドがどれを怒っているのかわからなかった。
「私達のお部屋のことだよ」
「え？」
「今日神の国に君の子供達が来て言ってたんだよ。聞いてない？」
「え？ 私知らない。子供達って、どの子？」
「女の子二人だよ。ミーちゃんとレーちゃん」
「はっ！？」
ゆりは口を開けて、次第に顔が引きつってきていた。
「もしかして、塔のこと？ 塔のことハロルドに言っちゃったの？」
「うん」
「嘘でしょー！！！！」
ゆりが頭に両手を当てたとき、ラーズが「やっぱり来た」とベランダを見た。ジロウが激しく尻尾を振り出して、ゆりはあわててラーズの後ろに隠れていた。ラーズの翼と翼の間に入ろうとしている。
ゆりの寝室にやってきたハロルドは、ラーズを見て眉をひそめ、ラーズの横からゆりを見ていた。
「おい」
「ひえええええ」
ゆりは小さくなっていた。
「来たそうそう怒るなって」
とラーズ。
「なんでお前までいるんだ」
「ハロルドが絶対来ると思ったから先回りしたんだよ」
「そりゃ怒るだろう。私達だけじゃ飽き足らず、ジンラとサラディンまで恋人にしようとしてんだぞ。この女は」
「違う、違う」
ゆりはラーズの後ろで声をあげている。
「あの塔は、子供達が勝手に作ったの。私は全然関係してないの！」
「嘘つけ」
「本当なの。そんな怖いことするわけないでしょ！ ちなみに、サラディンの部屋は、イシュタールがどうしてもっていって作ったの。イシュタールサラディン様が大好きだから」
ハロルドは睨んでいたが、ゆりは怖かったのでハロルドの顔を見ていなかった。
「本当なのよー」
「とにかく、私の部屋だけでいい」
ハロルドが言っていた。
「こらこら、何勝手なこと言ってるんだ。ハロルドは最近忙しいんだろ？ のこのこ来てる場合じゃないんだろ？」
とラーズ。
「うるさい。たまに息抜きくらいいいだろ」
「他で息抜きしろ」
二人は言い合っている。ゆりは、（さては、あの二人黙ってたわね）とラギとシスの顔を思い浮かべていた。
そしてさらにもう一人、オルガまでやってきた。オルガはラーズとハロルドを見て、「なんだいたのか」と残念そうだった。
「オルガ、お前まで、何うれしそうな顔で来てるんだ」
とハロルド。
「うれしそうな顔はしてない。ただ、私の部屋に来てって言われたんで来ただけだ」
ゆりは翼からちょっとだけ顔を出して、「オルガ様こんばんは」と挨拶していた。
「どうして隠れてるんだ？」
「ハロルドが怒ってるから」
ラーズが答えた。
「なんで怒ってるんだ？」
「なんでって、そりゃ怒るだろう。この女はジンラとサラディンまで恋人にしようとしてるんだぞ」
「そうなのか？」
とオルガ。
「違います。誤解です」
ゆりはラーズの後ろで言っている。
「大体神様を呼ぶ気満々じゃないか」
ハロルドはぶつぶつ言っている。
「いいじゃないか。龍の国にはハロルドのどでかい部屋があるだろ」
ラーズが言った。
「そうだ。巫女と語らうどでかい部屋があるな」
オルガまで言っている。
「うるさい。そういう話はいいんだ！」
ハロルドの顔は真っ赤になっていた。
「せっかくだからその部屋とやらを見せてよ」
ラーズが言った。
「えー行くんですかあ？」
「行こう行こう。ハロルドは怒ってるから帰れ」
「いやだ。私も行く」
「結局うれしいのか怒ってるのかどっちだ？」
オルガが聞いた。
「怒ってるんだよ」
「じゃあ帰れよ」
「いやだ」
（なんなんだ。この神様のやりとりは……）
ゆりはどこかに逃げたかったが、塔に案内するより他ないようだ。
「外は寒そうだから上着を着て来ますね」
ゆりは上着を取りに行った。
分厚い上着を着たゆりは、ラーズに抱っこされて塔に行った。
「えーと一番下がサラディン様です。イシュタールの要望で作っただけなんで、私が狙ってるとかじゃないですからね」
神三人は部屋を見回している。
「そしてその上がジンラ様、ジンラ様は、この国で一番信仰されてるから子供達がどうしてもって言って。そしてその上がオルガ様のお部屋です」
「おお！」
オルガは部屋にどーんとあるベッドを見ていたので、ゆりは顔に手を当てていた。
オルガはこうもりのクッションを手に取っていた。
「かわいいな」
とラーズ。
「それで、その上がラーズ様のお部屋よ」
「おーいいね」
色彩豊かな部屋をラーズは見回している。
「それで一番上がハロルド様の部屋。一番お金かかってるって」
「よかったな」
ラーズが言っていた。
「はあ……」
ハロルドはため息をついている。
「せっかくだから、今晩はここですごそうよ。ハロルドは怒ってるから犬を連れて帰れ」
ラーズが言った。
「だめだめ、ジロウ君は連れて帰っちゃだめ」
とゆりは慌てている。
「私の部屋、コウモリを連れてきていいか？」
オルガがゆりに聞いていた。
「コウモリですか？ 止まれますかねえ」
ゆりはでかいコウモリが部屋の中にいるのを想像している。
「とにかく、ジンラとサラディンにまで暴露するのはやめろ」
とハロルド。
「違うって言ってるじゃないですか。さっきからずっと」
「お前は信用ならないからな。男に関しては」
「ジンラはたいして怒らないと思うぞ。君のことを別ガーベラと呼んでるくらいだし」
オルガの言葉にゆりは「え？」と反応していた。
「ジンラ様私のこと別ガーベラって呼んでるんだ？」
ゆりはちょっとうれしそうだったので、ハロルドが睨んでいた。
「とにかく、一番上以外はいらないから撤去しろ」
「こら、一番上こそいらないだろ」
扉は開けっぱなしにしていたのだが、パタパタとコウモリが飛んできてオルガにべたっとくっついていた。
「えーと、いつ来たらいいかな？」
オルガがゆりに聞いている。
「え？ あの、この部屋は、別に神様を誘う部屋ってわけじゃないんですが……子供達が勝手に作っただけですし、私は神の国で仲良くしたいな」
ゆりはしどろもどろである。
「でもせっかくだからなあ」
「本当に気にしなくていいです」
「そうか？ でも。あ」
「きゃっ！」
どでかいコウモリがぬっと部屋に入ってきたので、ゆりはオルガの後ろに隠れていた。
「オルガ、外に連れ出してくれ」
とハロルド。
大コウモリはオルガに突進してきたのでオルガはだっこしていた。
「大きいですねえ」
ゆりは間近で大コウモリを見たのは初めてだった。でかいが人が乗れるくらいでかくはなかった。
「結構かわいいんだがなあ」
ゆりはそろそろっと手を伸ばして大コウモリに触ってみた。
「柔らかいですね」
ハロルドとラーズは、「お前の部屋がいらない」「いやそっちがいらない」とまだ言い合っている。
結局夜遅くまで言い合っていたので、それで神様達は帰って行った。
「あー疲れた。神様達のやりとり、信者の皆さんに見せてあげたいわ」
とゆりは思いつつ、自分のベッドで寝たのだった。
そして翌日、食堂にて、ゆりはシスとラギをじろりと睨んで、
「後で部屋に来なさい」
と命じていた。
何かを察した二人は、城から出て行ってしまったのだった。
つづく
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