第64話

神の国にきたゆりは、サラディンの元へと移動した。火の神殿の前で、大人の男の妖精が二人と子供達がいた。双子のフラムとスカーレットである。

「あら、こんにちは、何をして遊んでいるの？」

「せーれーつかまえてるの」

フラムが言った。

「せーれー？」

少し離れた所を赤いとかげがささっと移動していた。

「あれが精霊さん？」

「せーれーだよ」

フラムは手をぱっとふって火の玉のようなものを火トカゲになげつけた。火とかげはぴょんと飛んでそれから逃げている。

「精霊さんをあまりいじめないようにね」

「へいきだよ」

「ママー」

女の子の方が抱きついてきた。ゆりは女の子を抱きしめて背中をなでなでした。

「バーナードはどこにいるのかしら？」

「バーナードは妖精と遊びにいきましたよ」

男の妖精が答えた。

「そうなの。私サラディンに会いに行くから。じゃあね」

ゆりは子供達の頬にちゅっとキスして神殿の中に入っていった。

サラディンは広間で妖精と何やら話をしていた。

「こんにちは〜」

ゆりはガーベラになりきってサラディンに近づいて行き、「ねえ、一緒にお風呂に入りましょ」と誘った。

「風呂？」

サラディンが過剰に反応していた。

「お風呂にお湯、今入ってるかしら？」

ゆりは妖精に聞いてみた。

「多分入ってますよ」

サラディンは女神の顔をじろじろ眺めている。ゆりは妖精の前なので微笑んだままで、「行きましょ」とサラディンの手を引いた。

「あ、ああ、そうだな。誰も風呂の側に近づかないように」

サラディンは妖精に言ってから、ゆりと一緒にお風呂に行った。

（お説教コースかな。とりあえず、お風呂に入らせて）

ゆりはさっさと女神の服を脱いで髪をまとめて持って石の上に置き、お風呂に入った。

「はあ……気持ちいい……」

随分久しぶりにここに来た気がする。熱めのお湯に１分ほど浸かってからサラディンを見ると、サラディンは服を着たままで突っ立っていた。

「えーと、その……いろいろすいませんでした」

ゆりは突然ガーベラから人間になり、謝っていた。

「やっぱりガーベラじゃないのか。全然わからんな」

サラディンはゆりをじろじろ見ながらも、驚いた様子である。

「あのー一緒に入りませんか？」

「うむ」

サラディンが服を脱ぎだしたのでゆりは前を向いた。今までこのお風呂に何度入ったことがあっただろうか、と考えたが、もう分からなかった。

（もう来るなって言われたらどうしよう。怒ってないといいなあ）

サラディンがお湯に入る気配があった。

「もうあっちの体は大丈夫なのか？」

「は、はい。大丈夫です。すっかり元気です」

「そうか。よかった。あの時はいきなり衝撃の事実を聞かされて、私も人生であれほど動揺したことはないってくらいに動揺した。イシュタールも知っていて黙っていただろう。そのことで文句を言ったらなんていったと思う？　お前と楽しい時を過ごしたはずだと言うんだ。私に全く悪いと思っていないんだから」

（イシュタールったら……）

ゆりは頬をかいている。

「ガーベラもそうだ。私は不愉快だ。この先、お前がいなくなった後、風呂に入るたびに寂しい思いをしなければならなくなるんだぞ。どうしてくれるんだ？」

「…………」

思いがけない言葉にゆりの目がうるっとしてきた。

「サラディン様、やっぱり好きー」

ゆりはサラディンに抱きついた。

「ところで、お前の目的はなんなんだ？　神々とするのが目的なのか？」

サラディンはずばっと聞いていた。涙ぐんでいたゆりは、その問いにどう答えたらいいものやら悩んだ。

「ここでガーベラらしくしている内にそうなったわけで、最初からそれが目的だったわけではないですよ」

「ガーベラはなぜこんなことをしようと思ったんだ？」

「多分、恋人達とのマンネリ化解消ですよ」

「マンネリ……」

「神様だって、同じ日々ばかり過ごしていたら飽きちゃいますから」

「それでガーベラに頼まれて恋人達と仲良くしてたのか？」

「そんな感じです」

「それで子供がたくさんできたと」

「まあ、そうです」

「ジュリアンと、フラム、スカートレット、マチルダは？」

「マチルダも私ですね」

「ルティアナは違うんだろう？」

「ルティアナは違いますよ」

「神々をだまして寵愛を受けたんだから、普通は怒ってののしられても文句はいえないんだぞ。誰も怒っていないのがかえって不気味なほどだ。アシュランは何か言ってたか？」

「がんばってもっと子供を産めって」

「あいつは……まあいいか。いろいろ考えるのがばからしくなってきた。ここには産後初めてきたのか？」

「はい。最初にサラディン様に会わなきゃと思って」

「そうか。なら、これから私をだました埋め合わせをしてもらおうか」

サラディンが顔を近づけて言った。

「埋め合わせ？」

「出よう」

（埋め合わせ……何をすればいいんだろう？）

二人はお湯からでて、服を着た。ゆりはサラディンに連れられて奥の部屋に行った。そこはサラディンの寝室である。

「さ、ガーベラ、愛を込めて、私の相手をしてもらおうか」

「は、……は？」

ゆりはびっくり仰天という顔でサラディンを見た。

「は、じゃないだろう。最初に、私がお前とすることにする」

「え……」

まさかこんな展開になるとは思わなかったため、ゆりは固まってしまった。心の準備が全くできていない。

「さ、脱げ、ガーベラ」

「え……ほ、本気ですか？　てっきり、私とはもうないかなって思ってましたけど」

「腹が立つから、お前と最初にしたことをオルガに自慢する」

「やめてー」

ゆりは赤くなっていた。

「そんなこと自慢にならないですから」

サラディンはさっさと裸になってベッドにあがった。

「今日は全部ガーベラ主導でいいぞ」

「いやん、恥ずかしい」

ゆりは女神の姿で恥ずかしがってみたが、サラディンに横目で見られた。

「今更恥ずかしいもくそもあるか。風呂で私としておきながら。ほら、早く来い」

ゆりはもじもじしていたが、そろそろとベッドに近づいていた。

「サラディン様本気ですか？」

「ああ、本気だ」

サラディンはちょいちょいと指で呼んでいる。ゆりは躊躇していたが、裸のサラディンに抱きついた。

「本当に怒ってないです？」

「昔の私なら怒りまくっていただろうがな。自分でも不思議なほど怒ってない」

「実は私、サラディン様の温かい体が好きです」

「ガーベラになりきっていい」

「サラディンの温かい体が好きー」

サラディンは女神の服をつかんで脱がして、自分の足の上に乗せていた。

「ガーベラ、興奮させてくれ」

ゆりはすでに真っ赤な顔である。

「ほら、ガーベラ早く」

心なしかサラディンは面白そうにゆりを見ている。

「あのー私の方からいろいろするのってあまり好きじゃないかなーと思ってましたが」

「これはお前をいじめるために言ってるからいいんだ」

「いじめ……」

「今まで散々私をだましてきたんだろ」

「散々ってほどしてないと思いますが」

「じゃあ誰と散々したんだ？　オルガはあまり君とはしてないと言ってたぞ。さては、オルガはタイプじゃないか」

「そういうわけじゃないですよ。オルガ様も大好きですよ。ただ機会がなかっただけです」

「機会がな」

サラディンは女神の体を抱きしめて口づけた。

「ガーベラ、私のことが本当に好きか？」

「好きです。実は脱いだら結構良い体してるところも好きです。それからすごく優しいところも好きです」

「ふうん」

サラディンの手は豊満な胸に触れている。胸をいじくられてるとゆりは結構その気になってきた。

「その気になってきたか？」

「はあ」

「ならまたがってしてもいいぞ」

「そう言われましても……実はそういうの好きじゃないくせにー」

「最近は、ガーベラが上に乗っても平気になってきた。それにジュリアンの時は、お前の方が上に乗ってたぞ」

「あの時のことはあまり覚えてなくて。触ってもいいですか？」

「ああ」

ゆりはそっとサラディンの下半身に手を伸ばした。

（やばいわ。すごくしたくなってきたわ）

サラディンの体が興奮すると同時に、ゆりも興奮しまくっていた。

「上にまたがらなきゃだめですか？」

「手伝ってほしいのか？　しょうがないな」

サラディンは女神の腰を持ち上げて、中に挿入するのを手伝った。

「あ……」

「顔が真っ赤だ。今更、わけがわからんな」

「ひゃあん」

下から突き上げられて、ゆりはサラディンの肩に手をあてた。

「体の中が、あったかい」

「気持ちいいか？」

「はいぃ。気持ちいいです」

女神の体がじんわり汗をかいていた。

（熱くなってきた。体中が熱い）

やがて絶頂を迎え、体が離された。体が離されるととたんに体温が下がった。

サラディンが服を着ていたので、ゆりも女神の服を手に取った。

「ありがとうございます」

「ん？　何に対する礼だ？」

「優しくしてくれたことに対するお礼です」

「私は自分の利益を優先させただけだ。逆に聞くが、ガーベラにいいように利用されてる、と思ったことはないのか？」

「え？」

「逆に考えてみれば、そうじゃないか？　ガーベラは、お前を利用してる。そのマンネリ化解消とやらのためにお前を使ってる。いずれはもういいと言われるかもしれないんだぞ？」

「それでもいいです。いつかは終わりがくるとは思ってますよ。それまでに、神様達にも一杯子供ができたらいいなって思ってます。私はアシュラン様には利用されまくってますよ。ふふふ」

ゆりはまったく悩む様子はなかったので、サラディンは、ふっと笑っていた。

「そうか。ならいい」

ゆりが完全に服を着たところで、サラディンはゆりの手をしっかりと握った。

「さて、今日は最後におまじないを体感させてもらうぞ」

「……え？」

ゆりの顔色が変わった。

「お前に触れていたら、人間界に行くんだろ？　それを実際に体験したい」

ゆりはサラディンから手を離そうと思ったが、しっかり握られて離せない。

「あのー今日はまずいです」

「何がまずい」

「実は……裸で寝てるんです。まっぱだかで」

「別にかまわん」

「私がかまいます。次にしましょう」

「次っていつだ」

「それはわからないですが、多分半年後くらいです」

「はあ？」

「その、いろいろな神様にお礼参りもしてないですし。ですから」

ゆりは愛想笑いしながら手を離そうとがんばっていたが、全然外れない。

ゆりは太ってる姿をサラディンに見られたくはなかった。

「今日行く」

「だめですって」

「もしかして、横に裸の男が寝転んでるのか？」

「え」

ゆりはそうです、と言おうかどうか迷ったが、さすがに産後すぐそれはない。さっきの今で軽蔑されるのは嫌である。

「わかりました。正直に言います。今、私の姿は、以前とは違うのです」

ゆりは手がつながったまま正座して告げた。

「どう違うんだ」

「その、詳しく言うのが恥ずかしいんですが、かなり、外見が、その……」

「誰かに怒られて何かに変えられたのか？」

「いえ、そうではなくて」

「どうでもいい。とにかく本当に移動するのかどうか知りたいだけだ」

サラディンは女神の体を抱き寄せて腰に腕を回していた。

「ううう」

（裸の男が横にいるってやっぱり言うべきか？　でも、うーん、もう覚悟を決めて見られるしかないの？！）

ゆりは葛藤しながらも、サラディンを諦めさせる方法を考えられずに、ついには、そのまま意識を飛ばしてしまった。


人間界で目覚めたサラディンは、「おお、すごい！」と部屋の中を見回しながら驚いている。犬のジロウがサラディンに気がついて、「わん」と吠えていた。

「一瞬で移動した。すごいな」

ゆりは布団の中に入り込んでいた。

「どうしたんだ？」

「おはようございます」

ゆりは布団の中で言っている。

ジロウはベッドの側にきて、「ぐうん」と困った声でほえていた。

「どういう仕組みなんだか……なぜ隠れているんだ？」

「は……はあ……」

ゆりはそろっと顔を出した。

「お、驚かないでくださいね」

「？」

ゆりは思い切って布団から出て、ベッドの上に正座をした。顔は真っ赤である。

ちらりとサラディンを見ると、平然とした顔で座っている。

「驚いたでしょう？」

「ああ、一瞬で移動したのに驚いた」

「そうではなくて、私ですよ」

「お前？」

「結構かわっちゃったじゃないですか。私」

「？　どこかかわったか？」

サラディンはさっぱり分からない様子である。

「？？？」

ゆりは一晩でやせた？　と思ったが、お腹は引っ込んではいなかった。

「私、前より太ったじゃないですか」

「え？　ああ、そう言われればそうか。それが？」

（全然気にしていない？　ああ、そうか。サラディン様は別に私が恋愛対象じゃないから気にならない？　逆にそれってショックじゃん）

ゆりはうなだれていたが、「気にしていないのならいいです。今日は、ありがとうございました」と頭を下げた。

（やばい。泣きそうだ。耐えろ）

ゆりは泣きそうなのを我慢していた。

「どうかしたのか？」

「いえ。こんな姿を見られたくなかっただけです」

「ああ、寝間着だから」

（そこじゃないですが……）

「太ったから見られたくなかったのか？　出産前後の女性の体重の増減なんぞ、当たり前のことだ。やせほそって骨と皮だけになっている方が嫌だ」

「はあ」

「前に、火の神官の女性が、出産してすごく太っていたことがあって、あれは驚いた。幸せ太りです、なんて言っていたが。彼女に比べれば全然だ。私はたいして気にならないが」

サラディンはゆりの頭をなでなでしていた。

「そうだ。そのうち、火の神殿の風呂に招待してやろう」

「え？」

ゆりは顔をあげた。

「風呂が好きなんだろう？　人間のままで入ってみたくないか？」

「入りたいです。実は私の夢だったんです」

「そんなに入りたかったのか。じゃあそのうちにな」

「うれしいです」

「ようやく笑顔になったな」

（サラディン様、私に気を遣ってくれたんだ。やっぱり優しい）

ゆりはサラディンの優しさにじーんとしていた。


さてその頃、サラディンの寝室でガーベラが目を覚ましていた。

「あら？　ここはサラディンの神殿？　サラディンと仲良くしたのかしら？」

などと思って体を起こすと、何かがお腹から横に転がった。

「？」

それはうっすら赤い卵のような物で、卵にしては結構大きい。二十センチほどの大きさである。

「何？　卵？」

ガーベラはそれを手に取ろうとしたのだが、卵は反対方向に転がり、なんとベッドの下に落ちてしまった。

「あ、ちょっ！　ぎゃああああああ！」

下に落ちた卵がべちゃっと割れていたので、ガーベラは思わず悲鳴をあげていた。

「やだあ。どうしよう！」

「お母さん？」

ルティアナが女の妖精と一緒にやってきた。

「ルティアナ、卵が、卵がわれちゃったのよ」

「卵？」

確かに床にひしゃげた卵がある。

「どうしよう」

ルティアナは卵の殻をそっととってみた。すると、赤いくちばしがでてきた。

「あら、もう雛ですね」

と妖精。

「え？　ほんと？　死んでない？」

ルティアナが卵の殻を全部取ると、鳥の雛がでてきた。全身真っ赤である。雛は目を開けて、「ぴーぴー」とくちばしを開けて鳴き出した。ガーベラはほっと胸をなでおろした。

「かわいい！　イグニスに見せてあげよう。女の子だといいなあ。ところでお父さんは？」

イグニスは、大きな赤い鳥の名前である。雛はルティアナの手の上でピーピー鳴いていた。

「サラディンは……ちょっと散歩かな」

ガーベラは微笑んでそう答えた。


人間界蛇の国、城の食堂にて、ゆりは上機嫌だったので、「何かあったの？」とシスが聞いた。

「実はね、さっきサラディン様を神の国から連れてきちゃったの」

「ええ？」

「ほんと！？」

上の子供達が一斉に注目して立ち上がっていた

「もう帰ったわよ」

と聞いて子供達はがっかりして座った。

「お母さんのこと、何か言ってた？」

ラギが恐る恐る聞いた。

「サラディン様、これくらい誤差だからなんでもないって言ってくれたの」

「誤差？」

子供達は首をかしげたりお互いに目を合わせたりしていた。

「ひょっとして、私自分で思うほど太ってなかったのかも？」

「今のマーもかわいいよ」

とミシェイラ。

「ありがとう」

「僕は、母様が元気ならどうでもいいや」

とロイ。

「じゃあダイエットはやめるの？」

ラギが聞いた。

「続けるわよ。私には目標ができたから。サラディン様が、なんと神殿のお風呂に招待してくれるって。それまでにはやせる！」

ゆりの目は燃えていた。ちなみに、すぐではなく半年後くらいにしてほしいと言っておいた。それまでには元に戻るつもりだ。

「サラディン様って強面だけど、優しいんだね」

ナナミが言った。

「うん。むっちゃ優しい神様よね」

ゆりはうれしそうだ。

―誤差か……神様の誤差の範囲って広いね

ラギが思念でシス、ナナミに伝えていた。明らかに誤差以上にゆりは太って見えている。

―サラディン様の優しさよ。これは注目よ。ハロルド様の対応によって、母様の中の好きな神様の順位が変わるわよ

ナナミは面白そうに言っている。

―確かに、ここは重要なとこだね

ラギが答えた。

―ハロルド様もたいして何も言わないと思うよ

とシス。

―いーや、ハロルド様なら何かつっこんで来ると私は思う。

ナナミは目を輝かせて言っている。

―むしろ期待してない？

とラギ。

―期待してる

―こらこら。それって母様が落ち込むってことだよ

シスが呆れている。

―そこを誰が慰めるか、ここも重要なとこよ。多分ラーズ様あたりだと思うけど

―やれやれ

二人は肩をすくめている。


「そうだ。そろそろ運動してもいいかな。久々にラッケルをしよう」

とゆり。

「まだほどほどにね」

ラギが言った。

「わかってるって」

ゆりは食事が終わると、「お先にー」といって食堂を去って行った。

「ハロルド様の反応、楽しみ♪」

ゆりがいなかったので、ナナミは声に出して言っていたのだった。


神の国に戻ったサラディンは、神殿の外がやけに賑やかなのに気がついて神殿の外に出た。そこにはピーピーやかましく鳴いている赤い鳥がいる。そして子供達に妖精達にガーベラとジュリアンもいた。

「この鳥どうしたんだ？」

サラディンが聞いた。

「神獣みたいよ。起きたら私のそばにいたのよ」

ガーベラが答えた。

「ピーピーピー」

「ピーヒョロロ」

でかい鳥のイグニスはうれしそうに翼を広げたり閉じたりしている。

「女の子ができたからイグニスは大喜びですよ」

ジュリアンが言った。

「妻にするには小さすぎるけどね」

とルティアナ。

「そのうち大きくなるわよ」

ガーベラが言った。

「ピーピーピーピー」

鳥の雛はルティアナの側で鳴きまくっている。

「この子私がママだと思ってるのかも。かわいいー。はい。ご飯」

ルティアナが鳥を火で包んでいたのでサラディンはびっくりしていた。

「おい」

「大丈夫です。火の鳥なので、火がご飯なんですよ」

とジュリアン。

「そうなのか？」

鳥を包んでいた火は消えた。小鳥は元気そうにまだピーピー鳴いている。

「お父さんもやってみて」

「いや、私はいい。お前が面倒をみろ」

「やってみてよう」

サラディンは仕方なしに火の塊をほってみた。小鳥はくちばしを開けて食べるような仕草をしている。火が消えると、小鳥はサラディンの足元でピーピー鳴き出した。小鳥といっても、普通の小鳥ほど小さくはない。

「あれ、私の火よりお父さんの火の方がおいしかったのかな。なんだかショック」

とルティアナ。

「ピーピーピー」

「ヒョロロロ、ヒョロロ」

「うふふ。ますます賑やかになったわねえ」

ガーベラが笑っていた。

小鳥はサラディンになつき、サラディンが広間にいるとサラディンの膝の上に乗ってくるようになった。

「あーうるさい。この小鳥、どうにかしてくれ」

サラディンが追い払っても小鳥はサラディンの側によってくるのだった。サラディンのご飯がよっぽど気に入ってしまったらしい。

「ピーピーピーピー」

「それ以上鳴くと焼き鳥にするからな」

「あはは、それギャグ？　おもしろーい」

ルティアナは笑っている。火を食う鳥を焼き鳥にすることなんぞ、できるわけがなかった。

「なら水に沈める」

「それは面白くない。まあ、お父さんにはできないだろうけどね」

ルティアナは胸を張って言っている。やがて小鳥は眠りだしたのだが、背中を下にして、お腹を上にして眠っていた。鳥らしからぬ寝相である。

「ちょ、超かわいい。ねえお父さんかわいいねえ」

「ぐ……そうだ。今のうちに遠くに連れて行け。鳥の家に入れておけ」

「動かしたら起きちゃうよ」

「大丈夫だ」

サラディンが鳥を持ち上げると、鳥はぱちっと目を開けて、くるっと回転し、また「ぴーぴー」鳴き出した。

「ほら、だから言ったでしょ」

「わかったわかった。食って寝ろ」

サラディンは火を小鳥に与えまくった。満足した小鳥は、再び上を向いて眠っていた。

完全に安心しきった格好である。

「じゃあね」

ルティアナは去って行った。

「こらー」

持ち上げればまた起きるかもしれないので、サラディンは鳥を触れなかった。

「くそっ」

そんなサラディンを離れたところで妖精達は微笑ましげに見ている。

こうして火の神殿はさらにうるさく、いや賑やかになったのだった。


つづく

１３部

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