第５９話
パーティーの翌日、男達の気持ちも楽になったようなので、ゆりはほっとしていた。癒やしの水や薬草のおかげでゆりの体調はかなり回復してきていた。
「ありがたや、ありがたや」
いろいろな人の助けがあって元気になってきたので、ゆりは手を合わせていた。本当に周りにも心配をかけてしまった。侍女達もかなり泣いたらしい。今では少し元気になったゆりを見て瞳をうるうるさせている。こんなに慕われて、女主人としては、誇らしいことである。出産後、犬のジロウはずっとゆりの側にいる。部屋から出て行ってもすぐに戻ってきて、まるでゆりの体調の変化を逃すまいとしているかのようである。頼りになる犬である。
今日は夜に神様の訪問があるということで、侍女達はかなりそわそわしていた。自分達が会えるわけではないが、翌朝のゆりの話を今から楽しみにしているのだ。神様は何人くるのか、そこにも皆注目している。
（ハロルドは絶対来るだろうし、アマンザも来てくれるかな。ラーズにオルガ、グレンは他の神々に遠慮してこないかも？ そんなに神様が集まってもいいのかな？）
聖地でさえ、それだけの神が集合することはないだろう。
「私も楽しみだなー。そうだ。せっかくだからクロスをみんなに抱っこしてもらっちゃおうかな。いいかも」
ジロウはベッドの周りをうろうろしている。ミラが食事を持って来てくれて、ゆりは起き上がって食事を食べた。
「王妃様の顔色がよくなって本当によかったです。夕方お風呂にも入りましょう。その間気合いを入れて部屋の掃除をしますね」
「ふふ、ミラ、あのこと聞いてくれた？」
「あ、はい。病院の方に問い合わせましたが、二人ほど、今寝込んでる方がいらっしゃるようですよ。本当にいいんですか？」
「うん。だって、同士だから」
「王妃様ってばいつでもお優しいんだから」
ミラは瞳を潤ませていた。癒やしの水が水瓶にまた満タンになっていたので、ゆりは今現在産後苦しんでいる女性がいたら、水をわけてあげたいと思ったのだ。それでミラに病院に問い合わせてもらったのだった。
「わたしはもう大丈夫そうだし、それに、ハロルド様がすごいお見舞い品を持って来てくれるはず」
ゆりは笑いながら言った。
「ふふふ、王妃様ってば。わかりました。その女性達に、こちらのお水をわけて持って行きますね」
「よろしく」
ゆりがベッドに座って朝食を食べていると、ラクシュミが部屋にやってきた。
「おはよう。調子がだいぶ良いようだな」
「おはよう王様。おかげさまで、回復してきているわよ」
「ゆり、今日の午後、クーガ様がお見舞いに来てくださるぞ」
「え？ 本当？」
ゆりは驚いている。
「ああ、手紙が届いたんだ。午後いらっしゃるからな」
「うれしいな」
ラクシュミはゆりの頭をなでなでして去って行った。
「少しはましになってからでよかったー」
「王妃様、ユリウス様とジュメ様ですよー」
侍女が寝室にやってきて言った。
「王妃ー！」
ジュメとユリウスが泣きながら寝室にやってきた。
「無事でよかったです」
「心配しましたよ。ようやくお見舞いが解禁されたんです」
「そうなんだ」
「王妃様ー！」
続いてドルイドがやってきた。
「すごく心配しました。元気になられてよかった」
ドルイドも涙目である。
「私もみんなにまた会えてうれしいよ」
「うう」
三人とも、元気そうなゆりを見て感無量といった感じだった。
「私が大変だったって結構伝わってるの？」
「一族の上の方だけですよ。新聞には書かれてないです。出産の日には、砦でもみんなで王妃の無事を祈ってました」
ジュメが言った。
「そっか。シスの時はその後お祝いムードだったのに、今回は申し訳なかったな」
「何をおっしゃいますやら。我々は、本当に王妃から元気をもらってるんですから」
とユリウス。
「僕は早く王妃様に気をあげられるようになりたい。子供のうちはだめって言われて」
「ドルイドは急いで大人にならなくていいから」
ゆりは笑っていた。
「三人共クロスを見ていってね」
「はい」
ゆりが疲れるといけないので、三人はそうそうに寝室を出て行った。
「今日は何人お見舞いに来てくれるんだろう？ 午後は着替えよう。 口紅くらいは塗りたいよね」
クーガがせっかく来ててくれるので、ゆりはそういう気になった。
その後は子供達が入れ替わり立ち替わりやってきては、「クーガ様が来てくれるんだ。よかったね」と言っていた。
午後、ゆりはゆったりした緑のワンピースを着て、少し化粧もしてもらい、ベッドで待っていた。一時頃、クーガがやってきた。
「王妃様、起き上がってていいんですか？ 寝ていてください」
クーガがベッドの側にやってきて言った。
「大丈夫ですよ。結構元気になりましたから」
「元気そうでよかった」
クーガはゆりにピンク色の花束を渡した。
「ありがとうございます。私も、またクーガ様に会えてうれしいです」
綺麗なクーガの顔を見て、ゆりはとてもうれしい気分だった。
ゆりの左目が蛇の目になった。
「クーガ様、だっこしてください」
「はい」
クーガはゆりを軽く抱きしめた。
「また会えて本当にうれしいです」
「私も本当にうれしいですよ。よくがんばりましたね」
クーガはゆりを抱きしめて、ゆりの頬にちゅっとキスした。
「こっちにもお願いします」
蛇の目のゆりは唇を突き出している。
「口紅がはげますよ？」
「別にいいですもん」
「実はもう一人連れてきているんです。なので、黒目の王妃様に代わってください」
クーガは微笑んで言った。
蛇の目のゆりが疑問に思いながらも引っ込み、クーガは黒目のゆりの頬にもキスした。
「数日前、ファンクラブの会報が届いたんです。それを眺めてクーガ様に会いたいなって思ってました。でも、あまり弱ってるときに会って心配かけたくなくて」
ゆりはクーガの手をにぎっていた。
「実は連れがいるんです。部屋の外で待ってるので呼んできますね」
「はあ」
クーガはベッドから離れた。
（あ、もしかして、ねぼすけ君かな？）
クーガと一緒に男が一人やってきた。黒髪の短髪でたくましい体つきの男の顔を見て、ゆりの涙腺が一気に緩んだのだった。
王の間では、「え？ 王がスペードさんを呼んだんですか？」とヴィラが驚いた様子だった。ヴィラはゆりの部屋の前にいるスペードに会ったのである。
「そうだ。私がクーガ様に頼んだんだ。スペードを一緒に連れてきてほしいって」
「えー……」
ヴィラは信じられないという面持ちである。
「ゆりを喜ばせたかったんだ」
「はあ……でも、寝た子を起こすようなマネをしちゃってもいいんですか？ 二人がまた会うようになっても？」
「まあそれはそれでいい」
「赤い月にまた怒らないでくださいね」
ヴィラはあの時のことを思い出して言った。
「我々はともかく、赤い月の事が心配です」
「ま、大丈夫だろう。今は、ゆりが喜ぶことならなんでもしてやりたい気分なんだ。私はゆりからたくさんの贈り物をもらった。４０年前には想像もできなかった世界だ。今後ゆりが何をしたって、ゆりが今まで成し遂げたことがなくなることはない」
「それはそうですが……」
（王妃、今頃泣いてるだろうなあ……）
ヴィラの予想通り、ゆりはスペードを見て号泣していた。
「一時間ほど出てますから、ゆっくり語らってください」
クーガは部屋を出て行った。
ゆりの部屋の前では子供達とブタラのモモがいた。モモはクーガを見るとうれしそうにすりよってきた。クーガはブタラの頭をなでなでした。
「クーガ様、僕たちの部屋に行きますか？」
シスが聞いた。
「そうだ、後でスペードさんと二人で博物館に行きましょう。すっごいのが新しく加わったんです」
ラギが興奮した様子である。
「そうなんですか？ それは楽しみですね。とりあえず、教会に行きたいです。一緒に行きますか？」
「はい」
「私も！」
「僕も！」
クーガは、シス、ラギ、ナナミ、ロイと一緒に南の街の教会に行ったのだった。モモが寂しそうな顔をしていたので、ミシェイラとレーヌがモモをなでなでした。
部屋ではゆりは泣きすぎて顔が大変なことになっていた。まさかスペード本人に会えるとは思っていなかった。
「ようやく会えましたね」
スペードは微笑んでベッドの側にやってきた。
「スペード様……」
「会いたかったですよ。私のかわいい猫さん」
「スペード様！」
ゆりは思わずスペードに抱きついて、スペードもゆりを抱きしめた。そしてひとしきり泣いたところでゆりは疑問に思った。
「クーガ様がスペード様を誘ったんですか？」
「こちらの王様ですよ」
「え？ 王様？」
「王様がクーガ様に頼んだようです。私も来ていいのか迷ったんですが、クーガ様に、会わなければ後悔するかもしれないと言われて……」
「まさか王様が……」
スペードはゆりの頬をなでて涙をぬぐっていた。ゆりはスペードの手を握りしめていた。
「スペード様、すいませんでした。私のことでいろいろ振り回してしまって」
「いえ、私の方こそ、あの時あんなことをしなければ、今も夢で会えたんじゃないかと思って……強引にしてしまってすいませんでした」
「いえ、私が元々スペード様に好意を抱いていたから」
ゆりはスペードの大きい手をにぎにぎしている。ベッドの側に犬がやってきて座っていた。スペードが犬を見た。
「これは……」
「犬のジロウです。かわいいでしょう。そうだ。スペード様の夢にいた黒豹君が、時々私の夢に遊びに来てくれるんですよ」
スペードはぎくりとしていたが、「そ、そうですか。びっくりですね」と驚いた表情をしてみせていた。
「すごくかわいいんです」
「そうですか」
「スペード様の弟子のバートランドさんが、今子供達を指導してくれてるんですよ。すっごく良い方で、子供達はすごくなついてるんです」
「あいつが役に立ってよかったです。あなたはバートランドに会ったんですか？」
「いえ、彼は城に来ないので、会ってないです。魔法では見せてもらいましたよ。素敵な人ですね。先生が素敵だから弟子も素敵なんですね」
ゆりはちょっと恥ずかしそうに言っていた。
ゆりはずっとスペードの手をにぎにぎしていた。
「……あなたと聖地を回ったのが、随分昔のような気がしますね」
スペードが懐かしげに言った。
「そうですね。あの時は本当に楽しかったです」
「不思議なカードは手放してしまったんでしょう？ 騎士のスペードとはふんぎりがついたのかと思ったんですが」
「いえ、次の百人目のカードの持ち主が男になるように、わりと真面目に祈ってます」
スペードはぷっと笑っていた。
「……また夢で会いませんか？ あなたともっと話がしたい」
「え……」
「話をするだけでもいいんです。なんなら友人としてでも」
「スペード様の気持ちはすごくうれしいですが……スペード様は、今後恋人とか、作られるんじゃないですか？ 私が迷惑になるかも」
「私は女運はないんで、私に好意を寄せて来る女もいないですし」
「そんなばかな。気がついてないだけだと思います」
「本当ですよ。もし、私と話がしたくなったら、あなたの神に祈ってみてください」
「はい」
「時間ですよ」
クーガが戻ってきた。シスとラギ、ロイも一緒である。
「もう一時間経ちました？ 体感では十分しか経ってないですが」
ゆりが聞いた。
「とっくに経ちました。あまり興奮するといけませんよ」
クーガは真っ赤なゆりの顔を見て言った。
「興奮してませんよ」
ゆりはスペードからようやく手を離していた。
「お母さん、二人を博物館に案内しようと思ってるんだ」
ラギがゆりに言った。
「それはいいわね。この前ねぼすけ君が博物館に来たんですよ」
「ねぼすけが？ 一人でですか？」
スペードが聞いた。
「ガーベラ様とデートでした。すっごくうれしそうでしたよ。今日はありがとうございました。とてもうれしかったです」
「いえ、それでは」
スペードはベッドから立ち上がった。
「あのー博物館の前に、先生の先生の剣技が見たい。ちょっとだけお願いします」
ロイが思い切ったように頼んだ。
「僕も見たいです。いいですか？」
ラギがキラキラした瞳で聞いている。
「いいですか？」
スペードがクーガに聞いていた。
「いいですよ。私はここにいるので戻ってきてください」
「イシュタールに相手をしてもらおう。行こう」
子供達は俄然張り切ってスペードを連れていった。
ゆりはものすごく行きたそうな顔で「いってらっしゃい」と言っていた。
「……王様は、すごいですね。あの度量の広さ、私にはあなたの夫はできません」
クーガはしみじみと言っていた。
「まさかスペード様に会えるとは思わなかったです。でもクーガ様のことも大好きですから。クーガ様、じゃあチューの続きを」
また蛇の目のゆりが出て来ていた。
「あなたはスペードはいいんですか？」
「私はクーガ様の方がいいです。黒目の私、スペードさんがいる時は絶対代わってくれないし。スペードさんとも普通に付き合えたらいいんですけどね」
「私とは普通に付き合えてるのにねえ」
クーガは複雑な口調だった。
「神様とだって普通に付き合えてるんですから、黒目の私はわけわからんですよ。ちゅー」
ゆりはクーガに抱きつき、クーガはちゅっと唇をくっつけた。
「あまり興奮しちゃだめですよ。でも、元気になられて本当によかった」
クーガはゆりを抱きしめて背中をなでなでした。
闘技場では、急遽イシュタールが呼ばれてスペードの相手をすることになった。イシュタールは超美女に誘惑されたくらい大喜びでスペードの相手をしている。真剣での戦い、やはりスペードは強いが、イシュタールもよく相手をしていた。
「イシュタールは強くなったよね」
ラギが言った。
「うん。強くなってるよ。絶対」
とシス。
「先生の先生もすごい」
ロイは目を見開いて二人の動きを眺めていた。闘技場にいた戦士達も、「すごいな」と感心した様子である。二人の動きは速すぎて目で追うのも大変である。
ミカエルがやってきた。ミカエルはイシュタールと戦っている男を見て、「あれ？ だれですか？」と子供達に聞いた。
「スペードさんだよ、母様のお見舞いにきたの」
「え？」
ミカエルはかなり複雑な表情でスペードを見ていたが、やがて、「王妃は喜んだでしょう」と聞いた。
「うん。喜んでたよ」
「そうですか。やはり強いですね。まだ本気ではないようだし」
「でもイシュタールも強くなってるよ」
「確かに」
一時間ほどで、スペードと子供達はゆりの部屋に戻ってきた。ゆりは寝転んでクーガと話をしていた。
「先生の先生もすごかったよ」
ロイは興奮した様子である。
「僕も大人になったらあれくらいできるようになろう」
「がんばって。今日はありがとうございました」
ゆりはスペードにお礼を言った。
「いえ」
「じゃあ博物館に案内するね」
とシス。
「では我々はそのまま帰りますので。王妃様さようなら」
クーガが言って、ゆりも「さようなら」と返した。
「早く元気になってください」
とスペード。
「はい。ありがとうございます」
皆瞬間移動で消えてしまった。
とたんに部屋の中が寂しくなった。
「夢のようだったなあ。王様、どうもありがとう」
ゆりは王の間にお礼を言いに行くほど元気ではなかったので、寝転んだままつぶやいていた。
ヴィラがやってきた。
「スペードさんに会えてよかったですね。体の厚みが、私とは全然違ってました」
ゆりはぷっと笑っていた。
「王様が頼んでくれたなんて、びっくりしちゃった」
「王妃を喜ばせたかったって言ってましたよ」
「うれしかったよ。すごく」
「休んでください。夜はすごいお見舞いが控えてますからね」
「うん」
「スペードさんとクーガさんって、似てますね」
「え？ どこが？」
「二人とも雰囲気が、そこらの人間とは違います。普通の人間の女では、相手にならないでしょう。だから普通じゃない王妃に惹かれちゃうのかな」
「私……」
ゆりは何かを言おうとしたが、そのまま目を閉じて寝てしまった。
一方博物館には列ができていたが、クーガ達五人は特別にすぐに中に入っている。クーガは床に膝を突いて頭を下げている人を見て、その前にあるケースに目を丸くしていた。
「まさか。大神まで！？」
「すごいでしょ。ちなみにアシュラン様の手型は雷獣の国にあるんだよ」
ラギが言った。
「足……なぜに足？」
スペードは、並ぶ神々の手形を見て、口をぽかんと開けていた。
「えーええええーすごい。本物なんですか？ どうやって集めたんですか？」
スペードが子供達に聞いた。
「最初は少なかったんだけど、神様づてに勝手に集まったんですよ」
シスが言うと、スペードは「へー」と目をまん丸くしていた。
「マリナール様の手がすごいよ」
ロイはスペードを引っ張ってマリナールの手を見せていた。
「おおー！ すごい」
クーガとスペードは感心しまくって帰って行ったのだった。
夕方、ラクシュミがゆりの部屋にやってきた。
「今日は私が浴室に連れて行ってやろう」
「王様、ありがとう。スペード様のことも」
「ああ」
ラクシュミはスペードに関しては詳しくは聞かず、ゆりを浴室に運んだ。待ち構えていた侍女達は、一斉に部屋の掃除にとりかかった。ジロウも部屋から出ている。
浴室にはミカエルがいて、ゆりの髪を洗ってくれた。
「王妃、夜にあまり興奮しないようにね」
「みんなの方が興奮して眠れないでしょ」
「眠れません。お部屋は侍女が掃除してますから、儀式部屋で休みましょう」
ミカエルは体を拭いたゆりを儀式部屋のベッドに運んで、服を着せた。
「王妃、食事ですよ」
ジュノーがゆりの食事を運んで来た。
「ありがとう」
「何時くらいにいらっしゃるだろう？」
「さあ」
「遅くないといいが」
「そうだ。クロスも寝室に連れてきてくれる？ せっかくだから神様達に抱っこしてもらおうかと思って」
「ですが、もし泣いたりしたら大変じゃないですか？ とりあえず、今夜は王妃だけが出迎えるのがいいと思いますよ」
ミカエルが言った。
「そうかな」
「そうですよ。今後いくらでも機会がありますから」
とジュノー。
「そうね。じゃあそうする」
ゆりは知らなかったが、クロスは毎晩夜泣きをしていたので、二人はそう言ったのだった。へびっちが抱っこするとクロスは落ち着くようなので、へびっちが今夜もクロスと寝る予定である。男達も交代でクロスと寝るようにしようと相談していた所だった。
ゆりは食事を食べて自分の部屋に運んでもらった。部屋にいたジロウの毛もキレイにブラッシングしてもらったのかつやつやしている。
「ぷっ、ジロウ君も準備完了ね」
「ワン！」
「ジロウ君がうらやましい。では王妃、我々は行きますね。ジロウ君、王妃に何かあったらよろしく」
ジュノーがジロウに頼み、ジロウは「ワン」と吠えていた。
寝室にろうそくの灯りがともされて、ジロウとゆりだけになった。
ゆりは寝転んで、わくわくしながら待っていた。
やがて、ゆりの寝室から光がもれて、城の北側にいたラギとシス、ロイ、ナナミは（きたー！！！）と興奮していた。
（きたきたきた）
（きたきた！）
（きききき）
「興奮しすぎ」
ナナミはロイの頭にチョップしていた。
「でも何人かはわからないね」
「そうだね。ハロルド様、ラーズ様、オルガ様の三人は絶対いるでしょ」
とナナミ。
「三人以上は確実だよね」
とラギ。子供達はラクシュミにも思念を送り、ラクシュミもドキドキしていることだろう。
そして一番ドキドキしているゆりは、神々が来ると飛び起きた。寝室が一気にまぶしくなったが、神々は光を抑えているようである。まぶしくて目が開けられないほどではなかった。
「おかあさーん」
すぐにゆりに飛びついてきたのはアマンザである。
「無事でよかったよう」
（え？）
ゆりの目に飛び込んできたのは赤い色彩だった。ハロルド、ラーズ、オルガにグレン、アマンザがいたが、もう一人、サラディンまで混じっていたのだった。
つづく
１３部
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