第31話
神の国、雲の上の神殿である。
太陽の神アリアスの横に、アリアスに似た者がいた。ダーナの神殿で生まれた緑のぷよぷよした生き物、リーベが変身していたのである。
「奇妙な感じだなあ」
アリアスはリーベをしげしげと眺めている。
「髪がひっついてるな」
一緒にいた風の神ウィルはリーベの髪に触ってみていた。髪は頭と一体化している。完全にそっくりにはなれないようである。
「これでわかったことがある。彼は、男だ」
アシュランが言った。リーベは女に変身しろと言っても、変身しなかったのである。変身するのは男だけなのだ。
「ちゃんと性別があるんだ。じゃあそのうちに女の子も産まれたりして？」
ウィルは冗談まじりに言っていた。
「ちゃんとした生き物なんだな。リーベには何か役割みたいなものはあるのか？」
アリアスがアシュランに聞いた。
「役割？ まあ別に、ただ存在しているだけで楽しいってのでもいいんじゃないか？」
「珍しくて楽しいしな」
とウィル。
「ヤクワリ……」
「わっしゃべった」
リーベが声を発したので三人は驚いていた。優しげな声だった。
「教えたら話せるようになるのかな？ 面白いよなあ」
ウィルは楽しそうだ。
「もっとしゃべってみろ。リーベは神獣なのか？」
アリアスは本人に聞いている。
「ボクノ……ヤクワリ……？」
リーベの姿は崩れて、元の緑の物体に戻ってしまった。
人間界である。蛇の国の城の南にある街の教会は無事完成した。蛇の国ではしばらくその教会が話題である。他の街でも話題にあがっている。
「あの教会に行ってみました？ 天井の絵が素晴らしかったですわ」
「いいですわね。私も行ってみたいですわ」
というような会話があちこちでされているくらいである。新聞でも連日記事に載っている。
「俺も行ってみてえなあ」
占い屋のミケも新聞を読みながらそう思っていた。城の北の街からツアー馬車が出ていて、裏通りの店主達の中で行った者もいるくらいである。だが、ミケは最近殺し屋とやりあって傷を負ったばかりである。その傷はカールが治してくれたので今はもう軽かったが、表向きはまだけが人ということになっていた。うれしげに遠出をするわけにもいかない。
「だんなー」
裏からやってきた男がいた。
「ああ」
男は店内を見回して、誰もいなかったのでミケに近づいてきた。青の短髪、あごには無精ひげが生えている中年の男、名前はウーイ、情報屋である。この男は新聞社も雇っているほど有名な男なのだが、金を払って様々な情報を売ってもらうことにしたのだった。ちなみに戦士達もこの情報屋とは顔見知りである。ウーイは生まれた時からこの国に住んでいる男である。長年この国にいる連中は、今の王妃のことを「幸運の王妃様」と崇拝にも似た思いを抱いている。国の雰囲気が昔と今ではかなり違うからだ。以前は、新聞の記事も暗いニュースばかりだった。今では新聞も明るいニュースが多い。
「南の街の教会のお祝い、すごい人でしたよ。王妃様もいらっしゃるんじゃないかって話でしたが、やっぱり無理だったみたいですね。人が多すぎて。新聞社の連中も期待してたけどなあ」
「そうか。王妃様はいらっしゃらなかったのか」
「でも、ロイ様は来てましたよ。戦士に怒られてたんで、多分勝手に来たんでしょうね」
「へー教会の中に入ったんだろう？ やっぱりすごかったかい？」
「綺麗な教会でしたよ。俺も天井画には感動しましたよ。神様が上から降りていらっしゃってるみたいで、すごくよかったでですよ。聖地の偉い神官様のお話がありましてね。綺麗な神官様でしたよ。俺は2回目の話の時に中に入れましてねえ。あまり見たことねえ連中もいたけど、戦士達もいたし、何も起きなかったですね。さすがに教会で騒ぎはまずいでしょうし、神様のバチが当たりそうだ」
「俺も来年には教会に行きてえな。暖かくなったら」
「行く価値はありますよ」
表のドアから誰かが入って来た。その男はウーイを見て、「情報屋じゃないか」と言っていた。
「わっミカエル様！」
入って来たのはミカエルだった。
「いやー今日も完璧にいい男ですねえ。それじゃ」
ウーイはさっさと店から出て行った。
「なんだ、情報屋までやとってるのか？」
ミカエルがミケに聞いた。
「彼の話は面白いんですよ。金を払って世間話を聞いてるんです、ミカエル様は彼女が妊娠中なんですって？ おめでとうございます」
「まあな、すっかり元気そうだな」
ミカエルがミケに近づいた。
「おかげさまで、それに店の中もキレイにしていただいて、ありがとうございます」
ミケが病院から帰ってきた時には、店の中はすっかりキレイになっていた。ここで戦ったことは夢だったんじゃないかと思うほどキレイになっていた。
「掃除人をやとったからな。ところで今日の夕方ちょっと付き合ってくれ。後で迎えにくるから」
「はあ」
「じゃ、後でな」
ミカエルは去って行った。
「なんだろう。まあいいか」
その後女性客が三組ほど来て、ミケは早々に店を閉じた。
夕方、ミカエルがやってきてミケは瞬間移動でどこかにつれて行かれた。酒場の個室のようだったが、ミケは席に座っている男を見て驚愕の表情を浮かべていた。
銀髪、金目の男が座っていたのである。
（金目……王族だ。王様？ じゃないよな。まさかな。そういや、過去からすごい王族の人がやってきてるとか、ウーイが言ってたな。これがその御方か。この場合、平伏か？）
ミケがどうしようかと思っていると、ミカエルがミケの肩をぽんとたたいた。
「席に座れ」
「は、はあ……平伏とかしなくていいんで？」
「したかったらしてもいいが」
「えーと……」
ミケが足をうろうろさせていると、ムサカが「椅子に座ってください」と言っていた。
「私はムサカ、面白い男がいると、このミカエル殿から聞いたもので、つい会いたくなりましてね。来てもらったんですよ」
「ミ、ミケです。は、初めまして」
ムサカが発する圧倒的な魔力の前に、ミケは縮み上がっていた。
（すげえ。純粋な一族の魔力、俺なんか一瞬で殺せるわ）
ムサカの横には若い男が座っていた。水色の長い髪、戦士のようだが、ムサカの横で足を組んでいる。その男はミケを観察するように眺めていた。
（ん？ こっちの戦士は……なんか変だな。別人が入ってる？）
王族の横に座っているというのに態度はでかそうだ。これだけでも何かがおかしい。
「こちらはカーライル様だ」
「こちらもすごい方で？」
ミケが聞いた。
「まあ、そう」
ミカエルが席に座り、ミケも横に座った。
「催眠術のまたがけの話を聞いて、私も会いたくなった。ここに来る前は何をしていたんだ？」
エルバートの中に入っているカーライルが聞いた。
まさか暗殺をしてました、などと言えるわけもないので、ミケは、「他の国で占いをしてました」と答えた。
「私は占い屋なもので。あちこちでしてました」
「占い」
「あたると評判ですよ」
ミカエルが言った。
「せっかく魔力があるのにもったいない。どこかの国で仕えることはしなかったのですか？」
ムサカが聞いた。
「そういうお堅いのはどうも」
「しばらくこちらでお店を？」
「はい。一〇年はいたいと思ってます」
酒が運ばれてきて、四人は杯に手をつけた。多分高い酒だろうが、ミケには味はわからなかった。それほど緊張しているようである。
「たまに役所に悪いやつらが置き去りにされてるんだが、あれお前がやったんだろ？」
ミカエルが聞いた。
「え？ わたしゃ知りませんよ」
ミケはそういいつつムサカを見て、「実はそうです」と言い直していた。
「勝手に博物館に入る連中が多くて困る。もしかしたら、王妃の石像にも懸賞金がかかってたりして」
ミケはミカエルの言葉にどきりとした。
（実はかかってる。たいした額じゃねえけど）
「王妃の石像の手でも持っていけば、龍王が金を払ってくれるのか？」
カーライルが笑いながら聞いた。
「龍の国には裏の組織があるみたいですからね。裏の仕事を請け負ってる連中がいろいろいるみたいです。占い屋はそういう話、聞いたことがあるか？」
ミカエルがミケに話をふり、
「わたしゃ知りません」
とミケは答えたのだが、ムサカをちらりと見て、「聞いたことがあるかな」とまた言い直していた。
「魔力が高い者ってそんなにたくさんいるのか？ 命を賭ける価値があるとも思えんが」
カーライルが言った。
「どの時代でも、命知らずの連中は多いですよ。な、占い屋」
ミカエルはミケの肩をぽんとたたいている。
「私は、命は惜しいですよ。死んでしまったらしまいだ。そうだ。せっかく偉い方に会っていただいたんで、噂話を提供しましょう。これは他人から聞いた話なんですがね、その裏の組織だかでは、魔法道具の貸し出しなんてのもしているんですよ。だから、魔力がそう高くない者ても、暗殺できたりするそうです」
「魔法道具？」
「ほー」
ムサカがこれには反応していた。
「そういや、星祭りの時に殺した連中も、何か持ってた。魔法を発動させる物と、変身できる物。死体を調べたら魔力の残像があったんだが、一回こっきりしか使えないようなものだった」
ミカエルが言った。
ミケは星祭りの夜のことを思い出していた。公園で魔法を発動させた男が持っていたのだろう。
「向こうはそういう物をすっかり実用化しているのですなあ。いやはや」
とムサカ。
おいしそうな食べ物も運ばれてきたが、食べてもさっぱり味はわからなかった。
「近々酒祭りがあるからな。変な連中が来なきゃいいが」
ミカエルが言った。
その夜は当たり障りのない話くらいでミケは店に戻された。もっと踏み込んだ話もされるかと思っていたので、ミケはヒヤヒヤしていた。
ミケを店に送った後、ミカエルは城のムサカの部屋に行った。そこにはカーライルもやってきていた。
「あの男、どうでしたか？」
ミカエルが聞いた。
「きわどいことは何も聞かなかったんだな」
とカーライル。
「会ってすぐでしたからな。聞いても答えないでしょうし」
「ムサカ殿には結構びびってたぞ」
「今のところは良い方なんでしょうから、今はあまりいじめるのはよしましょう。しかし、魔力は確かに高そうですな。こちらの中級戦士程度はありそうだ」
「そりゃすごい。暗示が得意ならば、下級戦士くらいなら簡単にやれるかもな」
カーライルが言った。
「いっそのこと、国でやとってしまえばいいんじゃないか？」
「すでに誰かに雇われているようですよ。王妃様をずっと守りたいって言ってました」
ミカエルが言った。
「どうやって守るんだ？」
「今のところ、王妃の石像は守ってくれてますがね」
ミカエルは笑って言っていた。
そのゆりは、城でちょっともんもんとしている。せっかく体に護法がかかっているというのに、教会のお祝いに行くことができなかった。それは仕方がなかったが、クーガに次に会えるのは二ヶ月後である。ハロルドと鉢合わせてしまってからゆっくり話ができなかったのは残念である。
「まあ、しょうがない。こうなったら頭を切り替えよう。せっかくだからどこかに行きたい。あ、そうだ」
ゆりはラクシュミに会いに行き、「イシュタールの屋敷に行きたい」と言った。
「イシュタールの屋敷？」
「サラディンのでかい絵画があるそうだから見たいの。ついでに泊まってきてもいい？」
「泊まるのか？ まあいいか。いいぞ」
ラクシュミはあっさりオーケーしてくれた。
「やった」
驚いたのはイシュタールの屋敷の使用人達である。
「王妃様がいらっしゃるなんて！ 掃除よ。お掃除！！！」
メイド達はあわてて屋敷中掃除しだした。
夕方、イシュタールがゆりの部屋にやってきた。
「王妃、今晩うちに泊まるって本当なんですか？」
「うん。ご飯を食べたら迎えに来て。何の用意もしなくていいわよ。お風呂も入ってから行くし。ゆっくりラブラブしましょ」
「え？ ラブラブ？」
イシュタールの頬がちょっと赤くなっている。
「ふ、二人きりは恥ずかしいんですが、誰か呼んでもいいですか？」
「呼ぶなら、シャナーンとか、ミルキダスを呼ぼう。でも、イシュタールったら二人はやなの？」
「歯止めがきかなくなったらまずいので、誰かがいてくれたほうが。じゃあ後できますね」
「うん」
イシュタールは去って行った。
「やった、お泊まりだ。あれ？ 恋人の屋敷にお泊まりって初めてかも？ なんか興奮してきた。何を着よう？」
ゆりはウキウキ気分で服を選び出した。
「ジロウ君、今夜は帰ってこないから、心配しないでね」
ゆりはジロウをなでなでして言った。
「クウン」
「明日の朝に帰ってくるからね」
「ワン」
ゆりは侍女や子供達にもイシュタールの屋敷に泊まると報告し、夜身支度をして、部屋に来たイシュタールにつれていってもらったのだった。
「王妃が突然いらっしゃるというので、使用人達が大慌てで掃除をしてましたよ」
イシュタールが笑って言っていた。
「ごめんね。突然で。おおーほんとうにでかい」
ゆりはとりあえずイシュタールの屋敷に飾ってあるサラディンの絵画を見せてもらった。絵画の縦幅は、一メートルくらいありそうだ。上半身までのサラディンは威厳がある表情でたたずんでいる。
「ステキね」
「はい！」
イシュタールはうれしそうである。
「シャナーンとミルキダスは酒飲の間にいますが、王妃も行かれますか？」
「うん！」
ゆりは酒飲の間に移動した。
「王妃、こんばんは」
「こんばんは」
「こんばんは〜」
ゆりは二人と軽く抱き合って、席に座った。テーブルにはお酒とチーズなどのつまみがおいてある。
「酒飲の間ってだけあってお酒がいっぱいだね」
ゆりは珍しげに部屋の中を見回している。
「夜にお城以外で会えるなんて感激です」
シャナーンが言った。
「そうよね。こういうのもいいかも。みんなの屋敷を回っちゃおうかなあ」
夜は誰かが一緒だったほうがかえってラクシュミも安心するくらいなので、それもありかとゆりは思った。
「あーうちはたいした部屋がないので、パスでお願いします」
ミルキダスはちょっと困った様子である。
「そんなことないと思うけど、じゃあ希望者だけで。イシュタール、そろそろ寝室に行きましょ。今日は私、燃えてる感じだから」
「はい」
三人はイシュタールと一緒に移動した。移動した部屋には暖炉があり、火が入っていた。
「わー暖炉だ」
ゆりは暖炉の前で手をかざした。
「あったかいね。お城には暖炉ってないのよねえ」
「火があると落ち着くので、改築して暖炉を入れたんです。神の国にもここから行くんですよ」
「へー」
ベッドは二つつながっていた。
「みんなここで寝るならでかい方がいいと思って」
「じゃあさっそく」
ゆりは服を脱いで下着になり、ベッドにあがった。
「みんな来て」
男達も服を脱ぎ、暖かい部屋で、ゆりは思う存分男達に愛撫してもらい、自分もお返しをしたのだった。一区切りつくと、蛇の目のゆりが出て来た。
「王妃」
「んー」
ゆりは三人に順番にキスした。
「暖炉があると、思う存分裸になれていいわねえ」
「王妃のこともかわいがりたいです」
シャナーンはゆりを抱きしめて、体をなでまわし、指で下半身を愛撫した。
「あん……」
ミルキダスはゆりの唇を覆い、イシュタールはゆりの足をなでなでしていた。
「王妃、すごく良い匂いですよ」
「本当にたまらない」
ゆりは右足をイシュタールの股間にあてていた。
「はう！」
「こういうの好きでしょ？」
ゆりは足ですりすりしている。
「す、好きです……」
イシュタールの股間はすぐ反応している。
「蛇さん達も出て来て。いっぱい愛し合いましょう」
やがて男達の肌に蛇の鱗の模様が浮かんでいた。
「王妃、朝ですよ」
「うーん……」
ゆりが目を開けると、男達はみんな服を着ていた。
「朝食の用意、一応してますが、みんなで食べますか？」
「うん！」
ゆりは男達と一緒に朝食を食べた。
「こういうのも新鮮ね。なんだか楽しい」
ミルキダスは一人ほっとしていたので、シャナーンが「どうかしたんですか？」と聞いていた。
「いや、別に」
「パンおいしい」
ゆりは丸パンをおかわりして食べて、食後の紅茶を飲んでからイシュタールに城に戻してもらったのだった。
「王様、おはよー楽しかったでーす」
ゆりはラクシュミに報告してから自分の部屋に戻った。
「ワンワン！」
「ジロウ君ただいま。昨晩だれもこなかったよね？」
「ワン」
「よかった」
ゆりはほっとしていた。
（昨晩は興奮しちゃったなあ。雪が降るほど寒くなったら、イシュタールの屋敷に行くのもいいかも）
ゆりが部屋でくつろいでいると、シスとラギがやってきた。
「お母さんちょっと来て」
「どこに？」
「いいから」
シスの瞬間移動で、三人は飛んだ。行き先は神様の塔である。ラギが部屋の扉を開いた。この部屋はオルガの部屋である。
「見て」
ラギが棚の上を指した。花瓶に花が入っている。
「どうかしたの？」
「お花が増えてるよ」
「え？」
ゆりは棚に近づいた。
「この紫色のスズランなんだけど、夜になると発光する珍しい花なんだよ」
「へー」
ゆりはしげしげと花を眺めた。下を向いた丸っぽい花が鈴なりになっているかわいい花である。十本ほど花瓶に入っている。
「ここらじゃこの季節は咲かない花なんだよ」
「え？ どういうこと？」
「オルガ様が持って来たんじゃないかな」
「え？」
「オルガ様、きっと昨晩いらしてくださったんだね」
シスが言った。
「そろそろ誘った方がいいんじゃない？ オルガ様、待ちかねてるよ」
とラギ。
「え……」
ゆりの頬が引きつっている。
「いや、オルガ様は、この部屋に喜んでるだけだと思うけど」
「お母さんと過ごしたいって思ってるよ。ねえ」
「うん。絶対そうだよ」
二人は微笑んでいる。
「え……そう？」
「うん」
二人はうなずいていた。
（オルガ様をここに誘う？ そんな恥ずかしいことができますかって。それに順番からいって次はラーズだし。うーん……）
「この塔、元に戻したらどうなるかな」
ゆりはつい聞いていた。
「だめだよ。オルガ様泣いちゃうよ」
「悲しんじゃうよ」
「そうだよね。って、あなたたちがここを作るから大変になってきたじゃない。ラーズの前にオルガを誘ったら、ラーズがなんでって思うでしょ！」
「じゃあ塔の順番で、ラーズ様を先に誘ったら」
とシス。
「花に気がついてないのかなって思うかもよ。オルガ様は、とりあえずガーベラで仲良くしといたら？」
ラギは気楽に言っている。
「やかましい。もー」
ゆりは頬を膨らませていた。
「とりあえず、かわいいから半分私の部屋にもらおう」
ゆりは紫スズランを五本花瓶からぬいていた。
「ん？」
シスが上を向いた。
「あ」
つられて二人も上を向いた。壁に小さいコウモリがひっついていた。
「そうだ。お母さん、でかいコウモリがきたら、扉を閉めてつかまえといてね」
ラギの言葉に、ゆりは「いや」と一言答えたのだった。
つづく
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